若き騎士達の危険な日常

あーす。

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シュネビィアのお喋り

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「さあもう、休ませてあげなくては」
シュネビィアはそう言うと、手から光を放射して、ライラアンを包み込む。

そして庭を見つめて囁く。
「あの方達にも。
お茶を出して差し上げなくっちゃ」

そう言った途端、姿の見えなかった案内人が一瞬、姿を現したかと思うと。
いきなり明るい部屋に移動していた。

ローフィスと、ディラフィスも一緒に。

皆、一様に驚いて目を見開く中。
案内人に、横のソファを頷いて勧められ、シェリアンとシェイルが窓辺に背を向けたソファに。
ローフィスとディラフィスはその向かいのソファに。
それぞれ、腰を落ち着けた。

シュネビィアが案内人に囁く。
「いくら、心はあまり読めないからって。
突然移動したら。
普通の人間は、びっくりするのよ?」

案内人は、顔を下げて言う。
「まだ配属されたてで、慣れて無くて」

「いいわ。
お茶を用意するから」

シュネビィアは空間へと消えて行く。

子供はまだ居て、両者が見渡せるソファに座り、みんなに微笑む。
「ラッドラセルは人を移動させるのが、凄く得意なんだ」

“ラッドラセル?”

全員がそう疑問を浮かべると、案内人も子供の横に腰掛けながら
「あ、僕の名です」
と名乗り出た。

子供は隣に座る、不慣れな案内人を見つめ、尋ねる。
「…まだ名前、教えてなかったの?」

ラッドラセルは、一瞬考える。
「あ、貴方方、心読めないんでしたっけね?」

子供は頷いて、説明した。
「人間にはちゃんと、口と言葉で。
名乗らないとダメだって。
あれ?
…僕もまだ、名前言ってなかったっけ?」

全員が、頷く。
途端、ラッドラセルは笑う。
「ホラ。
忘れるもんでしょう?」

子供は、ふくれっ面して言い返した。
「僕はベンジャルナン。
…あ。
頭の中で僕が、自分の名前言ったのって…」

ディラフィスが、頷く。
「当然、俺達には聞こえない」

ベンジャルナンは俯き加減で、頷いた。

シェイルが尋ねる。
「自分は移動出来ても。
他の人を瞬間移動、出来なかったりする?」

ベンジャルナンは、嬉しそうに微笑む。
「僕は手を握れば…二人ぐらいは、一緒に移動出来る!」

ローフィスもシェイルも、感心したように頷いた。

ディラフィスが腕組んで、感慨深げに囁く。
「ローフィスも昔、やっと馬を操れるようになった頃。
“ホラ!
もう後ろにシェイル乗せても、落とさないで走れる!”
って可愛らしく、自慢してたよな…」

ローフィスはそんなガキの頃の話をされ、赤くなって横に座る親父おやじを、睨み付けた。

シュネビィアが再び姿を現したかと思うと。

そこら中にポット、お茶のカップや皿。
そしてケーキが1ホールまるごと。
それにナイフ。

…それらは突然現れたかと思うと、空中を飛び回りながら、カップにはお茶が注がれ、次々に各自のテーブルの上に落りて行き。
ケーキも切り分けられ、次々と人数分の皿の上に乗り、クリームが添えられ、チェリーや苺も添えられて、テーブルの各自の前へ。

みんながテーブルを見ると、目の前にお茶とケーキが並んでた。

シュネビィアは、微笑んで言った。
「頂きましょうか?」

シェイルは思わず向かいに座るローフィスを見、ローフィスも目を見開いてるのを見て
「(やっぱり、びっくりするんだ。
僕同様)」

そう思って、そっとカップを取り上げた。

けれど突然。
シェイルは涙をポロポロと、頬に伝わせ始める。

「あ…あれ?」

本人はびっくりしてるけど。
シェリアンも…シュネビィアもベンジャルナンもが、悲しげな表情をして、シェイルを見た。

ローフィスはそっと、シェイルを見つめ、尋ねる。
「…どうした?」

「うん僕…僕なんか…今頃…。
母様の事………」

悲しいのと、嬉しいのと。
寂しかったのと。

感情が、ごっちゃになってあふれ出す。

シュネビィアが囁く。
「ここでは、自分でも気づかず我慢してた感情が、表に現れるの。
ライラアンも最初来た頃は、体の疲労が癒えると、泣いてばかりいたわ。
だから…時々ディラフィスの下げてるペンダントを通じて、ライラアンの頭の中に、貴方の姿を送るの。
そうすると落ち着いて、子供のように笑って…。
そしてやっと、眠ってくれたわ…」

シェイルはシュネビィアを見た。
艶やかな栗毛を結い上げ、きらきらした青い瞳でふっくらしたピンクの頬の、ふくよかで優しい顔立ちの彼女を。
飾り気の無い、明るい青のドレスは彼女の瞳と同色で、よく似合っていた。

シェイルは静かに、尋ねる。
「僕の…姿…?」

ディラフィスが、ため息交じりに囁く。
「俺のペンダントは、神聖神殿隊付き連隊騎士の護符付きだから。
ここの俺を知ってる能力者に、俺の様子が分かるようになってる」

シュネビィアが微笑む。
「私、人の頭の中に、映像を送るのが得意なの。
だからここの管理を任されてるの。
『影』の“障気”で辛い思いした人達に。
楽しい映像を送れるから」

シェイルは、それを聞いて心から微笑む。

ベンジャルナンが、誇らしげに叫んだ。
「母様は昔、神聖神殿隊騎士だったんだ!
若い頃は、凄く強かったんだって!」

シュネビィアは、困った様に、優雅な仕草で頬に手を添え、呟く。
「この子ったら、神聖神殿隊騎士になりたいらしくて…。
でも今は、時期が良くないでしょう?
『光の王』が没されたばかり。
次の王が降臨するのは、まだずっと先。
『影』がこれを機会に、封印を破ろうと揺さぶりまくってる。
神聖神殿隊騎士らはしょっ中つどって、大封印の間で、強化呪文を唱え続けてる。

各地の小封印も揺さぶられ、“障気”が沸いて…神聖騎士達が必死に飛び回ってるから、神聖神殿隊も手助けにかり出される。
『光の王』がいらっしゃる時より、何倍も危険なのに…」

ベンジャルナンは、けれど母を見上げる。
「でも神聖神殿隊騎士達は、『光の王』が居る時よりも、何倍もスリルがあって、楽しいって」

シュネビィアは顔を下げた。
「神聖神殿隊騎士って、お馬鹿ばっかりだから」

ぷぷぷぷぷっ!
ディラフィスとシェリアンが、同時に吹き出した。

シェイルとローフィスが見ていると、ラッドラセルはディラフィスとシェリアンに同意して頷き、ベンジャルナンだけが。

不満そうに頬を、膨らませ、フテた。


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