この状況には、訳がある

兎田りん

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真実は一つとは限らない

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 翌日、アスベル君にバルロ君の補講の件を聞いたところ「補講があるのは聞いてたけど、足並みを揃える為だと思ってた。…そこまで(酷い状態)なの…?嘘でしょ?」と絶句していた。俺もそう思う。
 でも、週末まで突撃がないだろうと告げるとホッとした顔をした。このままずっとこなければいいのに。
「バルロ君が学園生活に馴染むまで…と言う話だったから受けたのに、休む間もなく問題が起きるから教授にお返ししようと思ってたんだ」
 なるほど。そういう名目で依頼が来たのか。
「早く返せばよかったのに」
 何故長々持ってたの?俺なら初手で「こんなの聞いてないんですけど?」ってクーリングオフする。
「ファルム君に投げようと思って」
 そういえば「投げる前に突撃した」的な事言ってたな。
「マジでやめて。これ以上俺の周りにトラブルメーカーばら撒かないで」
 ただでさえ関わる度に数が増える王族の相手が大変なのに!不用意な追加はお断り申し上げる!
 まあ…お世話を任された学生の同学年に知り合いがいるならそちらに任せたい気持ちは解るが、それをキャパオーバー気味な俺に回すのはやめろ。
「それに関しては、すまないと思っている」
 チラつく顔があったのだろうが、その言い方は直す気ないな(確信)
 よしわかった。アスベル君がその気なら、俺も盛大に巻き込んでやろうじゃないか。君が!泣いても!巻き込むのを!やめない!!(ちゃんと反省したらやめる)

 レニフェル様の言葉どおり、その週は本当に突撃がなかった。
 ただ、視界にはちょいちょい入っていたので気にはなった。観察してるつもりなんだろうが、傍から見ると立派なストーカー行為だぞバルロ君。
 俺が補講を受けてる姿を見守るより自分の補講を優先する事を強く、それはもう強く!おすすめしたい。
 だって、俺よりやること補講数多いでしょう?しっかり受けて、現実を見つめろ。
 そんなこんなで補講中。俺の視界に入った際、教授に「いますよ」と合図を送ると騎士科に一報が入り、対象捕獲の演習が始まるという流れが度々行われた。
 演習の見学?してませんよ。当然じゃないですか。今週で自分の補講を終わらせたいんだもの。

 聞いた話では、バルロ君を「捕まえるぞ!」とやる気を出した状態で近づくと逃げていくのだそうだ。野良猫か。
 補講を受けさせたい大人が自ら捕獲に挑むより「いっその事これも学びに使ってしまえ」と判断した教授陣の優秀さは語るまでもない。「使えるものは使う」精神はここにもあった。
 ゴルラフ隊長が「バルロ君捕獲作戦で気配の消し方を安全に学ばせることができる」と言っていた。
 本音は「外への引率は疲れるから、学園の中でやれるのは助かる」だ。
 対モンスターだと、どうしても王都から出ないといけないから大変なのだそうだ。手続きとか、うっかり怪我とかさせない配慮とか、テンションの上がった学生がやらかしたりしないように見張ることとか…先生ってどの世界でも大変なんだな、って思う。
 俺にとっては困りもののバルロ君だが、隊長のお役に立てるのなら…いや、よくはないな。早く地に足をつけろ。

 週の後半。バルロ君も隠密スキルが上がってきたのか、姿が見えなかった。
 正確には「いる気配はするけど、上手く隠れている」状態になっていた。
 騎士科学生も鍛えられたけど、バルロ君も鍛われた様だ。お互い様だよね。
 まあ俺はスキルを使えばすぐ見つけられるんだけどね。<索敵サーチ>スキルの効果が凄い。
 使ってたらバルロ君に遭遇しなくて済んだのかもしれないけど、朝の学園で強襲されるとか予測してなかったから仕方ないよね。事前情報無しはさすがに無理でしょ?何も無いことの方が多い(と思いたい)んだから、常時全方位警戒みたいな疲れる事はしたくない。
 休み前の補講最終日。集中したい俺は早々にスキルを使ってバルロ君を速やかに排…補講担当に引き渡し、穏やかに「休み明けからクラスで授業ですよ」とお墨付きを頂いた。やったぜ。
 その裏で騎士科の学生が「手こずっていた対象(バルロ君の事)をあんなにあっさり追い詰めるなんて」「俺らへの指示が的確過ぎて震えた」「あれが軍師…」などとざわついていた事を知るのはもう少し後の話。

「随分面白そうな事になってるみたいだね」
 すっかり行きつけとなった喫茶店、アンドロイン。華やかに香る紅茶の湯気越しに、レミール様が微笑む。
 待ち合わせ場所付近でバルロ君にうっかり遭遇した俺は、面倒な事になる前にとダッシュで逃走。追いかけっこの途中でレミール様と出会い、華麗に撒いてもらった。
「隠密系のスキルあったでしょ?使えばよかったのに」
「………存在を忘れていました」
 ステータス欄におまとめ機能つけてもらったけど、数が多すぎて把握できてないのが現状。レミール様も解っているのか「普通に生活してたら使う必要性を感じないものだもんね」と微笑まれた。今日も笑顔が尊い。

 休み明けの学園。補講がないって素晴らしい!
 昼にはアスベル君からデートの結果を聞こうかとウキウキしていた所に、我慢の限界を迎えたバルロ君か突撃してきた。七日は長すぎたようだ。
「ファルムファス・メロディアス!いざ!尋常に勝負!!」
 あれ?キャラ変わった?
「僕の前から逃走するなど、やましい事があるからに決まっている!」
 あ、変わってなかった。
「罪を認め!平伏せよ!」
「なんか混ざってない?」
 おっと、声に出てしまった。近くの学生に「医局のメイナース先生呼んできて下さい」と頼む。俺はバルロ君を邪魔にならない所に隔離する仕事が生えたから、移動だ。
「めんどくさい事を避けるのは罪ではないので、お部屋でお話しましょうね」
「困難にぶつかっていくことこそ探偵のスタイル」
「はいはい。自分から突っ込んでいらないトラブルを巻き起こすのは迷惑行為だからやめようね」

 連行途中でアスベル君と目が合ったので捕獲。元々アスベル君が持ち込んだやつだから、最後まで見届けようね。
「気分が一気に沈んだ」
「奇遇だね。俺もだよ」
 この場で元気なのはバルロ君だけだ。バルロ君は「コナードは…」と呟きながら俺たちの後をついてくる。
 俺…というか、他者に突っかからなければ普通に「重めのコナード信者」で夢見がちな子扱いで済むやつなんだけど…どうしてこうなった?
 …え?俺?何もしてないのに巻き込まれましたが何か?…俺は悪くねぇ!
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