アースルーリンドの騎士達 妖女ゼフィスの陰謀

あーす。

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8 失墜するゼフィスとロスフォール大公

ディンダーデンを帰還させねばならず、思い悩むオーガスタス

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 オーガスタスは新兵教育係のロッドン少佐が、いかつい顔を更に険しくしかめながら、近寄って来るのを見た。
「…ディンダーデンは貴方の言う事なら、仕方無く聞く。
彼の唯一の友人で新兵のギュンターは、貴方の友人でもあるし」

オーガスタスは直ぐ、ピンと来た。
以前、推薦で王立騎士養成学校も出てない、ごろつきまがいの平民が数人、新兵としてやって来た。

半端なく強い。
が教育がなく、読み書きも出来ず…。
そしてどう言い聞かせても、軍律が理解出来ない。

実際彼らを見たが、殆ど夜盗のようだったから、無理も無いとは思った。

その時教育係のロッドンの、相談を受けていた左将軍のディアヴォロスが、丁度通りかかったディンダーデンを呼び止めて、言った。

「君、戦闘がなくて暴れ足りないだろう?」
ディンダーデンは美麗な顔を、ディアヴォロスに向け、言い放つ。
「女を抱いて発散してるから、大丈夫だ」

高貴なる王族、ディアヴォロスはにこっ。と笑い、告げる。
「でも女性は殴れない」

後ろに控えていた補佐に成り立てのオーガスタスは、その時ディンダーデンの、下げた拳がムズムズするのを、見た。

「…当たり前だ。
俺は女は殴らない」

「殴り甲斐のある男を、思い切り殴っていい。
と言う軍務があるんだが…。
女性が君を離さなくて、無理だと言うのなら…。
別に頼むしかないな」

くるり。と背を向けるディアヴォロスに、ディンダーデンは言ったのだ。
「待て」

ディアヴォロスは足を止めた。
が、まだディンダーデンに振り向かない。

「…思い切り殴り倒しても、罰則なしか?」

ディンダーデンに問われて。
ディアヴォロスはようやく、くるりとディンダーデンに振り向く。

にっこり笑って、保証した。
「むしろ、奨励される」

ディンダーデンは、ディアヴォロスの笑顔は嫌いな様子を見せた。
が、言った。

「いいだろう。受けよう」


かなり年上のロッドンは、年下の上官オーガスタスに、言いにくそうに呟く。
「左将軍はお忙しいだろうしその…君は、補佐の上…。
あの、ディンダーデンですら、一目置いてると聞く」

確かに、どこの派閥にも属さず、どこかの隊にも所属せず…。
が、一旦戦闘に配備されると、驚異的な戦闘能力を発揮するディンダーデンは、皆がどう扱って良いのか、悩む存在。

以前は右将軍が自分の部隊に招集し、“好きにやらせろ”と隊長に命じ、ディンダーデンは命令無視して好き勝手に暴れまくる。

が、毎度隊長から、暴虐武人で手綱の全く取れないディンダーデンの扱いに困り果て
“もう二度と面倒は見たくない”
と苦情を聞いてるらしく、右将軍は左将軍ディアヴォロスに
“ウチの隊長全員が、持ち回りで順番に引き受けていたけど、皆限界だから。
今度は君のとこで頼む”
と笑顔で押しつけ…。

最近は左将軍ディアヴォロスが、ディンダーデンの受け持ち担当になりつつある…。

オーガスタスは年上のロッドンが気の毒になり、小声で尋ねる。
「…そんなに、手に負えない新兵なんですか?」

ロッドンは、ぱっ!と表情を輝かせて長身のオーガスタスを見上げ、弾んだ声で言う。
「多分また、どこかの領主を刃物で脅し、推薦状を書かせたと思われる、ごろつきで。
盗みは平気。
訓練中も酒瓶は放さない。
訓練途中でも気にくわないと、平気で抜け出す。
…罰則はしない。
牢に入れると脅しても、入れようとする男を殴り倒す。

…まだ、続ける?」

オーガスタスは、吐息を吐いた。
「いえもう、十分です。
ディンダーデンを派遣しましょう」

オーガスタスはそう答えた時、ロッドンが飛び上がりそうに喜ぶのを見た。

いかつい顔に笑顔を浮かべ
「頼んだよ!」
と言って、スキップで背を向ける少佐を見送って、オーガスタスはローフィスの、隊長宿舎へと足を運んだ。



「ああ、大分顔色が戻ったな」
まだ寝台の上に居るギュンターの顔を見、そう呟く。
ギュンターはすごーーーく、ブスっ垂れていて…。

あまりに不機嫌なので、こっそり横の、ローフィスに尋ねる。
「…なんであんなに、不機嫌なんだ?」
「消化の悪い物を食うとまだ、たちどころに下すか吐くから。
食事を制限してるせいだ」

ローフィスは、もっと声を潜めて囁く。
「ヤツは“例え下しても吐いても。
食ってるウチに治る”
と言い張り、食事…。
特に、肉を大量に要求するんだが…」
「…食わせない方が、いいんだな?」
ローフィスは頷く。
「真っ当な処置だ」

「なんで食い物の手土産を持って来ない!」
ギュンターに文句を言われ、オーガスタスは背を向けて室内から出て行く。

ローフィスも後に続き、扉を閉めようとした時。
ギュンターは怒鳴る。

「例え下そうと吐こうと!
一番栄養のある肉を、たらふく食っとかないと!
素早く動けないだろう!
さては俺をローランデに会わせない、陰謀だな?!!!!」

バタン!
返事もせず扉を閉め、オーガスタスはローフィスに尋ねる。
「ディンダーデンって確か…」
ローフィスは直ぐ気づいて、顔を上げる。
「アイリスに代わって、銀髪の影の一族の頭領をコマしに行ってる」

「やっぱりか…。
新兵教育係のロッドン少佐が困ってるから、呼び戻したいんだが」

「分かった。
アイリスに要請しよう」

軽く請け合うローフィスに、オーガスタスは閉めた扉の向こうを見やり、尋ねる。
「…ディンダーデンをこっちに戻すと…ゼフィスもあっちに戻って、暗殺命令が再開されないか?
ヤツの葬式話。
まだ、生きてるんだが」
と、寝室のギュンターを親指で指す。

ローフィスは肩を竦めた。
「それはアイリスが、考えるさ。
あいつだって、ゼフィスに戻られたら困るんだから」

オーガスタスは頷く。
「それもそうだな。
アイリスへの使者は俺が出す。
ギュンターの世話は手が焼けるだろう?」

「ディングレーで、慣れてる」

オーガスタスは、小柄(彼らからしたら)ながら肝の据わった親友の豪胆さを、改めて思い知って、ため息を吐いた。

「…俺なら、一日でヤツの世話からバックレるな」
「まあギュンターなら、それでも生き延びるだろうが…。
一ヶ月は正常稼働出来ず、体調不調を引きずるだろうな」

オーガスタスは改めて、ローフィスを見た。

いつも、それと気づかせない。
だが周囲の者の健康を、さり気なく気遣ってる。

「お前に世話されて、ギュンターは間違いなく幸せ者だ」

その時、ディングレーが腕組みし、戸口にもたれかけて姿を見せ、ぼそり…。
と言った。

「ギュンターがそれに感謝しないようだったら。
俺が殴ってでも、言って聞かせる」

「…お前本当に、凄いの飼ってるな」
オーガスタスのぼやきに、ローフィスは真顔で頷いた。
「日頃面倒見てる、甲斐もあるってもんだ」

オーガスタスは頷き、室内から出て行った。

ぱたん…。

扉を閉めて、オーガスタスは思う。
「(しかし頭領コマす。
なんて楽しい役を放り投げて。
ディンダーデンがごろつき新兵殴るために、戻って来るのかな?)」

が、相談相手のローフィスが請け負ったので、オーガスタスは補佐官邸に戻ると、使者をアイリスに、差し向けた。
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