この状況には、訳がある

兎田りん

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真実は一つとは限らない

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「噂の発生源、確定はしていなくても有力候補はいるのだろう?」
 腹が満ちたのだろうルキスラ教授が話に本格参戦してくる。(弁当に)ご満足いただけてなによりです。
「何か考えてます?」
 おっと、口に出してしまった。いやだって、偏見かもしれないけどルキスラ教授…魔法ご自身の研究以外興味ないでしょ?
「うん?(あらぬ噂に)困っているのだろう?」
「現状(バルロ君の突撃に)困ってはいますね」
 微妙に噛み合っていない気もしなくもないが、困っている事は事実。
「憂いを持ったままでは研究の協力に支障が出るだろう?無用なトラブルの長期化は宜しくないので、介入の余地があるならねじ込んででも決着させるのが早い」
「成程、そっちか」
 俺が協力させられている検証には繊細な魔力コントロールが必要なものもあるから、集中できるようにしたい訳か。それなら納得できる。
 ルキスラ教授自らが動いてくれるとは思っていなかったが、協力者が多いに越したことはない。見返り(実験の数)が怖くはあるが…目の前のことから片付けていくのは大切なことだもんな。
 俺の思考が散らかるのは脇に置き、ルキスラ教授にブレがなくて安心しました。

「学生の私物盗難の方はミーナス室長が協力しているのだから、証拠集めもじきに終わるだろう。マーロル君の話では噂は別の所から出ているとの判断できる。こちらも大詰めでは?」
 あ、なんかすごい。本当に推理してるみたいだ。
「その通りです。調査の過程で盗難事件と噂の発生には時間のズレを確認しています。実は噂の方が少し早いのです」
 な、なんだってー!?
「という事は、最初の噂は盗難事件関係ない?」
「そう。初期は「黒色を見ると夜を思い出す」というものだったからね」
「随分ねじ曲がったな」
 俺の事一ミリも言ってないじゃないか。
「それを言った学生に聴き取りをしたところ、故郷の近くに「夜の信奉者」を名乗る集団が拠点を築いて夜毎怪しげな儀式を行っている話をした覚えはあると語ってくれたよ。夜闇に紛れる為か、揃いの黒服を着ているとも言っていた。「黒色=夜」の発言はこの話から切り取られたと見て間違いないだろうね」

「夜の信奉者」
 また新しいワードが出てきたな。……ん?待てよ?
「……それ、犯罪者集団?」
「確定するには材料が足りないね。調査を父に依頼したばかりだから、詳しいことはこれからわかるはずだよ」
 自国で怪しい集団が勝手に拠点を築いているのなら、宰相の耳に入れておく事は正しい判断だ。領地からの陳情が上がっているかもしれないけど、アスベル君の口ぶりではまだ王城まで届いていなかった様だ。
 情報というものは、正規ルートじゃない方が回るのが早い。その分正確性に欠けてくるのだが、正規ルートでも過不足あるものがやってくるので、どちらがいいかは一概には言えない。
 マロール公爵が動いてくれるなら(国家権力があるから)大丈夫でしょう。その件はお任せで。
「バルロ君の話とは完全に別物だからね?」
 そうだろうとは思っていたけど、念を押さなくてもよくない?
「聴き取りをした学生も、自分が噂の始まりだと知って驚いていたよ」
 だろうな。本人はただ友人たちと「うちの領地にこんなのが住み着いて困ってるんだよね」的な雑談をしただけなのに、巡り巡ってこんな大事になってるとか夢にも思ってなかっただろう。

「夜の信奉者云々は初耳だが、夜や死を特別なものとして祀る信仰があるという話は聞いたことがある」
 おっと。それは魔法関連ですか?
「生命や太陽信仰と対のものとして扱われる事もあるが、起源が異なるのなら別の物として見るべきだろう」
 あ、なんか授業始まった?
「そもそも光と闇には解明されきっていない部分が多い。研究したい者は多いらしいが、属性持ちが少ないため研究材料が不足しているという点が最大のネックとなっている。まあ、我々には今、ファルム君という特別な協力者がいるので、彼らを出し抜いて研究をするのも悪くないな」
 うん。途中から野望が漏れだしましたね。ある程度は協力するけど、過大に期待はしないでくださいね?

「…噂が変わったポイントはどこ?」
 研究の未来について語り始めたルキスラ教授は一旦放置だ。
「うん。時期としてはファルム君がメロメ国に行っていた期間だね。その頃に「黒を持つ者は不幸を運ぶ」となって「黒と言えば…」と、ファルム君に結びついていってる」
「無理があるのでは?」
 こじつけに近いものを感じる。
「ファルム君を知ってる者ならおかしさに気づけるだろうけど、関わりの少ない者や見た事がない者には見抜けないかもしれない」
 それはなんかわかる。噂って「よく知らないけど…」という方が広がりやすいもんな。
「大きく広がったのが初等部の1年というのがそれを裏付けているよ」
 あー、うん。それは仕方ない。
「1年は接点全く無いもんなぁ…」
 俺も1年は入学式でしか見たことないもん。関わろうとしたら(メロメ国に)連れていかれたし。

「学生会の調査によると1年のエルジ・シェアカテを中心としたグループが積極的に広めて回っている、という所までは掴んでいる」
 学生会…。各部長が集まって学園で行われるイベントや自治方針を管理運営するところだと聞いている。規模の大きい生徒会みたいなものだ。
 高位貴族が多く参加しているから、権力もすごい。ちょっとしたパーティ(数十人規模)なら発案した数日後に開催できるレベルの力がある。
 俺も進級前にアスベル君に誘われたが、丁重にお断りした。静かに生きたいんだよ、俺は。
「今は証拠集めの段階と見ていい?」
 おっと、今は学生会じゃなくて噂の話だった。
「そうだね。一気に片付ける為には証拠を突きつけるだけじゃなくて逃げ場を塞ぐのも大事なんだ。皆、相手に悟られないように慎重に動いているよ」
 つまり、この話は「みんなには内緒だよ」ってやつだな。

「ちなみに、今言った名前に聞き覚えは?」
 シェアカテ君を先頭に数名の名を出した後、アスベル君が問うてくる。
「ないですね」
 顔は…うーん、見たら判る………とも思えない。入学式で見た顔を思い出せ、って言われても困る。つまり、ほぼ無理。
 余程インパクトの強い見た目の奴がいれば(そいつだけ)記憶に残るだろうが、それ以外…つまり、知らん奴を思い出すなんてできない。

「向こうから仕掛けてくれたら早いんだけどね」
 うん。それ、また俺が言われなき罪を吹っかけられるやつだよね?
 ………それで即解決するなら、アリかもしれない。
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