友達アプリ

せいら

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守りたい女と姉弟の絆

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「……別に僕はアプリのこと調べてないよ。」

そう、突き放したけど……



「いいじゃん。たっつーよろしくな!」

と、タイミングよく現れた佐介にやられた。



でも、若菜ちゃんのことは確かに後悔したし、出来るならもうあんな場面は見たくない。





ーーーーーーーーーーーーー


「何ですか、長官。」

「日影、一回戻ってくれ。」



ーーーーー日影相太side


長官からの電話を受けて、僕は警察庁に向かう。

浅部さんの怪我の報告をするらしい。



ご家族と、彼女さんに。


「浅部さんは、鈍器で殴られて現在植物状態です。幸い、そばにいた高校生が応急処置をしたので、最悪の状態は避けられました。」

「犯人は……」

「まだ断言できる段階ではありません。しっかりとお話しできる状態になるまで、もうしばらくお待ちください。」


眈々と説明をして、僕は席を立つ。

そのすぐ後で、誰かが追いかけて来た。


「待ってください!」

「あなたは?」

「彼女です。磯貝伽奈っていいます。お願いします!私も犯人探しに加えてください……」



懇願する彼女にやんわりと断りを入れる。
だめだ、危険すぎる。


関わったら、死ぬ。




「日影、ちょっと。」

「何ですか?」

「犯人は誰だ?分かってるんだろ?」

「……信じてもらえないと思いますが。僕は、霊的なものだと思ってます。」


長官は、うーんと唸っている。

それはそうだ。僕だって霊的なものだなんて信じたくない。



でも、もしこれが全て人為的なものならタチが悪い。

それはたぶん、こんなことができる人に僕は1人しか心当たりがないから。



「もう少しだけ、捜査させてください。」

「分かった、無茶はするなよ。」




僕は、浅部さんみたいに体は張れない。

でも、僕なりの戦い方があるはずなんだ。


ーーーーー中根大輔side


「席につけよー。ほらー、原谷クラス戻れ!」

「やべー、放課後待っててね!絶対待っててね!」



テンション高いな、あいつ。
僕の最も苦手とするタイプだ。


「実は、今大変なことになってる。木ノ下真夕と戸部若菜が昨日亡くなった。一組は飛美を除いて全員病院送り。それで、しばらくの間、学校を休みにすることにした。」



普段なら、イエーイとなるみんなも今回ばかりは顔が真っ青だ。

原因が友達アプリだと全員知ってるから。

いざ帰るときになって、辰美は走って来た。

暑苦しい男だ。



「若菜のこと、教えてくれ。頼むから。」


しつこくつけ回る辰美を無視するけど、どこまでもついてくる。

若菜ちゃんのことすごく好きだったんだな。



結局、僕の家に全員集合した。

ここで、さらなる悲劇を生むなんて知らずに……


僕の狭い部屋の中に、辰美と佐介と僕。

友達なんていなかったから、母さんは大喜びだったけど。



ヴーヴーヴー……

事件が起きたのは、部屋で若菜ちゃんの話をし始めてすぐの頃だった。



「なんだよ、これ。なあ、これ本当なのか?」


「え………」



“友達アプリ運営です。あなたの彼女、若菜さんを殺したのは中園飛美さんです。飛美さんを友達から外しますか?”


添付画像は、まさしく飛美ちゃんが若菜ちゃんを殺してるところだった……


なんでこんなこと……


「これなんだよ!!!若菜殺したのは飛美なのか!?なあ!」


飛美ちゃんじゃない、とは言えない。
日影さんは催眠状態だったって言ってたけど、それでも飛美ちゃんが手をかけたことに偽りはないから……


「なあ……これYesにしたらあいつ死ぬの?」


下を向きながら、力無く辰美が答える。


「それは………」
「たぶん死ぬよ、たぶん。」


そう答えたのは、佐介だ。


「復讐してやる……」

辰美はそう言って、スマホをいじる。

「おい、やめろって。飛美が悪いんじゃないんだって。このアプリがーーー」

「離せよ!彼女殺されたんだぞ!?黙ってられるかよ。」


僕が苦手だと感じていた辰美は、実はものすごく彼女思いだった。

若菜ちゃんは優しい女の子で、タイプは真逆だったと思う。



なんでこんなおちゃらけた奴と……って思ったけど、
何となくその理由が分かった気がする。



僕もこんなふうに恋愛してみたい。

「復讐してやるんだ……絶対に。」


「お姉さん、アプリの開発なんだろ?復讐する前にこのアプリのこと聞いてみようぜ。」



「……後でな。」


ポチッッ




「やったああああ!復讐成功だあああ!」


「ふざけんな



ドカッ


ぐはっ。」


殴りかかった佐介をひらりと交わして、辰美は蹴り飛ばす。

「俺、空手やっててさ。」




もう押されてしまった復讐劇は、僕らには止めようがない。

ただ、じっと飛美ちゃんが死ぬのを待つだけだ……


佐介は、飛美ちゃんに電話をかける。

「もしもし?今どこにいる?……分かった。すぐ行く!」

電話を切って、佐介は僕の部屋を飛び出した。






カチカチ、カチカチ……

時計の音が部屋に響く中で、辰美は口を開く。

「姉ちゃんに聞いたことあったんだ。このアプリのこと……」

「それで?」



「これ、けっこう前からあったんだって……でも、最近がらっと変わったらしいんだ。」


辰美は心ここにあらずという顔をしながら続けた。

「実はさ、姉ちゃんの会社の人が開発したんだって……その人は



ボキッバキッ  ボキッボキッ


うわああああああああああ!」

辰美は自分の腕を自分で折った。

次に、足の骨も折っている。



「ななな何してんだよ!おお前おかしいぞ!」

奇妙な光景に僕の足はガクガク震える。
でも、止めなきゃと思い必死に腕を捕まえようとしたが、ものすごい力で突き飛ばされた。



「うわああああああ!」

そう悲鳴が聞こえてすぐに、苦しみから逃げるように窓を開ける。



そこから落ちたら………





僕は、タンスの角に頭をぶつけてそこで意識を失った……


ーーーーー原谷辰美side



高層マンションの7階から落ちた俺は、悲しいことに即死ではなかった。


朦朧とする意識の中で、俺はあの日のことが頭を過った。



「姉ちゃん姉ちゃん、俺彼女できたんだ。」


若菜と出会って恋をして、

仲良くなって付き合った……



それを大好きな姉ちゃんに報告した。


「おお、良かったじゃんタツ。彼女大事にしなさいよ。」


若菜のことは、大事にしてきたつもりだった。


俺がもっとしっかりしてれば……


俺が若菜の悩みに気付いていれば……




本当は全部分かっていた。

あのメールがくる前から、何となく飛美だと思っていた。



だから、若菜を救えなかったのは俺だから……


俺は自分に罰を加えた。


あのメール、NOにすれば自分に罰が下ることは分かってた。
姉ちゃんが教えてくれたから。


佐介は思惑通りに飛美のところに行ったのに、

あいつは行かなかった。

せっかく悲惨な死に方は見せないようにしてたのに……




悪いことしたなあ。

もう、若菜のところには行けないかな……






あいつらが若菜のこと守ろうとしてくれたって聞いたから、
アプリのこと話そうとしたけど……


もう………


最後に姉ちゃんにメールを………


 ピッ

【送信完了しました。】



姉ちゃん、しっかり生きろよ。



若菜………守ってやれなくて本当にごめん。



ーーーーー中根大輔side

僕が目を覚ましたとき、そこは病院だった。
そばにはすやすや眠る母さんと、知らない女の人だ。



「……誰?」

「私、タツの姉なの。」



タツ……そうだ、辰美は!?


「辰美もここに?」


お姉さんは黙って首を横に振る。



「嘘でしょ?何で……」


出会ったばかりだったけど、自分でもびっくりするくらいに涙が溢れた。


僕、こんなに泣けるんだ……


「これから話すこと、しっかり聞いてね。実はタツが電話をくれたの……」


ーーーーーーーーーーーーー


「姉ちゃん!若菜が死んだんだ。俺の彼女……姉ちゃん、どうしよう。」

「若菜ちゃんが!?タツ、それまさかあのアプリのせいってことはないよね?」



私が電話を受け取ったら、タツがものすごく焦った声で助けを求めてきた。

アプリ開発の会社にいた私は、噂で危ないアプリがあると聞いていた。



配信停止にしようとした当時の部長も死んだし、うちの会社の社長は体調不良で長期入院中。


色んなアプリを開発してきたけど、こんなの初めてだ。


「たぶん、アプリのせい。姉ちゃん、調べて欲しいんだ、あのアプリのこと。俺、たぶん死ぬと思うけど。強くねぇし。俺がもし死んだらさ、中根大輔って男にそのこと教えてやって。」


あのアプリに関するデータを散々調べていたところに、

タツからメールが来た。



“世話になったな、姉ちゃん。それから、言い忘れてたけど誕生日おめでとう!


090×××× ××××
これ、大輔の番号!



ありが”




最後まで打てなかったんだろう。

でも、送信ボタンはしっかりと押したんだね。




タツとは、親が離婚してからメールや電話でしか話せなくなったけど

ずっと仲良かった……



タツの仇は、私が絶対に取る。

ーーーーーーーーーーーーーー


「それでね、あなたに電話したら救急隊員が出て、ここに来たの。辰美の友達?」

「友達……なのかな。今日初めて話したけど。」

「やっぱり。タツあんまり友達いなかったの……。あなたもでしょ?」


と、僕を指差した。

そりゃあ確かに友達いないけど……


「あの子ね、友達がいっぱいいる子は嫌いなんだって。……なんて、こんな話してる場合じゃないよね。実はこのアプリには……」




お姉さんが話そうとした瞬間に、

僕の病室の扉が開いた。






「日影さん!!何でここに……」


「磯貝伽奈さん、もうこれ以上この件に関わらない方がいい。」

え……?

磯貝??あー、でも親が離婚したって……



別々に引き取られたのか。

でも、日影さんと知り合いなんだ……



「あなたは……。私は、浅部くんの仇と弟の仇を絶対に取るって決めたんです。」


「僕が、必ずこのアプリを解明しますから。」


1人だけついていけないこの状況に、日影さんが説明してくれた。

お姉さん、磯貝伽奈さんはボディーガードだった浅部さんの彼女で



原谷辰美の姉。



「これ……開発ノートです。見てください。」

カバンから一冊のノートを取り出すお姉さん。



「友達アプリ……これは友達を作るアプリです。たくさん友達を作りましょう…………」


そのノートには、開発途中らしきアプリの情報が書かれていた。



「ここ、見てください。アプリの内容が今とぜんぜ…………


ドクドクドクドクドク

ドクドクドクドクドク




いやあああああああああ!!!!!!!!」


「磯貝さん!しっかりして!仇取るんでしょ!?」

日影さんは、彼女の両腕に手錠を掛ける。



胸を苦しそうに抑えていたけど、何があったのかさっぱり分からない。


「やばい、不整脈だ。」


日影さんは慌ててナースコールを鳴らす。

一体どうしたんだ……

何で急に……







ーーーーーーーーーーーー

「誰にも邪魔はさせない。誰にもね。みんな一人ぼっちになったらいいんだ!!!」



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