十字架のソフィア

カズッキオ

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第二章

夢の中で

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 「魔王を倒した英雄達の帰国だ!  」

勇者達が馬に乗り門をくぐると花びらが舞い人々の歓声が勇者達を出迎える。

「見ろ! 聖剣使いのアレクシス様だ!  」

「グレバラン公爵家の次男なのに自ら戦場に出て戦うなんてなんと勇敢な事でしょう!  」

白馬に乗る騎士甲冑に身を包んだ金髪に白い肌の美男子は民衆に手を振るうと更に歓声が大きくなる。

「よく手を振る気になるなアレク  」

ライルは馬でアレクシスの隣を歩く。

「まさか、最悪の気分だ。ラシェルが死んだのに貴族の俺はこうやって笑顔で手を振らなけれならないのだから  」

ライルは笑顔で悲しさを押し殺し民衆に手を振りかえす友人を見遣る。
すると民衆の誰かが言った。

「おい、ライルだ!二千の魔族の軍勢を一騎駆けして蹴散らした剣鬼だ!  」

するとアレクシスは微笑み言った。

「ライル、お前も振り返したらどうだ?少しは気がまぎれるかもしれないぞ  」

ライルは民衆を見て言う。

「……気分じゃない。それに民に手を振ったくらいじゃこの気持ちは晴れないさ… 」

「けれどいつまでも辛気臭いままじゃラシェルに笑われるわよ  」

ライルとアレクシスは後ろから声をかける女性を見る。
眼鏡をかけ黒いローブと木で出来た杖を持った茶髪の長い髪の魔女を見る。

「なんだよレティシア、じゃあラシェルの事は忘れろってか?  」

赤い外套の剣士は苦笑する。

「違うわよ、死んだラシェルの為にも笑った方が貴方らしいって事よ  」

ライルは言い返せなくなり今頃他の仲間達とラシェルの遺体はイルミア王国でこれと同じ歓声を受けているだろうかとどうでも良い事を思ってみる。

民衆の歓声を受けながらライルとアレクシスとレティシア、そしてエルザーク帝国から出兵した兵士達はそのまま皇城へ入る。

見張りの兵に馬を預けると三人は皇帝のいる皇の間へ入る。

「アレクシス・グレバラン、ライル・シュビレブラウ、 レティシア・ロンドただいま魔王討伐より戻りました!  」

アレクシスは声を張り上げ皇帝の前で跪く、レティシアもそれに習う。
ライルも同じ様に真似をするがあまり綺麗に出来ない。

「面をあげい  」

皇帝が促すので三人は顔を上げ玉座に座る皇帝を見る。
白髪頭に長い白い髭を生やし優しい目をしたしかしどこか威厳めいたものが漂う老人、それが現エルザーク帝国皇帝 アルノルト・エルザークだ。

「よくぞ戻った、先達した兵より聞いているぞ……魔王を倒したのだな。よくやってくれたお主らは我が帝国の誇りだ  」

皇帝の言葉に三人は再び頭を下げる。

「いえ陛下、我々は女神アルテス様と何より我らが皇帝アルノルト・エルザーク皇帝陛下様の勅命により魔王を討伐したまででございます  」

アレクシスは畏まった風に言う。
ライルはその姿に流石だなと思う。
自分だったら即席でこんな上等文句など考えつかないだろう。
流石は貴族位の中で二番目の地位にいる家柄だけある。
ただの剣術馬鹿の自分とは違う。

「今夜は細やかだか宴を準備しておる、大いに楽しんでくれたまえよ  」

皇帝が下がれと言うので三人は皇の間を後にする。


 その日の夜皇城で盛大なパーティーが開かれた。
エルザーク帝国中の貴族が集められ魔王討伐の祝杯を挙げていた。
ライルは初めは行かないと言ったがレティシアが促すので渋々慣れない正装でパーティーに参加した。

ライルは会場の端っこにあるソファに座りながらぼんやりとパーティーの様子を見ていた。

ライルはアレクシスの居る方を見ると周りには貴族の女達が寄ってたかってアレクシスの話を聞いていた。
次にレティシアを見るとこちらもどこぞの伯爵公爵達に囲まれて楽しく談笑していた。

ライルはグラスに入った果実ジュースを飲もうとグラスを傾ける。しかしいつのまにか全て飲んでしまった様だ。

「チッ  」

ライルは静かに舌打ちするとソファから立ち上がりジュースを取りに行こうとする。
その時背後から女性に呼び止められる。

白銀の長い髪に人形の様な可愛らしい顔の少女。

アルノルト・エルザークの娘リリアナ・エルザーク姫だ。

ライルはすぐさま跪き言う。

「これはリリアナ姫どうなさいましたか?  」

するとリリアナはライルに少しムスッとして言う。

「貴方の跪く姿は嫌いだわ。せめて私の前ではいつも通りにしなさい  」

「しかし、場所が場所ですし……  」

ライルが言葉を返すとリリアナは踵の高いハイヒールをカツンと鳴らし静かに言う。

「…去勢させるわよ  」

「……はい  」

ライルは静かに立ち上がる。
どうもライルはこの姫様には弱い。
それは彼女が王族だからだろうか、とりあえずライルはこの姫様には逆らえないのだ。
しかし今度こそはこの姫様にガツンと言ってやろうとライルは口を開く。

「あのですねリリアナ姫、姫である貴女が… 」

「あとその喋り方もやめて  」

「……あのなリリアナ、姫の君がそんなはしたない言葉を使っちゃ駄目だろ  」

ライルは結局何時もの口調に戻されるがなんとか言いたい事を言う。

「ふーんそれで?  」

しかしリリアナは聞く耳を持たない。

「それでって君は、いいか大体平民出の俺なんかに君がそうやすやすと話しかけるのはマズイだろ  」

「でも今は救国の英雄でしょ?  」

ライルは頭を掻く。

「以前は違っただろ  」

「いいえ、以前は我が国の陸軍少佐だったわ  」

この姫様には何を言っても無駄な様だ。
ライルは溜息を吐き諦める。

「それで?何か用があったんだろ?  」

「ええ、皆の様に魔王討伐の事を聞きたくて……貴方の他のお友達は無事なの?  」

ライルは一瞬ラシェルが死んだ事を口に出すのを躊躇うがどうせ嘘をついても無駄だと思い真実を伝える。

「……ラシェルが死んだ  」

「……そう  」

ライルの言葉にリリアナは特に驚いた様子もなく言った。

「驚かないのか?  」

「ええ、分かっていた事だから。この戦いで必ず誰かが死ぬ、それが勇者でも我が国の兵士でも同じ事よ… 」

リリアナの言葉にライル苦笑し呟く。

「……そうか、リリアナは強いな  」

「ああでも…… 」

ライルの言葉を遮る様にリリアナは微笑む。

「貴方が帰ってきた事は素直に嬉しいわ  」

ライルが何か言おうとしたところでリリアナは席を立つ。

「私、お父様の所に戻るわ。パーティー楽しんでね   」

そう言うとリリアナは人混みの中に消えていく。

「お、振られたな  」

ライルがその姿を見つめているとまた声をかけられる。
金髪に透き通るくらい白い肌の美男子、アレクシスだ。

「別に振られてないだろ。それにお前こそ大勢の淑女を振ってこんな血生臭い雑兵になんの用だ?  」

「ははは、ちょっと外に行かないか?  」


 ライルはアレクシスに促されるままパーティー会場のベランダに出る。
室内が暖かいせいか夜風がとても気持ちいい。

「それで用事はなんだよ  」

ライルはベランダから外に広がる花壇を見つめている友人に聞く。

「……陛下はもう長くない  」

「……だろうな  」

ライルは頷く。

「陛下が死ねば次に皇帝になるのは恐らく弟のバルドゥルだ。あいつには皇帝にさせる訳にはいかない  」

金髪の美男子は強く言った。
しかしライルはそんなアレクシスを笑ってからかう。

「で、そんなことか?貴族の女をほっぽいて話したい事って  」

するとアレクシスは苦笑する。

「そんなことってあのなぁ…まあいいか。後一つ言っておくが俺はレティシア一筋だ  」

ライルは真面目な顔でそう言うアレクシスに吹き出してしまう。

「ははは、早く結婚しろよバカップルが!  」

「ああそのうちな  」

ライルはアレクシスのこういうところが好きなのだ、貴族なのに冗談を言って人を笑わせてくる性格。
まあ最もレティシアの件は本気だろうが……

少しの沈黙の後アレクシスは口を開く。

「なあライル、これからどうする気だ?  」

「……これからか… 」

「今回の件でお前は多分大佐まで昇級できるだろう。それどころか騎士号を貰えるかもしれないぞ。平民出のお前からしたら大出世だ  」

笑顔でそう言うアレクシスに対しライルは興味無さげに答える。

「んー正直地位も称号も興味ないんだよなー  」

「じゃあまさかお前、親父の背中を追う気か?  」

「いやまさか、そんな事はしないよ。とりあえずはまだ軍にはいるよ大佐にでもなってな  」

ライルはアレクシスに微笑する。

「お前……  」

「さ、ダンスが始まるぜレティシアを誘ったらどうだ?  」

アレクシスは何か言おうとするがライルが遮る。

「はぁ、そうするよ。ライルはどうする?  」

アレクシスは溜息を吐きライルに聞く。
するとライルはアレクシスに背を向けベランダから出ながら言う。

「部屋に帰って寝るよ。疲れたし  」

ライルは欠伸しながらそう言う。

アレクシスは再び苦笑するとライルの背中に言った。

「じゃあな魔王殺しの英雄。ゆっくり休めよ  」

ライルはアレクシスに後ろ手で手を振るとパーティー会場を後にした——–—。
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