この状況には、訳がある

兎田りん

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それはキャンプとして成立していない

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 保温魔法はなんやかんやあったけど伝授に成功した。
 便宜上《保温魔法》って言ってるけど、広まるならもっといい呼び名を考えたいなぁ。そんな余裕あればの話だけど。
「発動時の魔力消費はまあまあ(気持ち多め)だけど、維持がローコストなのはいいね。ここみたいな寒冷地では自分の体温を循環資源に活用できるからいいけど、逆の環境ならどうだろうか…湿度に対応できるのかも調べたいところ…一人では難しいだろうけど、然るべき研究機関に回すことができれば…価値は十分にあるから大丈夫か。あとは無機物に纏わせる条件が揃えば市場を……」
 お褒めの言葉の後に考察モードに入るあたりがハーゴン教授も教授なんだな、って思う。
 商品展開まで気持ちが進んでてスピード感に引く。むしろ今までこの魔法を誰も思いつかなかったことに驚くべき。
 保温魔法の事が知られたらルキスラ教授を筆頭に魔研の先輩達が「ハーゴン教授に教えたのファルム君でしょ?詳しく話を聞かせてもらおうか」ってなだれ込んでくるはず。そして「ついでにこれもやろうよ!」ってやる事爆増するところまで見えた。
 帰ったら暫く放課後は寄り道なしの直帰ルートでいこう…

 ハーゴン教授経由でのやり方伝達だったが、熱い思いからかハーゴン教授より早く習得したニヴァスさん。
「…~ー……!……!!!」
 成功の喜びもひとしおだったのか、奇声(ハーゴン教授も「何言ってるかわからないけど、嬉しいんだろうね」と通訳を諦めた)を上げながら軽装で外に飛び出し、クシャミと共に帰ってきた。途中で魔法が切れたようだ。雪原の民も流石に薄着だと寒さに負けるらしい。
「ファルム、うれしい」
 寒さからか、鼻の頭を赤く染めたニヴァスさんが俺に満面の笑みをぶつけてくる。鼻たれててもイケメンとかズルいな。
 あと、覚えたての片言が俺の中にある言葉に表せない感情をくすぐってくる。くっそ、これも全てニヴァスさんがイケメンなのが悪い。
「あったかい、すき」
 魔法を覚えたからお膝からの解放だ!とか思っていたのに、また流れる様な動きで抱っこされてしまった。
 ニヴァスさんもなかなか属性が盛られてきてるよね。本来持っているものが見えてきただけなのかもしれないけど。
 世界は癖強くせつよで溢れている。

「いない間に、何があった?」
 ニヴァスさんの奇声で集まってきたご近所さんたちを掻き分けながら、新たなイケメンが入ってきた。おお、判る言葉だ。この人は民側の通訳かな?
「彼はニヴァスのお兄さんだよ。この家の家主で僕と雪原の民の橋渡しもしてくれてるんだ」
 ハーゴン教授、説明ありがとうございます。つまり、労るべき人ということですね。
 イケメン兄弟はというと、ニヴァスさんが俺を抱っこしたままの状態でなにかしらの会話をしている。この状況を説明しているのだろうか。そんなことよりお膝から解放して欲しい。

 お兄さんはニヴァスさんによく似た白い肌と雪色の髪だけど、明らかに体格がいい。いや、筋肉で言うとやはりゴルラフ隊長かグローデン辺境伯ラウレスタ様の方が盛られてるんだけど。一流の戦士の筋肉はやはり素晴らしい。
 戦士ゴルラフ隊長をゴリラとしたら、お兄さんはユキヒョウだな。力だけでなく技も駆使するスピードアスリート系。
 …筋肉話は置いといて、この兄弟はやはり顔がいい。救出された時も思ったけど、雪原の民は色白の美男美女揃いだよね。
 学園…というか王都も美形が多いな。って思ってるけど、雪原の民の「儚げな外見なのに逞しいパワー系」というギャップが俺に刺さるやつだ。
 …お兄さんの二の腕、ちょっと触ってもいいだろうか?
「だめ!とられる!」
「ニヴァスの子、違う!」
 ………余計な火種を撒いたようだ。

「はいはい。ファルムファス君はこっちに来ようね」
 何故か揉め始めた兄弟。俺を離さないニヴァスさんからハーゴン教授がさりげなく脱出させてくれたことに関しては、ありがとうと言うしかない。
「スープのおかわりは要るかい?」
「いただきます」
 兄弟に限った話ではないが、喧嘩や揉め事に関わるとろくなことがないので終わるまで待つことにしよう。今回は傍観も拗れそうな気がするから、違うことをして時間を潰そう。
「こっちの食材ってどんな物です?」
 雪国(極)の食料事情どうなってるのか気になります。塩と素材の素朴なスープは久しぶりだったから、口は出さなくても見ておきたい。
「(学食の)革命児の弟君の腕前が見れるのは楽しみだよ」
「俺ら兄弟、料理できる方じゃないですからね?」
 兄上なんて俺より貴族のお坊ちゃんだから、実際に料理作ったこと事ないだろうし。作ったら「僕の愛をファルムに食べてほしい」とか絶対持ってくるはず。
 でも俺プロデュース料理を食べてるから、舌は肥えている。それで学食の料理人を煽り散らかしてレベルを底上げし、劇物を減らしたのは凄い。どうやって煽ったのかは聞く気もないが。
「あ、お肉は燻製と塩漬けがあるんですね」
「これはホワイトケイブの毛皮だね。ということは肉もそうかな?王都では高級品なんだよ凄いなぁ!」
 ……ケイブ……警部、は流石に違うか。……ケイブ洞窟(多分これ)……に続くのは…ベア?イケメン達熊狩れるの?うさぎにしては肉の塊がデカいな、とは思っていたけども。
「確かにそれは凄いですね」
「…凄いの意味が僕と違う気がする」
「え?そうですか?大して変わらないと思いますよ?」
 ここも掘り下げるのはやめておこうね。意識の違いがはっきり出ると、更なる誤解が生まれそうな気がするから。

 兄上の話題が出たので残された…というか、俺だけ飛ばされたから本隊と呼ぶべきだろうか…ゴルラフ隊長と騎士科with兄上と学園の大人たちがどうなったのか気になってきた。
 うん。今までイレギュラー状態だったから(継続中)、考える余裕がなかっただけなんだよね。という言い訳を思い浮かべながら今更心配する。
 一番心配なのは兄上。直前にコレクションという名がつけられた使用済みのゴミを焼却処分したばかりな上に目の前で俺が吹っ飛ばされるという驚きの光景に取り乱さないはずがない。
 ただでさえ帰ってきてからというもの、旅立ち前より頻繁に俺を追い回す様になっている兄上だ。きっと後追いしようとごねているに違いない。
 アルバ教授とメイナース先生で抑えられるかなぁ…?いや、アルバ教授はヤツメウサギに夢中で戦力にならない可能性があるから、実質メイナース先生一人…魔法ぶっぱなされたら騎士科の学生は兄上に勝てないはずだから、抑えられなくて野放しになってる可能性はある。
「………………」
 起こっているであろう事態を想像し、身を震わせる。場を収めるの大変そう…いや、
ひたすら面倒くさいに違いない。
  はぁ…なんか帰りたくなくなってきたな…
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