この状況には、訳がある

兎田りん

文字の大きさ
32 / 153
始まりは断罪の目撃から

32

しおりを挟む
「俺、何でここに居るんですかねぇ?」
「あら、わたくしのエスコート役は不満?」
「とんでもないこうえいです!」

 グッダグタの茶番から二週間。
 俺は今、仕切り直し開催の卒業パーティ会場に義姉上と共に来ている。
 茶番の二日後に招待状が届くとか「前から仕込んでましたよ!」っていうのが明らかな所業でしたが、まあそこは目をつぶろう。
 問題は俺だ。なんという場違い。しかも着せられてるのが長身な兄上の制服だから、明らかにオーバーサイズ。
 袖とか丈とかかなり折ったからカッコ悪いし動きにくい。
 せめて俺のサイズにあった服にしてくれないかな?
 義姉上がご機嫌なのがなんともいえない感情になる…

 これも全て、アーデルハイド殿下って御方の仕業なんだ…(ギリッ)
 しかも本人は「立太子の式典準備があるから☆」って来ないとかいう…
 なんの嫌がらせか。

 義姉上のエスコートという名目の強制連行に、俺は俎上の鯉ってこんな気持ちなんだろうな、と軽く意識を飛ばしている。
 今じゃないことを考えて気を逸らそう。そうだ、そうしよう。

 思い返すのは茶番終了後の事だ。
 やっと帰れる!と喜んでいたら流れるように馬車に乗せられ、王宮の敷地の隅にひっそりと佇む塔に連れ込まれた。
 その塔は階段がなくて、魔法を使ってエレベーターの様に最上階まで登る仕組みにはちょっと感動したが、ギミック見せびらかすにしてはおかしい…そうか、ここは要人を幽閉する場所か!とか思っていたら、そこにいたアリナ嬢の前にポイと押し出された。

 お互い「?」状態ですが?

 俺から話すことなんて特に無いし、そもそも話が通じない相手だぞ?
 俺を連れてきた後、少し離れた所(声は聞こえる範囲)で見ているアーデルハイド殿下に「どういう事ですか?」と視線を送れば「積もる話があると思って」とにこやかに返ってくる。
 いやいや、何もないよ!

 アリナ嬢を見ると、さんざんごねた後なのだろう。ムスッとした顔に疲労が滲んでいるのがみえる。俺も疲れています。帰して下さい。
 柔らかそうなクッションを抱きしめながらこちらを警戒しており、一応話は聞いているような感じはする。
 さっきの今なので、通じるとは思わない方がいいか。

「ええと、先程ぶりではありますが、覚えておられますでしょうか?」
 このまま頭の中だけであれこれ考えるより、声を掛けて進展を試みた方がいいよな。
 何か言わないと帰れそうにないし。

「何よ!私が悪いっていうの?私は聖女よ!聖女!尊い存在なのよ!」
 ………やっぱり通じないじゃないか。
 物陰の向こうからギャンギャン吠えまくる室内小型犬の幻がみえるわぁー…
 なんでウィー君お部屋に帰しちゃったんですか殿下ぁー

 暫くアリナ嬢が「我聖女ぞ!」とキャンキャン喚くのを聞き流し(ちゃんと聞くとか疲れる)、そろそろお疲れかな?というタイミングでこちらの言い分をぶつけてみた。
「貴女様が聖女なのは解っております。聖女召喚の儀式に参加していましたので」
「だったら何よ!」
 うん。まだキャンキャン言う元気あるな。
「ここは、貴女様の仰るゲーム世界ではございません」
「…………は?……」
 よし。黙ったぞ。畳み込むチャンスだ。

「メロディアス侯爵令息の呟きがほぼ答えになってしまうのでしょうが、あれは特殊な訓練を受けた方でないと全てを聞き取る事が難しかった筈ですので要点に補足を加えてお話を致しますね」
 兄上の腹の底から滲み出るような今回の呟きは、他の人よりも聞く頻度の高い俺でも若干聞き取れないところがあったが、大体は押さえたはずだ。それを元に言葉のボールを投げつけていこう。

「時系列的には10年程遡ります。メロディアス侯爵令息の弟君、ファルムファス・メロディアス少年。彼は確かに事故にはあいましたが、存命。生きております」
 正確には、創世神であるラキアータ様が俺の魂をファルムファス少年の体にぶち込んだため、対外的には死んでいない扱いになっているという話だが、それは今公開する話じゃない。

「かの事故は魔王の仕業ではなく、第二王子のお命を狙う不届き者の企みに巻き込まれたものと聞いております」
 アリナ嬢とアーデルハイド殿下が「そんな馬鹿な!」って顔をした。
 考えていることはそれぞれ違うのだろうが、トゲ付きの魔球をぶち込んでやった気分だ!イェイ!

 事故の真相は今回の騒動が起きる前に調べて判っていたことだ。
 メロディアスの家族からは「不幸な事故」と聞かされてはいたが、やっぱり知っておきたいと独自調査した結果だ。
 神様の力という超チートを使って事故前後の時間を覗き見するというズルい技を使ったんだが、その後の勢力調査なんかは頑張ったんだぞ。
 なんだかんだ手を尽くして調べた後、父上の執務室に調査済みの資料が置かれていたのを見つけた時には膝から崩れ落ちたけど。
 父上も上から「事故です」ってバッサリ切られたの納得出来なかったんだろうな。息子が巻き込まれたのだから仕方がない。
 持てる能力フルに使いました!ってくらい詳細が書かれていたので、もうこの事件に関しては「父上が調べたのを見ました」って聞かれたら言う。
 俺も頑張ったけど「体は幼児、頭脳は大人」では限界があったわ。某少年探偵の様にはいかない。現実だもの。
 まあ、この場で「父の功績です!」とか自分ファルムファスの話をするのもおかしいので「聞いた話」ですよ。って濁しておくことに。

 アリナ嬢にとっては、ゲームシナリオが根本から覆されたのだから驚きしかないだろうな。ハハッ、ざまぁ!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄? そもそも君は一体誰だ?

歩芽川ゆい
ファンタジー
「グラングスト公爵家のフェルメッツァ嬢、あなたとモルビド王子の婚約は、破棄されます!」  コンエネルジーア王国の、王城で主催のデビュタント前の令息・令嬢を集めた舞踏会。  プレデビュタント的な意味合いも持つこの舞踏会には、それぞれの両親も壁際に集まって、子供たちを見守りながら社交をしていた。そんな中で、いきなり会場のど真ん中で大きな女性の声が響き渡った。  思わず会場はシンと静まるし、生演奏を奏でていた弦楽隊も、演奏を続けていいものか迷って極小な音量での演奏になってしまった。  声の主をと見れば、ひとりの令嬢が、モルビド王子と呼ばれた令息と腕を組んで、令嬢にあるまじきことに、向かいの令嬢に指を突き付けて、口を大きく逆三角形に笑みを浮かべていた。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

その国が滅びたのは

志位斗 茂家波
ファンタジー
3年前、ある事件が起こるその時まで、その国は栄えていた。 だがしかし、その事件以降あっという間に落ちぶれたが、一体どういうことなのだろうか? それは、考え無しの婚約破棄によるものであったそうだ。 息抜き用婚約破棄物。全6話+オマケの予定。 作者の「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹が登場。というか、これをそっちの乗せたほうが良いんじゃないかと思い中。 誤字脱字があるかもしれません。ないように頑張ってますが、御指摘や改良点があれば受け付けます。

乙女ゲームはエンディングを迎えました。

章槻雅希
ファンタジー
卒業パーティでのジョフロワ王子の婚約破棄宣言を以って、乙女ゲームはエンディングを迎えた。 これからは王子の妻となって幸せに贅沢をして暮らすだけだと笑ったゲームヒロインのエヴリーヌ。 だが、宣言後、ゲームが終了するとなにやら可笑しい。エヴリーヌの予想とは違う展開が起こっている。 一体何がどうなっているのか、呆然とするエヴリーヌにジョフロワから衝撃的な言葉が告げられる。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様・自サイトに重複投稿。

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!

宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。 前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。 そんな彼女の願いは叶うのか? 毎日朝方更新予定です。

処理中です...