この状況には、訳がある

兎田りん

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愛だけで生きていけると思うなよ

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「ラキアラス王国、レニフェル王女様。そして使節団の皆様。ようこそメロメ国へ!」
 メロメ国の貴族だろうか。華やかな集団に迎えられ、俺たちはメロメ国に上陸した。
 レニフェル様は華やかかつ動きやすいドレス(キュレムの御子シリーズの一つらしい。御子が着たことないデザインをシリーズに加えて王族に献上する辺りがメルネ嬢らしいというか…)を纏い、ご機嫌でお迎えの一団に手を振っている。
 黙って愛想振りまいてる姿は紛うことなき一国の王女。アーデルハイド殿下にも強く思ってるけど、遠目で見るだけの方がいい種類のものっているよね。あらゆるジャンルで。

 俺は日程の大半を船室で過ごした(立てこもった、というかラキアータ様の部屋と船室を行ったりきたりしていた)が、船旅はそれはもう順調に進み、予定から外れることなく二週間でメロメ国の港に着いた。
 船員が「こんなキッチリ着けたの初めて!」「最先端スゲェ!」って感激していたが、どうやら俺のせいらしい。
 というのも航海中、ラキアータ様に「順調そうです」と経過報告した際「船の魔物よけも優秀ではありますが、貴方が乗っているのが大きいでしょうね」と言われたからだ。
 ついでに頭を撫でられた。抱っこは拒否したが、まだ幼子の感覚が抜けないのかぐぬぬ…
 言われた後「そんな事ないよな?」とステータスで自分のスキルを確認したら、真ん中の隅の方に『豪運(多分幸運の上位版)』や『破魔符(持ち物では?)』とかあって「これ…か…?」ってなった。そんな事、あったわ。

 スキル一覧を見たサヴィーニア様が「盛り方がエグい」ってドン引きされていました。そうでしょうとも。俺もそう思います。
 でもちゃっかり新しいスキル追加してたの見逃してませんからね?多すぎて一つ一つ確認する気もないんだが、一つじゃない気はしている。
 そして加護の欄に『サヴィーニアの寵愛』も追加されてましたよ。神様スタンプラリーみたいですね。スキルと加護が別枠なのは少しだけ探しやすい(気がする)けど、どちらも検索機能が欲しくなる量で見る気は失せている。神様の加護が上に固定されてるのには神様の「うちの子ですから手を出すの絶許」という圧を感じる。
 ウインクしながら「持ってて困るもんじゃないしぃー」って言い放たれました。美人のウインクありがとうございます。現実でも男子扱いされてモテたいです(愛の神へお願い)

 案内された滞在宿はトップセレブが使うような広くてゴージャスなワンフロアだった。凄い。テレビで見た富豪の部屋だ…宿自体が初めて(グローデン領ではラウレスタ領主様のお屋敷滞在だった)だから、テンション上がる。
 その部屋にお付きの者を従えて、当然のように入っていくレニフェル様。そうだった。この方王女だった。トップセレブの上にいる方だった。
 幼少期から王弟子として外遊に同行しているのだろうな、と思わせるスムーズさ。
 メディナツロヒェン嬢とガールズトークしている姿からはなかなか想像が難しい、素晴らしい切り替え力ですね。
「御子様がご一緒だったら同室を願ったのですが…残念でなりません」
 部屋の中央部。豪奢なソファーに悠然と腰を下ろし、レニフェル様は俺を見ながらロイヤルなオーラ全開でため息をついた。
 ご一緒ではあるのですが、同室はお断りです。俺は今から外交官のレドラムさんとお買い物に行くんです!俺の服を買いに!

 航海中は俺の不憫さに外交官の皆さんがとても親切にしてくれた。早々に頭打って寝込んだ(ラキアータ様の部屋に行った)というのもポイントの一つだろう。
 その中でもレドラムさんは「メロディアス侯爵には大変お世話になりました」と特に手厚くもてなしてくれている。
 そう。自由気ままに書きなぐられた書類に悩んでいた父上に「書き方統一したら、見るの楽ですよ」とフォーマット化を提案したら周囲に讃えらて親子共々非常に困惑させられた『文官の神事件』。
 その際、父上と同じ部所にいて目の前で格が上がりまくるのを「凄い!」と見ていたのがレドラムさんだという。
 宮仕えだから父上と接点ある人も居るんだろうな。位に考えてたら、当時の目撃者がいてビックリした。いやでもアレはほんの数年前だから何ら不思議では無い。不思議なことなどなかった。
 父上からは「あれは息子の案」と聞かされたらしく、名乗った辺りから「ご子息様!」と天上人みたいな扱いをされて俺は困惑しています。
 俺はこのイケてるルックスで、軽くモテながら平穏な学園生活を過ごしたいだけなんです。

「ファルムファス様、シャツはこのフリル付きがお似合いですよ!」
「フリルは要りません。シンプルなやつを下さい」
 似合うとかじゃなくて、俺の希望を聞いて欲しい。
 今必要なものを。と街に出たのはいいのだが、レドラムさんの接待スイッチがONになったらしく「あちらをご覧下さい!」「これは凄いですね」と地味にうるさい。
 服屋に着いてからも「この色は映えますね!」「パーティーに出るなら流行を押さえましょう」と止まる気配がない。パーティにはいい思い出がないので出ません。
 レドラムさんとの買い物は、早まったかもしれない…

 とりあえずレドラムさんのおすすめを完全スルーして自ら選んだ、シンプルだけど生地がいい服を5着程購入した。あとは下着などの小物類。
 黒髪隠し(目立つからね)のウイッグも欲しかったのだが、荷物に入っていた中で一番マシそうなやつを使うことにしたから新調は見送った。
 いい服を選んだのでまあまあのお値段はしたが、後からアーデルハイド殿下に請求することにしたからいいんだ。
 外交費から出すとか税金の無駄遣いダメ絶対!
 因みに前回の報酬としてキュレム衣料商会のオーダー権(チケットに『ドレス優先』と書かれているのは見ないことにしている)を貰ったが、実質タダ働きじゃ?とは思っている。
 今回はアーデルハイド殿下とハロルド様のお二人のせいだから、遠慮なく「私財からですよね」って請求してやる。

 メロメ国の滞在期間を聞いていなかったな。と服を選びながら思い出したのでレドラムさんに聞いたら「交渉の進捗で変わる」とか恐ろしいことを言い放った。
 俺は学生なので定期試験とかあるんですが、その辺の配慮はどうなっているのでしょうかね?

 宿に戻ったら詳しいスケジュールの確認をしよう。

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