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愛だけで生きていけると思うなよ
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「はァァァ…ウィー君…ウィー君だあああ…」
両親の間から逃れたウィー君は、休む間もなくアーデルハイド殿下に吸われている。
兎(?)なのにチベスナみたいな表情になってますよ。目につや消し振りました?
「ねぇ見て?ウィーちゃんのもふもふに負けないくらいのリボンゲットしたの!」
アーデルハイド殿下のウィー吸いという初見の人はおそらくドン引きであろう行為を視界に収めながらも、自分のペースを全く崩す気のない母上が一本のリボンを俺に差し出す。
ああ、確かにこれはいい手触りですね。
表現は難しいけど、高級列車のシートみたいな…いやそれもどうかと…
「軽さと薄さが信じられない位の手触りですね」
「そうなの!ウィーちゃんを飾っても手触りが損なわれないものってなかなかないのよ」
「私のウィー君は世界一ですから」
キリッとした表情で言ってくれましたが、アーデルハイド殿下の顔面はウィー君の毛だらけです。その毛がなければ額装待ったナシだった。
神は何故「残念イケメン」というジャンルを世に放ったのか…
「わたくしが来ましたわ!」
アーデルハイド殿下と母上が「手触りもだけど着けたウィーちゃんに負担にならないこの軽さ!良いと思わない?」「実に素晴らしい!メロディアス夫人、取扱店を教えて頂けないか?」などとウィー君の衣装について盛り上がっている最中、扉がバーンと(いう効果音がつく勢いで)開かれた。
俺、こんな光景をこないだの遠征で見た。いや、見たというか目の前でやられた。
記憶が薄れる前に上書きしてくるとか、止めてもらっていいですか?
「レニフェル!」
入室者の姿を見たアーデルハイド殿下が母上との会話を中断させて立ち上がる。
この状況下において、会話の中心(物理)に据えていたはずのウィー君をしっかりと胸に抱いているのは流石というべき?
そう。護衛を撒いて姿を晦ましたレニフェル様が、何故か我が家に突撃してきたのだ。
捜していた従姉妹が訪問先に突然現れたら流石にびっくりするよね。
「あら?アーデルハイド兄様もいらしてたのね」
「何をしにここに来た?いや、護衛を振り切って何処へ行っていたのだ?」
ウィー君を抱きかかえた状態のアーデルハイド殿下がレニフェル様に詰め寄る。
その答えは俺も聞きたい。特に前半部分。マジで何しに来たの?我が家は王族が単騎突撃してくるような場所ではございませんが。
「護衛とか連れてると好きなとこ回れないでしょ?」
「…王族の立場を学び直させる必要がありそうだね?」
我が家のできる使用人達が速やかにセッティングしたお茶(俺たちにはおかわりが来た)をゆっくり飲みながら、レニフェル様が「当然でしょ?」みたいな顔でのたまい、アーデルハイド殿下が頭を抱える。いや、そう見せかけてウィー君を吸ってる。気持ちは解る。
「一人でやってもらっても困るが、メロメ国からの客人を巻き込んで撒くのは国の問題になるから止めなさい。特に今回は第五王女も一緒だったそうじゃないか」
メディナツロヒェン嬢だけじゃなく、イニフィリノリス王女様も同行した状態で護衛撒いたのか。ある意味凄いな。
割と治安のいい王都ですが、身分が身分なので護衛撒くとか(近衛の皆様が)ちょう迷惑するのでマジで止めて差し上げて下さいね。
俺は心の底から同意したアーデルハイド殿下の正論パンチ。レニフェル様には全然効いてない模様ですよ?
「撒かれる近衛が悪いと思うの。あ、このタルト美味しい」
「撒くな。撒こうともするな。私はこのクッキーサンドが好みだ」
話、擦り変わって行ってますよ?
多分これ、アーデルハイド殿下がこの場での深掘りを止めた感じだな。確かに連れ帰って陛下に叱ってもらうのが一番だろう。ハロルド様は…叱らないだろうしなぁ…
「レニフェル様は本日、どのようなご要件で我が家にお越しになられたのでしょう」
「もっと簡潔に」
「何しに来ました?」
あ、こんなやり取りも前にした記憶があるな。
「遊びに来たのよ」
来ないで。せめてアポイント取ってから来て。小学生でも「帰ったら遊ぼうぜ!家に行くよ!」位言えるよ?
「アーデルハイド殿下連れてお帰り下さい?」
「いい笑顔で私まで追い出そうとしないで欲しいな」
一緒にご退場願いたかったのだけど…何時までいる気ですか?
まだ居座る姿勢の王族二人に対し、ロシェル様が心底残念そうなお顔をされている。
お仕事溜まっているって言ってましたもんね。早く帰って減らして貰いたいですよね!俺も早く帰って欲しいから協力しますよ!
目と目が逢うその瞬間に、同盟が組まれた気がした。
「護衛を撒いてまで行きたい場所があるのですか?」
アーデルハイド殿下はウィー君をロシェル様に「Heyパース!」したら即退場出来そうなので、レニフェル様から攻めてみようと思います。
遊びに行く場所聞いておけば、避けることもできるし、護衛の皆様が現地で確保が出来ますからね。
「乙女の秘密を暴く気ね?」
「秘密は「ある」と知られた時点で効力の半分を失います」
本当に秘密にしたいものは、気配すら周囲に気づかせてはならないのですよ?
リア充系同僚にオタバレして心に傷を負った俺の実体験だからね?バレるからね?そして奴らはどんなにライトなオタクでもバカにしてくるからね?大人もアニメやゲーム好きでいいじゃない?なんでドラマは良くてアニメはダメなんだよ?有名どころじゃないゲームしてたらオタク扱いとか何様か?他に振りまいたりしてないなら、あえて掘り起こす必要ないよね?自分達が楽しむためなら他は落としていいとかいう奴らは滅したらいい………あ、いや、話随分逸らしたな…ヤダヤダ、ウィー君吸わせて下さい。
「真理をついてきたね」
「ファルム様大丈夫?年齢詐称してない?本当は老賢者でしょ?」
俺が自分で言ってセルフ闇堕ちしかけた秘密云々のツッコミに、いい顔で食いついてくるな。
俺は人生(ほぼ)二週目だけど、肉体年齢はピチピチの13歳(もうすぐ誕生日)だから、詐称ではないです。レニフェル様より年下で間違いないです。
「詐称していない事は出生記録を見ていただけるとハッキリするかと」
精神年齢は…傍からは見えないからセーフ。
「乙女とかいいから教えてください」
「いやだバッサリいかれたわ」
「そこがいいんだよ。ね?ウィー君」
「(ふすふす)」
ウィー君、俺のダークサイドな気配を察してこっち見つめるの止めて。可愛い。
両親の間から逃れたウィー君は、休む間もなくアーデルハイド殿下に吸われている。
兎(?)なのにチベスナみたいな表情になってますよ。目につや消し振りました?
「ねぇ見て?ウィーちゃんのもふもふに負けないくらいのリボンゲットしたの!」
アーデルハイド殿下のウィー吸いという初見の人はおそらくドン引きであろう行為を視界に収めながらも、自分のペースを全く崩す気のない母上が一本のリボンを俺に差し出す。
ああ、確かにこれはいい手触りですね。
表現は難しいけど、高級列車のシートみたいな…いやそれもどうかと…
「軽さと薄さが信じられない位の手触りですね」
「そうなの!ウィーちゃんを飾っても手触りが損なわれないものってなかなかないのよ」
「私のウィー君は世界一ですから」
キリッとした表情で言ってくれましたが、アーデルハイド殿下の顔面はウィー君の毛だらけです。その毛がなければ額装待ったナシだった。
神は何故「残念イケメン」というジャンルを世に放ったのか…
「わたくしが来ましたわ!」
アーデルハイド殿下と母上が「手触りもだけど着けたウィーちゃんに負担にならないこの軽さ!良いと思わない?」「実に素晴らしい!メロディアス夫人、取扱店を教えて頂けないか?」などとウィー君の衣装について盛り上がっている最中、扉がバーンと(いう効果音がつく勢いで)開かれた。
俺、こんな光景をこないだの遠征で見た。いや、見たというか目の前でやられた。
記憶が薄れる前に上書きしてくるとか、止めてもらっていいですか?
「レニフェル!」
入室者の姿を見たアーデルハイド殿下が母上との会話を中断させて立ち上がる。
この状況下において、会話の中心(物理)に据えていたはずのウィー君をしっかりと胸に抱いているのは流石というべき?
そう。護衛を撒いて姿を晦ましたレニフェル様が、何故か我が家に突撃してきたのだ。
捜していた従姉妹が訪問先に突然現れたら流石にびっくりするよね。
「あら?アーデルハイド兄様もいらしてたのね」
「何をしにここに来た?いや、護衛を振り切って何処へ行っていたのだ?」
ウィー君を抱きかかえた状態のアーデルハイド殿下がレニフェル様に詰め寄る。
その答えは俺も聞きたい。特に前半部分。マジで何しに来たの?我が家は王族が単騎突撃してくるような場所ではございませんが。
「護衛とか連れてると好きなとこ回れないでしょ?」
「…王族の立場を学び直させる必要がありそうだね?」
我が家のできる使用人達が速やかにセッティングしたお茶(俺たちにはおかわりが来た)をゆっくり飲みながら、レニフェル様が「当然でしょ?」みたいな顔でのたまい、アーデルハイド殿下が頭を抱える。いや、そう見せかけてウィー君を吸ってる。気持ちは解る。
「一人でやってもらっても困るが、メロメ国からの客人を巻き込んで撒くのは国の問題になるから止めなさい。特に今回は第五王女も一緒だったそうじゃないか」
メディナツロヒェン嬢だけじゃなく、イニフィリノリス王女様も同行した状態で護衛撒いたのか。ある意味凄いな。
割と治安のいい王都ですが、身分が身分なので護衛撒くとか(近衛の皆様が)ちょう迷惑するのでマジで止めて差し上げて下さいね。
俺は心の底から同意したアーデルハイド殿下の正論パンチ。レニフェル様には全然効いてない模様ですよ?
「撒かれる近衛が悪いと思うの。あ、このタルト美味しい」
「撒くな。撒こうともするな。私はこのクッキーサンドが好みだ」
話、擦り変わって行ってますよ?
多分これ、アーデルハイド殿下がこの場での深掘りを止めた感じだな。確かに連れ帰って陛下に叱ってもらうのが一番だろう。ハロルド様は…叱らないだろうしなぁ…
「レニフェル様は本日、どのようなご要件で我が家にお越しになられたのでしょう」
「もっと簡潔に」
「何しに来ました?」
あ、こんなやり取りも前にした記憶があるな。
「遊びに来たのよ」
来ないで。せめてアポイント取ってから来て。小学生でも「帰ったら遊ぼうぜ!家に行くよ!」位言えるよ?
「アーデルハイド殿下連れてお帰り下さい?」
「いい笑顔で私まで追い出そうとしないで欲しいな」
一緒にご退場願いたかったのだけど…何時までいる気ですか?
まだ居座る姿勢の王族二人に対し、ロシェル様が心底残念そうなお顔をされている。
お仕事溜まっているって言ってましたもんね。早く帰って減らして貰いたいですよね!俺も早く帰って欲しいから協力しますよ!
目と目が逢うその瞬間に、同盟が組まれた気がした。
「護衛を撒いてまで行きたい場所があるのですか?」
アーデルハイド殿下はウィー君をロシェル様に「Heyパース!」したら即退場出来そうなので、レニフェル様から攻めてみようと思います。
遊びに行く場所聞いておけば、避けることもできるし、護衛の皆様が現地で確保が出来ますからね。
「乙女の秘密を暴く気ね?」
「秘密は「ある」と知られた時点で効力の半分を失います」
本当に秘密にしたいものは、気配すら周囲に気づかせてはならないのですよ?
リア充系同僚にオタバレして心に傷を負った俺の実体験だからね?バレるからね?そして奴らはどんなにライトなオタクでもバカにしてくるからね?大人もアニメやゲーム好きでいいじゃない?なんでドラマは良くてアニメはダメなんだよ?有名どころじゃないゲームしてたらオタク扱いとか何様か?他に振りまいたりしてないなら、あえて掘り起こす必要ないよね?自分達が楽しむためなら他は落としていいとかいう奴らは滅したらいい………あ、いや、話随分逸らしたな…ヤダヤダ、ウィー君吸わせて下さい。
「真理をついてきたね」
「ファルム様大丈夫?年齢詐称してない?本当は老賢者でしょ?」
俺が自分で言ってセルフ闇堕ちしかけた秘密云々のツッコミに、いい顔で食いついてくるな。
俺は人生(ほぼ)二週目だけど、肉体年齢はピチピチの13歳(もうすぐ誕生日)だから、詐称ではないです。レニフェル様より年下で間違いないです。
「詐称していない事は出生記録を見ていただけるとハッキリするかと」
精神年齢は…傍からは見えないからセーフ。
「乙女とかいいから教えてください」
「いやだバッサリいかれたわ」
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