この状況には、訳がある

兎田りん

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愛だけで生きていけると思うなよ

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「のこのことやってきやがって!今更戻ってきた所で、私の最愛は変わらない!」

 買い物を済ませ「ゆっくり休むかー」と宿に戻った俺を待ち受けていたのは、レニフェル様御一行。「お待ちしていましたわ」と、あっという間に侍女の皆さんに囲まれた。
 そして、あれよあれよという間にドレスアップさせられて夜会の会場へ連行。そして冒頭の暴言へ。
 パーティには行かないって言ったフラグをその日に回収するのやめてくださいませんかね?

「あの時にも申し上げましたが、戻るつもりなど更々ないのですわ」
 無礼男ブレーメンの一言にメディナツロヒェン嬢が答える。そうか。こいつが話のバンガーブ侯爵令息か。
「メディナツロヒェン様はわたくし達と我が王国に戻るのですわ。本質を見ることの出来ない者がいる国には勿体ない人材ですもの」
 レニフェル様がバックアップに入った所で俺は一歩下がり、侯爵令息のステータスを見る。もちろん弱点を突くためだ。初手暴言は許されないギルティ。

「その程度で優秀とは、そちらの国も大したことないのだな」
 馬鹿にするような言い方が気に障るが、レニフェル様の友として王城に出入りを許可されている時点でメディナツロヒェン嬢は充分有能だぞ?
 アリナ嬢は「聖女様」と持ち上げられまくったのに公式業務(陛下との謁見)以外で王城に入る許可貰えてなかったんだからな?
 メディナツロヒェン嬢の学園生活がどうだったかは知らないが、留学生だからと特別扱いしてる訳じゃ無いはずだ。
「まあ、メロメ国の侯爵程度に我が王国の何が判るというのかしら」
 イラつく気持ちは解りますが、レニフェル様は煽るのを止めて差し上げて下さい。気が散ってステータスに集中できな……あ。はい。そうですか。既視感凄いですね。今更言うのもなんですが、繰り返したくなかった。
 
 あー、これどうしようかなぁ…。とか思っていたら、押し出されていたようでレニフェル様とメディナツロヒェン嬢が後方にいた。
 どうやら侯爵令息が勢いに任せて前に出てくるから下がったようだ。ヤバい奴に(物理的に)近づかないのはいい事だ。できれば煽るのもやめて欲しかった。
 ″存分に喧嘩をふっかけた様ですので、そろそろ撤退されては?″
 レニフェル様に「早く帰りたいです!」という強い思いを込めた視線を送ってみるが、笑顔でサムズアップは要りません。わざとかな?
 3人が揃いのドレスを着ているので、同じ派閥である事は傍から見ても明らか。何故俺の衣装をドレスにした…アーデルハイド殿下め…
 レニフェル様は煽るだけ煽って「後は任せましたわよ」みたいな視線を送ってくる。メディナツロヒェン嬢も平静に見せているが「この状況どう落ち着かせたらいいの…」って困りオーラが見える。
 事を大きくしてから俺に丸投げするのマジでやめて!
 
「……まずはご令息に申し上げます。わたくし共は賓客としてこの場に来ております。挨拶を交わしてもいないのに…突然と言っても過言では無い状況下でそのお言葉。この国の挨拶は我が国の礼節と反する物言いと取られても構わない、と?」
 パーティの主催が出てくる前に場を荒らすとか何やってんの?
「そ、それは…」
 それは…、じゃないよ。そもそもそちらさんがメディナツロヒェン嬢を蔑ろにしたから今の状況になってるんだぞ?
 「他の賓客の方々の前でもあるのですよ。始まる前に夜会を壊すおつもりですか?」
 周囲をよく見て現状を把握しろ。ギャラリーも困ってるし、俺は(この国に着く前から)帰りたいと思っている。
「メロメ国王陛下が主催するこの夜会で、国家の品格を下げる行為をどなたが望むのでしょうか。陛下の入場後、場所を用意していただきましょう」

 ラキアラス王国御一行は今回のパーティに出席の予定はなかった。スケジュール的にまだ到着してないだろうと思われていたからだ。
 当初の予定では到着後【メロメ国王に謁見】→【外交会議】と同時進行で【王女の視察】→【パーティ】だったが、順調すぎる航海で早く着いちゃったから「今回のパーティーで陛下と謁見もしたら?」と急遽参加になったらしい。
 その時俺はお買い物中だったから、完全に事後報告。というか、ドレスアップ後の移動中に聞いた。
 おそらくほとんどの参加者もそんな事情は知らされていないのだろう。だからこんなのが沸いてくる訳で…いや、入場の声聞いてたら判るはず…耳に入らなかったんだろうなぁ…
「………」
 メロメ国王陛下の存在を出したからか、随分と大人しくなったな。いや、周囲の冷ややかな視線にやっと気づいたか?
 令息に張り付いていた女性もこの空気を感じ取ったのだろう。先程まで『殿方に守られるあたくし世の頂点』みたいなドヤ顔してたのに、今では俺を『邪魔すんな』という目で見ている。女性はやっぱり怖いなぁ(前世からの積み重ね)

「状態異常はその時に解いて差し上げます」
 話し合い用の部屋の用意を依頼後、侯爵令息に告げると俺を睨んでいた女性の肩が少し跳ねた。
 バンガーブ侯爵令息の現在の状態は[魅了]。そしてその状態異常を起こしたのは傍らの女性。ステータスで見たから間違いない。
 そして反応したということは、アリナ嬢の様に無意識ではないということ。はい、ギルティ。 
 女性のステータスが一部文字化けしているのは例の乗っ取りの影響だと予想している。
 正体の分からない推定女神(アリナ嬢談)の管轄にあるなら、この世界の創世神の力が及ばないところもあるだろうし。

 とりあえずメロメ国王の入場前に別室移動の誘導まで行けたのは上々。
 外交官の皆さんも少しホッとした顔をしている。レドラムさんは俺の事をキラキラしい目で見るのはおやめ下さい。父上に話したら今後一切構わないからな。

 とりあえず、場を掻き乱したお二方にこれだけは言わねばならない。 
「周りが見えなくなっている困った方々に、この一言を差し上げましょう」
 俺はバンガーブ侯爵令息とその彼女を見つめながら告げる。

「この世の中、愛だけで生きていくのは不可能です」

 それが出来るのは神様だけでしょうね。多分。
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