この状況には、訳がある

兎田りん

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愛だけで生きていけると思うなよ

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 何事も永遠などない。
「ファルム様、アレが来ました」
 イニフィリノリス王女が出会い頭に俺に放った一言。表情から見ると、よくないものですね?
 だが俺は、貴女の発言で殺気立ったアスベル君が怖くて仕方ないよ!無言で圧を飛ばしてくるの止めて!何もして無いです!
 こうして瞬きの間の様な平穏が、終わりを告げた。
 平穏さん、もう少し長くいてくれてもよかったのに。

「マーロル様は初耳となりますね。昨夜わたくしの兄が二人、青の館ブルー・パレスに来たのです」
 俺も初耳ですが?
 ラキアラス王国の王都には他国から来た賓客の滞在場所として建てられた貴賓館と呼ばれる屋敷がいくつか(存在は知っていたが、数までは知らない)ある。
 区別のためか各館にテーマカラーがあり、青を基調とした青の館にメロメ王国の方々が滞在している。
 当初、単身(貴族が身一つで他国に来るとか、聞いてビビった)留学のメディナツロヒェン嬢は学園の寮で生活していたのだが、イニフィリノリス王女がお付の者たちとやってきたので青館に越してきた。
 メロメ国でも友好関係読書仲間にあった二人は、夜な夜な読んだ本について語り合っているらしい。
 そんな所に追加の王族来ちゃったかぁ…

「お義兄様方が…」
 アスベル君、気が早いよ?
 本気なら応援するけど、そこの王族も癖が強そうだよ?
 そんなことより…
「何でしょう…嫌な予感がします」
 口にしたら現実になる気もしたが、うっかり零してしまったものは仕方がない。
「ええ。二番目と三番目です」
「あぁ…」
 俺の嫌な予感を察したのだろう。イニフィリノリス王女も「ですよね」みたいな表情で告げた。
 第二王子は存じませんが、第三王子は国から出したらダメでしょ?
「大丈夫…なんですか…?」
 聞いただけで(精神的に)疲れた。
 読書のためなら完徹も辞さない(以前2徹が発覚して寝室に強制連行された、とメディナツロヒェン嬢が言っていた。放置すると倒れるまで読んでいそう)姿勢のイニフィリノリス王女がうっすら疲れを滲ませている訳がわかった。
 ピチピチの美少女でも体力を過信してはいけない!過信してはいけない!(大事なことだから二回言う)

「やあ!君がラキアラス王国の最終兵器リーサルウェポン、メロディアス一族だね?」
 出会い頭にとんでもないことを言われた。
 少し前に立つアーデルハイド殿下を見つめると、視線を感じたのか「私は言ってないよ」とばかりに首を振られた。有力候補の一つが消えたか。
「私はメロメ国第二王子、ライオルノ。妹共々突然の来訪、申し訳ない」
 キラキラと輝きを放つピンク(ピンクブロンドというよりもうピンク。桃色じゃなくピンク)の髪に負けないくらい輝かしい笑顔でライオルノ王子が詫びの言葉を述べるが、俺から見るに悪いと思っていない表情に見えるし実際思ってないだろう。
 じゃないとアーデルハイド殿下を飛び越して俺に(言葉の)一撃を浴びせたりしない。
 まずは我が王国の王太子様からお言葉を、どうぞ。
「ようこそラキアラス王国へ。私はラキアラス王国王太子、アーデルハイド。メロメ国の「思ったら動く」という国民性を目の当たりにできて嬉しく思う」
 ああ、これはわかりやすく言うと「突然来るとか困るから止めて。先に報を寄越すのが一般的だけどメロメ国は違うのかな?」というやつですね。俺もそう思います。
 そして口調がいつもよりちょっと雑なのは、「貴族の言い回しどこまで通じるか解らないな…」という困惑の現れですね。

「俺のミーコ嬢はどこだ?」
「ロメオロス、まずは挨拶」
 思い出したくないことを口走らないで貰えますかね?
 魅了解けた時、既に目移りしてたのか。愛の国怖い!というより第三王子こいつ自身が大分ヤバい奴じゃ?
 そして、初対面の相手に挨拶出来ないとか幼児か?一応公式訪問…なんだよね?国のレベル下げに来てるの?
 メロメ兄弟のやり取りを目の前に、イニフィリノリス王女やメディナツロヒェン嬢、アーデルハイド殿下と「ヤバい奴来た」「兄が申し訳ありません」「近年我が国の評価が低いのは大体第三王子アレのせいですわ」「国から出してはいけない部類では?」と視線での会話が密やかに行われたのは言うまでもない。

 このよくわからない場に俺が加わっているのには、訳がある。
 本来、この場はラキアラス王国国王陛下への謁見になるはずだった。
 整理するとこうだ。
①昨日、港に追加王族二人の王子御一行様が到着。この時点でラキアラス王城に「メロメ国から王子が来た」と第一報が入る。
②イニフィリノリス王女はこの時点で魔研に籠っていたため、メディナツロヒェン嬢がレニフェル様と共に報せを受けて驚く。
③王城と青の館が突然の訪問で慌ただしくなる。この時王子達は移動中。
 対応の検討中にハロルド様が「アーデルハイドに丸投げしちゃえよ」と陛下に囁き、陛下も「そうだな、これも経験だ」と受け入れる。
④丸投げされたアーデルハイド殿下がウィー君に逃避。その間にも歓待の準備は進行。
 その夜、帰宅したイニフィリノリス王女と王子達が対面。
⑤ 翌朝、イニフィリノリス王女が魔研で俺を捕まえ、共に王城へ。当然の様についてくるアスベル君。
⑥「まずは歳の近い者同士で…」みたいに丸め込まれた王子達と対面。困惑しかない←イマココ
 そう。またしても巻き込まれたのである。迷惑!
 俺を巻き込むことは②の段階で確定していたらしい。早いな!
 そしてアーデルハイド殿下!しれっと俺を「私の側近です」って紹介しやがりましたね?嫌ですからね!

「あれがお義兄様方…」
 ついてきたアスベル君はメロメ国王子に何かを期待していたのか、目の当たりにした現実にショックを受けている。
 イニフィリノリス王女はちゃんと話が聞ける子だし、所作が綺麗だもの。
 俺は第三王子のアレ具合を事前に見たから耐性付いてたけど、初見は引くよね。
 なんか…ゴメンね?
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