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5章 五人目の転生者
第68話 僕は言いつけを守る
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次にフィアットに会う時、どんな顔をすればいいのかと、オージンは悩んでいた。
(処女膜について理解するってことは、私と岡部の関係も知るってことなのよね……あああ、なんでこんなことに。あの時に戻ってやり直したい!)
ベッドに転がってジタバタしたが、こんなことでフィアットと気まずくなるのも馬鹿らしい。
岡部に振り回されるのは前世までだ。
(べ、別に、私だっていい歳なんだから、男の経験くらい……)
その唯一の経験が最悪で、トラウマなのだ。
忘れようとすればするほど思い出してしまい、オージンは身もだえる。
直後、飛空船がガタンと大きく揺れた。
あまりにも暴れすぎたので揺らしてしまったかと慌てたが、オージンが止まってもまだ船はグラグラと乱気流にでも揉まれるように揺れている。
「なんだ?」
天候が悪くなったのかと船窓に視線を向けて、オージンは背筋が凍る思いをした。
丸い窓から、ぎょろりとした巨大な目玉がこちらを覗いている。その大きさはオージンが知る動物のどれにも当てはまらない。
ドォン!
大きな炸裂音がして、火花が散る。
船から魔法弾が放たれてそのバケモノを攻撃したようで、巨体が飛空船から離れていった。
全貌が明らかになると、それが赤い鱗のドラゴンであることが判明する。
「ファンタジー定番のドラゴンじゃないか!」
一瞬だけ興奮するも、すぐにドラゴンがまた翼を羽ばたかせて接近してきたため、楽観している場合ではない。
すぐにオージンは廊下に飛び出し、甲板に続く階段を駆け上がった。
すでに甲板には武器を構えた数人の船員の姿があり、オージンに続いて後ろからはフィアットと柴田も駆けつけてくる。
「すごいわ、本物のドラゴンね! 作り物なんかとは迫力が違うわ!」
柴田が嬉々とした声を上げた。
「柴田は船内に隠れていろ!」
「いやよ。海龍の時は気絶して観戦できなかった分、近くで見物させてもらうわ」
「危ないだろ。海龍の時は大勢いたからなんとかなったが、今回はそうもいかないぞ」
船員は戦闘経験のあるベテラン揃いだが、相手はこの飛空船よりも5倍の大きさはあるドラゴンで、かなりの苦戦が予想された。
その通り、甲板から何度も魔法攻撃が放たれるが、ドラゴンはびくともしない。
「レッドドラゴンだ! 火を吐くぞ、気を付けろ!」
「こんな大物、見たことない!」
「嘘だろ……魔法弾が全然効いてない……」
誰もが恐怖する巨大なドラゴンを前に、フィアットは平然とした顔で前に進み出た。
「大丈夫です。僕がなんとかしますね。おじさんも隠れていてください」
風が吹き、彼が纏う古びたローブをはためかせる。
「いけるか、フィア?」
「任せてください」
頼りにされるのが嬉しいようで、フィアットは意気揚々と欄干まで駆けていった。魔法の杖を構えて、ドラゴンに意識を集中している。
その時、どこからか声が聞こえた。
『――フィアット……あなたはフィアットですか?』
それは脳内に直接語りかけてくるような不思議な響きだったが、敵意はなく柔らか女性のような高い声だった。
この場にいる全員が聞こえているわけではなく、キョロキョロしているのはフィアットとオージンだけだった。
「話しかけているのは、あなたですか? どうして僕の名前を?」
フィアットも杖を下ろして、接近してくるドラゴンを見つめた。
『やはり――大きくなりましたね――』
並走するドラゴンは攻撃してくる気配はないが、相変わらずその恐ろしい姿に船員たちは顔ざめた顔をしている。
『私の背に乗りなさい。二人だけでお話しましょう……』
ドラゴンは飛空船のへりのギリギリまで接近した。力加減ではこの小型の船は墜落させられるだろう。
(どういうことなの。このドラゴンはフィアットとどういう関係? 敵意はないみたいだけど……)
だが、フィアットだけを行かせるのは心配だ。
オージンも一緒に行こうと足を踏み出しかけたところで、フィアットが口を開く。
「知らない人にはついて行かないように言われているので、だめです。それでは、さようなら」
「待て、フィアぁぁぁ!」
「時よ遡れ、時光回還<クロノリバース>!」
止めるのが一歩遅く、再び杖を掲げたフィアットは容赦なくドラゴンに魔法をかけた。
光が巨体を包み、みるみるうちにその姿は小さくなっていく。
(うちの子はバカなの? アホなの? ここは話を聞くところでしょう!)
『声』に注意するようオージンに言われたことをきっちり守り、フィアットはドラゴンの時間を遡らせて始末しようとしていた。
まばゆい光は少しずつ薄くなり、その中に見える影も小さくなっていく。
そして――現れたのはドラゴンの幼体ではなく、一人の女性の姿だった。
中年の女性は、フィアットが纏っているローブと似たものを身に着け、亜麻色の長い髪が強風に煽られている。
「人間!? 誰か、あの人を助けてやってくれ!」
光が粒子となって散っていくと、女性の体は空中に投げ出された。オージンの声にハッとした船員が、魔法を使って女性の体をなんとか甲板まで引き上げる。
女性はぐったりとして、意識を失って倒れた。
あちこち怪我をしているようで、ローブから見える手足に切り傷や火傷のようなものが見える。
だが、これらはフィアットの魔法によるものではない。彼女の体の時間が、たまたま大怪我を負った時まで戻されたのだ。
「フィア、この人を治療できるか?」
「わかりました」
唖然として女性を見下ろしていたフィアットだが、オージンの指示に我に返ると、更に時間を巻き戻して彼女を健康だった時の姿に戻す。
しかし、衝撃のせいか女性は目覚めないままだ。
確認すると脈と呼吸は整っているため、そこまで心配する必要はないだろう。
「どういうことなんだ……?」
「この人……僕の近所に住んでた……ゼナおばさんです……」
(処女膜について理解するってことは、私と岡部の関係も知るってことなのよね……あああ、なんでこんなことに。あの時に戻ってやり直したい!)
ベッドに転がってジタバタしたが、こんなことでフィアットと気まずくなるのも馬鹿らしい。
岡部に振り回されるのは前世までだ。
(べ、別に、私だっていい歳なんだから、男の経験くらい……)
その唯一の経験が最悪で、トラウマなのだ。
忘れようとすればするほど思い出してしまい、オージンは身もだえる。
直後、飛空船がガタンと大きく揺れた。
あまりにも暴れすぎたので揺らしてしまったかと慌てたが、オージンが止まってもまだ船はグラグラと乱気流にでも揉まれるように揺れている。
「なんだ?」
天候が悪くなったのかと船窓に視線を向けて、オージンは背筋が凍る思いをした。
丸い窓から、ぎょろりとした巨大な目玉がこちらを覗いている。その大きさはオージンが知る動物のどれにも当てはまらない。
ドォン!
大きな炸裂音がして、火花が散る。
船から魔法弾が放たれてそのバケモノを攻撃したようで、巨体が飛空船から離れていった。
全貌が明らかになると、それが赤い鱗のドラゴンであることが判明する。
「ファンタジー定番のドラゴンじゃないか!」
一瞬だけ興奮するも、すぐにドラゴンがまた翼を羽ばたかせて接近してきたため、楽観している場合ではない。
すぐにオージンは廊下に飛び出し、甲板に続く階段を駆け上がった。
すでに甲板には武器を構えた数人の船員の姿があり、オージンに続いて後ろからはフィアットと柴田も駆けつけてくる。
「すごいわ、本物のドラゴンね! 作り物なんかとは迫力が違うわ!」
柴田が嬉々とした声を上げた。
「柴田は船内に隠れていろ!」
「いやよ。海龍の時は気絶して観戦できなかった分、近くで見物させてもらうわ」
「危ないだろ。海龍の時は大勢いたからなんとかなったが、今回はそうもいかないぞ」
船員は戦闘経験のあるベテラン揃いだが、相手はこの飛空船よりも5倍の大きさはあるドラゴンで、かなりの苦戦が予想された。
その通り、甲板から何度も魔法攻撃が放たれるが、ドラゴンはびくともしない。
「レッドドラゴンだ! 火を吐くぞ、気を付けろ!」
「こんな大物、見たことない!」
「嘘だろ……魔法弾が全然効いてない……」
誰もが恐怖する巨大なドラゴンを前に、フィアットは平然とした顔で前に進み出た。
「大丈夫です。僕がなんとかしますね。おじさんも隠れていてください」
風が吹き、彼が纏う古びたローブをはためかせる。
「いけるか、フィア?」
「任せてください」
頼りにされるのが嬉しいようで、フィアットは意気揚々と欄干まで駆けていった。魔法の杖を構えて、ドラゴンに意識を集中している。
その時、どこからか声が聞こえた。
『――フィアット……あなたはフィアットですか?』
それは脳内に直接語りかけてくるような不思議な響きだったが、敵意はなく柔らか女性のような高い声だった。
この場にいる全員が聞こえているわけではなく、キョロキョロしているのはフィアットとオージンだけだった。
「話しかけているのは、あなたですか? どうして僕の名前を?」
フィアットも杖を下ろして、接近してくるドラゴンを見つめた。
『やはり――大きくなりましたね――』
並走するドラゴンは攻撃してくる気配はないが、相変わらずその恐ろしい姿に船員たちは顔ざめた顔をしている。
『私の背に乗りなさい。二人だけでお話しましょう……』
ドラゴンは飛空船のへりのギリギリまで接近した。力加減ではこの小型の船は墜落させられるだろう。
(どういうことなの。このドラゴンはフィアットとどういう関係? 敵意はないみたいだけど……)
だが、フィアットだけを行かせるのは心配だ。
オージンも一緒に行こうと足を踏み出しかけたところで、フィアットが口を開く。
「知らない人にはついて行かないように言われているので、だめです。それでは、さようなら」
「待て、フィアぁぁぁ!」
「時よ遡れ、時光回還<クロノリバース>!」
止めるのが一歩遅く、再び杖を掲げたフィアットは容赦なくドラゴンに魔法をかけた。
光が巨体を包み、みるみるうちにその姿は小さくなっていく。
(うちの子はバカなの? アホなの? ここは話を聞くところでしょう!)
『声』に注意するようオージンに言われたことをきっちり守り、フィアットはドラゴンの時間を遡らせて始末しようとしていた。
まばゆい光は少しずつ薄くなり、その中に見える影も小さくなっていく。
そして――現れたのはドラゴンの幼体ではなく、一人の女性の姿だった。
中年の女性は、フィアットが纏っているローブと似たものを身に着け、亜麻色の長い髪が強風に煽られている。
「人間!? 誰か、あの人を助けてやってくれ!」
光が粒子となって散っていくと、女性の体は空中に投げ出された。オージンの声にハッとした船員が、魔法を使って女性の体をなんとか甲板まで引き上げる。
女性はぐったりとして、意識を失って倒れた。
あちこち怪我をしているようで、ローブから見える手足に切り傷や火傷のようなものが見える。
だが、これらはフィアットの魔法によるものではない。彼女の体の時間が、たまたま大怪我を負った時まで戻されたのだ。
「フィア、この人を治療できるか?」
「わかりました」
唖然として女性を見下ろしていたフィアットだが、オージンの指示に我に返ると、更に時間を巻き戻して彼女を健康だった時の姿に戻す。
しかし、衝撃のせいか女性は目覚めないままだ。
確認すると脈と呼吸は整っているため、そこまで心配する必要はないだろう。
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