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真実は一つとは限らない
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「………どんな状況なのか、誰か説明してくれないか」
ゴルラフ隊長が眉間を抑えながら言葉を絞り出す。わかります。頭痛が痛いんですよね。俺もです。
学生が呼んでいる。と、報せを受けて入った部屋では学園医(キョーシン先生)と学生(バルロ君)が謎の討論(噛み合ってない)をしており、監督役と思われる大人(メイナース先生)は謎のドリンクを嗜みながら二人を眺めている。
残った二人の学生(俺とアスベル君)が「よかった!普通の人キタ!」と喜び合う状況は第三者から見なくても困惑しか生みださない。
「これにはそう深くない訳がありまして」
特別何かがあった訳ではない。
バルロ君の再襲撃→隔離のため部屋に移動→メイナース先生についてきたキョーシン先生がバルロ君と主張のドッジボールを始める→現状を楽しむメイナース先生と授業に出たい俺とアスベル君←イマココ
…という単純かつ理解不能な世界が展開されているだけの話だ。叶うことなら、関わりたくはなかった。
俺の話を聞いたゴルラフ隊長は、少し考えた後に俺らに告げた。
「よしわかった。肉を食いに行こう」
考えるのをやめたようだ。
しかし、もう昼か。無駄な時間を過ごしてしまった…
「往くがよい。あの調子なら暫くは周囲に気を配れぬであろうしの。但し、腹が満ちたら戻ってくるのだぞ。土産はたまごサンドが良い」
メイナース先生が懐の深さを見せながら釘をさしてくる。たまごサンドお気に召したんですね。
「ありがとうございます。行ってきます」
主張のボールを投げ合う二人に見つかる前に離脱しよう。俺とアスベル君には休憩が必要だ。
「我は特等席で眺めていよう」
退室前に見たメイナース先生は、二人の顔が良く見える場所に移動していた。
この人もなかなかにおかしいんだよなぁ…
何で俺の周りには個性の強すぎるメンツが集まってくるんだろう…?…レア狙ってるのにコモンしか出なくなるという、物欲センサーの逆バージョンかな?
「………メイナース先生なら大丈夫だろう」
ゴルラフ隊長が「変わり者同士、うまくできるだろ?」と言わんばかりの表情で扉を閉めた。
戻ってきた時、悪化していないことを願うばかりだ。
「肉ッ!食わずにはいられないッ!!」
「今日はこの甘ったるいシチューがいやに身に染みる…」
学食の一角。学生の視線を集めながらとる昼食は少し気まずい。
視線の先はゴルラフ隊長だよね?大皿に厚切りステーキを10枚重ねて周囲にカットステーキ散らすとかいう彩り皆無のチャレンジメニューを無言で提供される常連って初めて見た。
俺とアスベル君を「席を取っておくから、選んでくるように」と快く送り出した訳だよ。これ、カウンター提供無理だもの。
厨房からカートで出てきた時「マジかよそんなの頼むやついる?」って見てたら、俺らのテーブルにズシンと置かれた。あの衝撃はなかなかのものだ。
本日の昼食、俺はサンドプレート(カットフルーツ付き)で、アスベル君は日替わりの食べ比べ白黒シチュー(パン付き)。
白シチュー(クリーム)は砂糖が多量にぶち込んであるのか、不自然な甘さがキツい(ひとさじもらった)。
兄上が多少煽りを加えたとはいえ、たかが数年でメロディアス家の直轄でもない学食の質が完全改善するはずがない。
いや…できなくもないんだろうけど、兄上とバトり続ける時点で「直す気ないよね?」という判断が下るよね。普通。
パンはマシになったが、まだ我が家の方が遥かなる高みにいる。聖協会の食事も俺用にカスタマイズしたので、下手すると質素倹約の聖協会の方が美味いスープが出る。
現状で革命扱いされるんだなら、前を知るのが恐ろしいレベルだよな。
兄上が卒業し、旅に連れ出されている今。「これなら我が家から持ってきた方がいいなぁ(ははは)」等と煽る役がいないので、レシピはあるけどノウハウが不足している(主に下ごしらえの知識)シェフ達の料理の腕は横ばい状態。いや、妙なプライドからおかしなアレンジを加え始めてる(シチューに砂糖ドンとか)から、下がってきている気もしなくない。
兄上がいないからって気を抜きすぎでは?もっと研鑽しろ。味覚を研ぎ澄ませ。本当にその味で大丈夫かを自分に問いかけろ。美味いもの食べたくないのか?
例外的にマヨネーズだけは信者が生まれたのか、品質がグイグイ上がってきている。マヨラーの探究心を舐めてはいけない。あれはチューブから直でいく種族だから。
学食…貴族が多いから食材だけは良いんだよね。王立だし。ただ、調理法が単調(焼く蒸す茹でる)なんだよね。出汁文化で育った俺の舌は体が変わっても繊細さは失ってないから「見た目は綺麗だけど味は素材」みたいな料理は毎日だとやる気下がるんだよね。
…という訳で、俺の選択肢はパンとフルーツがメインのメニューに絞られる。なるべくハズレをひきたくないし。
俺は兄上の様にシェフを煽る気もないので学食の質に関してはノータッチを貫くつもりだ。下手に絡むと拗れそうだし、兄上の様な話術を持ってないからね。なにより、めんどくさいことしたくない。
それを考えると、ゴルラフ隊長のステーキ一択も選択肢としてはアリかもしれない…量は1枚でいいけど。
ステーキサンド…いや、ソースで台無しにされる可能性を考えたら家のみで楽しむ方がいいよな。
…と、そんなこと考えながらサンドイッチをもぐもぐしていたら、ステーキの追加(5枚)が来た。え?まだ食べるの?凄…
もりもり食べるゴルラフ隊長の影で、白黒シチューを完食したアスベル君がひっそりと顔色を白く染めていた。
デザートのフルーツでも…と、手を伸ばした時に気付いてビビった。うわぁ!黙々と食べてると思ってたら、とんでもない事になってた!み…水!水で薄まるものなのかわからないけど、とりあえず水!限界を超えてはいけない!
見回したらちらほら似たような状態の学生が…。は?今日の日替わりは劇物なの?
「……まじやばい」
だよね?トイレいく?医務室で横になる?
あの後、何人もの上級生から「お兄さんいつ帰ってくる?」って聞かれたけど、兄上もう卒業したから学園には帰ってこないよ?
とりあえず「学園は王立だから、レニフェル様に陳情してみたら?」と、矛先を変えてみた。
レニフェル様をうまいこと乗せられたら、兄上が帰ってくるより早くシェフの入れ替えが叶うかもしれない。
少なくとも白黒シチューは廃止だ。
ゴルラフ隊長が眉間を抑えながら言葉を絞り出す。わかります。頭痛が痛いんですよね。俺もです。
学生が呼んでいる。と、報せを受けて入った部屋では学園医(キョーシン先生)と学生(バルロ君)が謎の討論(噛み合ってない)をしており、監督役と思われる大人(メイナース先生)は謎のドリンクを嗜みながら二人を眺めている。
残った二人の学生(俺とアスベル君)が「よかった!普通の人キタ!」と喜び合う状況は第三者から見なくても困惑しか生みださない。
「これにはそう深くない訳がありまして」
特別何かがあった訳ではない。
バルロ君の再襲撃→隔離のため部屋に移動→メイナース先生についてきたキョーシン先生がバルロ君と主張のドッジボールを始める→現状を楽しむメイナース先生と授業に出たい俺とアスベル君←イマココ
…という単純かつ理解不能な世界が展開されているだけの話だ。叶うことなら、関わりたくはなかった。
俺の話を聞いたゴルラフ隊長は、少し考えた後に俺らに告げた。
「よしわかった。肉を食いに行こう」
考えるのをやめたようだ。
しかし、もう昼か。無駄な時間を過ごしてしまった…
「往くがよい。あの調子なら暫くは周囲に気を配れぬであろうしの。但し、腹が満ちたら戻ってくるのだぞ。土産はたまごサンドが良い」
メイナース先生が懐の深さを見せながら釘をさしてくる。たまごサンドお気に召したんですね。
「ありがとうございます。行ってきます」
主張のボールを投げ合う二人に見つかる前に離脱しよう。俺とアスベル君には休憩が必要だ。
「我は特等席で眺めていよう」
退室前に見たメイナース先生は、二人の顔が良く見える場所に移動していた。
この人もなかなかにおかしいんだよなぁ…
何で俺の周りには個性の強すぎるメンツが集まってくるんだろう…?…レア狙ってるのにコモンしか出なくなるという、物欲センサーの逆バージョンかな?
「………メイナース先生なら大丈夫だろう」
ゴルラフ隊長が「変わり者同士、うまくできるだろ?」と言わんばかりの表情で扉を閉めた。
戻ってきた時、悪化していないことを願うばかりだ。
「肉ッ!食わずにはいられないッ!!」
「今日はこの甘ったるいシチューがいやに身に染みる…」
学食の一角。学生の視線を集めながらとる昼食は少し気まずい。
視線の先はゴルラフ隊長だよね?大皿に厚切りステーキを10枚重ねて周囲にカットステーキ散らすとかいう彩り皆無のチャレンジメニューを無言で提供される常連って初めて見た。
俺とアスベル君を「席を取っておくから、選んでくるように」と快く送り出した訳だよ。これ、カウンター提供無理だもの。
厨房からカートで出てきた時「マジかよそんなの頼むやついる?」って見てたら、俺らのテーブルにズシンと置かれた。あの衝撃はなかなかのものだ。
本日の昼食、俺はサンドプレート(カットフルーツ付き)で、アスベル君は日替わりの食べ比べ白黒シチュー(パン付き)。
白シチュー(クリーム)は砂糖が多量にぶち込んであるのか、不自然な甘さがキツい(ひとさじもらった)。
兄上が多少煽りを加えたとはいえ、たかが数年でメロディアス家の直轄でもない学食の質が完全改善するはずがない。
いや…できなくもないんだろうけど、兄上とバトり続ける時点で「直す気ないよね?」という判断が下るよね。普通。
パンはマシになったが、まだ我が家の方が遥かなる高みにいる。聖協会の食事も俺用にカスタマイズしたので、下手すると質素倹約の聖協会の方が美味いスープが出る。
現状で革命扱いされるんだなら、前を知るのが恐ろしいレベルだよな。
兄上が卒業し、旅に連れ出されている今。「これなら我が家から持ってきた方がいいなぁ(ははは)」等と煽る役がいないので、レシピはあるけどノウハウが不足している(主に下ごしらえの知識)シェフ達の料理の腕は横ばい状態。いや、妙なプライドからおかしなアレンジを加え始めてる(シチューに砂糖ドンとか)から、下がってきている気もしなくない。
兄上がいないからって気を抜きすぎでは?もっと研鑽しろ。味覚を研ぎ澄ませ。本当にその味で大丈夫かを自分に問いかけろ。美味いもの食べたくないのか?
例外的にマヨネーズだけは信者が生まれたのか、品質がグイグイ上がってきている。マヨラーの探究心を舐めてはいけない。あれはチューブから直でいく種族だから。
学食…貴族が多いから食材だけは良いんだよね。王立だし。ただ、調理法が単調(焼く蒸す茹でる)なんだよね。出汁文化で育った俺の舌は体が変わっても繊細さは失ってないから「見た目は綺麗だけど味は素材」みたいな料理は毎日だとやる気下がるんだよね。
…という訳で、俺の選択肢はパンとフルーツがメインのメニューに絞られる。なるべくハズレをひきたくないし。
俺は兄上の様にシェフを煽る気もないので学食の質に関してはノータッチを貫くつもりだ。下手に絡むと拗れそうだし、兄上の様な話術を持ってないからね。なにより、めんどくさいことしたくない。
それを考えると、ゴルラフ隊長のステーキ一択も選択肢としてはアリかもしれない…量は1枚でいいけど。
ステーキサンド…いや、ソースで台無しにされる可能性を考えたら家のみで楽しむ方がいいよな。
…と、そんなこと考えながらサンドイッチをもぐもぐしていたら、ステーキの追加(5枚)が来た。え?まだ食べるの?凄…
もりもり食べるゴルラフ隊長の影で、白黒シチューを完食したアスベル君がひっそりと顔色を白く染めていた。
デザートのフルーツでも…と、手を伸ばした時に気付いてビビった。うわぁ!黙々と食べてると思ってたら、とんでもない事になってた!み…水!水で薄まるものなのかわからないけど、とりあえず水!限界を超えてはいけない!
見回したらちらほら似たような状態の学生が…。は?今日の日替わりは劇物なの?
「……まじやばい」
だよね?トイレいく?医務室で横になる?
あの後、何人もの上級生から「お兄さんいつ帰ってくる?」って聞かれたけど、兄上もう卒業したから学園には帰ってこないよ?
とりあえず「学園は王立だから、レニフェル様に陳情してみたら?」と、矛先を変えてみた。
レニフェル様をうまいこと乗せられたら、兄上が帰ってくるより早くシェフの入れ替えが叶うかもしれない。
少なくとも白黒シチューは廃止だ。
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