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5 お泊り
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ぼく達はなぜか、バルドゥイーン様のお部屋に来ています。
食事の後、話があると言われて連れてこられたのだ。侯爵寮はさすがの豪華さ!! 5LDKあるらしい。
さらに住み込みの料理人と部屋係もいる。
まさに別世界だった。
「単刀直入に聞こう。ラナリウス・ライヒレント、どうやってそこまで魔力を増やしたのだ?」
そこかぁ。
どうしよう? 正直に言ったらサクシュされちゃう?
「キュアノス、教えを乞うならこちらの手の内を曝すべきだろう。ラナリウス・ライヒレント、私の髪を見てくれ」
そう言って外したカツラの下からピンクの髪が出てきた。瞳も榛色だ。
「このカツラは父と祖父の髪でできている。困窮した平民の髪で少々嵩増ししているがな」
バルドゥイーン様は侯爵家ではあり得ないピンクの髪で生まれ、健康には影響がないものの、外聞が悪いのでずっと家から出してもらえなかったらしい。それで、どこからかラナの話を聞きつけ、成長を気にかけていたという。
だからど田舎の子爵のことなのに詳しかったのか。
「この煎じ薬を毎日飲んでやっとここまで色が濃くなったのだ」
「え? 魔力を上げる薬があるんですか?」
「あることはある。飲んでみろ」
「「いただきます」」
ぼく達それぞれに出されたショットグラスに入った煎じ薬をひと口飲み、固まった。
「「~~~~~~~~~っ!!」」
苦い! めちゃくちゃ苦い!!
吐き出す訳にはいかないのでどうにか飲み込んだが、口の中が痺れている。キュアノス様が甘いお茶を用意してくれたのでそちらを飲み干し、お代わりを2回してようやく落ち着いた。
「これを、毎日……?」
「慣れるとそこまでではないんだよ」
あ、バルドゥイーン様の口調が砕けた。
それにしてもこれは……。
ぼく達は目で会話をし、頷き合ってカツラを外した。神様、幸運チートはちゃんと発動してるよね!?
「「これは……」」
「ぼくは双黒で、ラナリウス様に毎朝魔力を譲渡しています。それがぼく達の秘密です」
「毎朝か」
「はい」
キュアノス様はしばらく考え込んでから、この部屋に泊まるよう言ってきた。逆らえません。
明日はもう授業が始まるので、着替えと文房具を取りに戻り、寮長に侯爵寮に泊まることを伝えると、本気で同情された。
*******
「アーティ、起きて」
「んぁっ!? あ、おはようラナ。ぼく寝坊した?」
「まだ大丈夫だけど、バルドゥイーン様に魔力譲渡を見せないとだから、早めに起こしたんだよ。今日はよく眠れたんだね」
「うん。……よく寝た」
子爵寮よりさらに大きなベッドだけど、ラナと一緒だからか、ぐっすり眠れた。側仕えとしてはダメダメだけど、まぁいいか。
「確かにラナリウスの髪色がかなり薄くなっているな」
「通常ならば寝る前より濃くなるはずですね」
1日活動して魔力を使うと、髪色は薄くなり、睡眠で補充するので朝が1番濃い色になる。それから夜に向けて徐々に色が薄くなっていくのだ。魔力を使うことが少なければあまり変わらないけど。
ラナは自然回復力が弱いので、放っておくと生命維持ギリギリなのだ。
「それでは」
バルドゥイーン様達に分かりやすいよう、ぼくもカツラをつけてはいない。そしていつも通りに手を繋いで魔力を循環させた。
「おぉ! 光ったぞ」
「そして髪色がはっきりと変わりましたね」
「ここまでにしておかないとラナリウス様に負担がかかるのです」
「なるほど。アーテルには負担はないのか? 髪色は変わっていないようだが」
「負担はまったくありません。バルドゥイーン様も試してみますか?」
手を繋いでやり方を教えると、すぐに魔力が流れたはじめた。
「「おぉっ!!」」
またハモってる。
ラナと同じように光って、髪がだいぶ赤くなった。
「こんな事が……」
「わたしの……髪、なのか」
「あれ? アーティの髪、少し茶色になってる?」
「そう?」
言われてみれば多少明るくなってる、かなぁ? たいして変わってないよ。
「バルドゥイーン様、私の魔力も受け取ってください!」
キュアノス様が同じようにやったけど、上手くいかなかった。輸血みたいに同じ属性じゃないと馴染まないのかもよ?
……あれ? じゃあ、ぼくは???
カツラと同じくらいの濃さにしたい、と言われて追加の魔力を注入したけど、大丈夫かな?
「うむ。少々ふわふわするが、気分はわるくない」
「今日は授業の説明だけだから、試すにはちょうどいいでしょう」
と、言うことでぼくはカツラをかぶって、バルドゥイーン様は初めて自前の髪で外に出た。
ぼく達は徒歩なので使用人が使う裏道を使わせてもらい、バルドゥイーン様達は表から馬車。別々に登校です。一緒に行ったら目立っちゃうもんね。
徒歩の方が早く着いた。
「馬車は乗り降りに順番待ちがあるみたいだね」
「本当だ。伯爵以上が馬車かな?」
「そんな気がするねー」
ぼく達は馬車用の玄関を遠くに眺めながら校舎に入った。
*******
大きなテーブルに席2つ。
それが34人分で1クラス。
1学年1クラスだって。
そこにはずーっと前に1度会っただけなのに、未だに微妙な気持ちになる、会いたくない奴がいた。
ぼくの髪を汚いと言い、ラナを白髪と言ったアホ。なんだか波乱の予感に頭が痛くなった。
相変わらずの鮮やかな赤い髪。
でもこの歳で黒は汚いとは言わないだろう。……むしろ、黒髪をバラされる方が困る。気づくなよ~!!
アホな赤髪は青髪の神経質そうな男爵家の長男の側仕えになっていた。
本人の気性が荒い場合、暴走したときに抑えられるよう、対極の属性を側仕えにする事が多い。赤い髪は青い髪と、金髪は緑の髪と。本人の気が弱いと補うために同属性が側仕えになる。うちの場合は世間的には後者だ。本当はただの仲良しだけどね。
アホで傲慢なあいつの対極なら、青髪男爵息子は賢くてビビリなのかな? いや、アホの関係者だからっておかしな評価をつけようとするのは失礼でした。すみません。
今日は授業の取り方、必修授業、選択科目。それから休暇について、そして身分についての説明。
「ここは学校です。共に学ぶ学生として身分の上下にこだわり過ぎず、身分の高い学生は鷹揚に。身分の低い学生は失礼にならないように。お互い仲良く過ごしてください」
将来がかかってるから無礼講にはできないもんねー。このクラスは侯爵家の人が2人。側仕えはどちらも伯爵家。他に伯爵家の人は3人、側仕えは子爵家1人と騎士の息子2人。その他に子爵家はラナを入れて5人で、側仕えは世襲できない准男爵と士爵の息子達。世襲できる男爵家の人は7人。そのうち3人は准男爵の、2人は士爵の、2人は普通の平民が側仕えだって。
アホは准男爵の息子だったのか。
*******
『今夜も私の部屋に泊まりに来るように』
バルドゥイーン様から手紙が来たので、今夜も泊まりです。夕飯と、朝食も作っておかないと時間がないなぁ。
具だくさんの根菜スープを多めに作り、肉と魚を焼いてサラダを作った。スープの根菜は皮付きの賽の目切り。
「うーん、不揃い……」
「これで? ぼくが初めて切ったやつはもっと酷かったよ?」
「何歳の時?」
「2ヶ月前」
「ふはっ!!」
スープの具材を切ってくれたラナは、切り方に納得がいっていないらしい。煮込んじゃえば大差ないのにね。
料理を始めたのはほんの2ヶ月前で、今でも不揃いだ。均一に切らないと火の通りが変わってしまうらしいけど、煮物なら問題ない。だから焼き物や炒め物はまだ苦手。そのうち上手になるよねー。
食事の後、話があると言われて連れてこられたのだ。侯爵寮はさすがの豪華さ!! 5LDKあるらしい。
さらに住み込みの料理人と部屋係もいる。
まさに別世界だった。
「単刀直入に聞こう。ラナリウス・ライヒレント、どうやってそこまで魔力を増やしたのだ?」
そこかぁ。
どうしよう? 正直に言ったらサクシュされちゃう?
「キュアノス、教えを乞うならこちらの手の内を曝すべきだろう。ラナリウス・ライヒレント、私の髪を見てくれ」
そう言って外したカツラの下からピンクの髪が出てきた。瞳も榛色だ。
「このカツラは父と祖父の髪でできている。困窮した平民の髪で少々嵩増ししているがな」
バルドゥイーン様は侯爵家ではあり得ないピンクの髪で生まれ、健康には影響がないものの、外聞が悪いのでずっと家から出してもらえなかったらしい。それで、どこからかラナの話を聞きつけ、成長を気にかけていたという。
だからど田舎の子爵のことなのに詳しかったのか。
「この煎じ薬を毎日飲んでやっとここまで色が濃くなったのだ」
「え? 魔力を上げる薬があるんですか?」
「あることはある。飲んでみろ」
「「いただきます」」
ぼく達それぞれに出されたショットグラスに入った煎じ薬をひと口飲み、固まった。
「「~~~~~~~~~っ!!」」
苦い! めちゃくちゃ苦い!!
吐き出す訳にはいかないのでどうにか飲み込んだが、口の中が痺れている。キュアノス様が甘いお茶を用意してくれたのでそちらを飲み干し、お代わりを2回してようやく落ち着いた。
「これを、毎日……?」
「慣れるとそこまでではないんだよ」
あ、バルドゥイーン様の口調が砕けた。
それにしてもこれは……。
ぼく達は目で会話をし、頷き合ってカツラを外した。神様、幸運チートはちゃんと発動してるよね!?
「「これは……」」
「ぼくは双黒で、ラナリウス様に毎朝魔力を譲渡しています。それがぼく達の秘密です」
「毎朝か」
「はい」
キュアノス様はしばらく考え込んでから、この部屋に泊まるよう言ってきた。逆らえません。
明日はもう授業が始まるので、着替えと文房具を取りに戻り、寮長に侯爵寮に泊まることを伝えると、本気で同情された。
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「アーティ、起きて」
「んぁっ!? あ、おはようラナ。ぼく寝坊した?」
「まだ大丈夫だけど、バルドゥイーン様に魔力譲渡を見せないとだから、早めに起こしたんだよ。今日はよく眠れたんだね」
「うん。……よく寝た」
子爵寮よりさらに大きなベッドだけど、ラナと一緒だからか、ぐっすり眠れた。側仕えとしてはダメダメだけど、まぁいいか。
「確かにラナリウスの髪色がかなり薄くなっているな」
「通常ならば寝る前より濃くなるはずですね」
1日活動して魔力を使うと、髪色は薄くなり、睡眠で補充するので朝が1番濃い色になる。それから夜に向けて徐々に色が薄くなっていくのだ。魔力を使うことが少なければあまり変わらないけど。
ラナは自然回復力が弱いので、放っておくと生命維持ギリギリなのだ。
「それでは」
バルドゥイーン様達に分かりやすいよう、ぼくもカツラをつけてはいない。そしていつも通りに手を繋いで魔力を循環させた。
「おぉ! 光ったぞ」
「そして髪色がはっきりと変わりましたね」
「ここまでにしておかないとラナリウス様に負担がかかるのです」
「なるほど。アーテルには負担はないのか? 髪色は変わっていないようだが」
「負担はまったくありません。バルドゥイーン様も試してみますか?」
手を繋いでやり方を教えると、すぐに魔力が流れたはじめた。
「「おぉっ!!」」
またハモってる。
ラナと同じように光って、髪がだいぶ赤くなった。
「こんな事が……」
「わたしの……髪、なのか」
「あれ? アーティの髪、少し茶色になってる?」
「そう?」
言われてみれば多少明るくなってる、かなぁ? たいして変わってないよ。
「バルドゥイーン様、私の魔力も受け取ってください!」
キュアノス様が同じようにやったけど、上手くいかなかった。輸血みたいに同じ属性じゃないと馴染まないのかもよ?
……あれ? じゃあ、ぼくは???
カツラと同じくらいの濃さにしたい、と言われて追加の魔力を注入したけど、大丈夫かな?
「うむ。少々ふわふわするが、気分はわるくない」
「今日は授業の説明だけだから、試すにはちょうどいいでしょう」
と、言うことでぼくはカツラをかぶって、バルドゥイーン様は初めて自前の髪で外に出た。
ぼく達は徒歩なので使用人が使う裏道を使わせてもらい、バルドゥイーン様達は表から馬車。別々に登校です。一緒に行ったら目立っちゃうもんね。
徒歩の方が早く着いた。
「馬車は乗り降りに順番待ちがあるみたいだね」
「本当だ。伯爵以上が馬車かな?」
「そんな気がするねー」
ぼく達は馬車用の玄関を遠くに眺めながら校舎に入った。
*******
大きなテーブルに席2つ。
それが34人分で1クラス。
1学年1クラスだって。
そこにはずーっと前に1度会っただけなのに、未だに微妙な気持ちになる、会いたくない奴がいた。
ぼくの髪を汚いと言い、ラナを白髪と言ったアホ。なんだか波乱の予感に頭が痛くなった。
相変わらずの鮮やかな赤い髪。
でもこの歳で黒は汚いとは言わないだろう。……むしろ、黒髪をバラされる方が困る。気づくなよ~!!
アホな赤髪は青髪の神経質そうな男爵家の長男の側仕えになっていた。
本人の気性が荒い場合、暴走したときに抑えられるよう、対極の属性を側仕えにする事が多い。赤い髪は青い髪と、金髪は緑の髪と。本人の気が弱いと補うために同属性が側仕えになる。うちの場合は世間的には後者だ。本当はただの仲良しだけどね。
アホで傲慢なあいつの対極なら、青髪男爵息子は賢くてビビリなのかな? いや、アホの関係者だからっておかしな評価をつけようとするのは失礼でした。すみません。
今日は授業の取り方、必修授業、選択科目。それから休暇について、そして身分についての説明。
「ここは学校です。共に学ぶ学生として身分の上下にこだわり過ぎず、身分の高い学生は鷹揚に。身分の低い学生は失礼にならないように。お互い仲良く過ごしてください」
将来がかかってるから無礼講にはできないもんねー。このクラスは侯爵家の人が2人。側仕えはどちらも伯爵家。他に伯爵家の人は3人、側仕えは子爵家1人と騎士の息子2人。その他に子爵家はラナを入れて5人で、側仕えは世襲できない准男爵と士爵の息子達。世襲できる男爵家の人は7人。そのうち3人は准男爵の、2人は士爵の、2人は普通の平民が側仕えだって。
アホは准男爵の息子だったのか。
*******
『今夜も私の部屋に泊まりに来るように』
バルドゥイーン様から手紙が来たので、今夜も泊まりです。夕飯と、朝食も作っておかないと時間がないなぁ。
具だくさんの根菜スープを多めに作り、肉と魚を焼いてサラダを作った。スープの根菜は皮付きの賽の目切り。
「うーん、不揃い……」
「これで? ぼくが初めて切ったやつはもっと酷かったよ?」
「何歳の時?」
「2ヶ月前」
「ふはっ!!」
スープの具材を切ってくれたラナは、切り方に納得がいっていないらしい。煮込んじゃえば大差ないのにね。
料理を始めたのはほんの2ヶ月前で、今でも不揃いだ。均一に切らないと火の通りが変わってしまうらしいけど、煮物なら問題ない。だから焼き物や炒め物はまだ苦手。そのうち上手になるよねー。
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