若き騎士達の危険な日常

あーす。

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早朝の出会い

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 朝日が差し始め、ディアヴォロスは身を跳ね起こす。
横にはシェイルが。
あどけない赤い唇を僅かに開き、安らかな眠りについていた。

いつの間に寝入ったのか…。
ディアヴォロスは暫く額に指を付け、まだ身に残る眠気を振り払う。

ワーキュラスが頭の中で瞬く。

“生徒が動き出すには、まだ時間がある。
下働きの召使い達はもう、朝食の準備にかかってるが”

ディアヴォロスには、ワーキュラスが心の眼で見ている映像が見えた。

宿舎の遙か上。
鳥と同調し、見下ろす景色。

あちこちの宿舎の召使い用通用口は、忙しく食材を担いだ人が、行き交っていた。
宿舎の窓の中…生徒達はまだ寝台で眠りに就いている。

東の空は陽が昇り始め、どんどん明るくなって行く…。

ディアヴォロスはシェイルを、起こそうか、迷った。

けれど…横で眠るシェイルの、銀の艶やかな髪に顔を埋めた、色白の愛らしい寝顔。
そして、しなやかな肢体…。

きっと、一緒に湯になど浸かったら…授業が始まる時まで、彼を放さず…愛してしまいそうで、自重する。

頭の中で、ワーキュラスに頼む。
“シェイルをもう暫く…眠りの中に包み込んで貰えるか?”
“構わない。
けれどとても、名残惜しそうだ”

ディアヴォロスはくすり。と笑い、ガウンのような玉虫色の部屋着を羽織ると、寝台から出て、ベルを鳴らす。
間もなく姿を見せる召使いに
「湯と体を拭く布を頼む」
そう告げると、召使いは直ぐ言葉を返す。

「直ぐ、浴槽に湯を入れますが」

ディアヴォロスは首を横に振る。
それだけで…召使いは察し、長身の、黒い細かな巻き毛を肩に、背に流し、とても魅力的な笑顔を見せる美しいあるじに一礼し、退室した。

扉が閉まる。
けれど直ぐ、ノックの音。
「どうぞ」
召使いはワゴンの上に、湯の入った陶器の大きなポットと、陶器の洗面器。
そして布を乗せて、入って来る。

寝台の横に持ってくると、眠るシェイルを目で指し示し、囁く。
「私が、お拭き致しましょうか?」

ディアヴォロスは零れるような笑顔で、囁き返す。
「いや。
私がするから大丈夫」

召使いは、とても背の高いディアヴォロスの整いきった男らしいおもてを見上げ、微笑み返す。
そして一礼し、退室した。

ディアヴォロスはワゴンに歩み寄ると、布を持ち上げ、もう片手でポットの湯を洗面器に注ぎ入れ、ポットを置いた後、布を浸した。

そして寝台に腰掛けると、シェイルの腰にかかる布団を退け、彼の体を拭き始めた。

とても優しく、白く曲線を描く、愛しい体に布を滑らせて。


 ノックの音でふと目を開けたヤッケルは、肩で扉を押して入って来る人物を見、一気に眠気が覚めた。

長身で高貴な、整いきった魅力的な黒髪の男。

“ディアヴォロス!”

ヤッケルは布団を剥ごうと手で握り、けれど起き上がれず固まった。

ディアヴォロスは横の開いた寝台に、目を閉じるシェイルを横たえる。

白い肌に真っ赤な唇が映えるシェイルの寝顔は…明らかに情事の後だと、解る程艶めいて見え、ヤッケルはますます目を見開き、言葉が出ない。

ディアヴォロスはシェイルを横たえ、布団を被せ、振り向く。

ヤッケルはこれが夢だと言われても、信じたと思った。

だって、そこらでは早々お目にかかれない、カリスマの高級な美男が。
こんな早朝、平貴族の宿舎に居るんだから。

ディアヴォロスの浮かぶような神秘的な淡い緑色の瞳に見つめられ、ごくり。
と唾を飲み込む。

その瞳はディアヴォロスが顔を傾けると、光の加減でキラリとグレーに、色を変えて光った。

「驚かせてすまない」

低く響く、男らしい落ち着いた声音こわね

ヤッケルはつい…ディアヴォロスに聞いた。

「シェイルと、もう…?」

ディアヴォロスは微笑を浮かべたまま、頷く。

その時…ヤッケルの脳裏に、ローフィスの姿が浮かんだ。

「…ローフィスに、勝った訳だ。
最もローフィスは自分が…シェイルを欲してるなんて、認めないだろうけど」

ディアヴォロスはその時、真顔でヤッケルの疑問に応えた。

「残念ながら、勝ってない。
ローフィスとは、恋敵だから」

ヤッケルはぎょっ!として、ディアヴォロスを喰い入るように見つめる。

「それはつまり…つまりシェイルは。
ローフィスとも、もう…」

ディアヴォロスは今度は頷かず、微笑を浮かべた。

「君はとても、察しが良い」

ヤッケルはまた、尋ねようとしたけれど。
その前にディアヴォロスは長身の身を翻し、扉を開けて、出て行った。

ヤッケルは暫く、閉まった扉を呆然と見つめた。
そして自分の頬をつねって、夢か現実かを確かめるべきか。
しばし、迷った。

が、昨夜姿の無かったシェイルが。
今や、横の寝台に居る。

「(…それにしても…突然ディアヴォロスを目にするのって、心臓に悪い…。
あれ?
でも彼も人間…。
…けど四年大貴族らに、かしずかれるだけあって、間近で見るとホントに高級品って感じ、ひしひしとしたな…)」

けど、直ぐ。
起床の鐘が鳴る。

つまり、朝食の準備が出来たから、食堂に行って食事が出来るぞ。
と言う知らせの合図。

ヤッケルはやれやれ。
と布団をめくって寝台から飛び降り、横のシェイルの寝顔を見た後。
肩を揺すって言った。

「起きろ!
着替えて、朝食だ!」

シェイルは目をうっすら開け…揺すってる相手が、ヤッケルだと知ると。
エメラルドの瞳をまん丸に見開いて、呆然と身を起こす。

「…あれ?
…夢…だったのかな?」

ヤッケルはため息を吐いた。
「それは俺も、思った。
けどディアヴォロスがお前を運んできたから。
夢じゃ無い」

シェイルは、“ディアヴォロス”と聞いた途端、頬を染めて俯く。

「朝っぱらから、すんごく色っぽいし、ディアヴォロスとの夕べの逢瀬を思い出したんだろうが。
自重しろ。
そんな様子で食堂に行ったら、みんなにジロジロ見られ、夕べ誰と過ごしたんだ?
と詮索されること、間違い無しだぜ?」

シェイルは顔を上げて、まだ肩に手を置き寝台横に立って自分を見つめる、ヤッケルを見上げた。

「…その言い方、凄くヤらしい」
「…だってお前が凄くヤらしいから。
仕方無いだろう?」

シェイルはヤッケルを睨んだ。
「ディアヴォロスと僕が、したって!
彼、ヤッケルにそう言った?!」

ヤッケルはため息交じりに言い返す。
「言わなかったが。
聞いたら、頷いた」

途端。
シェイルは頬を真っ赤に染め、顔を思い切り下げる。

「…う…なずい…た………の?」
ヤッケルは首を縦に振る。
「あっちは四年で、もう大人だしな。
でもローフィスとも、恋敵だって。

お前、ローフィスとも…寝たの?」

シェイルは真っ赤なまま、顔を下げて呻く。

「…そんな…コトまで、バラしたの?」

「…だって…もうお前がローフィス諦めて、ディアヴォロスとラブラブなのかどうか。
どうせ俺は、お前に聞くと思ったから。
手間省いてくれたんじゃないの?
あっちは千里眼だし」

シェイルは顔を下げたまま、上げない。

「…で、どーしてローフィスのコト、諦めてないのにディアヴォロスとも寝てるの?」

ヤッケルがシェイルにそう聞くと、シェイルは蚊の泣くような声で囁く。
「ローフィスが…自分は相手しきれないから。
ディアヴォロスとシてもいいから、ディアヴォロスに甘えろって」

ヤッケルはそれを聞いた途端、固まって思った。
「(…ローフィス…どんだけ無謀な手段に出るんだ…)
で、ローフィスとも…シたんだよな?
当然、ローフィスよりディアヴォロスとの方が、ヨかったんだよな?」

内心、ローフィスを応援してるヤッケルは。
焼け糞気味にそう聞く。
シェイルは、けれど顔を、直ぐ上げて言う。
「ローフィスはローフィスで…ディアヴォロスとは違うから」

ヤッケルは即答するシェイルを暫く、目を見開いて見つめ、やっと、言った。

「……………………………………つまり…どっちが良いとか、無くて…」

シェイルは頷いた。

「どうしてもどっちか。
って言われたら、ローフィスにする。
ディアヴォロスは僕じゃ無くっても、たくさん相手がいるだろうし…。
ローフィスに、居ないとは言わないけど…ローフィスは…僕の方が、もし失ったら凄く落ち込むから」

「(凄いこと、言ってるな…)
ディアヴォロスは失っても、落ち込まないの?」

シェイルは怒って言った。
「落ち込むに、決まってるじゃない!
でもさ。
ディアヴォロスって…独り占め出来る人じゃ無い…」
「それは、同感」
「だよね?」
シェイルに顔を上げて言われ、ヤッケルは顎をしゃくった。

「さっさと着替えて朝食だ。
俺はお前と話したら、一気に腹が減った」

そう言って、クローゼットに向かうヤッケルの背を見つめ、シェイルは呟いた。

「僕…そんなお腹減るようなコト、言ったっけ?」

けれどヤッケルがさっさと着替え始めてるから。

シェイルも慌てて寝台を飛び出し、自分用のクローゼットの扉を開け、大急ぎで衣服を取り出した。

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