この状況には、訳がある

兎田りん

文字の大きさ
69 / 153
愛だけで生きていけると思うなよ

20

しおりを挟む
 今世での俺の家、メロディアス侯爵家の起こりはラキアラス王国の建国まで遡る。王国を起こしたメンバーがメロディアス家の祖なのだそうだ。
 建国時点で平民だったご先祖さま。本来なら王族に準ずる地位と領地を賜るところだが「地位も領地も要らない」とか言ったとか言わないとか。潔良いというか、単にしがらみが面倒だったのか。
 その辺は昔の文献からの情報なので真実は判らないが、英雄の一族が低い地位というのもあんまりだと領地なしで侯爵に。
 領地がなくても生活だけはできるようにと立派な屋敷を賜った。
 それが現在メロディアス侯爵家が住んでいる敷地のだだっ広い豪邸だ。
 後は能力に応じた職を…当時は貰っていたかもしれないが、子々孫々はそれぞれ適性があったはずなので就職のコネはもう消えているだろう。家名で多少の融通は効くかもしれないが。俺にもコネ効くかなぁ…
 今まで一族で身を持ち崩す程の散財ややらかしをする奴が出なかったのは幸いというべきか。身の丈にあった生活ができる子孫が連なったおかげで今もなかなかいい暮らしが出来ています。ありがとうご先祖さま。

「メロディアスの一族は代々王族のご意見板みたいな扱いだから、多少のことは聞き飛ばして貰えるものね」
「それは知りませんでした」
「知らなくてその物言いなのも血筋というべきかな?」
 本当に「物申す権利」持ってるの?アーデルハイド殿下の王族ジョークじゃないよね?
 後から「冗談だったのに」ってやられそうで怖いんですけど。
「僕もそれは知らなかったなぁ」
 聞きなれた声が割り込んできた、と思ったら父上だった。気づかなかった。いつの間に?我が父ながら謎の多いお方だ。
「陛下から「あの家の初代は地位も名誉も要らないから物申す権利だけ寄越せ」と言ったのが今も続いているから、言いたいだけ言わせたらいい。と聞いています」
 なんだそれ?
「本気でダメな時は陛下も圧を飛ばしてくるから、そこだけ気をつければいいもんね」
 いいの?
 父上の乱入でアーデルハイド殿下の雰囲気が少し対外に寄った気がする。
 対する父上はいつも通り。会話のお相手は我が王国の王太子殿下ですよ?
「ええ。メロディアス家は堅実で奔放な忠臣の家系ですから。是非ともファルムファス君を私の側近になって頂きたい」
「それはいつもお断りしています」
 現時点でこれだけ負荷がかかっているのに、直属になったらもっと大変になるんでしょう?それは嫌です。
「陛下も僕によく「私の右腕はいつも空いている」って誘って来るけど、僕は家族の時間の方が大切だからお断りしているよ」
 さすが父上。陛下にも王太子にもNOと言えるって凄い。
「さすが陛下。私も見習う事にしよう」
 今の会話のどこに見習うところが?

「ファルム君、今なら私の胸が空いているよ。さあ、飛び込んでおいで」
 立ち上がり、両手を広げたアーデルハイド殿下。それは見習わなくていい所ですね。
「ポーニッツ卿、今です」
「さあ帰りましょうね」
 俺の一声でロシェル様がアーデルハイド殿下を確保。そのまま連れて帰って。どうぞ。
「なっ!ロシェル!裏切ったな?」
「裏切りではありません。私は常に、職務を優先するだけです」
 アーデルハイド殿下の執務室は、見事な書類の山がそびえ立っているのでしょうね。
「するべき公務が溜まっているんですよ」
「嫌だ嫌だ!私はウィー君と一緒じゃないと帰らないぞ!」
 成人の駄々っ子はみっともないですよ。まだ中毒症状抜けてないんですか。

「お求めのかわい子ちゃんは、こちらですよ」
 あ、母上。いつ部屋に入ってきたんですか?
「ウィーくぅぅぅん!」
 ロシェル様に羽交い締めされたアーデルハイド殿下がもがくが抜け出せない。護衛を兼ねている騎士なのだから、隙をつかないと無理でしょうね。
 ウィー君へと伸ばした手が見事に空を切っていますね。
「僕のかわい子ちゃんはリオちゃんだけさ」
「私の天空の輝きはアルだけですわ」
 この状況でも見せつけてくれるとか、メンタル鋼か。
 母上の言った「天空の輝き」とは、王都で流行っているオペラのセリフだ。
 女性主人公が「愛しい唯一の人」という意味を込めて男性主人公を呼んだのを「なにそれ素敵!」と、観た女性陣が使い始めてあっという間に流行った。
 俺は観ていないから、全て母上の受け売りなのだが。それにしても口コミって凄い。
 恋愛映画とかムズムズして苦手なんだよね。劇はまた違う感覚なんだろうか。
「………いつもこうなの?」
 熱烈な両親に当てられて冷めたのか。アーデルハイド殿下が尋ねてくる。
「人前なのでいつもより軽めですね」
 ウィー君も緩衝材になっているのだろうか。その場でチュッチュし始めないだけマシだよね、とは思う。
「コレで軽め…」
 ロシェル様が「結婚するってこういうことか…?」と絶句している。
 確かに独身には目に毒な風景ですよね。俺も両親じゃなければ「爆発しろ!」って走り去るところです。
「メロディアス家の日常なので、見慣れました」
「コレを見せられてしまったら「家族の時間優先」主義も納得です」
 でしょう?
「そんなことより私にウィー君を返して!」
「両親が落ち着くまでお待ち下さい」
 別室にお茶の用意が整った様なので、「再開してしまった以上、離れるなんてありえない!」とごねるアーデルハイド殿下とロシェル様を案内する。
 ああなったらしばらく放置するしかないですもの。
 そんなことより帰る度に思うんだけど、我が家の使用人達が有能すぎて好き。

 両親が晴れやかな顔で俺たちの待つ部屋にきたのは一時間位経った頃だろうか。お客様とウィー君の効果か、いつもより早かったですね。
「あのまま寝室に行くルートもありました」
 ガッツリ間近で見せつけられたウィー君も、なんだかお疲れな表情をしている(気がする)。
「君の家族が私の想像を超えてきた…」
 俺とエンカウントした王族の皆様(アーデルハイド殿下含む)も大概ですよ?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄? そもそも君は一体誰だ?

歩芽川ゆい
ファンタジー
「グラングスト公爵家のフェルメッツァ嬢、あなたとモルビド王子の婚約は、破棄されます!」  コンエネルジーア王国の、王城で主催のデビュタント前の令息・令嬢を集めた舞踏会。  プレデビュタント的な意味合いも持つこの舞踏会には、それぞれの両親も壁際に集まって、子供たちを見守りながら社交をしていた。そんな中で、いきなり会場のど真ん中で大きな女性の声が響き渡った。  思わず会場はシンと静まるし、生演奏を奏でていた弦楽隊も、演奏を続けていいものか迷って極小な音量での演奏になってしまった。  声の主をと見れば、ひとりの令嬢が、モルビド王子と呼ばれた令息と腕を組んで、令嬢にあるまじきことに、向かいの令嬢に指を突き付けて、口を大きく逆三角形に笑みを浮かべていた。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

その国が滅びたのは

志位斗 茂家波
ファンタジー
3年前、ある事件が起こるその時まで、その国は栄えていた。 だがしかし、その事件以降あっという間に落ちぶれたが、一体どういうことなのだろうか? それは、考え無しの婚約破棄によるものであったそうだ。 息抜き用婚約破棄物。全6話+オマケの予定。 作者の「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹が登場。というか、これをそっちの乗せたほうが良いんじゃないかと思い中。 誤字脱字があるかもしれません。ないように頑張ってますが、御指摘や改良点があれば受け付けます。

乙女ゲームはエンディングを迎えました。

章槻雅希
ファンタジー
卒業パーティでのジョフロワ王子の婚約破棄宣言を以って、乙女ゲームはエンディングを迎えた。 これからは王子の妻となって幸せに贅沢をして暮らすだけだと笑ったゲームヒロインのエヴリーヌ。 だが、宣言後、ゲームが終了するとなにやら可笑しい。エヴリーヌの予想とは違う展開が起こっている。 一体何がどうなっているのか、呆然とするエヴリーヌにジョフロワから衝撃的な言葉が告げられる。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様・自サイトに重複投稿。

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!

宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。 前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。 そんな彼女の願いは叶うのか? 毎日朝方更新予定です。

処理中です...