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第9話
しおりを挟む「ちょっとしたイタズラだろ?」
ガウルさんは悪びれもせずにそう言う。
人前でそう言う事をしないで欲しいんだってば。
「隊長、何に取り憑かれたんですか!?」
近くにいた隊員さんが驚愕の表情を浮かべている。
「普段はこんな事しないんですか?」
「堅物ではありませんが、人前で色恋を語るような人ではありません…でした。」
「ヨシキが初々しくて若返った気分なんだ。」
「同じ歳ですけど…」
「勘違いだろう。」
えーっと…
「嫌じゃなければそう言う事にしておいても良いんじゃないかな?」
ガリコさんが苦笑いしてる。
「…甘えちゃうよ?」
「いくらでも甘えろ!むしろ頑張って甘えろ!!」
頑張って甘えるって!!(笑)
「それじゃ、温泉入りたい。」
転移の場所。
敷地内なのに昨日も一昨日も入っていない。
「…元の世界に帰ったりしないか?」
「それは何とも言えないけど…でも、転ばなければ大丈夫じゃないかなぁ?(笑)」
「不安だ。」
「今まで戻った可能性のある何かはあったの?」
「判らん。物や魔獣ばかりだったからな。」
すぐそばにあるのに、ずっと入れないって…ヤダ。
「戻ってしまわないように、しっかり繋ぎ止めておいてね?」
今、抱きしめるのは違うと思う。
着替えを借りにセサルさんの部屋に行くと、ガウルさんもついて来た。
「隊長は私の部屋に用はないでしょう?」
「お前の部屋に用はない。ヨシキの側を離れたくないだけだ。」
「自分の着替えを取りに行った方が良いんじゃないですか?」
「それはヨシキを連れて行くつもりだ。」
「必要ありますか?」
「一緒に入るためだ。」
「邪魔です。」
「邪魔なのはお前だ。」
何で喧嘩っぽくなってるんだろう?
「早く温泉行きたいです。」
「ヨシキ…なんで俺は敬語で隊長には敬語じゃないんだ?」
「部下じゃないから敬語は要らないと言われたので…」
「俺も!俺も敬語はいやだ!!」
「わかった。じゃあ普通にするね?」
「そう!それ!!」
機嫌が直った、のかな?
着替えとタオルとお風呂セットを持って隊長室へ行く。ガウルさんも素早く用意して温泉へ行った。
タイミングが良かったのか、誰もいない。まるで銭湯の様に壁に固定されたシャワーがあり、カランもある。でも出て来るのは温泉。
石鹸は泡立つのだろうか?
キョロキョロしていたらガウルさんに抱き上げられた。
「転ばないようにな。」
構われるのは嬉しいけど、これは少し微妙。
「ヨシキ、洗ってあげます。」
予想外に泡立つ石鹸。
少しキシキシして、猫っ毛の僕は毛根が心配になるけど、口に出すのが恐ろしいので気にしないようにする。ちなみにずっとガウルさんの膝の上。腰にはタオル。
髪を洗い終わったら身体はガウルさんが洗うと主張する。自分で洗えると言ったけど却下された。そして今度はセサルさんが抱っこすると言うけど、洗いにくいと思うんだ。だから普通にイスに座って洗ってもらった。
おれを先に洗ったから2人より先に湯船に浸かる事になる。
白く濁ったお湯に足を伸ばすと…
ぽよん
?
ぷよん
???
思いも寄らぬ感触に、恐る恐る手を伸ばす。
みよんみよんみよん
うーん…温泉に拒否されているのだろうか?
ぷるんぷるんの感触はなめらかでもっちりして暖かい。
こっちの温泉はこれが普通なのかな?
「あのぅ…こちらの温泉はお湯に浸かるのではなく、乗る物なのですか?」
「は?」
「え?」
体を洗っている途中の2人が振り返る。おれは暖かいぷよぷよの上に乗っている。
湯船の中程だ。
「なんだそれは!!」
あ、普通じゃないんだ。石鹸を流して慌てて駆け寄る2人。
触ったりにおいを嗅いだりして話し合った結果、ふやけたスライムだろう、と結論が出た。
生き物を酸で溶かす怖い奴?それともエロエロパニックのアレ?ゲームの大人気シリーズの奴には見えないよ?
ガウルさんが言うには魔獣の影響を受けている様子もないので、普通の森の掃除屋さんだろうって。
地面を這って落ち葉を食べて分解して森を豊かにしてくれる。
このスライムはその種類。他にキノコを好んで食べる種類は毒を持っているし、屍肉を食べる種類は臭い。エロいスライムは居ないようで安心した。
でも温泉に浸かれない…
温かなジェルマットに寝転んでいるに等しく、とても気持が良いんだけど…温泉への期待が裏切られたのが残念だ。
ぼよん
ぼよん
ガウルさんとセサルさんがそれぞれ乗って来ると、ぷよんぷよん揺れて遊園地の空気を入れたトランポリンみたいな奴と同じように沈んだ方へ転がる。リズミカルに揺れるスライムの上で裸で翻弄された。
ちょっと楽しくなった。
でも温泉の楽しみ方じゃない。絶対に!!
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