この状況には、訳がある

兎田りん

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それはキャンプとして成立していない

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 目が覚めたら、知らない天井だった。
「…………」
 ああそうか。イケメンの腕の中で寝落ちしたんだったな。ビックリするくらいよく眠れた。
「あ、ファルムファス君。目が覚めたね。今スープを温めてもらってるから、そのままで少し待っててね」
 目覚めの気配を感じとったハーゴン教授が隣室(多分)からやってきて俺に声をかけ、すぐに出て行った。
 ハーゴン教授と入れ替わりにやってきたのは、俺を運んでくれたイケメン。何か話しかけてくれているが、内容は判らない。ただ、気遣ってくれていることだけはわかる。まだ幼子扱いされてるんだろうな…とは思うが、お世話になっている身なので受け入れますよ。

「あ、やっぱり連れてきちゃったんだ」
「素早い動きでしたね」
 ひとしきり何かを話したイケメンは俺の額や首筋、手首に触れた(触診?)後、またしても片腕抱っこ状態でハーゴン教授のいる場所まで運搬された。
 一連の流れは非常にスムーズで、こちらから声をかける隙もなかった。これがイケメンの力か…
 室内は中央に囲炉裏いろりの様なものがあり、床と外壁は板張り。部屋の区切りに使われていると思われる大きな布がいくつか天井から下がっている。俺が休ませてもらっていた部屋も布壁(?)の様だったし。
 人が座るスペースには、何かの動物の毛側や編んだ布が敷いてあるのも見えた。
「丁度よかった。はい、スープだよ。熱いから気をつけてね」
「ありがとうございます。いただきます」
 受け取った器の温かさが心地よい。根菜と何かの肉らしきものが浮かぶスープは、素材の風味と僅かに塩の味がした。
 一口飲んだあと、力がするりと抜ける感じがした。人(?)里に辿り着いたとはいえ、緊張状態が継続していたのだろう。スープの素朴な味と温かさにホッとしたんだろうな。
「食事の介助は要るかい?」
「一人の方が楽ですね」
 どうやら俺をお膝に乗せたままのイケメンがハーゴン教授に「食べるのを手伝わなくていいのか」と問うたらしい。そんなに幼子に見える?
「雪原の民には僕も少年に見えるらしいから、ファルムファス君はよちよちの赤ちゃんだろうね」
 幼子のファルムファス君…それはさぞかし可愛いでしょうね。あっ、頬ずりは止め………うん。イケメン無罪!

 暖かい部屋で一息ついて空腹も解消された後は情報共有タイムの始まりだ。
 通訳ができるハーゴン教授の存在はやはり大きい。《超翻訳》で頭痛が痛いのは嫌だからね。
 ここで改めて俺と雪原の民の皆さんとの自己紹介が成される。
 俺を手放さないイケメンはニヴァスさんという若手で、御歳59歳らしい。らしい、というのは雪原の民の年齢のカウント方法が俺ら人族とは違う様で、ハーゴン教授の推測ではもう少し上ではないか、との事。エルフ並のご長寿種族では?
「それは…確かに俺らがお子様扱いされる訳ですね」
「そうだね。僕もここまで長寿の一族に会うのは初めてだからわくわくしているんだ。あ、ファルムファス君は温かくて気持ちいいらしいよ」
 俺の渾身の保温魔法が抱っこの理由か。
「……子どもは体温が高いから好きだって。あと、腕に馴染むらしいよ。よかったね」
 喜んでいいものなのかは悩むところだ。

 ハーゴン教授がここにいる理由は少し前に聞いたので、今度は俺が話す番だ。
「えぇ…王都近郊にそんな罠あるの?それは困るなぁー」
 踏み抜いて困っている俺がいます。
「………え?……ああ、そう。…ホントに?」
 ニヴァスさんにも説明をしたら、何か思い当たる事があるようだ。通訳のハーゴン教授も驚いている。
「ニヴァスが言うにはその罠は二段式で、浮かせた先に転移の罠があったのではないか、と。まあ、普通に考えて王都からここまでひとっ飛びとか無理だからそうなんだろうね」
 それなんて影牢。
 そしてやはりここは極北に近い場所という事が判明した。確かにひとっ飛びでは無理な距離だ。
「手の込んだ罠ですね」
 今世からのサヨナラスイッチにならなくてよかった。本当によかった。
「少し前に魔族の子どもが雪原にいたらしいから、彼らの遊びじゃないかとも」
 転移の時点で俺らと同じ人族じゃないのは確定だから自ずと絞られてくるよね。人族はまだ生物の転移成功させてないし。………いや待てよ。「生死を問わない」なら話は変わ…る……?下手したら本当にグッバイフォーエバーだった?
「苦情はどこで受け付けてもらえますかね?」
 レミール様と行った魔王城でいいかな?ランドルフィンさんなら管轄外でも聞くだけ聞いてくれそうな気もするし。でもかなり距離あるっぽかったから、一人で行く自信はないなぁ。

「これから更に雪が深くなるので、見つけたら保護の方向で動いているって」
「俺らが戻る前に捕獲できたら尋問に参加させて下さいね」
 無邪気な悪戯であろうとも、俺を吹っ飛ばした罪でギルティ。いかなる種族であろうとも、泣いて許しを乞うまでくすぐるのを止めない刑に処してやる。
「ファルムファス君を見つけたのも、雪籠り前の狩りついでに遭難者がいないか巡視をしていた最中だったんだよ。僕は巡視チームに同行させてもらってたんだ」
 雪籠り…雪原の民とはいえ吹雪の中を行軍するとかいう蛮行は流石にしない様だ。悪天候では狩りの効率も下がるだろうから、じっとしているのが一番だよね。
「…熱サーチとかしてました?」
 結構ピンポイントで天井(雪)踏み抜かれたんですが。
「ああ、それ。なんか判るらしいよ」
 種族特性ってヤツ?ニヴァスさんもなんか頷いてるから、わかるんだろうな。
「ニヴァスは寒がりだから特に敏感なんだろうね」
 そうか。寒がりだからあったかいものを求めて俺から離れないんだな。納得はしたけどしたくない気持ちもある。

 平地仕様の装備で飛ばされたが故にできた保温魔法の話をしたら、ニヴァスさんが凄い勢いで食いついてきた。
 言葉はわからないけど習得したいという熱意は感じた。
「理論とかさっぱりなんですが、大丈夫なんですかね」
 ふわっとしたイメージをスキルと膨大な魔力量でこねくり回して魔法を発動させている俺が、人に教えるとかできるかな?
「そこは大丈夫だと思うよ。魔法理論って感覚的に魔法を使えない人が使える様にするための学問だから」
 ニヴァスさんも「大丈夫!覚えてみせるから!」と言わんばかりに頷いている。
 ハーゴン教授も「覚えたら旅の荷物を軽くできそうだなー」とやる気を見せている。
 そうか。意欲があるならできるよな!
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