この状況には、訳がある

兎田りん

文字の大きさ
70 / 153
愛だけで生きていけると思うなよ

21

しおりを挟む
「はァァァ…ウィー君…ウィー君だあああ…」
 両親の間から逃れたウィー君は、休む間もなくアーデルハイド殿下に吸われている。
 兎(?)なのにチベスナみたいな表情になってますよ。目につや消し振りました?
「ねぇ見て?ウィーちゃんのもふもふに負けないくらいのリボンゲットしたの!」
 アーデルハイド殿下のウィー吸いという初見の人はおそらくドン引きであろう行為を視界に収めながらも、自分のペースを全く崩す気のない母上が一本のリボンを俺に差し出す。
 ああ、確かにこれはいい手触りですね。
 表現は難しいけど、高級列車のシートみたいな…いやそれもどうかと…
「軽さと薄さが信じられない位の手触りですね」
「そうなの!ウィーちゃんを飾っても手触りが損なわれないものってなかなかないのよ」
「私のウィー君は世界一ですから」
 キリッとした表情で言ってくれましたが、アーデルハイド殿下の顔面はウィー君の毛だらけです。その毛がなければ額装待ったナシだった。
 神は何故「残念イケメン」というジャンルを世に放ったのか…

「わたくしが来ましたわ!」
 アーデルハイド殿下と母上が「手触りもだけど着けたウィーちゃんに負担にならないこの軽さ!良いと思わない?」「実に素晴らしい!メロディアス夫人、取扱店を教えて頂けないか?」などとウィー君の衣装について盛り上がっている最中、扉がバーンと(いう効果音がつく勢いで)開かれた。
 俺、こんな光景をこないだの遠征で見た。いや、見たというか目の前でやられた。
 記憶が薄れる前に上書きしてくるとか、止めてもらっていいですか?
「レニフェル!」
 入室者の姿を見たアーデルハイド殿下が母上との会話を中断させて立ち上がる。
 この状況下において、会話の中心(物理)に据えていたはずのウィー君をしっかりと胸に抱いているのは流石というべき?
 そう。護衛を撒いて姿を晦ましたレニフェル様が、何故か我が家に突撃してきたのだ。
 捜していた従姉妹が訪問先に突然現れたら流石にびっくりするよね。
「あら?アーデルハイド兄様もいらしてたのね」
「何をしにここに来た?いや、護衛を振り切って何処へ行っていたのだ?」
 ウィー君を抱きかかえた状態のアーデルハイド殿下がレニフェル様に詰め寄る。
 その答えは俺も聞きたい。特に前半部分。マジで何しに来たの?我が家は王族が単騎突撃してくるような場所ではございませんが。

「護衛とか連れてると好きなとこ回れないでしょ?」
「…王族の立場を学び直させる必要がありそうだね?」
 我が家のできる使用人達が速やかにセッティングしたお茶(俺たちにはおかわりが来た)をゆっくり飲みながら、レニフェル様が「当然でしょ?」みたいな顔でのたまい、アーデルハイド殿下が頭を抱える。いや、そう見せかけてウィー君を吸ってる。気持ちは解る。
「一人でやってもらっても困るが、メロメ国からの客人を巻き込んで撒くのは国の問題になるから止めなさい。特に今回は第五王女も一緒だったそうじゃないか」
 メディナツロヒェン嬢だけじゃなく、イニフィリノリス王女様も同行した状態で護衛撒いたのか。ある意味凄いな。
 割と治安のいい王都ですが、身分が身分なので護衛撒くとか(近衛の皆様が)ちょう迷惑するのでマジで止めて差し上げて下さいね。
 俺は心の底から同意したアーデルハイド殿下の正論パンチ。レニフェル様には全然効いてない模様ですよ?
「撒かれる近衛が悪いと思うの。あ、このタルト美味しい」
「撒くな。撒こうともするな。私はこのクッキーサンドが好みだ」
 話、擦り変わって行ってますよ?
 多分これ、アーデルハイド殿下がこの場での深掘りを止めた感じだな。確かに連れ帰って陛下に叱ってもらうのが一番だろう。ハロルド様は…叱らないだろうしなぁ…

「レニフェル様は本日、どのようなご要件で我が家にお越しになられたのでしょう」
「もっと簡潔に」
「何しに来ました?」
 あ、こんなやり取りも前にした記憶があるな。
「遊びに来たのよ」
 来ないで。せめてアポイント取ってから来て。小学生でも「帰ったら遊ぼうぜ!家に行くよ!」位言えるよ?
「アーデルハイド殿下連れてお帰り下さい?」
「いい笑顔で私まで追い出そうとしないで欲しいな」
 一緒にご退場願いたかったのだけど…何時までいる気ですか?
 まだ居座る姿勢の王族二人に対し、ロシェル様が心底残念そうなお顔をされている。
 お仕事溜まっているって言ってましたもんね。早く帰って減らして貰いたいですよね!俺も早く帰って欲しいから協力しますよ!
 目と目が逢うその瞬間に、同盟が組まれた気がした。

「護衛を撒いてまで行きたい場所があるのですか?」
 アーデルハイド殿下はウィー君をロシェル様に「Heyパース!」したら即退場出来そうなので、レニフェル様から攻めてみようと思います。
 遊びに行く場所聞いておけば、避けることもできるし、護衛の皆様が現地で確保が出来ますからね。
「乙女の秘密を暴く気ね?」
「秘密は「ある」と知られた時点で効力の半分を失います」
 本当に秘密にしたいものは、気配すら周囲に気づかせてはならないのですよ?
 リア充系同僚にオタバレして心に傷を負った俺の実体験だからね?バレるからね?そして奴らはどんなにライトなオタクでもバカにしてくるからね?大人もアニメやゲーム好きでいいじゃない?なんでドラマは良くてアニメはダメなんだよ?有名どころじゃないゲームしてたらオタク扱いとか何様か?他に振りまいたりしてないなら、あえて掘り起こす必要ないよね?自分達が楽しむためなら他は落としていいとかいう奴らは滅したらいい………あ、いや、話随分逸らしたな…ヤダヤダ、ウィー君吸わせて下さい。

「真理をついてきたね」
「ファルム様大丈夫?年齢詐称してない?本当は老賢者でしょ?」
 俺が自分で言ってセルフ闇堕ちしかけた秘密云々のツッコミに、いい顔で食いついてくるな。
 俺は人生(ほぼ)二週目だけど、肉体年齢はピチピチの13歳(もうすぐ誕生日)だから、詐称ではないです。レニフェル様より年下で間違いないです。
「詐称していない事は出生記録を見ていただけるとハッキリするかと」
 精神年齢は…傍からは見えないからセーフ。
「乙女とかいいから教えてください」
「いやだバッサリいかれたわ」
「そこがいいんだよ。ね?ウィー君」
「(ふすふす)」
 ウィー君、俺のダークサイドな気配を察してこっち見つめるの止めて。可愛い。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄? そもそも君は一体誰だ?

歩芽川ゆい
ファンタジー
「グラングスト公爵家のフェルメッツァ嬢、あなたとモルビド王子の婚約は、破棄されます!」  コンエネルジーア王国の、王城で主催のデビュタント前の令息・令嬢を集めた舞踏会。  プレデビュタント的な意味合いも持つこの舞踏会には、それぞれの両親も壁際に集まって、子供たちを見守りながら社交をしていた。そんな中で、いきなり会場のど真ん中で大きな女性の声が響き渡った。  思わず会場はシンと静まるし、生演奏を奏でていた弦楽隊も、演奏を続けていいものか迷って極小な音量での演奏になってしまった。  声の主をと見れば、ひとりの令嬢が、モルビド王子と呼ばれた令息と腕を組んで、令嬢にあるまじきことに、向かいの令嬢に指を突き付けて、口を大きく逆三角形に笑みを浮かべていた。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

その国が滅びたのは

志位斗 茂家波
ファンタジー
3年前、ある事件が起こるその時まで、その国は栄えていた。 だがしかし、その事件以降あっという間に落ちぶれたが、一体どういうことなのだろうか? それは、考え無しの婚約破棄によるものであったそうだ。 息抜き用婚約破棄物。全6話+オマケの予定。 作者の「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹が登場。というか、これをそっちの乗せたほうが良いんじゃないかと思い中。 誤字脱字があるかもしれません。ないように頑張ってますが、御指摘や改良点があれば受け付けます。

乙女ゲームはエンディングを迎えました。

章槻雅希
ファンタジー
卒業パーティでのジョフロワ王子の婚約破棄宣言を以って、乙女ゲームはエンディングを迎えた。 これからは王子の妻となって幸せに贅沢をして暮らすだけだと笑ったゲームヒロインのエヴリーヌ。 だが、宣言後、ゲームが終了するとなにやら可笑しい。エヴリーヌの予想とは違う展開が起こっている。 一体何がどうなっているのか、呆然とするエヴリーヌにジョフロワから衝撃的な言葉が告げられる。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様・自サイトに重複投稿。

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!

宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。 前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。 そんな彼女の願いは叶うのか? 毎日朝方更新予定です。

処理中です...