さいきょうのまほうつかい

香月ミツほ

文字の大きさ
5 / 16

5 お泊り

しおりを挟む
ぼく達はなぜか、バルドゥイーン様のお部屋に来ています。

食事の後、話があると言われて連れてこられたのだ。侯爵寮はさすがの豪華さ!! 5LDKあるらしい。

さらに住み込みの料理人と部屋係もいる。

まさに別世界だった。

「単刀直入に聞こう。ラナリウス・ライヒレント、どうやってそこまで魔力を増やしたのだ?」

そこかぁ。
どうしよう? 正直に言ったらサクシュされちゃう?

「キュアノス、教えを乞うならこちらの手の内を曝すべきだろう。ラナリウス・ライヒレント、私の髪を見てくれ」

そう言って外したカツラの下からピンクの髪が出てきた。瞳も榛色はしばみいろだ。

「このカツラは父と祖父の髪でできている。困窮した平民の髪で少々嵩増ししているがな」

バルドゥイーン様は侯爵家ではあり得ないピンクの髪で生まれ、健康には影響がないものの、外聞が悪いのでずっと家から出してもらえなかったらしい。それで、どこからかラナの話を聞きつけ、成長を気にかけていたという。

だからど田舎の子爵のことなのに詳しかったのか。

「この煎じ薬を毎日飲んでやっとここまで色が濃くなったのだ」
「え? 魔力を上げる薬があるんですか?」
「あることはある。飲んでみろ」
「「いただきます」」

ぼく達それぞれに出されたショットグラスに入った煎じ薬をひと口飲み、固まった。

「「~~~~~~~~~っ!!」」

苦い! めちゃくちゃ苦い!!

吐き出す訳にはいかないのでどうにか飲み込んだが、口の中が痺れている。キュアノス様が甘いお茶を用意してくれたのでそちらを飲み干し、お代わりを2回してようやく落ち着いた。

「これを、毎日……?」
「慣れるとそこまでではないんだよ」

あ、バルドゥイーン様の口調が砕けた。
それにしてもこれは……。

ぼく達は目で会話をし、頷き合ってカツラを外した。神様、幸運チートはちゃんと発動してるよね!?

「「これは……」」
「ぼくは双黒で、ラナリウス様に毎朝魔力を譲渡しています。それがぼく達の秘密です」
「毎朝か」
「はい」

キュアノス様はしばらく考え込んでから、この部屋に泊まるよう言ってきた。逆らえません。

明日はもう授業が始まるので、着替えと文房具を取りに戻り、寮長に侯爵寮に泊まることを伝えると、本気で同情された。


*******


「アーティ、起きて」
「んぁっ!? あ、おはようラナ。ぼく寝坊した?」
「まだ大丈夫だけど、バルドゥイーン様に魔力譲渡を見せないとだから、早めに起こしたんだよ。今日はよく眠れたんだね」
「うん。……よく寝た」

子爵寮よりさらに大きなベッドだけど、ラナと一緒だからか、ぐっすり眠れた。側仕えとしてはダメダメだけど、まぁいいか。


「確かにラナリウスの髪色がかなり薄くなっているな」
「通常ならば寝る前より濃くなるはずですね」

1日活動して魔力を使うと、髪色は薄くなり、睡眠で補充するので朝が1番濃い色になる。それから夜に向けて徐々に色が薄くなっていくのだ。魔力を使うことが少なければあまり変わらないけど。

ラナは自然回復力が弱いので、放っておくと生命維持ギリギリなのだ。

「それでは」

バルドゥイーン様達に分かりやすいよう、ぼくもカツラをつけてはいない。そしていつも通りに手を繋いで魔力を循環させた。

「おぉ! 光ったぞ」
「そして髪色がはっきりと変わりましたね」
「ここまでにしておかないとラナリウス様に負担がかかるのです」
「なるほど。アーテルには負担はないのか? 髪色は変わっていないようだが」
「負担はまったくありません。バルドゥイーン様も試してみますか?」

手を繋いでやり方を教えると、すぐに魔力が流れたはじめた。

「「おぉっ!!」」

またハモってる。

ラナと同じように光って、髪がだいぶ赤くなった。

「こんな事が……」
「わたしの……髪、なのか」
「あれ? アーティの髪、少し茶色になってる?」
「そう?」

言われてみれば多少明るくなってる、かなぁ? たいして変わってないよ。

「バルドゥイーン様、私の魔力も受け取ってください!」

キュアノス様が同じようにやったけど、上手くいかなかった。輸血みたいに同じ属性じゃないと馴染まないのかもよ?

……あれ? じゃあ、ぼくは???

カツラと同じくらいの濃さにしたい、と言われて追加の魔力を注入したけど、大丈夫かな?

「うむ。少々ふわふわするが、気分はわるくない」
「今日は授業の説明だけだから、試すにはちょうどいいでしょう」

と、言うことでぼくはカツラをかぶって、バルドゥイーン様は初めて自前の髪で外に出た。

ぼく達は徒歩なので使用人が使う裏道を使わせてもらい、バルドゥイーン様達は表から馬車。別々に登校です。一緒に行ったら目立っちゃうもんね。

徒歩の方が早く着いた。

「馬車は乗り降りに順番待ちがあるみたいだね」
「本当だ。伯爵以上が馬車かな?」
「そんな気がするねー」

ぼく達は馬車用の玄関を遠くに眺めながら校舎に入った。


*******


大きなテーブルに席2つ。
それが34人分で1クラス。
1学年1クラスだって。

そこにはずーっと前に1度会っただけなのに、未だに微妙な気持ちになる、会いたくない奴がいた。

ぼくの髪を汚いと言い、ラナを白髪と言ったアホ。なんだか波乱の予感に頭が痛くなった。

相変わらずの鮮やかな赤い髪。
でもこの歳で黒は汚いとは言わないだろう。……むしろ、黒髪をバラされる方が困る。気づくなよ~!!

アホな赤髪は青髪の神経質そうな男爵家の長男の側仕えになっていた。

本人の気性が荒い場合、暴走したときに抑えられるよう、対極の属性を側仕えにする事が多い。赤い髪は青い髪と、金髪は緑の髪と。本人の気が弱いと補うために同属性が側仕えになる。うちの場合は世間的には後者だ。本当はただの仲良しだけどね。

アホで傲慢なあいつの対極なら、青髪男爵息子は賢くてビビリなのかな? いや、アホの関係者だからっておかしな評価をつけようとするのは失礼でした。すみません。

今日は授業の取り方、必修授業、選択科目。それから休暇について、そして身分についての説明。

「ここは学校です。共に学ぶ学生として身分の上下にこだわり過ぎず、身分の高い学生は鷹揚に。身分の低い学生は失礼にならないように。お互い仲良く過ごしてください」

将来がかかってるから無礼講にはできないもんねー。このクラスは侯爵家の人が2人。側仕えはどちらも伯爵家。他に伯爵家の人は3人、側仕えは子爵家1人と騎士の息子2人。その他に子爵家はラナを入れて5人で、側仕えは世襲できない准男爵と士爵の息子達。世襲できる男爵家の人は7人。そのうち3人は准男爵の、2人は士爵の、2人は普通の平民が側仕えだって。

アホは准男爵の息子だったのか。


*******


『今夜も私の部屋に泊まりに来るように』

バルドゥイーン様から手紙が来たので、今夜も泊まりです。夕飯と、朝食も作っておかないと時間がないなぁ。

具だくさんの根菜スープを多めに作り、肉と魚を焼いてサラダを作った。スープの根菜は皮付きのさいの目切り。

「うーん、不揃い……」
「これで? ぼくが初めて切ったやつはもっと酷かったよ?」
「何歳の時?」
「2ヶ月前」
「ふはっ!!」

スープの具材を切ってくれたラナは、切り方に納得がいっていないらしい。煮込んじゃえば大差ないのにね。

料理を始めたのはほんの2ヶ月前で、今でも不揃いだ。均一に切らないと火の通りが変わってしまうらしいけど、煮物なら問題ない。だから焼き物や炒め物はまだ苦手。そのうち上手になるよねー。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

一夜限りで終わらない

ジャム
BL
ある会社員が会社の飲み会で酔っ払った帰りに行きずりでホテルに行ってしまった相手は温厚で優しい白熊獣人 でも、その正体は・・・

処理中です...