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ーー ちさとside ーー

デーメルさんから引き取りたいと言ってもらえておれは舞い上がった。保護者ゲットはぬか喜びじゃなかった! 保護者はこの孤児院の先生でも良いんだけど。子供たちもみんな可愛くて懐いてくれて居心地が良いんだけど。

やっぱり年齢的に罪悪感がある。
だからデーメルさんと暮らしてここに働きに来るのは理想的だ。

朝食はおれが作れば良いし、昼食はそれぞれ職場で食べるけど、夕食はどうするんだろう? 泊まりは何日ごとかな? 魔法はあるけど洗濯機はないのかな?

シェアハウスかぁ。
期待しかない!!



今日は夜まで喋れたので誰ともちゅーする必要はなかったんだけど、クーノがぺろんてしてくれた。明日はギゼラがしてくれるって言う……ギゼラは見た目が美少女過ぎてべろちゅーは罪悪感があるんだよなぁ。

でもほっぺちゅーでは何ともなくて、唾液で反応したんだもんね……。うーん……。

クーノだってちっちゃな舌でぺろっと舐められたら妙に恥ずかしかったから、結構勇気がいる。デーメルさんと暮らし始めたら……朝はここに来るまで喋れないのか。

頑張って文字の勉強、しよ。





朝、またしてもおねしょをしておれのベッドに潜り込んでいたカイのよだれまみれのちゅーで目が覚めた。

よく今まで気づかずに寝てたな、おれ。
顔を洗ったおれにギゼラが可愛くちゅーしてくれた。カイがした後だったからべろちゅーしないでごまかせた。




「デーメルさん! おはようございます」
「おはよう、チサト。ちゃんと喋れるね」
「はい! まだ方法は確認中なんですけど」

挨拶をした後、靴を履いてみんなに行ってきますを言って出かける。シャツとベストとスラックスと言うラフな格好のデーメルさん。脚長い、かっこいい、モデルみたい!

この世界は漫画や小説のように「美形しかいないのか」と言う事はない。……とは言え、全体的に和洋折衷な感じで整っている気がする。

アニメみたいな髪色はまだ見たことがないけど、金髪、銀髪、茶髪に黒髪、赤毛、白髪。それなりにカラフル。

そんな人達がチラチラと振り返る。
やっぱりデーメルさんは美形なんだ。なんだか一緒にいるだけで嬉しくなってしまう。おれは舞い上がってしまって、貸し家屋に着くまでずっと、どうでもいい話を喋り続けた。

「す、すみません! 僕ばっかり喋ってしまって……」
「どうして謝るんだ?チサトの話は楽しいよ」
「……うるさくないですか?」
「もっと聞かせてくれ」

優しい!!
年寄り以外から優しくされた事がないので照れてしまった。

「これはこれは、デーメル隊長殿。ようこそおいで下さいました」
「おお、ブレンメ。今日は同居人を連れて来たから、良い家があればすぐにでも決めたいんだ」
「さようでございますか。こちらがご一緒にお住まいになる方ですか?」
「は、はい! チサトです! よろしくお願いします!」
「これはご丁寧に。私、貸し家屋のブレンメと申します。 どうぞ、ご贔屓に」

貸し家屋さんがにこやかにオススメ物件の説明をしてくれて、デーメルさんが選んでくれる。

「こっちは職場の向こうだから止めよう。こちらとこちらを見せてくれ」
「かしこまりました」

少し遠いのか、小型の馬車を用意してくれたので乗って行く。1軒目は2軒がくっついた作りで間取りは2LDK。湯船はなくてシャワーのみ。なかなか良さそうだったけど、もう1軒も見てから決めよう、と言われた。物件見るのって初めてで楽しいからもちろん頷いた。

そこで見たものはじーちゃんちにあった木とよく似た枝ぶりの大きな木。
秋に赤い実をつけるとばーちゃんが焼酎に漬けていた。同じ種類か似た種類か見た目だけ似た別物か。2人が亡くなってからはその木を2人だと思って大切にしていた。


「この木の向こうはお貴族様のお屋敷で、ここはそこの庭師の家だったのです。剪定の練習用に植えた木がこんなに大きくなってしまって……庭師は歳で引退して息子の家に行きました。この木は切っても構わないそうですが……」
「切らないで下さい!」
「チサト、この家が気に入った?」
「はい! ……あ、でもデーメルさんは職場が遠くなっちゃいますよね」
「ここならチサトを送ってから仕事に行けるから安心だ。私も気に入ったよ?」

優しいデーメルさんはおれに合わせてくれる。でもさほどデメリットもないという事だろう。住んで見て不具合があったら引っ越せば良いのだろうし、ここに住む事を決めた。

「では契約いたしましょう」

そう言ってブレンメさんは家の鍵を開け、少し埃っぽい室内に置かれたダイニングテーブルで契約書を取り出す。テーブルセットや食器棚、ソファもある。家具はそのまま使ってもいいし、買い替えても良いって。なるべくそのまま使いたいな。

契約書にはおれもサインをした。漢字で書いたら珍しがられたけど問題はなかった。


「見ず知らずの僕にこんなに優しくしてくれて……出来るだけ良い子でいますけど、邪魔になったら……ちゃんと自立しますから、言って下さい」
「そんな悲しい事を言わないでくれ。私はずっとチサトと共に暮らしたいんだ」
「すみません! 僕から離れて行く事はありませんから……だから……よろしくお願いします」

負担にならないように、と考えて言った言葉はデーメルさんを傷つけてしまったらしい。とても辛そうで今にも泣き出しそうな顔をさせてしまった。おれは慌てて駆け寄って来て首にしがみついて謝った。

デーメルさんはしがみついたおれを振り払うことなく膝に乗せ、優しく抱きしめながら頭を撫でてくれた。心地良い時間が流れる。しばらくうっとりと身を任せていたものの、体の方に限界がきた。



「……あのっ! デーメルさん……あの……おれ……おれ……」
「どうした? 具合でも……」
「ト! トイレ!! 行かせて下さいっ!」

おれの叫びに、2人で慌ててトイレを探した。

「……間に合いましたぁ」
「長い事付き合わせてしまって悪かった。これからは遠慮せずに何でも言ってくれ」
「だって……抱きしめてもらうの、嬉しくて……でもトイレが我慢できなくて……」
「つまり、また抱きしめて良いのかな?」

こんな嬉しいことを言われて拒否するはずがない。照れながら頷くとまた抱きしめられた。

今度はすぐに解放され、昼食を食べに外に出た。
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