この状況には、訳がある

兎田りん

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愛だけで生きていけると思うなよ

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 光の粒が消えた後の室内は、続いているであろうパーティの音も聞こえないくらい静かだった。
 崩れ落ちたままの姿で呆然としているリナリア嬢。
 驚きと困惑を隠せないまま動きが止まった愉快な仲間たち。
 魔法の余韻に瞳を輝かせるレニフェル様。
 何を思ったのだろうか、メディナツロヒェン嬢は声もなくハラハラと涙を流している。
 なんだろうこの状況は。
 俺だけ完全部外者だからだろうけど、居心地が悪すぎる。

「王女殿下、そろそろ戻りましょうか」
 何したらいいのかとか全く聞かされずにここまできてしまったが、できることはやった。レニフェル様も今のところ大人しいのでセーフ。
 後は各々で判断をするべきだろう。皆、いい大人なのだから。
 だからもう帰りましょう。帰らせて。
「そうね。こちらから話すことは元々なかったのだけど、向こうからの話ももうないでしょうし」
 レニフェル様の一声の元、俺たち三人は何事も無かったかのように部屋を出た。
 メディナツロヒェン嬢の表情は、どこか晴れやかだ。会場でバンガーブ侯爵令息と遭遇した際に一瞬見えた苦しげな雰囲気も今は感じない。ここまででうまく心の整理がついたのであれば、俺も強制出動した甲斐があったというもの。
 レニフェル様が何かを言いたげな目をしていたので、こちらからは「話は後で聞きます」と視線で返した。
 今は速やかに宿に帰ることを優先しましょうね。

 会場に戻ったら、パーティはもう終盤だった。結構時間経ってたんですね。
 メロメ国王陛下も下がった後だったため、会場に残っていた第一王子に今宵の礼と明日からの会合をよろしくお願いしますという旨の言葉を残して俺たちは会場を辞した。
 この辺りのやり取りはレニフェル様が流石のこなれ感でやり切ってくれた。慣れている人がやると早くていいですね。

「弟が迷惑をかけたね」
 辞する際、第一王子が俺だけに聞こえる様に言った。
 メロメ国産愉快な仲間たちと別室で相対したという報告を受けていたのだろう。
 こちらも隠している訳では無い(隠すほどでもない)ので「お大事になさいませ」と小さく返す。今頃何かしらの揉め事が発生してるはずなので、フォローしてやってくださいね。という意味も込めた。
 弟王子の暴走を兄王子がフォローするとか、我が国でもあったので他人事とは思えな…いや、巻き込まれた俺としては他人事であって欲しかったな。
 俺だけに聞こえるようにしたのは、レニフェル様他国の王族 メディナツロヒェン嬢当事者では色々と角が立つからという配慮だろう。
 まあ、「正気に戻れ」の一撃(魔法)を食らわせたのは俺だったんだが…そこは関係ないか。
 弟君が人の話を聞ける王子になってたらいいですね!(希望)

 宿に戻った俺は早々にドレスを脱ぎ装備を解除し美少年元の姿に戻った。
 やっぱりシャツとズボンは楽でいい。ドレスやヒールはもう装備したくない。
 レニフェル様とメディナツロヒェン嬢に「まだそのままでいいでしょう?」とごねられたが、無理なものは無理だ。
「船旅から即パーティでお疲れでしょう?皆様も早々にお休みください」
 明日からは外交官の皆さんが頑張る会合が始まるから、レニフェル様を筆頭にしたお偉いさん方チームwith俺は時間に余裕があるはず。話は今じゃなくてもいいでしょう?
 何も言わずに(心と体を)休ませて欲しい。
「むー、でもー」
 レニフェル様が不満げに唇を尖らせる。
「睡眠不足はお肌の大敵と聞きます。おやすみなさいませ」
 粘られると面倒なので、我先に寝室へ滑り込んだ。
 これで俺もゆっくり眠れる。

「ファルっち!ぼくだよ!」
 …………と思っていられたのは、ほんの僅かな時間だけでした。
 馴染みのある真っ白な空間。いるのは俺とニコニコ微笑むラキアータ様。そして俺の胴にしがみついてはしゃぐちびっ子、自由の神ファリタム様。
 ところで「ファルっち」って俺の事ですか?初めて言われたんですけど。
「ファリタム様、ご無沙汰しております。こちらへ来る時以来ですかね?」
「え?ちょ、そんなはじめましてやめて?ファリたんでいいよアミーゴ」
 待って、何そのキャラ?(一度しか遭遇してないけど)前そんなんじゃなかったよね?

「ファリタムは色々な情報を吸収している最中なんだよ」
「ノプロだよファルっち。ぼくはファリたん、オーケー?」
 何事もないように語るラキアータ様と、チチチ…という音と共に人差し指を振ってみせるファリタム様ことファリたん。
「……何か色々バグってません?」
 言葉とか距離感とか色々おかしい気がするんですけど。
 でもまあ、可愛い幼児が抱きついてくるのは懐かれている様で悪い気はしない。
「ファルっちは、ぼくのこときらい?」
「……っ!かわ…!」
 キラキラの大きい瞳が上目遣いで見つめてくる。御自身が可愛いの解っててやってるのが何ともあざとかわいい!

「…で、お呼ばれした理由は何でしょうか?」
 ファリたんのインパクトに押されてしまったが、俺はゆっくり休みたいと思っていたんだ。神部屋に招かれたら(心が)休めないじゃないか!
「君がサヴィーニアから加護を受けたと聞いたファリタムが「ぼくも!」と乗り込んできたんだ」
「ぼくのほうがファルっちとさきにあってたのに、ヴィーねえがかごつけるとかマジずるー」
 うん?判らない単語もあったけど、要は「加護付けに来た」と?それ俺呼ばなくてもよくない?
「だから、とっときのやつつけた!」
 うっ!笑顔が眩しい!これが神の力か!
「加護は競って付けるものではありませんよ」
 ラキアータ様保護者、もっと言って差し上げて下さい。あと、貴方様はお小遣い感覚て俺にあれこれ付けるの止めてくださいね。
 俺のステータス画面凄いことになってるんですから。

 折角だから今確認しておこう。と開いたら、加護の欄に「ファリタムの心友」が追加されていた。
「心……友……?」
「ぼくらマブだもんね!」
 あれか?「お前の物は俺のもの」ってリサイタルするあのキャラが感涙と共に「心の友よ!」ってやるアレか?
 いつ認定された?
「………はっ!まさか!」
 ここでふと思い出した。レニフェル様がメディナツロヒェン嬢のことを「しんゆう」と言っていたことを。俺は「親友」だと思っていたけど、正解は「心友」…?

「波長が合う子が私達の知識を覗き見ることがあります」
 ……情報の取捨選択って大事ですね。
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