この状況には、訳がある

兎田りん

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真実は一つとは限らない

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 ……………爆ぜた?爆発?…何で?…………え?人間爆弾?
『身体は無事だよ』
 何が起こったのかわからないままシェアカテ君(爆散)を見ていた俺に、レミール様が語りかけてくる(脳内)。
 あっ、爆散した様に見えたのはシェアカテ君の周りの煙…というか濁ったもや?え、なんかまだうぞうぞしてて気持ち悪い。散らばったのがまた集まってきてるし。いきもの…なの?
「ばっ、爆発?した!?シェアカテ!君がッ!爆ッ!散!?あぁい…うぇぇ…?」
 爆風(?)に吹き飛ばされたのか、バルロ君が壁に逆立ちしている様に張り付いている。近くにいたから靄が付いてるかもと(目視とステータスで)確認したけど大丈夫な様だ。ちょっと錯乱してるっぽいけど、いつも錯乱してるみたいなものだから大して変わらないよね?よし。通常運転。
 俺の傍にいるアスベル君と少し離れた所から見ているイニフィリノリス王女とメディナツロヒェン嬢は揃ってフリーズしている。
 予測してない事態だもの。仕方ない。俺もレミール様がいなかったら同じ状態になってたに違いない(確信)。

「魔憑きか」
「ふむ。あれが魔憑き。文献で知ってはいたが、禍々しい姿であるな」
 ルキスラ教授とメイナース先生は知識として持っていたのか、比較的落ち着いている様に……いや、ルキスラ教授のあの顔は対処に困っている顔だ。さては初見だな?俺もです。
「うぁ……ひか、り…あれ…」
 シェアカテ君が靄の中で操り人形見たいに揺れている。え、ちょっと浮いてる?
 この状況でも光って言うのか…
「い…生き……てる?なんでなんで?え?不死身?ヒーローなの?」
 どこをどう見たら不死身のヒーローに見えるのか。バルロ君の錯乱が酷くなってきてる気がする。いやまだ通常運転…か…?
「あんな禍々しいモノが不死者だなんて…」
「姫様、あれは不死者アンデッドと言うより生ける屍リビングデッドでは?」
 まだ死んでないらしいですよ(レミール様情報)。
 なんにせよ、話せるくらいの余裕ができたのは良い事だ。
「お二人は私が守ります!」
 頑張れアスベル君。かっこいい所を見せるんだ。お二人の護衛と自衛は任せたよ。バルロ君は…どうにかなるでしょ(適当)。

「レミール様…どうにかできますか?」
 魔法研究者のルキスラ教授がどうにもできないなら、一番頼りになりそうな人に助けを求めるのは定石。
 だって対処法判らないし!キモい無理!
 ……え?…レミール様?なんですか?その笑顔。
「やってごらん」
「……は?」
 ………マ(ジで)?
「できるはずだよ、さあ」
 さあ、じゃないですが?肩を掴んでシェアカテ君(靄)に向けるのやめてください心の準備がまだです!
『あきらめたら、そこで試合終了だよ』
『レミール様………試合じゃないです…』
「サポートするから」
『ファルム君ならできる。諦めんなよ』
 俺の意見総スルーしてスポーツ(っぽい)語録で畳み掛けるのなんなんですか?しかも脳内と言葉の両方で。夢に出そうです。
 ええいもう!やればいいんでしょ?

「属性は特性ばかりが目立っている様に見えるが、共通している部分もある。集中して。ファルム君の闇で魔を祓うんだ」
 以前ラキアータ様も似たような事言ってましたね。
『イメージが難しいなら詠唱したらいい。ほら、「黄昏よりもくらき…」』
 まってそれ聞いたことある!パクリはダメです!
『ファンから作者へのリスペクトだよ。さあ、「時の流れにうずもれし…」』
 それ軽い気持ちでぶっぱなしたらダメな必殺魔法でしたよね?ここ室内ですが?ちゃんとやりますから脳内で詠唱続けるのやめて下さい。爆発のイメージに引っ張られちゃうから声までアニメ版に寄せなくていいです。

 ウィー君を浄化した時を思い出す。あの時はウィー君の体の中にある濁り瘴気を消す感じだった。それと同じ様に…魔を祓う…祓う……
「………んー……消えな…い」
 シェアカテ君の中の靄を消そうと念を送っているつもりなのだが、手応えがないからよくわからない。ウィー君の時はなんとなく「できそう」って思えたんだけど、それがないせいかなぁ。
「いきなり消すんじゃなくて、まずは追い出してみようか」
『引きずり出せたら捕まえてあげるよ』
 捕まえてくれるなら、追い出すのもありか。…で?どうやるの?
『一番濃いところはどこ?』
 えっと…胸?心臓じゃなくて真ん中付近かな?肺にしても真ん中すぎない?
 え?何?レミール様の笑顔が麗しいけど意味深。
『とりあえず、追い出ちゃおうか』
 アッハイ。やります。やらせていただきます。

 まずは集中。見えなければ始められないので、見える眼にする(鑑定スキルをON)。
 シェアカテ君の胸の中心付近から濁った靄が沸き出してくるのが見える。発生源?とりあえずこれをどうにかしよう。
『見えた?じゃあ、シェアカテ君から追い出して。やり方は任せる』
 天井から降ってきて主人公をダンジョンの入口に強制連行しやがる謎の手をイメージ。
 イメージだけじゃ上手く動かせないから、俺も動く。アームの遠隔操作みたいな感じ?ただし、掴むのはシェアカテ君じゃない。胸の靄を掴んで…引き剥がす!
 …チャリ。と、小さい金属が落ちる音がした。衝撃で小銭でも落ちたかな?
 ぐん、と掴んだ手をシェアカテ君から離す。周りに漂っていた靄も引き寄せられるかのように付いてくる。
『上手く追い出せたね。じゃあ、逃げないように捕まえてあげよう』
 床や壁から白く透き通った鎖が手ごと靄を拘束していく。いや、手はすり抜けて靄だけを縛っている。これがレミール様の力か。初めて見た。そして秒で捕縛が完了した。
 靄が離れきったシェアカテ君が床に崩れ落ちる。メイナース先生が駆け寄り、生存を確認。息はあるものの、流石に意識は無い様だ。
「さ、次はコレの処理だね」
『浄化の炎で欠片も残さず焼き尽くしてしまおう。闇の炎も、美しいよ』
 脳内に黒い炎が映される。これはレミール様の記憶?同じものを生み出せと?

 シェアカテ君を蝕んでいた濁りを混ざりもののない闇色の炎で包み、圧縮しながら焼き尽くす。
 赤い炎よりも高温で、煙一筋も残さぬ様に。逃げ出す隙間も与えない。包み込んだ大きな炎を押し固める。だんだん小さく、更に高温に。焼き尽くしてしまおう。そこに何も残さぬ様に。

 張り詰めた空気の中、ふう、と俺は息を吐く。
 そこには俺たち以外には何の音もなく。穢れが祓われた跡のような澄んだ空気が微かに感じられる。気のせいかもしれないが。
 集中したおかげでシェアカテ君の靄も綺麗さっぱり消してしまえたようだ。
「うわ…と、?」
「お疲れ様。よくやり切ったね」
 ふらつく俺の体を支えながら、レミール様が爽やかな笑みを浮かべて労ってくれた。何だただのご褒美か。
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