異世界転移した心細さで買ったワンコインの奴隷が信じられない程好みドストライクって、恵まれすぎじゃないですか?

sorato

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絶対に絶対に離れない

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 所持品の確認を終えた菫は、今度はこの世界においてどういった職に就けるのか、収入を得るためにどうすべきかを考えることとした。とは言っても菫にはとんと分からないことばかりなので、ダールと相談する形である。ダールに「当面は手持ちを売って凌ぐつもりだが、長い目で考えて継続的に給金を得る仕事に就きたい」という内容の相談をすると、ダールは暫し考え込んだ後、沈んだような表情を浮かべつつ口を開いた。

「……どこか住み込みの職を探すのが良いと思います。貴族か、商人かの屋敷が一番現実的だと…。食事も付くと思いますし、多少は生活にゆとりが出そうです。あとは、賄いの出る食事処や宿屋も良いかと…その場合、住み込みではないところも多いので別で宿を取らなくてはなりません。そうなると、生活費はかなり切り詰めなくてはいけないです。が、最低限の生活は出来ると思います」

 菫は途中までダールの説明をうんうんと聞きながら納得していたが、途中でおや?と思わず首を傾げた。ダールの説明を聞く限りそれ程絶望的な感じはしないのだが、それにしてはダールの表情が暗すぎる。もしかしたら、そういう職はあるけど就くのは難しいということなのだろうか。

「そういうお仕事って、結構倍率高かったりするの?」
「…住み込み等は、単身者には人気の職ですが…。スミレ様なら問題ないと思います」

 菫は自分なら問題ないと言われ、「こんな(この世界では)常識知らずが…?」と不思議に思いはしたものの、ダールは主人である菫を持ち上げたのだろうと理解してそこはスルーすることとした。それよりも気になるのが、とダールがわざわざ一言添えたことだ。つまりそれは、単身者でなければ選ばない職ということなのだろう。

「家族とかがいる人は応募できないの?」
「できますが、家族とは別に暮らさなくてはならないので、応募しない人が多いです。辺境など余程遠いところに家族がいて、仕送りをしている者であれば別ですが…」
「つまり、住み込めるのは働く人本人だけってことなんだね」
「はい。住み込みの場合は使用人用の大部屋に何人かで生活する形になりますので…」
「なるほど。ちなみに、ダールが応募したら受かるのかな?」
「………基本的に、奴隷が職に就くのは難しいです。申し訳ありません……」

 ダールはそう言うと、深々と頭を下げた。あまりに申し訳なさそうなその姿に、菫の方が申し訳なくなる。いや、実際にダールが奴隷ということを考えずに軽率に質問してしまったことがダールを傷つけたのだから、悪いのは菫に間違いないのだけれども。それに菫としてはダールは働かずに専業主夫よろしく(今はないが)家で待っていてくれても一向に構わない。ドストライクのイケメンが家で待っている生活。「おかえり、菫」なんて言ってもらえるのだろうか。なんて素敵なのだろう。未だブラック会社の社畜精神がこびりつく菫は、家でダールが待っていてくれるならどんな職場でも馬車馬のように働けることだろう。
 菫は現実から離れていこうとする思考をなんとか途中で中断し、「ごめんね」と声を掛けつつ、ダールに頭を上げるよう促した。

「それなら、住み込みの職は却下で。ダールだけでも宿が取れるなら良いけど、奴隷一人だと泊めてもらえないんでしょ?」
「……スミレ様…!」

 菫はダールを奴隷だと言うことにまだ抵抗があるのだが、ひとまずはそれを前提にしないと話が進まないので、心苦しく思いながらもダールが奴隷であることに触れた。ダールはどう思っているだろうかと心配になりつつ。だというのに、当のダールはと言えば何故か感動したような表情で菫を見ている。一体何なんだろうかと思いつつ、その表情もイケメンであるが故に大変麗しかったので、菫は一旦その謎は置いて話を進めることとした。

「そしたら、普通に食事処とか宿屋とか?で働くしかないかな。あーでも、賄いはありがたいけど、ダールの食事がもらえないんじゃちょっと微妙だなぁ……」
「……あの、スミレ様」
「ん?なに?」

 ダールはぎゅう、と両こぶしを握り締めると、菫の瞳をじっと覗き込んだ。真剣な表情をしているダールを前に思うことではないかもしれないが、やはり顔が良い。良過ぎる。なんといっても菫のドストライクの顔をしている(菫の世界での)世間一般でも高ランクのイケメンが平々凡々な自分を見つめているのである。この奇跡を前になんとか平常の顔を保っているだけでも褒めて欲しいくらいだった。勿論誰も褒めてはくれないのだけれども。
 よく見ると、ダールの握られたこぶしは少し震えていた。なにやら聞きにくいことを聞こうとしているらしい。菫もなんとか荒ぶる感情を落ち着かせるため、ダールにバレない程度に深呼吸をした。

「スミレ様は、今後も俺を傍に置いて頂けるのでしょうか」

 ダールの言葉は、菫が思っていた――と言っても、特に何を言われるか想像していたわけではないけれども――よりも拍子抜けしたものだった。菫の中には、ダールから離れるという選択肢等存在していない。勿論ダールを奴隷から解放した際にダールが菫と一緒にはいられないと言うのであれば一考はするとは思うが、そうでなければ離れるわけなどない。そもそも、ダールを購入した主人という立場とは言え、ダールがいなければこの世界で生活出来ないのは菫の方なのだ。ダールに色々と教えてもらわなければ、菫は今頃だだっ広い草原のどこかで野垂れ死んでいた筈である。自己保身で申し訳ないがダールからは離れない。絶対に絶対に離れない。世界でただ一つの吸引力の変わらない掃除機も真っ青なくらいくっつき続ける所存だ(そして悲しいことにこのネタが分かる人はこの世界にいない)。
 兎にも角にもダールから離れる予定のない菫は、迷いなき瞳でダールを見つめ返した。

「勿論だよ。ダールが嫌じゃなければ、ずっと傍にいてほしい」
「スミレ様…!」

 ダールはまたも感激したように潤んだ瞳で菫を見つめた。熱のこもった目で見つめてくるダールは絵画の如く麗しい。乙女ゲームなどにはよくこういうスチルがありそうだし、ダールのような攻略対象のいる乙女ゲームであれば菫は間違いなく購入してダールルートを周回プレイしていたことだろう。社畜であった菫にその時間があったかどうかはともかくとして。

「スミレ様がそう仰ってくださるなら、冒険者というのも良いかと思います」
「冒険者?でも、私戦ったりとかは…」
「スミレ様に戦わせる等、そんなことはしません。スミレ様には冒険者登録とクエスト受注、達成報告をして頂き、実際の戦闘などは俺が行えば良いのです。それでしたら、俺もお役に立てますし…」

 ――なるほど、と菫は頷く。確かに、それならば菫は戦わなくても良い。けれども、代わりにダールが危険な目に遭うということだ。勿論奴隷契約を結んでしまっているので菫の身に何か危険が迫ればダールが守らざるを得ないだろうが、意図せず危険に陥るのと自ら危険に進んでいくのとではわけが違う。ダールが奴隷になる前に冒険者をしていたのは分かっているが、出来れば菫はダールに危険な目に遭ってほしくないのだ。

(けど、それって私のエゴかも……)

 少なくとも、ダールは元々冒険者として生計を立ててきた。冒険者という職で稼ぐということに、誇りがあったのかもしれない。それに、ダールが奴隷という立場が故に正当な職に就けない以上、菫の代わりにということではあるにしろ自分で働いて金銭を得るのが一番ダールの元――奴隷になる前――の生活に近い形ではある。結局、菫が働いてダールが専業主夫に――というのはただの菫の願望でしかないし、見様によっては飼い殺しとも言えるだろう。それは、菫としても本意ではなかった。

「あ、あの、スミレ様。国によって違いはありますが、少なくともこの国では貴族が名を売るために冒険者登録し、実際には部下や奴隷にクエストをやらせるというのは違反ではないんです。寧ろよくある話で。ですから…」
「あっ、そうなんだね。ごめん、そこを心配してたわけじゃないんだけど……でも、違反じゃないなら良かった」
「…?それでは、何を心配なさっていたんですか?」
「そりゃ、冒険者って色々と危険なことも多そうだし…ダールが怪我でもしたら嫌だなって」
「……!」

 菫の至極当然の言葉に対し、ダールは信じられないとばかりにその整った顔を驚愕の表情へと染め上げた。まるで、自分の身体を心配されるなどとは思っていなかったとでも言わんばかりの表情である。
 菫は自身がそれ程酷い人間に思われていたのか――と一瞬悲しくはなったものの、恐らくはこの世界の奴隷という立場がそうさせるのだろう、となんとか納得させた。それはそれで悲しいことではあるけれども。

「ダールは、私の名義って前提でも冒険者の仕事がしたい?」
「はい。元々冒険者という仕事は、それしか就けなかったとはいえ嫌いでもなかったですし――なにより俺は、少しでもスミレ様のお役に立ちたい。このまま何もせずにスミレ様のお傍にいられなくなったらと思うと、怖くて仕方がありません」

 つまり、ダールは何か役目がなければ捨てられるかもしれないと思っているということだ。今更ダールを捨てようだなんて微塵も思ってはいないが、きっとこの世界では奴隷というのは買って捨ててが菫の思う以上に簡単に出来てしまうのだろう。だって、ダールも、そして(ダール程ではないが)他の奴隷の人たちも、人が売り買いされるにしては信じられない位安価だったから。

「…分かった。さっきも言った通り私はダールにずっと傍にいてほしいと思ってるし、それはダールが役に立つかどうかは関係ないことだけど、それでもダールが何かしたいって言うなら、そうしよう。でも、一つだけ約束してほしい」
「はい」
「ダールに身の危険があるようなクエストは受けないこと。たとえ報酬が高額でも、ダールの命には代えられない。私はダール以外の奴隷を買う気はないし、私の身の安全を守れるのはダールだけだから、ダールは自分のことを私と同じくらい大切にしてほしい」
「…スミレ様…」

 本当は自然にダールが自分のことを大切に出来るようになってほしいけれど、今までのダールとのやりとりを鑑みるに難しいだろう。そう考えて、菫は自身のことを引き合いに出すことにした。理屈っぽく主人のためになるのだと言えば、ダールは拒否できないだろうと踏んで。
 菫の予測は正しかったようで、ダールは一瞬迷ったような表情をした後、こくりと頷いた。

「ん!じゃあ、落ち着いたら冒険者登録しに行こうか。って言っても、場所も登録方法も全然わかんないから、ダールに任せきりで申し訳ないけど…」
「なにも、申し訳ないことなどありません。俺に任せてください」
「ありがとう。それと、手持ちのものを売れる場所にも連れて行ってくれると嬉しいな。暫くは私もこの国に慣れたいし、冒険者登録はそれからでも遅くないと思うんだ」
「分かりました」

 菫はううん、と呻きながら背筋を伸ばした。その拍子にボキッと小気味いい音が肩甲骨辺りから鳴るのが聞こえた。菫は常日頃オーバーワークなので、肩凝りとは会社に入社して以来の付き合いである。数少ない休みを利用して整体やマッサージなどを受けたこともあるが、それでは到底追いつかない程長時間パソコンとにらめっこしていたので、社会人になってから治った試しがない。
 今も肩が凝ってはいるが、昨日今日と座り仕事をしていない分少しマシな感じがする。会社ではお昼ご飯も(ついでに夕ご飯代わりのシリアルバーも)仕事をしながらであったので、それと比べれば草原を歩くなどの適度な運動もしているし、当然と言えば当然ではあるが。
 ――そこまで考えて、菫はそろそろ昼ご飯の時間か、と思い至った。

「話も一旦落ち着いたし、ご飯食べに行こうか。ダール、お店の案内をお願いしても良い?」
「…!は、はい。お任せください!」

 ダールはお腹が空いていたのか、嬉しそうに返事をすると勢いよく立ち上がった。どうしたのかと思えば、宿屋から貰った地図を手に取って「どこが良いでしょうか」と吟味を始めている。菫としてはお腹の空きはまあまあといったところであるが、ガタイの良いダールからしてみれば今日の朝食程度の食事量では足りなかったのかもしれない。自分からは言い出しにくいだろうし、今後はもっと量にも気を遣ってあげた方が良さそうである。
 菫は成人男性の食事量はどれくらいだろうかと考えながら、弾んだ声で「スミレ様はどんなものが食べたいですか?」と問い掛けるダールの元へと近付いた。






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