この状況には、訳がある

兎田りん

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始まりは断罪の目撃から

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 あの後、ラキアータ様からいつもの夢空間で「聞き出した神の名の件ですが、あの子の世界の創作物にしかない名前でした」と、リサーチ結果を伝えられた時は「そう簡単にいかないよね」って思った。
 望む結果とならずにしょんぼりしているラキアータ様は、この世界の創世神だ。その目を掻い潜って世界に介入できるようなやつが簡単に尻尾を掴ませるとか、そんな甘い話ないもんな。
 むしろ罠が仕掛けられてなかった分ラッキーと受け取るべきか。
 ……本当に仕掛けてないだろうな?ちょっと不安になってきたな。今の考えは忘れよう。
 まあ、向こうが動かなければ俺からは何のリアクションもできないので、暫くはゆっくりさせてもらいたい(希望)

「ファルム様、お茶の時間ですよ」
「ノッス、休憩したい時だけ丁寧な口調になるの止めてもらっていいですか?」
 聖協会内にある俺の執務室。俺とノッスは山と積まれた手紙の検閲をしていた。
 ゆっくり過ごしたいとか「言わせねぇよ」という勢いで叩きつけられる激務よ。
「自分宛じゃないファンレターのチェックとか楽しくない!」
 そう。これは茶番劇の後、爆発的に増えた「御子」宛の手紙の山…
 姿絵発売後から来てはいたのだが、茶番劇を見ていた卒業生や噂を聞いた連中がこちらがドン引く勢いで一斉に送ってきやがった。
 内容はお茶会やパーティのお誘いや「一目見たときから…」というラブレターやもうド直球で「我が家には資産がこれくらいあるから嫁に!」という求婚願いまで、机に積まれたものの他に、俺一人では持てないサイズの木箱も3つ程積まれている。
 知らない奴らからの手紙群に紛れる様に「御子様のおかげで今日も平和です!」「聖域に珍しい花が咲きました」というグローデン領民からの無害なおたよりも届くから、宛名は全てチェックしなければならない。何故混ぜるのか…配送段階で仕分けしてもらいたいものである。
 ああ、でも、ラウレスタ様からも「麗しの君よ」ってたまにやってくるのには正直目を背けたい。
 ええ。御子に担ぎあげられた俺の、最後のお務めですかね(やりたくない)
「ランカ様が戻られる迄の辛抱だよ…」
「それあと何ヶ月耐えたらいいの…」
 はは…それは俺が聞きたい。

 兄上を連行して聖教国へ旅立ったランカ様は出立前に「御子様は聖協会の下にある為、私が戻るまで対外活動は行いません」と公言して下さったので、噂の御子をひと目見ようと押し寄せる人がグンと減った。
 その分、手紙が増えた。
「俺だってまだ姿絵でしか見てないのに、「会いたい」って言ったら会えるとか上流階級どもめ!」
「ノッスも実家貴族でしょ…」
「うち末端貴族だもの。持ってる権力なんて紙切れよりも軽いぜ?無いのと一緒。しかも俺、5男だから身一つで独立…神官になれなかったら放浪者になる気だった」
「世知辛い…」
 子ども全てに位をあげれるのは王族か公爵…後は裕福な貴族くらいだもんな。
 商売をしてる家なんかは損得勘定で動くから、子沢山でも使えなければ放逐だし。
「ノッスは有能だから神官になれなかったとしても、放浪者にはならないと思うんだよね。文官とかいけそう」
 切り替えの速さとか愛嬌とかすごいもの。
「ありがとう。でもファルムは神様とかの寵愛で生きていけるから、正直羨ましい」
「え…「とか」って何…」
「ラス…」
「さ、今日はあの箱まで片付けようね」
「あぁあ!無情が過ぎる!ファルム様ー!」
 そんなこんなのノッスとのやり取りのおかげか、割といいペースで開封作業が進んでいる。
 ノッスいなかったら全部焼いてた。

「あ、またこいつ!何通も送ってくんなし!」
 手紙が減らない理由の一つに、同じ人物から複数送られてくる。というのがある。正直腹立つ。
「暇な人だねぇ。まとめといてくれる?」
 そういう手紙は紐で括り、後で一気に開封することにした。開いた後に「またこいつか」ってなるの嫌だし。
「3束超えた」
「え?そんなに?」
 本当に暇な人なの?会った事ない人に熱烈過ぎるアプローチできるの逆に凄い。アイドルの強火担でもなかなかないんじゃないかな?
「同じ文章繰り返してんじゃないの?」
「それはそれで気持ち悪い」
 何かの呪いみたいで嫌だな。
「開いて種類別に並べてみたい」
「休憩がてら開いてみようか」
「休憩は別に欲しいですファルム様」
 はいはい、と束を一つ取る。1束はだいたい20~25通位。この人物からの手紙は少し厚いので1束20通だった。
 中身は「姿絵を見て心奪われた」「お会いして親交を深めたい」「結婚して下さい」と、姿絵一枚で随分こじらせてしまったようだ。俺は謝らないぞ。
「内容は同じだけど、複写じゃない…だと…?」
 同じ「結婚して下さい」でも、一つ一つ口説き文句が微妙に異なることにノッスが「キモい!まじキモ!」と盛大に引いている。解る。
「あ、調査対象」
「見たい!見せて!………うわぁ、この規模という事はなかなかえげつない裏ありそうー」
 財産が書かれた手紙のことを「調査対象」と呼んでいる。国の財務部に渡し、税収申告との差異がないかを調べるのだ。
「まさか開封係が王太子殿下と繋がってるとか、お貴族様達も思ってないでしょー」
 そう。開封を始めた頃、アーデルハイド殿下に内容の相談をした所「不正を暴いてみない?」と唆されたのがきっかけだ。こちらとしても「困る内容の手紙を片付けてくれるのは助かる!」と乗っかった。
「御子様、手紙一切見てないもんな!」
 見てますよ俺です。早く片付けてのんびり過ごしたい。

 早朝は神に祈り、日中は学園生活。放課後から夜にかけて積まれた手紙の開封作業と、なかなかに忙しい日々を当分の間過ごすこととなるだろう。

 何者かに促されるかのように召喚された聖女の遺した傷跡は大きかった(一番の被害者は巻き込まれた俺)
 結局何故召喚に至ったのかは判らず、謎だけが残った形で表向きは収束した。
 実の所、創世神の管理権限が乗っ取られたというびっくり事件の影響だと俺だけが知っている。知りたくなかった。これもまだ未解決である。
 聖女対策なんかないかな、と「瘴気の浄化を光以外の属性でやれないか」提案した件は「その発想はなかった」と目から鱗を零した学園の教授陣でチームを組み、検証を重ねているらしい。聖女返還の理由にもなったし、これはいい考えだったと思う。
 愉快な仲間たちの禊も順調?らしい。かなり泣かされているようで何よりです。
 御子の余波は実はもう暫く続くのだが、今回はこれで話を終わらせよう。

 俺の平穏な日々が戻ってくるのはいつだろうか。
 こうなってしまったのには訳がある。だいたい神様のせいだ。
 憤っても仕方ないので、早くどうにかして欲しいものである。
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