108 / 153
真実は一つとは限らない
14
しおりを挟む
本来ならこの時間はクラスメイトに「お帰り」と温かく出迎えられるはずだったのに、どうしてこうなったのだろう。
「授業に出たいんだけどなぁ…」
俺もだよ、アスベル君。
「俺、復帰初日にこの仕打ちなんだよなぁ…」
もっと労わってくれてもいいと思うんだけどなぁ…
「早く終わらせたいね」
「協力しようね」
結成済の「早期決着を目指す同盟」の決意が強まった休み明けの朝(快晴)。
アスベル君と行くバルロ君連行ツアー。途中に幾人かの職員に会い「この部屋を使うといい」と、案内された部屋にはメイナース先生が既にスタンバイしていた。手回しが早すぎる。
「やあ、来おったな童共」
「「おはようございます」」
俺とアスベル君の挨拶の声が揃った。友達だもの。声くらい揃うさ。
こら、バルロ君。「なんでいるの?」みたいな顔しない。俺が呼んだの見てたでしょう?
「こんな事もあろうと場所を押さえておったのよ」
まあ…あの終わり方だもの。再襲撃くらい予測できるよね。
「先見の明があり過ぎでは」
隣に予測出来てない友がいた。
「よしわかった!罪の告白だな?関係者全員の同席を求める!」
バルロ君はわかってないし、これがほぼ全員だぞ?
「先日の事例を局内で報告した所、「我も!」と手を挙げた同朋を伴って参った」
メイナース先生の斜め後ろに、少しふっくらしたゆるふわパーマの白衣の女性が見える。この人が「我も!」って言ったの?
「マッチェレル学園医務局のシンシア・キョーシンでございます。主な業務としましては、学園「お悩み相談室」の管理をしておりますわ。学生の皆様の精神の安寧と夢に関する研究をしておりますの」
少し垂れ気味の細い目と、おっとりとした語り口。これは滲み出る包容力に落ちた悩める学生が秘密をポロポロこぼしちゃうやつだ。
「メイナース先生より珍しい症例をお聞きしまして、是非ともこの目で見たいと同行を願い出ましたの」
珍しい症例…バルロ君が見る世界は確かにその方面から見ると研究しがいがありそうだもんな。このまま連れ帰って隔離観察してくれて構わない。
「きちんと「我も馳せ参じ候」と申し出ましたわ」
言ったのか!メイナース先生に同行するための儀式ですか?したくないですね。
「それに「メロディアス兄弟を見守る会」の職員会員としましては…」「チェンジで!」
それはダメだ。最後まで言わせてはいけないと本能が警告した。何がなんでも首を横に振らねばならない案件だ。
そしてバルロ君にギリ聞こえなさそうな声で続ける。
「バルロ君には俺に間接的だとしても接点のある集団を知られる訳にはいかないんです」
あの子すぐ「黒ずくめの集団」と結びつけちゃうもの。悪化、ダメ!ゼッタイ!
「あらまあ、妄想族なのね」
妄想の中に生きてる子に餌を与えてはならないのです。長引くから。
「あと、その会は兄が戻り次第解散させます」
本人の知らない派閥でトトカルチョとかダメだってばよ!学生の身分で「(多量の酒を)飲む」「(違法薬物を)打つ」「(賭博と転売のチケットを)買う」のは今の世間が許しても俺の前世から培われた倫理観が許さない。
「会の活動はわたくしの精神安定に繋がるのですよ?」
キョーシン先生が「せめてファルムファス様が卒業なさるまで!」と懇願してくるが、「そんなに長く存続させてたまるか!」というのが俺の意見である。俺の選択肢は即解散の一択。
「黒ずくめの犯罪集団は僕とコナードが潰すんだ!」
アスベル君が話しかけて逸らしてくれていたのに、聞いていたのかバルロ君。
「わたくしの憩いの場は、どなたにも侵させませんわ」
なんかはじまった。
「学園にも魔の手が及んでいるなど由々しき事態!お天道様に恥じて暮らせ!」
うん。バルロ君、絶対何か混ざってるよね?何読んだの?
「麗しのご兄弟の成長を陰日向に見守ることのどこが恥ずべき事なのでしょうか。わたくしどもは「YES熱視線☆NOタッチ」の理念の元、真剣に活動していますのよ」
熱視線もやめろそれは俺にダメージがくる。
「噛み合わないまま、会話が続くとか凄い」
「互いに譲り合わぬからこそ起こり得る不毛な会話…至近距離で嗜む一献は格別である」
ん?一献?…まさか、酒?職場で朝から?
「特製ポーションぞ。童にはちと効果が強い故、後程初等部向けの物を進ぜよう」
俺の視線に気づいたメイナース先生がニヤリと笑う。やはり酒では?
後からアスベル君に聞いた話だが、メイナース先生のアレは酒ではなくエナドリ的なやつらしい。
主張のぶつけ合いを見ながらエナドリキメるとか、上級ネット民(実際に見た事ないから想像の産物)の様だ。
「キョーシン先生、見た目に反してゴリゴリの討論派じゃないですか」
噛み合わなさに気づかず話が進むとか、コントみたいだ。こちらの方がタチが悪いけど。
「学生・職員問わず、派閥に与する者の大半は闘争心が高いよ?むしろ、闘争心が高いからこそ派閥が存在してると言ってもいい」
兄から聞いた話だけど、とアスベル君が俺の疑問に応えてくれる。
「…………」
マジか…いや、言われてみるとそうか?うん…?………マジかぁ…(ため息)
「余談ではあるが、キョーシン女史は「萌え袖に叩かれたい同盟」と「少年少女の膝小僧を愛でる会」にも所属しておる。ある意味幼子過激派よの」
なんだその性癖丸出しの集団は。
そしてキョーシン先生がヤバめな人物であることが発覚した。初対面のゆるふわかが崩れ去るスピードが爆速で困っています(俺が)。
「「………」」
思わず自分の膝を確認する俺とアスベル君。長ズボン万歳。
「制服…膝出てなくてよかったね…」
「心の底から同意しよう」
「少年探偵の正装はジャケットに半ズボンだ!」
「少女探偵の膝上スカート&キュロットも正義ですのよ!」
こっちの話に食いついてくるな!自分たちを先に終わらせてからにして下さい。
「卒業パーティーその2でラスフェルム様の制服を纏われたファルムファス様は素晴らしかったですわ!わたくし、丈が合わずに折って着る姿にも癒されますの!リクエストしてよかったですわー!」
貴女方の仕業だったのか!俺の心を抉ったあの惨劇を仕掛けたのは!次は無いからな(涙目)!
「パーティー会場が黒ずくめに支配されるなどあってはならない!悪!即!斬!」
バルロ君は何がしたいのかはっきりさせてから口を開きなさい。
「授業に出たいんだけどなぁ…」
俺もだよ、アスベル君。
「俺、復帰初日にこの仕打ちなんだよなぁ…」
もっと労わってくれてもいいと思うんだけどなぁ…
「早く終わらせたいね」
「協力しようね」
結成済の「早期決着を目指す同盟」の決意が強まった休み明けの朝(快晴)。
アスベル君と行くバルロ君連行ツアー。途中に幾人かの職員に会い「この部屋を使うといい」と、案内された部屋にはメイナース先生が既にスタンバイしていた。手回しが早すぎる。
「やあ、来おったな童共」
「「おはようございます」」
俺とアスベル君の挨拶の声が揃った。友達だもの。声くらい揃うさ。
こら、バルロ君。「なんでいるの?」みたいな顔しない。俺が呼んだの見てたでしょう?
「こんな事もあろうと場所を押さえておったのよ」
まあ…あの終わり方だもの。再襲撃くらい予測できるよね。
「先見の明があり過ぎでは」
隣に予測出来てない友がいた。
「よしわかった!罪の告白だな?関係者全員の同席を求める!」
バルロ君はわかってないし、これがほぼ全員だぞ?
「先日の事例を局内で報告した所、「我も!」と手を挙げた同朋を伴って参った」
メイナース先生の斜め後ろに、少しふっくらしたゆるふわパーマの白衣の女性が見える。この人が「我も!」って言ったの?
「マッチェレル学園医務局のシンシア・キョーシンでございます。主な業務としましては、学園「お悩み相談室」の管理をしておりますわ。学生の皆様の精神の安寧と夢に関する研究をしておりますの」
少し垂れ気味の細い目と、おっとりとした語り口。これは滲み出る包容力に落ちた悩める学生が秘密をポロポロこぼしちゃうやつだ。
「メイナース先生より珍しい症例をお聞きしまして、是非ともこの目で見たいと同行を願い出ましたの」
珍しい症例…バルロ君が見る世界は確かにその方面から見ると研究しがいがありそうだもんな。このまま連れ帰って隔離観察してくれて構わない。
「きちんと「我も馳せ参じ候」と申し出ましたわ」
言ったのか!メイナース先生に同行するための儀式ですか?したくないですね。
「それに「メロディアス兄弟を見守る会」の職員会員としましては…」「チェンジで!」
それはダメだ。最後まで言わせてはいけないと本能が警告した。何がなんでも首を横に振らねばならない案件だ。
そしてバルロ君にギリ聞こえなさそうな声で続ける。
「バルロ君には俺に間接的だとしても接点のある集団を知られる訳にはいかないんです」
あの子すぐ「黒ずくめの集団」と結びつけちゃうもの。悪化、ダメ!ゼッタイ!
「あらまあ、妄想族なのね」
妄想の中に生きてる子に餌を与えてはならないのです。長引くから。
「あと、その会は兄が戻り次第解散させます」
本人の知らない派閥でトトカルチョとかダメだってばよ!学生の身分で「(多量の酒を)飲む」「(違法薬物を)打つ」「(賭博と転売のチケットを)買う」のは今の世間が許しても俺の前世から培われた倫理観が許さない。
「会の活動はわたくしの精神安定に繋がるのですよ?」
キョーシン先生が「せめてファルムファス様が卒業なさるまで!」と懇願してくるが、「そんなに長く存続させてたまるか!」というのが俺の意見である。俺の選択肢は即解散の一択。
「黒ずくめの犯罪集団は僕とコナードが潰すんだ!」
アスベル君が話しかけて逸らしてくれていたのに、聞いていたのかバルロ君。
「わたくしの憩いの場は、どなたにも侵させませんわ」
なんかはじまった。
「学園にも魔の手が及んでいるなど由々しき事態!お天道様に恥じて暮らせ!」
うん。バルロ君、絶対何か混ざってるよね?何読んだの?
「麗しのご兄弟の成長を陰日向に見守ることのどこが恥ずべき事なのでしょうか。わたくしどもは「YES熱視線☆NOタッチ」の理念の元、真剣に活動していますのよ」
熱視線もやめろそれは俺にダメージがくる。
「噛み合わないまま、会話が続くとか凄い」
「互いに譲り合わぬからこそ起こり得る不毛な会話…至近距離で嗜む一献は格別である」
ん?一献?…まさか、酒?職場で朝から?
「特製ポーションぞ。童にはちと効果が強い故、後程初等部向けの物を進ぜよう」
俺の視線に気づいたメイナース先生がニヤリと笑う。やはり酒では?
後からアスベル君に聞いた話だが、メイナース先生のアレは酒ではなくエナドリ的なやつらしい。
主張のぶつけ合いを見ながらエナドリキメるとか、上級ネット民(実際に見た事ないから想像の産物)の様だ。
「キョーシン先生、見た目に反してゴリゴリの討論派じゃないですか」
噛み合わなさに気づかず話が進むとか、コントみたいだ。こちらの方がタチが悪いけど。
「学生・職員問わず、派閥に与する者の大半は闘争心が高いよ?むしろ、闘争心が高いからこそ派閥が存在してると言ってもいい」
兄から聞いた話だけど、とアスベル君が俺の疑問に応えてくれる。
「…………」
マジか…いや、言われてみるとそうか?うん…?………マジかぁ…(ため息)
「余談ではあるが、キョーシン女史は「萌え袖に叩かれたい同盟」と「少年少女の膝小僧を愛でる会」にも所属しておる。ある意味幼子過激派よの」
なんだその性癖丸出しの集団は。
そしてキョーシン先生がヤバめな人物であることが発覚した。初対面のゆるふわかが崩れ去るスピードが爆速で困っています(俺が)。
「「………」」
思わず自分の膝を確認する俺とアスベル君。長ズボン万歳。
「制服…膝出てなくてよかったね…」
「心の底から同意しよう」
「少年探偵の正装はジャケットに半ズボンだ!」
「少女探偵の膝上スカート&キュロットも正義ですのよ!」
こっちの話に食いついてくるな!自分たちを先に終わらせてからにして下さい。
「卒業パーティーその2でラスフェルム様の制服を纏われたファルムファス様は素晴らしかったですわ!わたくし、丈が合わずに折って着る姿にも癒されますの!リクエストしてよかったですわー!」
貴女方の仕業だったのか!俺の心を抉ったあの惨劇を仕掛けたのは!次は無いからな(涙目)!
「パーティー会場が黒ずくめに支配されるなどあってはならない!悪!即!斬!」
バルロ君は何がしたいのかはっきりさせてから口を開きなさい。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄? そもそも君は一体誰だ?
歩芽川ゆい
ファンタジー
「グラングスト公爵家のフェルメッツァ嬢、あなたとモルビド王子の婚約は、破棄されます!」
コンエネルジーア王国の、王城で主催のデビュタント前の令息・令嬢を集めた舞踏会。
プレデビュタント的な意味合いも持つこの舞踏会には、それぞれの両親も壁際に集まって、子供たちを見守りながら社交をしていた。そんな中で、いきなり会場のど真ん中で大きな女性の声が響き渡った。
思わず会場はシンと静まるし、生演奏を奏でていた弦楽隊も、演奏を続けていいものか迷って極小な音量での演奏になってしまった。
声の主をと見れば、ひとりの令嬢が、モルビド王子と呼ばれた令息と腕を組んで、令嬢にあるまじきことに、向かいの令嬢に指を突き付けて、口を大きく逆三角形に笑みを浮かべていた。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
その国が滅びたのは
志位斗 茂家波
ファンタジー
3年前、ある事件が起こるその時まで、その国は栄えていた。
だがしかし、その事件以降あっという間に落ちぶれたが、一体どういうことなのだろうか?
それは、考え無しの婚約破棄によるものであったそうだ。
息抜き用婚約破棄物。全6話+オマケの予定。
作者の「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹が登場。というか、これをそっちの乗せたほうが良いんじゃないかと思い中。
誤字脱字があるかもしれません。ないように頑張ってますが、御指摘や改良点があれば受け付けます。
乙女ゲームはエンディングを迎えました。
章槻雅希
ファンタジー
卒業パーティでのジョフロワ王子の婚約破棄宣言を以って、乙女ゲームはエンディングを迎えた。
これからは王子の妻となって幸せに贅沢をして暮らすだけだと笑ったゲームヒロインのエヴリーヌ。
だが、宣言後、ゲームが終了するとなにやら可笑しい。エヴリーヌの予想とは違う展開が起こっている。
一体何がどうなっているのか、呆然とするエヴリーヌにジョフロワから衝撃的な言葉が告げられる。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様・自サイトに重複投稿。
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!
宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。
前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。
そんな彼女の願いは叶うのか?
毎日朝方更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる