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第2章
第一王子である私の話 ④
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2ヶ月が過ぎて、イクが戻って来た。
リーンも一緒だ。だがおむつと乳と寝ることだけだったリーンが寝返りを打つようになると、小さなベッドでは運動量が足りないので大人用のベッドに寝かせ、柵をつけて落ちないようにした。大きなベッドは運べないのでナートがイクと一緒に外に出られなくなり、ぐずる。リーンを乳母に任せれば良いと思うのだが、イクは自分で世話がしたいのだそうだ。
母上ともう1人の乳母と話し合い、イクが乳母を辞める事になった…。
これからも毎日会えると思っていたからとてもがっかりしたが、それでも週に2日は遊びに来てくれると言うので、その日は午前中にしっかり勉強を終わらせて午後をともに過ごす約束をした。
だが、イクが来ない日のナートは機嫌が悪い。
あまりにも機嫌が悪く、怒ったかと思えば何もないのに泣き出して夜泣きも酷く、復帰したベテラン乳母までも困っていた。
それを聞いて心配したイクがもう1人乳母を雇って3人でナートとリーンを世話する事になった。
ナート、良くやった!
おかげでイクに毎日会えるし、リーンに可愛くなれと念じる事も毎日何度もできるようになった。
ただ…大きくなって来たリーンはあまり大人しくないような気がする。泣き方が怒っているようにしか聞こえないから。
ハイハイを始め、あちこちに興味を持って何でも口に入れるリーン。
草でも石でも泥の塊でも口に入れる。私もナートもべろべろと舐められた。そしてそれを止めれば怒って泣きわめいて噛み付く。イクへの道は遠い…
リーンは見た目はイク似、性格は侯爵に似ていると周りの大人が言う。私はどうしたら良いんだ…
それでも徐々に落ち着いて来て、機嫌良く遊ぶ事が増えて来た。
1歳を過ぎる事には噛み付かなくなり、身振り手振りで要求を伝えるようになった。
あっち、おいで、ちょうだい、おいしい、ばいばい。
嫌いな野菜に向かって必死でばいばいと手を振るのはとても愛らしい。
メニューが同じなら私の料理とこっそり交換してやれるのに、まだ離乳食とか言う柔らかい物だから、私のを食べさせると腹を壊す事があるらしい。
ナートが甘えてイクに抱っこされていると、焼きもちを妬いて大急ぎで間に割り込むのも微笑ましい。そして追い出されてベソをかくナートを抱っこして慰めてやると悔しそうにしがみついて来るのも新しい発見だった。
ただ、ナートの1番はイクで2番が母上で、イクの1番はリーンと侯爵で…私を1番にしてくれる人間がいないのが時々とても寂しくなる。寂しさを紛らわすために剣術や勉強に打ち込んだ。
そしてまたイクに子供が出来た。
第2子として産まれた子供は侯爵にそっくりだった。
イクを小さくしたような子供は…私のために産まれて来るイクは…幻のまま終わるのか…
ただ、第2子のアリョーシャはとても大人しく、のんびりしていて、間違いなくイクの性格を受け継いでいる。アリョなら例え恋人や伴侶にならなくても、弟として素直に可愛がる事が出来る。3人の中で1番可愛い。私はよくアリョを膝に乗せて勉強をしていた。
私が12歳になり、王族と貴族の子供たちが全員入る決まりの寄宿学校へ入学する時、3歳にもならないアリョはすぐに私を忘れてしまうのではないかと考えていた。だが、夏の長期休暇で城に帰ると、眩しい笑顔で出迎えてくれた。
「でぃ、おたえりなしゃい!」
「ただいま、アリョ。良い子にしてたか?」
「あろ いいこ。でぃ だいしゅき」
アリョはまだリョが言えなくて自分の事をアロと言う。
それなのに大好きと言う言葉は言えるようになったのか。
「アリョはお父様は「好き」なのにディート様は「大好き」なんですよ」
クスクス笑いながらそう教えてくれたイクは第3子のコルネリウスを抱いている。3人産んでこの若さと美貌はどうだろう?
確か、23歳だったはずだが…せいぜい18歳くらいにしか見えない。
今やこの国1番の美貌と言われ、他の追随を許さないほどの人気を誇ると言うのにその美しさには未だ無頓着で、褒められても口説かれても社交辞令としか受け取らない。
口説いた者は例外なく不幸になる、と言う噂もあるが…
アリョは私と離れるのを嫌がり、だだをこねるので泊るか?と言ってみたら大喜びしたので冗談だったとは言えなくなり、初めてイクと離れての宿泊となった。かつてイクにしてもらったように共に風呂に入り、馴れないベッドでも私にくっついて機嫌良く寝る。
朝、腹に温かい物を感じて目を覚ますと、アリョが盛大なおねしょをしていた。目を覚ましてしくしく泣き出す姿は庇護欲をそそった。たとえ巻き添えを食って夜着を濡らされていたとしても。
気にしなくて良いと言って抱き上げ、風呂に入れてやったが落ち込んだままのアリョは朝食もほとんど食べられず、やって来たイクに纏わり付いて離れなかった。
理由を聞いたイクもルネを他の乳母に任せ、アリョを優先して甘やかした。まだ3歳にもなっていないのだから、おねしょくらいでそこまで落ち込む事はないと思うのだが。
リーンはナートが剣術や勉強を始めると何でも一緒にやりたがり、けれど同じようにはできなくていちいち悔しがる。
活発で負けず嫌いなリーン。
寡黙だが体を動かす事が大好きなナート。
2人はとても仲が良く、私はもちろん、アリョの入り込む隙も無い。アリョが私に懐くのは2人が遊んでくれないからかも知れない。
そう思っても幼いアリョが私の後をついて回るのは誇らしく、社交と勉強と鍛錬の時間以外はずっと一緒に過ごした。ただ、おねしょのショックが抜けないのか泊まりに来たのは休暇が終わる3日前だった。
リーンも一緒だ。だがおむつと乳と寝ることだけだったリーンが寝返りを打つようになると、小さなベッドでは運動量が足りないので大人用のベッドに寝かせ、柵をつけて落ちないようにした。大きなベッドは運べないのでナートがイクと一緒に外に出られなくなり、ぐずる。リーンを乳母に任せれば良いと思うのだが、イクは自分で世話がしたいのだそうだ。
母上ともう1人の乳母と話し合い、イクが乳母を辞める事になった…。
これからも毎日会えると思っていたからとてもがっかりしたが、それでも週に2日は遊びに来てくれると言うので、その日は午前中にしっかり勉強を終わらせて午後をともに過ごす約束をした。
だが、イクが来ない日のナートは機嫌が悪い。
あまりにも機嫌が悪く、怒ったかと思えば何もないのに泣き出して夜泣きも酷く、復帰したベテラン乳母までも困っていた。
それを聞いて心配したイクがもう1人乳母を雇って3人でナートとリーンを世話する事になった。
ナート、良くやった!
おかげでイクに毎日会えるし、リーンに可愛くなれと念じる事も毎日何度もできるようになった。
ただ…大きくなって来たリーンはあまり大人しくないような気がする。泣き方が怒っているようにしか聞こえないから。
ハイハイを始め、あちこちに興味を持って何でも口に入れるリーン。
草でも石でも泥の塊でも口に入れる。私もナートもべろべろと舐められた。そしてそれを止めれば怒って泣きわめいて噛み付く。イクへの道は遠い…
リーンは見た目はイク似、性格は侯爵に似ていると周りの大人が言う。私はどうしたら良いんだ…
それでも徐々に落ち着いて来て、機嫌良く遊ぶ事が増えて来た。
1歳を過ぎる事には噛み付かなくなり、身振り手振りで要求を伝えるようになった。
あっち、おいで、ちょうだい、おいしい、ばいばい。
嫌いな野菜に向かって必死でばいばいと手を振るのはとても愛らしい。
メニューが同じなら私の料理とこっそり交換してやれるのに、まだ離乳食とか言う柔らかい物だから、私のを食べさせると腹を壊す事があるらしい。
ナートが甘えてイクに抱っこされていると、焼きもちを妬いて大急ぎで間に割り込むのも微笑ましい。そして追い出されてベソをかくナートを抱っこして慰めてやると悔しそうにしがみついて来るのも新しい発見だった。
ただ、ナートの1番はイクで2番が母上で、イクの1番はリーンと侯爵で…私を1番にしてくれる人間がいないのが時々とても寂しくなる。寂しさを紛らわすために剣術や勉強に打ち込んだ。
そしてまたイクに子供が出来た。
第2子として産まれた子供は侯爵にそっくりだった。
イクを小さくしたような子供は…私のために産まれて来るイクは…幻のまま終わるのか…
ただ、第2子のアリョーシャはとても大人しく、のんびりしていて、間違いなくイクの性格を受け継いでいる。アリョなら例え恋人や伴侶にならなくても、弟として素直に可愛がる事が出来る。3人の中で1番可愛い。私はよくアリョを膝に乗せて勉強をしていた。
私が12歳になり、王族と貴族の子供たちが全員入る決まりの寄宿学校へ入学する時、3歳にもならないアリョはすぐに私を忘れてしまうのではないかと考えていた。だが、夏の長期休暇で城に帰ると、眩しい笑顔で出迎えてくれた。
「でぃ、おたえりなしゃい!」
「ただいま、アリョ。良い子にしてたか?」
「あろ いいこ。でぃ だいしゅき」
アリョはまだリョが言えなくて自分の事をアロと言う。
それなのに大好きと言う言葉は言えるようになったのか。
「アリョはお父様は「好き」なのにディート様は「大好き」なんですよ」
クスクス笑いながらそう教えてくれたイクは第3子のコルネリウスを抱いている。3人産んでこの若さと美貌はどうだろう?
確か、23歳だったはずだが…せいぜい18歳くらいにしか見えない。
今やこの国1番の美貌と言われ、他の追随を許さないほどの人気を誇ると言うのにその美しさには未だ無頓着で、褒められても口説かれても社交辞令としか受け取らない。
口説いた者は例外なく不幸になる、と言う噂もあるが…
アリョは私と離れるのを嫌がり、だだをこねるので泊るか?と言ってみたら大喜びしたので冗談だったとは言えなくなり、初めてイクと離れての宿泊となった。かつてイクにしてもらったように共に風呂に入り、馴れないベッドでも私にくっついて機嫌良く寝る。
朝、腹に温かい物を感じて目を覚ますと、アリョが盛大なおねしょをしていた。目を覚ましてしくしく泣き出す姿は庇護欲をそそった。たとえ巻き添えを食って夜着を濡らされていたとしても。
気にしなくて良いと言って抱き上げ、風呂に入れてやったが落ち込んだままのアリョは朝食もほとんど食べられず、やって来たイクに纏わり付いて離れなかった。
理由を聞いたイクもルネを他の乳母に任せ、アリョを優先して甘やかした。まだ3歳にもなっていないのだから、おねしょくらいでそこまで落ち込む事はないと思うのだが。
リーンはナートが剣術や勉強を始めると何でも一緒にやりたがり、けれど同じようにはできなくていちいち悔しがる。
活発で負けず嫌いなリーン。
寡黙だが体を動かす事が大好きなナート。
2人はとても仲が良く、私はもちろん、アリョの入り込む隙も無い。アリョが私に懐くのは2人が遊んでくれないからかも知れない。
そう思っても幼いアリョが私の後をついて回るのは誇らしく、社交と勉強と鍛錬の時間以外はずっと一緒に過ごした。ただ、おねしょのショックが抜けないのか泊まりに来たのは休暇が終わる3日前だった。
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