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それはキャンプとして成立していない
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あ、ヤバい。俺の命はここまでかもしれない…
崩れた天井が白い雪の小山になった。
何の重みで崩落したんだろうかと考えながら白い小山を見つめる俺。上からまた音が聞こえる。
…言葉……?スキル使うべきか?
チートスキル《超翻訳》を起動させるか迷って小山から目を離した時だった。
「!!?」
突然何かが伸びてきて俺を掴み、雪の中に引きずり込んだ。ヤバい!終わった!!
「⊃d₥ ζγn;<!!」
引きずり込んだモノとガッツリ目が合う。おっと、真っ白スカイブルーアイズなイケメンじゃないか。雪と同じ色してたから気づくのが遅れた。あと、何か言ったみたいだけど判らない。やっぱりスキルONにしよう。
スキル《超翻訳》はいつの間にか俺のスキルボードに追加されていたやつだ。人族だけじゃなく、鳥や爬虫類の言葉(この辺は「こんな事を言っている」というニュアンス的なものになる)も判るようになるし、古代文字も普通に読める(訳文は俺の修学レベルに合わせてくるので、判らない単語が当然の様に出てくる)。
俺が話す言葉も相手に普通に伝わるので、異文化交流の楽しみがゼロどころかマイナスに針が振り切るくらいのスキルだ。
俺的にはこれもうチートの域に入ると思うんだけど、相談する相手もいないからどのくらいおかしいのかの判別が出来ていない。
欠点としては、あらゆる音を言葉として拾うこと。無機物の音も翻訳してくるので、発動中はとにかくうるさい。入ってくる情報が多すぎてキャパが大きい訳でもない俺の脳がパンクしそうになったため、基本的にOFFにしている。
訓練すれば調整できるようになるんだろうけど、心の準備ができなくて放置しているものの一つだ。
この状況では多少ダメージがきたとしてもスキルを使用せざるを得ない。この人族(仮)がどんな相手なのか知らなければ生き延びられないからね。敵なら詰みだけど、「こんにちは!死ね!」されてない時点で友好的な関係を築けそうな予感はする。
さて、このイケメンは何を言っているのだろうか…
「こんな小さい子どもがどうしてこんな所にいるんだ?親はどうした。はぐれたのか?どこの子だ」
……めっちゃ子ども扱いしてきてた。むしろ幼児の扱いでは?
いやそんなことより大自然の声が多すぎてやばい。あらゆる音が意思あるものになって入ってくる。あと、雪の小山喧嘩するな。『上のやつ重いから早くどけよ』『パウダースノーは羽のように軽いから重さなんてないんですぅー』『積もったらなんでも重いんだよ自壊しろ空に帰れ』『みんなみんな生きているんだ友達なんだよ』とか近いからか声も大きくてガチャガチャしてる。俺はイケメンの声が聞きたいだけなんだ。
…やっばり情報過多が過ぎる。これは俺からのアクションを諦めて、聞きたい時だけONにするやり方にしよう。あらゆる音が一気に流れ込んできて頭痛がする。よし、OFFだ。
目前のイケメンに敵意がないことが判っただけでも収穫としよう。ボディランゲージで意思の疎通ができますように。
俺が眉間を押さえたのが気になったのだろう。イケメンがとても心配そうに話しかけてくる。
これは多分「雪の中に長い時間居たせいで頭痛がするんだろう?もう大丈夫だからな」かな?頭痛は大自然の声のせいです(だいたい雪のせい)
多少お子様扱いされてもいいから人里に行きたい現状。安全な場所に連れて行ってくれるなら、受け入れようじゃないか。
そんな事を考えていたら、イケメンが俺を片腕抱っこして小部屋から外へ脱出していた。白く儚げな見た目なのに屈強でびっくりしたよ、雪山のイケメンって凄いな。
「この雪の中で一際目立つ黒。君はメロディアス弟だね」
「弟」
イケメンに抱えられた状態で雪空の下に出た俺に、どこかで聞いた事のある声が聞こえてきた。
最近聞いていなかった弟呼びに思わず反応してしまったが、言葉が通じる…いや、俺の事を知っている人がいるのか。
「あっ…課題はできてるんですが、こんな状態ですのて帰ってから提出します」
見た瞬間に王国学の課題を思い出した。テーマは「二代前の王国王の施策で最も印象に残ったもの」だ。俺は迷わず「下水道の整備」を挙げた。清潔な環境は大事だからね。
こんな事態になるとは思ってなかったけど、出発前に終わらせておいてよかった。
「うん。それは帰ってからでいいよ。君なら多少遅れても許されるはずだから」
「……………ゴン氏…?」
何か違和感があると思ったら、王国学のイスラー・エフィ教授じゃなくて民俗学のハーゴン・エフィ教授の方か。兄弟とは聞いていたけど、ここまで似ているなんて聞いてない。双子だったのか。
「その呼び方はメイナース君だな。僕の名前は短いんだからちゃんと言ってくれたらいいのに」
「メイナース先生曰く「通じるなら良かろう」だそうです」
俺のこともたまに「黒い童」って言ってるし、ヤンチャそうな学生がメイナース先生の事を「メイ先」呼びしていても気にならないみたいだから、本当にわかればいいのだろう。
「メイナース君が判っても第三者に通じないのは困るんだよなぁ」
そうですね。俺もそう思います。
ハーゴン教授が俺を抱えているイケメンと言葉を交わした後、どこから出てきたのか三人の美男美女が合流して彼らの集落に向かう事となった。
ハーゴン教授がここにいるのは学会に出席した帰りに露店で見つけた少数民族の工芸品に心を揺さぶられたからだそうだ。
この辺りだろうとざっくりとした地図をかたてに雪山を歩き、無事彼らとの交流に成功したのだという。行動力の塊か。
「行こうと決めた時には連絡を下さい」
学園で行方不明説が流れているのはご存知ですか?
「落ち着いたらしようと思って今に至る」
思っているだけでしたね。
ハーゴン教授のおかげでスキルを使わずに初遭遇の種族(このイケメン達は多分人間じゃない)と意思の疎通ができるようになった。これは幸運と言って…いや、ゴルラフ隊長に「キャンプ行こうぜ!」と声を掛けられた時点で不運だったな。
そんな事を考えていたら、また眠り込んでしまったようだ。イケメンの腕の中で。
疲れた体に安定感抜群で、心地よい音(彼らの会話だろうが、意味がわからないので音でしかない)のサービスがついてしまったら寝るでしょ?
「暖かい部屋でリッツパーティーしたい」
眠りに落ちる前、俺がそんな事を言っていたとハーゴン教授が教えてくれた。
前世も今世もリッツパーティーなんてしたことないのに…何故そんな事を口走ったのだろうか。
崩れた天井が白い雪の小山になった。
何の重みで崩落したんだろうかと考えながら白い小山を見つめる俺。上からまた音が聞こえる。
…言葉……?スキル使うべきか?
チートスキル《超翻訳》を起動させるか迷って小山から目を離した時だった。
「!!?」
突然何かが伸びてきて俺を掴み、雪の中に引きずり込んだ。ヤバい!終わった!!
「⊃d₥ ζγn;<!!」
引きずり込んだモノとガッツリ目が合う。おっと、真っ白スカイブルーアイズなイケメンじゃないか。雪と同じ色してたから気づくのが遅れた。あと、何か言ったみたいだけど判らない。やっぱりスキルONにしよう。
スキル《超翻訳》はいつの間にか俺のスキルボードに追加されていたやつだ。人族だけじゃなく、鳥や爬虫類の言葉(この辺は「こんな事を言っている」というニュアンス的なものになる)も判るようになるし、古代文字も普通に読める(訳文は俺の修学レベルに合わせてくるので、判らない単語が当然の様に出てくる)。
俺が話す言葉も相手に普通に伝わるので、異文化交流の楽しみがゼロどころかマイナスに針が振り切るくらいのスキルだ。
俺的にはこれもうチートの域に入ると思うんだけど、相談する相手もいないからどのくらいおかしいのかの判別が出来ていない。
欠点としては、あらゆる音を言葉として拾うこと。無機物の音も翻訳してくるので、発動中はとにかくうるさい。入ってくる情報が多すぎてキャパが大きい訳でもない俺の脳がパンクしそうになったため、基本的にOFFにしている。
訓練すれば調整できるようになるんだろうけど、心の準備ができなくて放置しているものの一つだ。
この状況では多少ダメージがきたとしてもスキルを使用せざるを得ない。この人族(仮)がどんな相手なのか知らなければ生き延びられないからね。敵なら詰みだけど、「こんにちは!死ね!」されてない時点で友好的な関係を築けそうな予感はする。
さて、このイケメンは何を言っているのだろうか…
「こんな小さい子どもがどうしてこんな所にいるんだ?親はどうした。はぐれたのか?どこの子だ」
……めっちゃ子ども扱いしてきてた。むしろ幼児の扱いでは?
いやそんなことより大自然の声が多すぎてやばい。あらゆる音が意思あるものになって入ってくる。あと、雪の小山喧嘩するな。『上のやつ重いから早くどけよ』『パウダースノーは羽のように軽いから重さなんてないんですぅー』『積もったらなんでも重いんだよ自壊しろ空に帰れ』『みんなみんな生きているんだ友達なんだよ』とか近いからか声も大きくてガチャガチャしてる。俺はイケメンの声が聞きたいだけなんだ。
…やっばり情報過多が過ぎる。これは俺からのアクションを諦めて、聞きたい時だけONにするやり方にしよう。あらゆる音が一気に流れ込んできて頭痛がする。よし、OFFだ。
目前のイケメンに敵意がないことが判っただけでも収穫としよう。ボディランゲージで意思の疎通ができますように。
俺が眉間を押さえたのが気になったのだろう。イケメンがとても心配そうに話しかけてくる。
これは多分「雪の中に長い時間居たせいで頭痛がするんだろう?もう大丈夫だからな」かな?頭痛は大自然の声のせいです(だいたい雪のせい)
多少お子様扱いされてもいいから人里に行きたい現状。安全な場所に連れて行ってくれるなら、受け入れようじゃないか。
そんな事を考えていたら、イケメンが俺を片腕抱っこして小部屋から外へ脱出していた。白く儚げな見た目なのに屈強でびっくりしたよ、雪山のイケメンって凄いな。
「この雪の中で一際目立つ黒。君はメロディアス弟だね」
「弟」
イケメンに抱えられた状態で雪空の下に出た俺に、どこかで聞いた事のある声が聞こえてきた。
最近聞いていなかった弟呼びに思わず反応してしまったが、言葉が通じる…いや、俺の事を知っている人がいるのか。
「あっ…課題はできてるんですが、こんな状態ですのて帰ってから提出します」
見た瞬間に王国学の課題を思い出した。テーマは「二代前の王国王の施策で最も印象に残ったもの」だ。俺は迷わず「下水道の整備」を挙げた。清潔な環境は大事だからね。
こんな事態になるとは思ってなかったけど、出発前に終わらせておいてよかった。
「うん。それは帰ってからでいいよ。君なら多少遅れても許されるはずだから」
「……………ゴン氏…?」
何か違和感があると思ったら、王国学のイスラー・エフィ教授じゃなくて民俗学のハーゴン・エフィ教授の方か。兄弟とは聞いていたけど、ここまで似ているなんて聞いてない。双子だったのか。
「その呼び方はメイナース君だな。僕の名前は短いんだからちゃんと言ってくれたらいいのに」
「メイナース先生曰く「通じるなら良かろう」だそうです」
俺のこともたまに「黒い童」って言ってるし、ヤンチャそうな学生がメイナース先生の事を「メイ先」呼びしていても気にならないみたいだから、本当にわかればいいのだろう。
「メイナース君が判っても第三者に通じないのは困るんだよなぁ」
そうですね。俺もそう思います。
ハーゴン教授が俺を抱えているイケメンと言葉を交わした後、どこから出てきたのか三人の美男美女が合流して彼らの集落に向かう事となった。
ハーゴン教授がここにいるのは学会に出席した帰りに露店で見つけた少数民族の工芸品に心を揺さぶられたからだそうだ。
この辺りだろうとざっくりとした地図をかたてに雪山を歩き、無事彼らとの交流に成功したのだという。行動力の塊か。
「行こうと決めた時には連絡を下さい」
学園で行方不明説が流れているのはご存知ですか?
「落ち着いたらしようと思って今に至る」
思っているだけでしたね。
ハーゴン教授のおかげでスキルを使わずに初遭遇の種族(このイケメン達は多分人間じゃない)と意思の疎通ができるようになった。これは幸運と言って…いや、ゴルラフ隊長に「キャンプ行こうぜ!」と声を掛けられた時点で不運だったな。
そんな事を考えていたら、また眠り込んでしまったようだ。イケメンの腕の中で。
疲れた体に安定感抜群で、心地よい音(彼らの会話だろうが、意味がわからないので音でしかない)のサービスがついてしまったら寝るでしょ?
「暖かい部屋でリッツパーティーしたい」
眠りに落ちる前、俺がそんな事を言っていたとハーゴン教授が教えてくれた。
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