十字架のソフィア

カズッキオ

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第三章

海蛇

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 ソフィアとライルが報告にあった街に着くとアレクシスの部下達が出迎えてくれた。

「援軍感謝します。早速ですが作戦を立てたいので町の役場までお願いします 」

ライル達は指示に従い町の入り口からそれほど遠くない役場に案内される。

役場の中はいったって普通の造りで特に煌びやかな装飾などがない。多分アレクシスの所為だろうとライルは思う。

彼は装飾品に使う資金があるなら領民の必要な所に使う、そんな男だった。

だから戦争続きで上がっていく税金の中で上手くやり繰りしている。

だから領民達は笑っていた。他人を気遣い助け合いながら生きている。だからこそアレクシスの統治する領土は治安がいい。

役場の会議室に着くと既に数人の役人が席に着いていた。

「お待ちしておりましたライル様、ソフィア様。では作戦会議を行いましょう 」

役人の一人に促され席に座り作戦会議が始まった。


 「ではまず海賊団海蛇シーサーペントの戦力報告からさせて頂きます。彼等の人数は約五十、特に注意する人物は三人、アダム・ブルコッティ、ヘレン・サレージ、そして頭領バルフリート・シュビレブラウ 」

その瞬間その場にいる全員がライルの方を見る。それにライルは言う。

「そんなに見なくても知っている情報は全て話す。……アダムとヘレンは多分衛兵数人で取り囲めば問題ないはずだ。だけど船長のバルフリートはそうはいかない。並みの兵士じゃ相手にならない。多分五十人規模で囲んでも瞬殺だ 」

「五十人を瞬殺ですか…それがライルの実の父親…… 」

ソフィアはライルを見つめて言う。
それにライルは頷く。

「ああ、だけど手心を加えるつもりはない……親父は俺がこの手で牢屋に入れる 」

そう決意したライルの瞳が少しソフィアは恐ろしく感じてしまう。それが何かはわからないが……


 作戦会議が終わりライルは自分の持ち場である港に来ていた。

するとソフィアが背後から話しかけてくる。

「ライル、貴方は父親と何かあったのですか? 」

ライルは振り返りソフィアの顔を見る。ただ単純に気になるといった表情。少しライルを心配しているようだが。

「あーそうだな、あんまソフィアに俺の話した事なかったな……作戦の時間までまだ時間あるし少し話そうか 」

そう言うとライルは近くにあるベンチに腰掛けるとソフィアにも隣に座るよう促す。

「どこから話そうかな、あんまり人に自分の話しないから 」

ライルがどこから話そうか悩んでいるとソフィアはライルを見つめる。そしてふと会議中に見たライル
の瞳を思い出す。その時は気づかなかったが今思えばあの瞳は前に湖の街トリスで圧政を敷く領主に対し領民達が向けていた瞳と似ているような気がした。

人を恨み、憎み、復讐しようとする目。人の悪性。

そんなものをライルの瞳から感じた。

「……ライルは父親を憎んでいるんですか? 」

「……ああ、憎んでる 」

「それは何故ですか? 」

「……母さんを殺したんだ 」

ライルは脳裏に焼き付いた記憶を掘り起こしソフィアに聞かせる。

 それはライルが七歳の頃の話だ。

その頃まだライルは父親の乗る海賊船に母親であるセシールと一緒にいた。

船に乗り色んな国を見て回る。そんな生活が彼は好きだった。

もちろん父親やその仲間達がやっている事は知っていた。

港町を襲い食料などを奪うのだ。しかし彼にはそんな事どうでも良かった。何しろ父が引退すればこの船を継ぐのは自分だからだ。

だから父や仲間達が毎日つけてくれる剣術の鍛錬は絶対に欠かさなかった。
もっとも逃げ出したところで船の上で逃げれる場所はたかが知れているのだが……

そんなある日の事だ。航海中に魔族の襲撃にあったのだ。
銀色に輝く鱗を纏ったワイバーンに乗った魔族が何匹も甲板に降りてきた。

最初戸惑った船員だったが流石修羅場を何度も潜った者達だ。船長キャプテン・シュビレブラウの指示で次々と魔族を倒していった。

その時だ。突然漆黒のローブに身を包んだ魔族が甲板に降り立った。

その魔族は一瞬で剣を握る母の目の前に出ると母の額に何やら印を書く。

この魔族は魔術を使うようだ。母はまるで石にでもなったかのように動くことが出来ない。
そして印が書き終わった時だ、母は突然近くにいた仲間に剣を振るう。
仲間はなんとかそれを剣で防ぐが余りの強さで甲板の樽の山に吹き飛ばされる。

その姿を確認した魔族はニヤリと気味悪く笑うと魔術で何処かに飛んで行ってしまった。

「セシール!」

父親のバルフリート・シュビレブラウが名前を呼ぶ。
すると母はバルフリートの方を向く。その目は虚ろだ。
そして今度はバルフリートに剣を振るう。

「くッ! 」

バルフリートはなんとか躱す。

「セシール!セシールしっかりしろ! 」

バルフリートはセシールに何度も呼び掛ける。

だがセシールはバルフリートに再び剣を振りかざしたその時、
船室に隠れていたライルが出てくる。

ライルは一瞬何が起こっているのか分からず戸惑っう。
目の前で両親が戦っているからだ。

「父さん!母さん! 」

ライルは二人を呼ぶ。するとセシールが虚ろな目をライルに向ける。そして一瞬笑ったかと思ったその時だ。
セシールは一瞬でライルに近づき剣を振りかぶる。

「ライル! 」

バルフリートは振りかぶられた剣を弾くとライルを抱きしめ距離を取る。

「父さん、母さんは! 」

「……セシールはおそらく魔術で操られている 」

「そ、そんな。どうやったら治るの? 」

「魔法使いに診せれば治せるだろうがこの船に魔法使いなぞ乗ってねぇ 」

すると甲板にいた船員達がバルフリートの元に集まってくる。

「キャプテン!奥さんを縄で縛りましょう。それで急いで大きな街に連れてけばなんとかなります! 」

「そうです!俺達が押さえます! 」

船員が笑顔でそう言ってくるのにバルフリートは素直に嬉しく思う。
しかし同時に彼らを巻き込みたくないという気持ちが強くなる。何故なら彼等が言う事は不可能だからだ。
ここは海のど真ん中だ。一番近い街で一カ月はかかる。その間ずっと押さえ込むなどあの別次元の動きをする彼女相手には不可能に思えた。

だから彼は仲間達に一言。

「……ライルを頼む 」

とだけ言って剣を強く握り前に出る。
その姿を見た船員達は皆覚悟を決める。涙ぐむ者すらいた。
船員達は察したのだ。


妻を殺すのだと。

船員と船とそして息子を守る為に。

「父さん何をッ!!」

叫ぶライルを船員達は抑える。その姿を確認したバルフリートはセシールを見つめ強く言う。

「セシール、すまない…俺は今からお前を…殺すッ!」

「……… 」

セシールからの返答は無い。
バルフリートはそれを見て一度甲板を強く蹴るとセシールに肉薄。そして剣を横薙ぎに振る。

セシールはそれを剣で払うと溝内に蹴りを入れる。

「ぐッ!」

バルフリートは吹き飛び壁に打ち当たる。
肺から一気に空気が吐き出て呼吸が出来ない。

セシールはゆったりとこちらに歩いてくる。
そして少し歪めたかと思ったその時だ、セシールの瞳に光が戻る。

「セ……セシール!  」

彼は妻の名を呼ぶ。

「バルフリート私何を……ああ、操られていたのね  」

「セシール、意識が戻ったのか!?  」

しかしセシールは首を横に振って悲しそうな顔をする。

「ダメみたい、どんどん頭の中が真っ白になってきてる。また貴方を攻撃するかもしれないわ……だからお願い、私を……殺して! 」

その瞬間セシールの意思とは逆にセシールの握っていた剣がバルフリートに目掛け振るわれる。

しかし剣はバルフリートに当たらずその後ろの木で出来た壁に突き刺さる。

「お願い、今しかないわ。次いつこの剣が貴方を斬るか分からない、お願い早く! 」

バルフリートはその声を聞き立ち上がるともう一度剣を強く握る。

「セシール、俺は……お前を愛している 」

バルフリートの優しい声にセシールは目から涙が落ちる。
そしてセシールもまた同じ様に優しい声で、

「ええ、私も。……ライルを頼むわ  」

そう言ってバルフリートの剣を握る手を優しく剣を握ってない左手で包み込むと自分の胸の近くに持っていく。
そしてそれを見たバルフリートは一言、

「ああ、任せろ 」

そう言って最愛の妻の心臓に剣を深く深く突き刺した————。
























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