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妖魔すらいない世界?
「3日……3日もチサトに会えてない……」
「仕方ないだろう。孤児院に夜間、行く事は出来ないし、朝から調査と尋問だ。早く解決するしかないだろう」
チサトを抱きしめた日からすでに3日。
あろう事か翌日に捕まった大掛かりな犯罪組織が違法薬物と人身売買をしていて、チサトも被害者ではないか、と尋問中だ。
王族のための秘密の抜け道をこいつらが知っていたらまずい。そこそこ高位の貴族が絡んでいるので万が一がある可能性が捨てきれない。
「喋れるようになったらチサトの話も聞くぞ」
「そうだな。……その旨を伝えてこよう」
「そんなもん、見回りの……いや、良い。行ってこい」
見回りの隊員に任せたらチサトに会う口実がなくなるじゃないか。そう言いかけたらそれを察した副隊長がため息混じりに送り出してくれた。
「デーメル隊長!」
「たいちょうさん!」
「たいちよー!」
何故か子供達に大歓迎されている。
「デーメル隊長、ようこそ。ほらみんな、お礼を言うんだろう?」
お礼?
「「「「たいちょうさん! おいしいお菓子をありがとうございました!」」」」
「先日のお菓子がとても美味しかったから、今度いらしたら絶対にお礼をいうんだと皆が」
「それは良かった。なら今日も同じ方が良かったかな? 今日は揚げ菓子にしたのだが」
「あげがし!」
「大好き!」
「たいちょうさん、やさしー!」
「ありあとごじゃましゅ!」
「あー、と!」
チサト!
最後の言葉がチサトか?
小さな子を抱いて笑顔でお礼を言う姿と、たどたどしい言葉がなんとも可愛らしい。
揚げ菓子を職員に渡して応接室に行き、院長に伝言を頼んだ。院長は心配そうだが犯罪者と直接会わせるような真似はしないから心配ないと伝えた。
チサトは今日も喋れないようだ。
遠くから様子を見ると小さな子にずいぶん懐かれている。洗濯物を取り込み、一部を小さなバッグに入れる。それを小さな子2人にそれぞれ持たせて他の洗濯物を大きなカゴに入れて抱えた。
「小さな子が上手に手伝えるようにチサトがあのバッグを作ってくれたんですよ」
三角形の布2枚を縫い合わせ、肩にかける部分は縛るだけなので、長さの調節もできる。不思議な作りだ。それを洗濯物を落として泣くあの子達に作ってやるなんて、一体、いくつなんだろう?
簡単に作れるので古くなったシーツでいくつも作り、野菜運びにも重宝しているらしい。
微笑ましい。
チサトと話ができる日を想像しながら詰所に戻った。
「隊長! 奴らが攫った子供達を隠している場所が分かりましたので副隊長は保護に向かいました!」
「そうか。では私も現場に向かう」
「同行いたします!」
案内された場所は街の側を流れる川のほとりの納屋だった。すでに捕縛された数人は意識を失っている。
そこは納屋なのに大きな地下室があり、手枷をはめられた10人ほどの人間がぐったりと倒れていた。6人の子供と4人の大人。
「大丈夫なのか?」
「医療班の見立てでは元々充分な食事が与えられていなかった上にここ数日は水だけでしのいでいたらしい、と。全員弱っております」
「かわいそうに……まずは回復を。話を聞くのはそれからだ」
「了解致しました!」
子供達が犯罪者であるはずはないが、大人は分からない。だが攫ってまで売る需要があるかどうかだ。
───────────────────
翌日、チサトが喋れるようになったと院長が連れて来た。
「デーメル隊長、おはようございます!」
「チサト! 本当に喋れるんだな……」
「はい! ……でも、またいつ喋れなくなるのか分かりませんので、急いで来ました」
困ったような笑顔も可愛い……じゃなくて、まずは戸籍ができたら共に暮らさないかと言わなくては!と意気込んだのに。
「チサト! 喋れるって本当か!?」
「はい。えーっと……初めにお会いした方ですよね?」
「あの時は怖がらせて悪かった。副隊長のオルトヴィーン・ハークだ。数日でずいぶん大人びたな!」
「そ、そうですか?」
「ハーク副隊長、チサトが怯えている。もっと優しくしろ」
「だ、大丈夫です! ごめんなさい!」
「なぜ謝るんだ?」
何も悪くないのに謝るのはなぜなのか。何か引け目を感じているのか?
「で、聞きたいことがある。チサトは攫われたのか?」
「……え? いいえ。山で雨宿りをしていたら土砂崩れが起きてトンネルが塞がり、出られなくなったので奥に行ったらあの扉があったんです」
「チサト、あの通路は山になど通じていないし、チサトを発見してから確認したが崩れた所はどこにもなかった」
「え? では……神隠し、でしょうか?」
チサトが不思議な事を言った。
チサトの故郷では神隠しと呼ばれる行方不明事件があり、数十年経ってから年を取らずに戻って来たり、1日で10日分の距離を移動して発見されたりすると言う。
不可思議なので神のいたずらとされたのだとか。
「後者は大怪鳥に連れ去られたとすれば説明出来るが、前者はさっぱりだな」
「……ぼくの故郷に大怪鳥はいません」
「いないのか?」
「妖魔も魔獣も精霊獣も、想像上の生き物です」」
この世界、小さな妖魔はそれこそどこにでもいる。隠れているモノもいれば人にイタズラをするモノもいる。それらがいない世界があるのか?
つまり、チサトの故郷がこの世界ではないどこかである……と言うことなのか?
「仕方ないだろう。孤児院に夜間、行く事は出来ないし、朝から調査と尋問だ。早く解決するしかないだろう」
チサトを抱きしめた日からすでに3日。
あろう事か翌日に捕まった大掛かりな犯罪組織が違法薬物と人身売買をしていて、チサトも被害者ではないか、と尋問中だ。
王族のための秘密の抜け道をこいつらが知っていたらまずい。そこそこ高位の貴族が絡んでいるので万が一がある可能性が捨てきれない。
「喋れるようになったらチサトの話も聞くぞ」
「そうだな。……その旨を伝えてこよう」
「そんなもん、見回りの……いや、良い。行ってこい」
見回りの隊員に任せたらチサトに会う口実がなくなるじゃないか。そう言いかけたらそれを察した副隊長がため息混じりに送り出してくれた。
「デーメル隊長!」
「たいちょうさん!」
「たいちよー!」
何故か子供達に大歓迎されている。
「デーメル隊長、ようこそ。ほらみんな、お礼を言うんだろう?」
お礼?
「「「「たいちょうさん! おいしいお菓子をありがとうございました!」」」」
「先日のお菓子がとても美味しかったから、今度いらしたら絶対にお礼をいうんだと皆が」
「それは良かった。なら今日も同じ方が良かったかな? 今日は揚げ菓子にしたのだが」
「あげがし!」
「大好き!」
「たいちょうさん、やさしー!」
「ありあとごじゃましゅ!」
「あー、と!」
チサト!
最後の言葉がチサトか?
小さな子を抱いて笑顔でお礼を言う姿と、たどたどしい言葉がなんとも可愛らしい。
揚げ菓子を職員に渡して応接室に行き、院長に伝言を頼んだ。院長は心配そうだが犯罪者と直接会わせるような真似はしないから心配ないと伝えた。
チサトは今日も喋れないようだ。
遠くから様子を見ると小さな子にずいぶん懐かれている。洗濯物を取り込み、一部を小さなバッグに入れる。それを小さな子2人にそれぞれ持たせて他の洗濯物を大きなカゴに入れて抱えた。
「小さな子が上手に手伝えるようにチサトがあのバッグを作ってくれたんですよ」
三角形の布2枚を縫い合わせ、肩にかける部分は縛るだけなので、長さの調節もできる。不思議な作りだ。それを洗濯物を落として泣くあの子達に作ってやるなんて、一体、いくつなんだろう?
簡単に作れるので古くなったシーツでいくつも作り、野菜運びにも重宝しているらしい。
微笑ましい。
チサトと話ができる日を想像しながら詰所に戻った。
「隊長! 奴らが攫った子供達を隠している場所が分かりましたので副隊長は保護に向かいました!」
「そうか。では私も現場に向かう」
「同行いたします!」
案内された場所は街の側を流れる川のほとりの納屋だった。すでに捕縛された数人は意識を失っている。
そこは納屋なのに大きな地下室があり、手枷をはめられた10人ほどの人間がぐったりと倒れていた。6人の子供と4人の大人。
「大丈夫なのか?」
「医療班の見立てでは元々充分な食事が与えられていなかった上にここ数日は水だけでしのいでいたらしい、と。全員弱っております」
「かわいそうに……まずは回復を。話を聞くのはそれからだ」
「了解致しました!」
子供達が犯罪者であるはずはないが、大人は分からない。だが攫ってまで売る需要があるかどうかだ。
───────────────────
翌日、チサトが喋れるようになったと院長が連れて来た。
「デーメル隊長、おはようございます!」
「チサト! 本当に喋れるんだな……」
「はい! ……でも、またいつ喋れなくなるのか分かりませんので、急いで来ました」
困ったような笑顔も可愛い……じゃなくて、まずは戸籍ができたら共に暮らさないかと言わなくては!と意気込んだのに。
「チサト! 喋れるって本当か!?」
「はい。えーっと……初めにお会いした方ですよね?」
「あの時は怖がらせて悪かった。副隊長のオルトヴィーン・ハークだ。数日でずいぶん大人びたな!」
「そ、そうですか?」
「ハーク副隊長、チサトが怯えている。もっと優しくしろ」
「だ、大丈夫です! ごめんなさい!」
「なぜ謝るんだ?」
何も悪くないのに謝るのはなぜなのか。何か引け目を感じているのか?
「で、聞きたいことがある。チサトは攫われたのか?」
「……え? いいえ。山で雨宿りをしていたら土砂崩れが起きてトンネルが塞がり、出られなくなったので奥に行ったらあの扉があったんです」
「チサト、あの通路は山になど通じていないし、チサトを発見してから確認したが崩れた所はどこにもなかった」
「え? では……神隠し、でしょうか?」
チサトが不思議な事を言った。
チサトの故郷では神隠しと呼ばれる行方不明事件があり、数十年経ってから年を取らずに戻って来たり、1日で10日分の距離を移動して発見されたりすると言う。
不可思議なので神のいたずらとされたのだとか。
「後者は大怪鳥に連れ去られたとすれば説明出来るが、前者はさっぱりだな」
「……ぼくの故郷に大怪鳥はいません」
「いないのか?」
「妖魔も魔獣も精霊獣も、想像上の生き物です」」
この世界、小さな妖魔はそれこそどこにでもいる。隠れているモノもいれば人にイタズラをするモノもいる。それらがいない世界があるのか?
つまり、チサトの故郷がこの世界ではないどこかである……と言うことなのか?
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