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それはキャンプとして成立していない
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学園への許可は四日間(三泊四日)で申請があったはずだから、そこまで遠くには出ないだろうとは思っていた。そう信じたかった。
初日のペース(狩っては焼肉)を見ても、そうなるだろうと思っていた。
事態が大きく動いたのは二日目の昼。
「あの大烏は昨日見た個体と同じ様です。餌にありつけると思って付いてきているのかもしれませんね。大烏に限った話ではないけれど、鳥類には知能が高い種類がいると研究がされています。まだ世界には知らない事が沢山あるので外に出るとワクワクします。また狩りが一段落する頃に降りてくるのでしょうか…もっと近くで見たいものです。騎士科の学生がいるのですから、どこまで近づけるか試してもいいですよね」
空を舞う鳥を指差しながら嬉々として語っているのは学園高等部所属、魔物学のアルバ教授だ。ウィー君との邂逅の立会人の一人でもある。隊長が「ファルム君連れて狩りに出るよ」と声を掛けたら「それは同行しない理由がありませんね」と講義をぶっちぎってついてきた。魔物観察のチャンスだからって同行しない理由付けを諦めんなよ。
魔物学を受講している学生にとっては迷惑な話だろうが、観察のために度々一行を足止めするのである意味役に立っていると言えなくもない。
「逃げたら諦めろよ」
「私も飛びたい」
好奇心がアルバ教授を殺すのを目の当たりにしたくないのでお控え下さい。
「見てくださいヤツメウサギです!全ての目が開ききっていない…幼体ですよこれは近くに群れがいるに違いありません!」
「うさぎは食いがいがないんだよなぁ」
「食肉として見るでない」
「ウィー君みたいにもふもふだといいね、ファルムもそう思うでしょ?」
生き物一つ見つけてこの反応。これ、俺の手に余りまくるやつ…
「我は兎に角早急なる帰還を要求する。子奴等を相手にするのは疲れる…」
俺もそう思います。
昼休憩(焼肉)の終わり頃、兄上が鞄に何かをしまいこんでいるのを見かけた。これは問い詰めろと俺の直感が囁いている。
「兄上、何を鞄に入れましたか?」
「……ぅえっ?ファッファ、ファルム?何でも、ないよ今この瞬間も愛おしいね」
めちゃくちゃ動揺した。これは絶対何かあるやつだ。
「鞄を見せて下さい。……これ、新型の大容量魔法鞄じゃないですか、いつ手に入れたんです?」
「必要だから買ったんだ!ちゃんと母上の許可も取ったし、父上とも交渉済だよ年単位の小遣い貯金飛んだけど」
最後の方声が小さくなったな。
魔法鞄は色々種類があるけど、容量を増やすやつは製造が難しいのか数が少なく高価だ。
兄上が持っているのはアーデルハイド殿下の立太子記念で発売された「大容量・軽量・防汚破損」のフルスペックに使用者登録の保証まで付いた超高級品。前世だと一千万は超えそう(多分)。
貴族の大人でもホイホイ買えないレベルの品を買おうと思ったのもアレだけど、よく許可出したな両親…。
俺が新型魔法鞄を知っている訳は、アーデルハイド殿下が「献上品だよー」と見せてくれたからだ。その際「いいですねこれ」「側近になるならあげるよ」「物で勧誘するのはよろしくないと思います(お断りします)」というやり取りがあったことは詳しく言うまでもない。
余談だが一番安いのは表面がツヤツヤ加工されているやつ。耐久力は幌布バッグくらいで、新品より少し使い込んだ「ツヤくた」レベルのものが人気だ。あとは謎のキラキラエフェクトが付いたやつが貴族女児の今のトレンドだと聞いた。余韻が残るやつが人気らしいが俺にはよくわからない。
「で、何を入れたんですか?」
鞄のハイスペックさは知っている。問題は中身だ。俺から突っ込まれて動揺するということは、それなりの物だろう。
「何も!ほらファルム珍しい植物だよ?これも入れておくね!帰ったら一緒に調べようね!」
誤魔化し方が雑すぎる。
「俺がまとめてた串、何処にやりました?」
騎士科が焼肉で盛り上がっている片隅で大人しく串焼き(塩)をしていた俺が「後からまとめて焼こう」と空いたカップに入れて置いた使用済の串がカップごと消えている。そんなもの触るのは、使っていた俺以外に一人しかいない。
「違…あれは串じゃない!聖遺物だ!」
「ゴミ以外の何物でもないですが」
即焼却すべきであった。
「不在の間に減っていたファルムコレクションを補充するんだ」
「ゴミは捨てろ」
捨てたはずのものが実家で額装されているのを見た時の俺の気持ちが解るか?ドン引きだぞ?そんなの捨てるに決まってる。
「その鞄もひっくり返したいけど、兄上以外使用できない仕様である事が悔やまれます」
多分串以外の何かも入っているんだろうけど、現行犯じゃないと無理そうだから串だけは没収からの焼却へシュート!
どうやって見分けているのか、俺が使ったであろう物だけ器用に選り分けてあった。その才能を活かせる所はここじゃないはず。
「やめて!僕の宝物!」
ゴミは捨てろ(二回目)
嫌な予感程当たりまくる訳である。
兄上の奇行を止めたかと思ったら次がやってくる訳で。
「ファルム君!ヤツメウサギ捕まえてもらいましたよ!」
アルバ教授がいつの間にか学生にヤツメウサギを捕まえてもらっていた。誘拐では?
「ホーンラビットはアーデルハイド殿下に連れて行かれてしまいましたが、この子は大丈夫でしょう。浄化して下さい!」
飼う気ですか?
「ホーンラビットは角が落ちましたが、ヤツメウサギはどうなるのでしょうか。目はきっと一対になるはずですから、額の小さな三対が無くなるのでしょうね。ヤツメウサギの額の目は感覚器官で視力は無いと言われていますが、浄化で研究が進むはずです素晴らしいことですよ!」
はしゃぐアルバ教授の手の中で嫌そうにヤツメウサギがもがく。だが、耳と尻をがっちり押さえられているため逃げられない。逃げてもきっとまた周りにいるガタイのいい学生に捕まるよね可哀想。
「浄化の過程も観察に入れるなら、俺がやるよりアルバ教授が浄化するのがいいかもしれませんよ」
「……できるものなんですか?」
浄化実験できてたから大丈夫でしょ?
「訓練次第だとは思いますけどね」
折角だから俺もヤツメウサギもふらせて貰おうかな、と動いた時だった。
「あっ、そこ…」
「えっ?」
何かに気づいたゴルラフ隊長の声と俺の出した足が地を踏みしめるのが同時。
「はあああああぁ?」
謎の力に吹っ飛ばされた俺は、綺麗な弧を描くように(イメージ)空を舞った。それはもう、見事な快晴だった。
初日のペース(狩っては焼肉)を見ても、そうなるだろうと思っていた。
事態が大きく動いたのは二日目の昼。
「あの大烏は昨日見た個体と同じ様です。餌にありつけると思って付いてきているのかもしれませんね。大烏に限った話ではないけれど、鳥類には知能が高い種類がいると研究がされています。まだ世界には知らない事が沢山あるので外に出るとワクワクします。また狩りが一段落する頃に降りてくるのでしょうか…もっと近くで見たいものです。騎士科の学生がいるのですから、どこまで近づけるか試してもいいですよね」
空を舞う鳥を指差しながら嬉々として語っているのは学園高等部所属、魔物学のアルバ教授だ。ウィー君との邂逅の立会人の一人でもある。隊長が「ファルム君連れて狩りに出るよ」と声を掛けたら「それは同行しない理由がありませんね」と講義をぶっちぎってついてきた。魔物観察のチャンスだからって同行しない理由付けを諦めんなよ。
魔物学を受講している学生にとっては迷惑な話だろうが、観察のために度々一行を足止めするのである意味役に立っていると言えなくもない。
「逃げたら諦めろよ」
「私も飛びたい」
好奇心がアルバ教授を殺すのを目の当たりにしたくないのでお控え下さい。
「見てくださいヤツメウサギです!全ての目が開ききっていない…幼体ですよこれは近くに群れがいるに違いありません!」
「うさぎは食いがいがないんだよなぁ」
「食肉として見るでない」
「ウィー君みたいにもふもふだといいね、ファルムもそう思うでしょ?」
生き物一つ見つけてこの反応。これ、俺の手に余りまくるやつ…
「我は兎に角早急なる帰還を要求する。子奴等を相手にするのは疲れる…」
俺もそう思います。
昼休憩(焼肉)の終わり頃、兄上が鞄に何かをしまいこんでいるのを見かけた。これは問い詰めろと俺の直感が囁いている。
「兄上、何を鞄に入れましたか?」
「……ぅえっ?ファッファ、ファルム?何でも、ないよ今この瞬間も愛おしいね」
めちゃくちゃ動揺した。これは絶対何かあるやつだ。
「鞄を見せて下さい。……これ、新型の大容量魔法鞄じゃないですか、いつ手に入れたんです?」
「必要だから買ったんだ!ちゃんと母上の許可も取ったし、父上とも交渉済だよ年単位の小遣い貯金飛んだけど」
最後の方声が小さくなったな。
魔法鞄は色々種類があるけど、容量を増やすやつは製造が難しいのか数が少なく高価だ。
兄上が持っているのはアーデルハイド殿下の立太子記念で発売された「大容量・軽量・防汚破損」のフルスペックに使用者登録の保証まで付いた超高級品。前世だと一千万は超えそう(多分)。
貴族の大人でもホイホイ買えないレベルの品を買おうと思ったのもアレだけど、よく許可出したな両親…。
俺が新型魔法鞄を知っている訳は、アーデルハイド殿下が「献上品だよー」と見せてくれたからだ。その際「いいですねこれ」「側近になるならあげるよ」「物で勧誘するのはよろしくないと思います(お断りします)」というやり取りがあったことは詳しく言うまでもない。
余談だが一番安いのは表面がツヤツヤ加工されているやつ。耐久力は幌布バッグくらいで、新品より少し使い込んだ「ツヤくた」レベルのものが人気だ。あとは謎のキラキラエフェクトが付いたやつが貴族女児の今のトレンドだと聞いた。余韻が残るやつが人気らしいが俺にはよくわからない。
「で、何を入れたんですか?」
鞄のハイスペックさは知っている。問題は中身だ。俺から突っ込まれて動揺するということは、それなりの物だろう。
「何も!ほらファルム珍しい植物だよ?これも入れておくね!帰ったら一緒に調べようね!」
誤魔化し方が雑すぎる。
「俺がまとめてた串、何処にやりました?」
騎士科が焼肉で盛り上がっている片隅で大人しく串焼き(塩)をしていた俺が「後からまとめて焼こう」と空いたカップに入れて置いた使用済の串がカップごと消えている。そんなもの触るのは、使っていた俺以外に一人しかいない。
「違…あれは串じゃない!聖遺物だ!」
「ゴミ以外の何物でもないですが」
即焼却すべきであった。
「不在の間に減っていたファルムコレクションを補充するんだ」
「ゴミは捨てろ」
捨てたはずのものが実家で額装されているのを見た時の俺の気持ちが解るか?ドン引きだぞ?そんなの捨てるに決まってる。
「その鞄もひっくり返したいけど、兄上以外使用できない仕様である事が悔やまれます」
多分串以外の何かも入っているんだろうけど、現行犯じゃないと無理そうだから串だけは没収からの焼却へシュート!
どうやって見分けているのか、俺が使ったであろう物だけ器用に選り分けてあった。その才能を活かせる所はここじゃないはず。
「やめて!僕の宝物!」
ゴミは捨てろ(二回目)
嫌な予感程当たりまくる訳である。
兄上の奇行を止めたかと思ったら次がやってくる訳で。
「ファルム君!ヤツメウサギ捕まえてもらいましたよ!」
アルバ教授がいつの間にか学生にヤツメウサギを捕まえてもらっていた。誘拐では?
「ホーンラビットはアーデルハイド殿下に連れて行かれてしまいましたが、この子は大丈夫でしょう。浄化して下さい!」
飼う気ですか?
「ホーンラビットは角が落ちましたが、ヤツメウサギはどうなるのでしょうか。目はきっと一対になるはずですから、額の小さな三対が無くなるのでしょうね。ヤツメウサギの額の目は感覚器官で視力は無いと言われていますが、浄化で研究が進むはずです素晴らしいことですよ!」
はしゃぐアルバ教授の手の中で嫌そうにヤツメウサギがもがく。だが、耳と尻をがっちり押さえられているため逃げられない。逃げてもきっとまた周りにいるガタイのいい学生に捕まるよね可哀想。
「浄化の過程も観察に入れるなら、俺がやるよりアルバ教授が浄化するのがいいかもしれませんよ」
「……できるものなんですか?」
浄化実験できてたから大丈夫でしょ?
「訓練次第だとは思いますけどね」
折角だから俺もヤツメウサギもふらせて貰おうかな、と動いた時だった。
「あっ、そこ…」
「えっ?」
何かに気づいたゴルラフ隊長の声と俺の出した足が地を踏みしめるのが同時。
「はあああああぁ?」
謎の力に吹っ飛ばされた俺は、綺麗な弧を描くように(イメージ)空を舞った。それはもう、見事な快晴だった。
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