58 / 153
愛だけで生きていけると思うなよ
9
しおりを挟む
「………」
気づいたら真っ白な空間にいた。
「ここは、ラキアータ様の部屋…?」
部屋と言うのもアレなんだが…この空間でしかラキアータ様にお会いしたことないから……部屋でいいか。
………何故ここに来たのだろう?
「やあ、気がついたね。頭は痛くないかい?」
俺が辺りを見回していると、ラキアータ様がふわりとやってきた。どこから?なんて今更聞くまい。神様だから仕方ないね(万能ワード)
「頭……打っ…たんでしょうね…」
言われてみれば、ほんのり左後頭部が痛いような…いや、ここ精神空間ですよね?
記憶を辿ると、俺の荷物(と渡された箱)に女性物しか入ってなくて「着くまで部屋から出ません!」の宣言をして船内の一室に立てこもろうとした俺を、レニフェル様とメディナツロヒェン嬢が「そんなこと言わずにこれを着て!」と会話のドッヂボールらしきことをした所までは覚えている。
おそらくそのあたりで足を滑らせるか何かをして転び、近くにあるもので頭を打ったのだろう。
保護者不在のパーリーガールズを野に放つ為の刺客がいたとしても、船上かつ人前で襲ったりしないだろうし。
思い返すと、理不尽に耐えかねた俺に襲いかかる更なる理不尽としか思えない。俺は悪くねぇ!
「お知らせもあったので、この機に呼んでみました」
ついでみたいに軽く言われた。まあ、俺も言いたいことがあるんですが。主に先日付与されたスキルの件で。
「この子はサヴィーニアです。仲良くしてあげてください」
ラキアータ様の後ろから現れたのは、出るとこ出て引くとこ引いたパーフェクトボディな女神様だった。
ハードル高そうなお顔(俺の好みとはズレるけど超美人)をされてますが、均整のとれたお身体は超好みです!
サヴィー…最近聞いた名前…ああ、そうか。愛の女神サヴィーニア様か。素晴らしいボディですね。
「わたくしはサヴィーニア。主神の愛し子はわたくしの子。我が子よ、出会えて嬉しいわ」
サヴィーニア神は笑顔で両手を広げ「さあおいで!」と待ち構えている。いいのか…あの胸に飛び込んでも…
「これも経験です。いってらっしゃい」
躊躇う俺の背をトン、とラキアータ様が押した。あのボディに包まれる経験…ありがとうございます!
「やだ可愛い!お肌も髪の毛もさらフワで気持ちいい!お父様何故もっと早く会わせてくれなかったの?」
サヴィーニア神はその胸に落とされた俺を撫で回しながらぎゅうぎゅうと絞めてくる。
「………は……ちょ、これ、は……」
パーフェクトボディに抱きしめられたという喜びと幸せは一瞬だった。やば…絞め…落とされる!
どうにか逃れようともがいてみるが、「恥ずかしがらなくていいのよ!身悶えするのも堪んないわ!」と完封される。ちよ、ま…タップ!タップ!
なにこれ精神空間のハズなのに、死にそう…
「サヴィーニアの絞め技は神レベルです」
ええ、そうでしょうね。サヴィーニア神は本物の神様ですもの。
「かつて貴方をはね飛ばしたボアくらいは軽く捻れます」
やめて!古い事件掘り起こさないで!
というか、早く助、け………
「………………」
落ちた意識が浮上する感覚がする。フワフワとした、ここにいるけどどこにもいないような。
ああでも、美人に「かわいい」って絞め落とされる最期もそれはそれでありかな…
本音を言えば「かわいい」より「かっこいい」の方が言われて嬉しい言葉だったな…
夢うつつな俺がぼんやりとそんなことを思っていると、声が聞こえてきた。
「頬紅はもう少し強気がいいわよね」
「爽やかさを全面に出すには、白を多く採り入れたこちらのドレスをお願いしたいですわ」
「レニフェル様…怪我人に無体はなりません」
………よし。もう一度沈もう。
「おや、お帰りなさい」
無事?にあの不穏な空間から離脱できた様だ。こちらも安全ではないということが判ってしまったのだが、まだマシという悲劇。
「ごめんなさいね。子どもが脆いのはわかっていたのだけど、かわいいが過ぎてつい…」
俺は美人の「つい」で絞め落とされたのか。いや、それがお好みの紳士が一定数居るのは存じ上げておりますが、その中に俺を加えないで頂きたい所存。
「うん。まだ少し落ち着きが足りないみたいだね」
ラキアータ様が「大丈夫ですよ、あれは兄弟の通過儀礼です」と頭を撫でてくれた。
何だよ通過儀礼って…
「人の子はファリタムより脆いのよね。久しく戯れていないから忘れていたわ」
ファリタムというのはラキアータ様の分神、つまりサヴィーニア神の弟だ。
アレから新しい神様が生まれたという話は聞かないので、末っ子神様だ。
神様は末っ子と言えど人と比べたら遥かに強靭でしょうとも。素人が組んだ某ロボットアニメのプラモみたいに簡単に壊れますよ。
「ファリタムはあれから随分落ち着きましたよ。余程貴方をはね飛ばした一件が堪えた様です」
「ヤダ!あの子そんな事したの?ファルムちゃん弟がごめんなさいね」
うん、パーフェクトボディに適切な力量でギュムギュムされると許したくなる。柔肌に挟まれるの幸せ…
…まあ、アレはもう過ぎた事件なのでむしろ忘れて頂きたいんですが。
ラキアータ様からこの世界での生を戴くという補填までしてもらってますし。
何なら思いつきで加護だのスキルだの知らぬ間に追加されて、多分もうこの世界の人間で最強なんじゃない?くらいのスペックになってる気はします。
比較対象がいないから、思ってるだけかもしれないけど。
ラキアータ様から面白おかしく盛られたものを語られて、うっかり信じられてしまう前にサヴィーニア神に経緯を話しておこう。後から掘り起こされるのも(俺のメンタル的に)嫌だし。
新しく生まれたファリタム幼神に他の世界を見せようとラキアータ様が俺の前世の世界にやってきた際、初めての世界にテンションの上がったファリタム幼神が放った神気に驚いた(そこそこのデカさの)野良猪が爆走。
その進路上にたまたま俺がいてそのままドーン!とはね飛ばされて…という、異世界転生の定番から少し外れた最期を迎えた前世の俺がファルムファス君になるに至った忘れたい過去を。
「ヤダ不憫!」
そう。完全に巻き込まれ事故なのだ。
どうせ跳ねられるなら、異世界トラックがよかった。
気づいたら真っ白な空間にいた。
「ここは、ラキアータ様の部屋…?」
部屋と言うのもアレなんだが…この空間でしかラキアータ様にお会いしたことないから……部屋でいいか。
………何故ここに来たのだろう?
「やあ、気がついたね。頭は痛くないかい?」
俺が辺りを見回していると、ラキアータ様がふわりとやってきた。どこから?なんて今更聞くまい。神様だから仕方ないね(万能ワード)
「頭……打っ…たんでしょうね…」
言われてみれば、ほんのり左後頭部が痛いような…いや、ここ精神空間ですよね?
記憶を辿ると、俺の荷物(と渡された箱)に女性物しか入ってなくて「着くまで部屋から出ません!」の宣言をして船内の一室に立てこもろうとした俺を、レニフェル様とメディナツロヒェン嬢が「そんなこと言わずにこれを着て!」と会話のドッヂボールらしきことをした所までは覚えている。
おそらくそのあたりで足を滑らせるか何かをして転び、近くにあるもので頭を打ったのだろう。
保護者不在のパーリーガールズを野に放つ為の刺客がいたとしても、船上かつ人前で襲ったりしないだろうし。
思い返すと、理不尽に耐えかねた俺に襲いかかる更なる理不尽としか思えない。俺は悪くねぇ!
「お知らせもあったので、この機に呼んでみました」
ついでみたいに軽く言われた。まあ、俺も言いたいことがあるんですが。主に先日付与されたスキルの件で。
「この子はサヴィーニアです。仲良くしてあげてください」
ラキアータ様の後ろから現れたのは、出るとこ出て引くとこ引いたパーフェクトボディな女神様だった。
ハードル高そうなお顔(俺の好みとはズレるけど超美人)をされてますが、均整のとれたお身体は超好みです!
サヴィー…最近聞いた名前…ああ、そうか。愛の女神サヴィーニア様か。素晴らしいボディですね。
「わたくしはサヴィーニア。主神の愛し子はわたくしの子。我が子よ、出会えて嬉しいわ」
サヴィーニア神は笑顔で両手を広げ「さあおいで!」と待ち構えている。いいのか…あの胸に飛び込んでも…
「これも経験です。いってらっしゃい」
躊躇う俺の背をトン、とラキアータ様が押した。あのボディに包まれる経験…ありがとうございます!
「やだ可愛い!お肌も髪の毛もさらフワで気持ちいい!お父様何故もっと早く会わせてくれなかったの?」
サヴィーニア神はその胸に落とされた俺を撫で回しながらぎゅうぎゅうと絞めてくる。
「………は……ちょ、これ、は……」
パーフェクトボディに抱きしめられたという喜びと幸せは一瞬だった。やば…絞め…落とされる!
どうにか逃れようともがいてみるが、「恥ずかしがらなくていいのよ!身悶えするのも堪んないわ!」と完封される。ちよ、ま…タップ!タップ!
なにこれ精神空間のハズなのに、死にそう…
「サヴィーニアの絞め技は神レベルです」
ええ、そうでしょうね。サヴィーニア神は本物の神様ですもの。
「かつて貴方をはね飛ばしたボアくらいは軽く捻れます」
やめて!古い事件掘り起こさないで!
というか、早く助、け………
「………………」
落ちた意識が浮上する感覚がする。フワフワとした、ここにいるけどどこにもいないような。
ああでも、美人に「かわいい」って絞め落とされる最期もそれはそれでありかな…
本音を言えば「かわいい」より「かっこいい」の方が言われて嬉しい言葉だったな…
夢うつつな俺がぼんやりとそんなことを思っていると、声が聞こえてきた。
「頬紅はもう少し強気がいいわよね」
「爽やかさを全面に出すには、白を多く採り入れたこちらのドレスをお願いしたいですわ」
「レニフェル様…怪我人に無体はなりません」
………よし。もう一度沈もう。
「おや、お帰りなさい」
無事?にあの不穏な空間から離脱できた様だ。こちらも安全ではないということが判ってしまったのだが、まだマシという悲劇。
「ごめんなさいね。子どもが脆いのはわかっていたのだけど、かわいいが過ぎてつい…」
俺は美人の「つい」で絞め落とされたのか。いや、それがお好みの紳士が一定数居るのは存じ上げておりますが、その中に俺を加えないで頂きたい所存。
「うん。まだ少し落ち着きが足りないみたいだね」
ラキアータ様が「大丈夫ですよ、あれは兄弟の通過儀礼です」と頭を撫でてくれた。
何だよ通過儀礼って…
「人の子はファリタムより脆いのよね。久しく戯れていないから忘れていたわ」
ファリタムというのはラキアータ様の分神、つまりサヴィーニア神の弟だ。
アレから新しい神様が生まれたという話は聞かないので、末っ子神様だ。
神様は末っ子と言えど人と比べたら遥かに強靭でしょうとも。素人が組んだ某ロボットアニメのプラモみたいに簡単に壊れますよ。
「ファリタムはあれから随分落ち着きましたよ。余程貴方をはね飛ばした一件が堪えた様です」
「ヤダ!あの子そんな事したの?ファルムちゃん弟がごめんなさいね」
うん、パーフェクトボディに適切な力量でギュムギュムされると許したくなる。柔肌に挟まれるの幸せ…
…まあ、アレはもう過ぎた事件なのでむしろ忘れて頂きたいんですが。
ラキアータ様からこの世界での生を戴くという補填までしてもらってますし。
何なら思いつきで加護だのスキルだの知らぬ間に追加されて、多分もうこの世界の人間で最強なんじゃない?くらいのスペックになってる気はします。
比較対象がいないから、思ってるだけかもしれないけど。
ラキアータ様から面白おかしく盛られたものを語られて、うっかり信じられてしまう前にサヴィーニア神に経緯を話しておこう。後から掘り起こされるのも(俺のメンタル的に)嫌だし。
新しく生まれたファリタム幼神に他の世界を見せようとラキアータ様が俺の前世の世界にやってきた際、初めての世界にテンションの上がったファリタム幼神が放った神気に驚いた(そこそこのデカさの)野良猪が爆走。
その進路上にたまたま俺がいてそのままドーン!とはね飛ばされて…という、異世界転生の定番から少し外れた最期を迎えた前世の俺がファルムファス君になるに至った忘れたい過去を。
「ヤダ不憫!」
そう。完全に巻き込まれ事故なのだ。
どうせ跳ねられるなら、異世界トラックがよかった。
5
あなたにおすすめの小説
婚約破棄? そもそも君は一体誰だ?
歩芽川ゆい
ファンタジー
「グラングスト公爵家のフェルメッツァ嬢、あなたとモルビド王子の婚約は、破棄されます!」
コンエネルジーア王国の、王城で主催のデビュタント前の令息・令嬢を集めた舞踏会。
プレデビュタント的な意味合いも持つこの舞踏会には、それぞれの両親も壁際に集まって、子供たちを見守りながら社交をしていた。そんな中で、いきなり会場のど真ん中で大きな女性の声が響き渡った。
思わず会場はシンと静まるし、生演奏を奏でていた弦楽隊も、演奏を続けていいものか迷って極小な音量での演奏になってしまった。
声の主をと見れば、ひとりの令嬢が、モルビド王子と呼ばれた令息と腕を組んで、令嬢にあるまじきことに、向かいの令嬢に指を突き付けて、口を大きく逆三角形に笑みを浮かべていた。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
その国が滅びたのは
志位斗 茂家波
ファンタジー
3年前、ある事件が起こるその時まで、その国は栄えていた。
だがしかし、その事件以降あっという間に落ちぶれたが、一体どういうことなのだろうか?
それは、考え無しの婚約破棄によるものであったそうだ。
息抜き用婚約破棄物。全6話+オマケの予定。
作者の「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹が登場。というか、これをそっちの乗せたほうが良いんじゃないかと思い中。
誤字脱字があるかもしれません。ないように頑張ってますが、御指摘や改良点があれば受け付けます。
乙女ゲームはエンディングを迎えました。
章槻雅希
ファンタジー
卒業パーティでのジョフロワ王子の婚約破棄宣言を以って、乙女ゲームはエンディングを迎えた。
これからは王子の妻となって幸せに贅沢をして暮らすだけだと笑ったゲームヒロインのエヴリーヌ。
だが、宣言後、ゲームが終了するとなにやら可笑しい。エヴリーヌの予想とは違う展開が起こっている。
一体何がどうなっているのか、呆然とするエヴリーヌにジョフロワから衝撃的な言葉が告げられる。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様・自サイトに重複投稿。
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!
宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。
前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。
そんな彼女の願いは叶うのか?
毎日朝方更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる