2 / 101
1 タニアの切ない片思い
王宮舞踏会
しおりを挟むタニアはその舞踏会で、いつも見かける面々を見つけ、少しほっとした。
17歳の誕生日を迎えて以来。
毎度母やら叔母やらが、名家の青年のミニチュアの肖像画を見せたり、年頃の青年をお茶に招いたりで、そろそろ適齢期。
を嫌でも意識しなきゃならない。
金髪の一族。
「右の王家」の御姫様。
アースルーリンドの国内でも、一番高い位に就く一族に属していたから、お婿さん選びは周囲の意見を無視出来ない。
身分の低い、金目当ての男と一緒になって、一族を追放された女性だっている。
大抵はそんな男とは結婚せず、愛人として囲えばいい。
と、年配の利口な一族の女性達は思ってる。
女性でもそんなだから。
男性達は、もっと奔放。
金髪の一族は皆、良くも悪くも、自分の良しとする事に突っ走る傾向がある。
年配の一族の男達が競うのは、愛人の数と質。
けれど妻と子供達には、愛情あふれた表情を向ける…。
でもそれだからこそ適齢期の一族の男女は、結婚の相手に、長く愛せる相手を選ぶ…。
いつの間にか隣にやってきた叔母が話しかけて来てるのに、タニアはぼんやり気づく。
「…だから、一族の年頃の男性か…。
ああ、ダメね。
今現在あなたにとって、血のかなり近い双子の…私の息子達か。
もしくは離婚したばかりの…かなーり年上の男性しかいないわね…。
って事は身分を考えると、「左の王家」の男性が好ましいわ!
そうそう、あなたの年頃にあった「左の王家」の御曹司が一人居るわ。
ディングレーって言う…近衛に入隊したてなんだけど、とても男っぽくて素敵な方よ?
確かに「左の王家」の黒髪の一族は一途で…乱暴ごとが、かなり好きで、血なまぐさいのが嫌いなあなたには、ちょっと…かもだけど………」
叔母はそう言って…余所を見てるタニアにようやく、気づく。
が、かまわず声をかけ続けた。
「ああ今日もお声がかかって、第一舞踊の踊り手に選ばれたのね。
今更緊張も無いでしょう?
けどディングレー様は舞踏会嫌いで、今日はお姿を見せないかもしれないわね。
ショナ家のアレッサンナもロッテ家のナスターシャも…他の一族の年頃の女性達も揃って、狙ってるから。
肖像画を見てもし、お気に召したのなら。
早い内にお声をかけないとダメよ」
そして、声を潜め囁く。
「…ベットではそれは…とても激しくて。
けれどたしなもみあって。
体験した女性はもう、彼にメロメロなんですって!
お姿が素敵でも、そっちがダメだと…続かないでしょ?結婚は」
そしてまた、声を張り上げる。
「…ああもし舞踏会にいらっしゃっていれば…。
あなたの踊る姿を見たら、一発でディングレー様をあなたの虜に、出来るのにねぇ…」
けれどタニアは、視線の先でじっ…と見つめ来る青い瞳に気づく。
横でしゃべってる叔母の娘、16になったアナフラティシアが、豪華に着飾ってそこにいた。
タニアはようやく、叔母に口を開く。
「…アナフラティシアにそのお話を持って行かれたら?
私よりたった二つ、年下なだけだし」
それを聞くと、叔母はため息をこぼす。
「…そう…したい所なんだけど。
あなたのように、第一舞踊が踊りたくて。
願いが叶うまで、恋愛には興味無いらしいのよ…」
タニアは笑った。
「それで私を結婚させようと思ってらしたの?
未婚女性の、第一舞踊手の座が空いて、アナフラティシアが選ばれれば。
彼女も願いが叶ってやっと、男性に目が向くから?」
叔母はまた、ため息を吐く。
「…幼馴染みのアリストリア家のサースティンが。
ずっとアナフラティシアを思っているのよ。
とても似合いで…サースティンはそりゃ、「右の王家」じゃないけれど…。
家は古くからある名家だし。
大貴族で位も高いし、誠実で申し分無い性格だし。
何しろ、あの気難しいアナフラティシアを上手に、たしなめてくれてるのよ?
早く『あなたに勝って第一舞踊手の座に座りたい』だなんて夢は忘れて、サースティンと恋仲になってくれればいいのに」
タニアはくすくす笑った。
「ごめんなさい叔母様。
私、六歳の時選ばれて以来、もうこの舞台に夢中なの」
軽やかで優雅にタニアはドレスを翻し、開けられた広間中央に滑り出す姿を見つめながら、叔母は曲の演奏が始まった事に気づいた。
踊り手がいれば、多ければ10組の男女が、舞踏会での踊り始めに踊る。
けれど今日は、たったの一組。
第一舞踊は舞踏会の質を決めると言っても、過言では無い。
優れた踊り手が最初に華麗に踊ることで、招待客の気分を高揚させ…舞踏会の成功へと導くから。
そしてタニアは招待された舞踏会で、必ずその大切な第一舞踊手に選ばれ続けていた。
タニアは主催者が選んだ、男性第一舞踊手の差し出す手に、その手をすべ込ませ、一気にドレスを翻して踊り始める。
あちこちから、その優雅さと華麗さ。
そして可憐さと見事さに、ため息が漏れる………。
叔母は自分の娘、アナフラティシアを見つめた。
広々とした広間の真ん中で全ての視線を集め、軽やかに踊るタニアを、もどかしそうに。
少し辛そうに。
拳を握り、真剣に見つめている。
横にサースティンが。
文句の無い好青年ぶりで、アナフラティシアを暖かい鳶色の瞳で見守っている。
“彼の手を取るのよ!
タニアの事も、第一舞踊手の事も忘れて!”
けれどアナフラティシアには母の言葉など聞こえず、タニアが踊り終わって優雅にお辞儀しながら、舞踏会招待客、ほぼ全員から万雷の拍手を受ける晴れ姿をチラと見た後、きっ!とした表情でサースティンの手を握り、見つめ来る瞳を避け、タニアが引いて行く中央へと進み出る。
第二舞踏は大抵が、踊りが大好きで…けれど第一舞踊手程は踊れない人々が、広間に出て行くのが決まり。
大勢の踊り手達に交じりながらも、タニア以上に上手に踊ってみせる。
そんな決意こもる瞳で、アナフラティシアは曲が始まるのを待っていた。
タニアはそんな年下のいとこの気概を背後に感じたものの、広間中央から引いて行く。
広間の真ん中を空け、周囲で踊りを見守る人々の中で一際目立つ、この舞踏会の主催者婦人が、タニアを感謝こもる眼差しで見つめ、両手を広げて迎え入れ、自分の舞踏会に素晴らしい華を添えてくれた感謝を、心からの言葉で告げるのを、タニアは少し息を切らして聞いていた。
体中が、興奮で熱かった。
会場中の視線を浴び、憧憬の眼差しに包まれてステップを踏むのは、毎度の事だけど、本当に最高の気分。
もちろん、結婚すれば独身者の第一舞踊手には選ばれなくなるだろう…。
けれどたった一組を踊り始めの見せ舞踏として選ぶ時。
必ず自分が毎度、選ばれる自信はあった。
中央で多くのカップルが踊ってる。
同じ「右の王家」。
二つ年下のいとこ、アナフラティシアが、自分と同じ金髪を翻して可愛らしくくるりくるりと華麗に回ってる。
“…アナフラティシアは確かに、上手。
けれど、自分のような品格は無い。
いえ。貫禄かしら…。
私のように六歳の時から、いつも一番始めに舞踏会中の視線を浴びて踊ってきた、経験が足りないのかしら…。
可愛らしくてなよやか。
少女らしくて、初々しい。
踊りは少しも間違えない。
素晴らしい輝きを放つ蝶のように、確かに人目を惹き付けはする。
けれど大輪の華には、敵わない…”
タニアはくるり。と背を向けた。
“アナフラティシアは、大好き。
けれど踊りは、それとは違う。
年下だからと譲ったりしないし、アナフラティシアもそんな気遣いは嫌うだろう。
…彼女は実力で選ばれたいのだから”
0
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
必ず会いに行くから、どうか待っていて
十時(如月皐)
BL
たとえ、君が覚えていなくても。たとえ、僕がすべてを忘れてしまっても。それでもまた、君に会いに行こう。きっと、きっと……
帯刀を許された武士である弥生は宴の席で美しい面差しを持ちながら人形のようである〝ゆきや〟に出会い、彼を自分の屋敷へ引き取った。
生きる事、愛されること、あらゆる感情を教え込んだ時、雪也は弥生の屋敷から出て小さな庵に住まうことになる。
そこに集まったのは、雪也と同じ人の愛情に餓えた者たちだった。
そして彼らを見守る弥生たちにも、時代の変化は襲い掛かり……。
もう一度会いに行こう。時を超え、時代を超えて。
「男子大学生たちの愉快なルームシェア」に出てくる彼らの過去のお話です。詳しくはタグをご覧くださいませ!
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
僕がサポーターになった理由
弥生 桜香
BL
この世界には能力というものが存在する
生きている人全員に何らかの力がある
「光」「闇」「火」「水」「地」「木」「風」「雷」「氷」などの能力(ちから)
でも、そんな能力にあふれる世界なのに僕ーー空野紫織(そらの しおり)は無属性だった
だけど、僕には支えがあった
そして、その支えによって、僕は彼を支えるサポーターを目指す
僕は弱い
弱いからこそ、ある力だけを駆使して僕は彼を支えたい
だから、頑張ろうと思う……
って、えっ?何でこんな事になる訳????
ちょっと、どういう事っ!
嘘だろうっ!
幕開けは高校生入学か幼き頃か
それとも前世か
僕自身も知らない、思いもよらない物語が始まった
後宮に咲く美しき寵后
不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。
フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。
そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。
縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。
ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。
情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。
狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。
縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。
徒花伐採 ~巻き戻りΩ、二度目の人生は復讐から始めます~
めがねあざらし
BL
【🕊更新予定/毎日更新(夜21〜22時)】
※投稿時間は多少前後する場合があります
火刑台の上で、すべてを失った。
愛も、家も、生まれてくるはずだった命さえも。
王太子の婚約者として生きたセラは、裏切りと冤罪の果てに炎へと沈んだΩ。
だが――目を覚ましたとき、時間は巻き戻っていた。
この世界はもう信じない。
この命は、復讐のために使う。
かつて愛した男を自らの手で裁き、滅んだ家を取り戻す。
裏切りの王太子、歪んだ愛、運命を覆す巻き戻りΩ。
“今度こそ、誰も信じない。
ただ、すべてを終わらせるために。”
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
