この状況には、訳がある

兎田りん

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愛だけで生きていけると思うなよ

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「神託の御子なんて知らない!ねえ、私を守って!」
「リナリアは俺たちが守る!」
「誰にも渡しません」
 新キャラクター、ミーコちゃんが爆誕してしまった衝撃(俺だけに発生)の中、リナリア嬢が愉快な仲間たちに声を掛ける。
 声一つで自在に動かすとか、もう魅了じゃなくて洗脳では?
「私たちには子どももいるのよ!今の暮らしを奪わせないわ!」
 子どもを盾にするな。俺の平穏も護らせろ。
「…その子、バンガーブ侯爵の血族ですか?」
 不倫ものでたまにある「俺の子だって言ったから結婚したのに!」展開。「いやそんなまさかな」という気持ちで言ったのにリナリア嬢の肩が跳ねるとかマジ?
 愉快な仲間たちが全員前にいてよかったですね。

「子が居れば判ったりする?」
 様子を見ていたレニフェル様がそっと聞いてくる。
「出来なくはないと思いますがしたくないですね」
 あ、いなくても判りそうですラキアータ様リアルタイムアップデート止めてください俺がリアタイで困っています。
 on状態にしていた愉快な仲間たちへのステータス表示が動き出したのでoffにする。君らの閨事情なんか知りたくないし見たくもない。
 とりあえずバンガーブ侯爵令息の子じゃないことは判った(見えてしまった)
「その辺のことは…皆様の意識を正常に戻してから致しましょう」
 使うのは『魅了解除ディスチャーム』と『魔法解除ディスペル』どっちがいいかな?面倒臭いから『全解除オールクリア』でいいよね。

「やめて!アンタアタシになんの恨みがあってそんな酷いことするのよ!」
 酷いのはそちらでは?
「え?禁術の方が酷くない?」
 レニフェル様、俺らも思ったけど突っ込んじゃうと長くなるからお口にはチャックね。
「わたくしの平穏を荒らした罪くらいは償っていただかないと」
 だってこれ解決しないと帰れないんでしょ?
 これをネタに外交を有利に運んで、早々に利益叩き出してウィー君没収しに行くんだ。
「ねえ!何やってんの?アイツ止めてよ!切っちゃえ!」
「………は?」
「前に進めない、だと?」
「足が動きません!」
 リナリア嬢が動かない愉快な仲間たちに「はよ行け!」とばかりに声を掛けるが、愉快な仲間たちは動かない。
「皆様の動きは制限させていただいております」
「何をした?」
「魔法ですか!」
 自由が奪われて思考がフリーズしていたのだろうか。困惑した愉快な仲間たちが一拍置いた後、次々と反応を示す。
 何かアレ…そうそう、回線弱いとこで観るネット動画のラグみたいだ。ちょいちょいNow Loadingする昔のディスクゲームとか。

「こちらは非武装の貴族子女です。数でも劣っていますし、この位の自衛は当然ですよね」
 前回のグローデン領に遠征に行く際に使い方を覚えた魔法&スキルの一つ、影縫いがここで活きました!あの時は突然出てきたモンスターに追われて使うのを忘れていたから、リベンジ成功でしょう。状況は随分違うけど、まあそこはご愛嬌。笑顔で乗り切りましょう。
 ついでに「光あるところに影あり…」とか言ったらイケて………ないな?今の衣装だと台無しだな?これは黒づくめで左手に包帯を巻いて言うセリフだったな!危うく痛々しい子になる所だった。気づいてよかった!
 …まあ、諸々は全て脇において、解除魔法ですよ。
 ステータスから派生した魔法ガイドによると、魔力を指示された形に構築出来れば特別な詠唱は要らないという方法がある…と。
 傍から見ると無詠唱になりそう。なんだそれかっこいいな。慣れたらタイムロス無しで出来るかもしれない。まずはやってみよう。

「止めてよ!アンタ聖女なんでしょ?神の使徒がそんなことして許されると思ってんの?」
 残念。ミーコちゃん(仮)は聖女じゃないでーす。女子でもないでーす。
 俺が本格的に解除魔法の準備に入ったのを感じたのだろう。リナリア嬢の焦りが言葉に乗ってきた感がする。
「神が貴女の味方である保証はどこにもありません」
 そもそも俺の味方でもないと思っていますが何か?
「何でアンタにそんな事判るのよ!」
「貴女は箱庭の砂一粒の変化に気がつけますか?」
 創世神ラキアータ様がそんな細やかな神様じゃないのは、構われまくっている俺には判る。
 誰かが「お願い!」ってメッセージ送っても、興味が湧かなかったら「自分たちでどうにかできるでしょ?」って返すお方ですが?むしろ返事がきたら「お返事が来たぞー!」って可否関係なく大喜びされちゃうご身分ですよ?「面倒ですよね?」と9割スルーするお方ですからね?
 人の国の王様でさえ自国の民一人一人の声を聞くの大変(というか物理的に無理)なのに「神様ならできる!」というのは謎理論ですよね?

「少なくともこの国で多く信仰されている愛の女神サヴィーニア神は、貴女のやり方を是としていません」
 お会いしたサヴィーニア様は、家族愛の女神だった。愛しい家族を壊す行為は「愛」の言葉を盾にしても許されないだろう。
 さあ、このタイミングで魔力が整いました!

「愛の女神からの神託です<愛しいものは、自分を磨いて掴み獲りましょう!>」
 魅了なんて偽りの力に縋ることなく、己の力のみで挑みなさい。ここは貴女のゲーム世界ではなく、私達の現実世界です!

 サヴィーニア様なら多分こう言うだろうな、というセリフと共に全解除オールクリアの魔法を発動する。
 輝く魔法陣(魔力構築の時に作った形と同じもの)が俺たちの足元に現れ、俺たちを包む様に頭上へと移動。その後、ハラハラと光の粒になって降り注ぎながら消えていった。
 自分で発動させたけど、凄いな。幻想的な光景だ。ここは魔法がある世界なんだなと実感した。まるで光魔法みたいだ。
 消えゆく光の粒を見ていたら、ふわりとピンクのハートが落ちてきた。手のひらに受け止めるとほんのり暖かく、柔らかな輪郭を残して消えた。
 サヴィーニア様の名を使った事のお許しが出たような気がする。

 ステータスに【仮の身分】の項目が追加され、そこに【神託の御子ミーコ】<必要に応じて神の言葉を代弁し、裁きや祝福を与える者>とかいう詳細項目まで付いているのを俺が見つけて愕然とするのはもう少し後の事。
 神託回数に【サヴィーニア1】とか書かれていたので、多分まだ増えそう(増えて欲しくない)
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