この状況には、訳がある

兎田りん

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愛だけで生きていけると思うなよ

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「………」
 気づいたら真っ白な空間にいた。
「ここは、ラキアータ様の部屋…?」
 部屋と言うのもアレなんだが…この空間でしかラキアータ様にお会いしたことないから……部屋でいいか。
 ………何故ここに来たのだろう?
「やあ、気がついたね。頭は痛くないかい?」
 俺が辺りを見回していると、ラキアータ様がふわりとやってきた。どこから?なんて今更聞くまい。神様だから仕方ないね(万能ワード)
「頭……打っ…たんでしょうね…」
 言われてみれば、ほんのり左後頭部が痛いような…いや、ここ精神空間ですよね?

 記憶を辿ると、俺の荷物(と渡された箱)に女性物しか入ってなくて「着くまで部屋から出ません!」の宣言をして船内の一室に立てこもろうとした俺を、レニフェル様とメディナツロヒェン嬢が「そんなこと言わずにこれを着て!」と会話のドッヂボールらしきことをした所までは覚えている。
 おそらくそのあたりで足を滑らせるか何かをして転び、近くにあるもので頭を打ったのだろう。
 保護者不在のパーリーガールズを野に放つ為の刺客がいたとしても、船上かつ人前で襲ったりしないだろうし。
 思い返すと、理不尽に耐えかねた俺に襲いかかる更なる理不尽としか思えない。俺は悪くねぇ!

「お知らせもあったので、この機に呼んでみました」
 ついでみたいに軽く言われた。まあ、俺も言いたいことがあるんですが。主に先日付与されたスキルの件で。
「この子はサヴィーニアです。仲良くしてあげてください」
 ラキアータ様の後ろから現れたのは、出るとこ出て引くとこ引いたパーフェクトボディな女神様だった。
 ハードル高そうなお顔(俺の好みとはズレるけど超美人)をされてますが、均整のとれたお身体は超好みです!
 サヴィー…最近聞いた名前…ああ、そうか。愛の女神サヴィーニア様か。素晴らしいボディですね。
「わたくしはサヴィーニア。主神の愛し子はわたくしの子。我が子よ、出会えて嬉しいわ」
 サヴィーニア神は笑顔で両手を広げ「さあおいで!」と待ち構えている。いいのか…あの胸に飛び込んでも…
「これも経験です。いってらっしゃい」
 躊躇う俺の背をトン、とラキアータ様が押した。あのボディに包まれる経験…ありがとうございます!

「やだ可愛い!お肌も髪の毛もさらフワで気持ちいい!お父様何故もっと早く会わせてくれなかったの?」
 サヴィーニア神はその胸に落とされた俺を撫で回しながらぎゅうぎゅうと絞めてくる。
「………は……ちょ、これ、は……」
 パーフェクトボディに抱きしめられたという喜びと幸せは一瞬だった。やば…絞め…落とされる!
 どうにか逃れようともがいてみるが、「恥ずかしがらなくていいのよ!身悶えするのも堪んないわ!」と完封される。ちよ、ま…タップ!タップ!
 なにこれ精神空間のハズなのに、死にそう…
「サヴィーニアの絞め技は神レベルです」
 ええ、そうでしょうね。サヴィーニア神は本物の神様ですもの。
「かつて貴方をはね飛ばしたボアくらいは軽く捻れます」
 やめて!古い事件掘り起こさないで!
 というか、早く助、け………

「………………」
 落ちた意識が浮上する感覚がする。フワフワとした、ここにいるけどどこにもいないような。
 ああでも、美人に「かわいい」って絞め落とされる最期もそれはそれでありかな…
 本音を言えば「かわいい」より「かっこいい」の方が言われて嬉しい言葉だったな…
 夢うつつな俺がぼんやりとそんなことを思っていると、声が聞こえてきた。
「頬紅はもう少し強気がいいわよね」
「爽やかさを全面に出すには、白を多く採り入れたこちらのドレスをお願いしたいですわ」
「レニフェル様…怪我人に無体はなりません」
 ………よし。もう一度沈もう。

「おや、お帰りなさい」
 無事?にあの不穏な空間から離脱できた様だ。こちらも安全ではないということが判ってしまったのだが、まだマシという悲劇。
「ごめんなさいね。子どもが脆いのはわかっていたのだけど、かわいいが過ぎてつい…」
 俺は美人の「つい」で絞め落とされたのか。いや、それがお好みの紳士が一定数居るのは存じ上げておりますが、その中に俺を加えないで頂きたい所存。
「うん。まだ少し落ち着きが足りないみたいだね」
 ラキアータ様が「大丈夫ですよ、あれは兄弟の通過儀礼です」と頭を撫でてくれた。
 何だよ通過儀礼って…
「人の子はファリタムより脆いのよね。久しく戯れていないから忘れていたわ」
 ファリタムというのはラキアータ様の分神、つまりサヴィーニア神の弟だ。
 アレから新しい神様が生まれたという話は聞かないので、末っ子神様だ。
 神様は末っ子と言えど人と比べたら遥かに強靭でしょうとも。素人が組んだ某ロボットアニメのプラモみたいに簡単に壊れますよ。

「ファリタムはあれから随分落ち着きましたよ。余程貴方をはね飛ばした一件が堪えた様です」
「ヤダ!あの子そんな事したの?ファルムちゃん弟がごめんなさいね」
 うん、パーフェクトボディに適切な力量でギュムギュムされると許したくなる。柔肌に挟まれるの幸せ…
 …まあ、アレはもう過ぎた事件なのでむしろ忘れて頂きたいんですが。
 ラキアータ様からこの世界での生を戴くという補填までしてもらってますし。
 何なら思いつきで加護だのスキルだの知らぬ間に追加されて、多分もうこの世界の人間で最強なんじゃない?くらいのスペックになってる気はします。
 比較対象がいないから、思ってるだけかもしれないけど。

 ラキアータ様から面白おかしく盛られたものを語られて、うっかり信じられてしまう前にサヴィーニア神に経緯を話しておこう。後から掘り起こされるのも(俺のメンタル的に)嫌だし。

 新しく生まれたファリタム幼神に他の世界を見せようとラキアータ様が俺の前世の世界にやってきた際、初めての世界にテンションの上がったファリタム幼神が放った神気に驚いた(そこそこのデカさの)野良猪が爆走。
 その進路上にたまたま俺がいてそのままドーン!とはね飛ばされて…という、異世界転生の定番から少し外れた最期を迎えた前世の俺がファルムファス君になるに至った忘れたい過去を。

「ヤダ不憫!」
 そう。完全に巻き込まれ事故なのだ。
 どうせ跳ねられるなら、異世界トラックがよかった。
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