白光と黒花

天咲 空

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1章 始まりと出会いと戦いと

2人と4人

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「遅いよ心結!」

「ごめんって!」


優月は腰に手を当てながら、口に食パンを頬張っている心結に向かって怒ったような素振りを見せる。ドタバタと降りてきた心結は、女子と見間違わんばかりの綺麗な黒髪を様々な方向に跳ねさせながら学校指定のブレザーを羽織っていた。入学式という晴れ舞台にも関わらずネクタイがよれており、その格好を見るに心結が起床したのは優月がインターホンを慣らしてからなのだろう。そんな状況も更に優月を怒らせてしまう。

そんな優月を見て、謝罪の言葉を重ねながら両手を合わせ謝罪をする。
こんなやり取りももう何回目だろうか…そんなことを思いながら、幼少期から変わらない相変わらず何処か抜けている自分の息子に対し、呆れつつも拠れたネクタイを直す。


「本当に心結は……いつまで優月ちゃんに面倒見てもらうつもりなの?」


優月の前だからか遅刻をしてしまいそうで焦っているからか、そんな母親に対し少し鬱陶しそうにして心結は返事をする。


「わかってるよ!それじゃ母さん、行ってきます!」


呆れる梨花を振り払うように食パンの欠片を飲み込みながら心結は言い、優月と家を飛び出した。

現在は朝の8時49分。入学式は9時丁度に行われる為タイムリミットは10分を切ろうとしている。
白澤家から目的地の高校まで対した距離では無いが、普通の足では頑張っても20分はかかってしまう。
本来ならば遅刻は確定だろう。

時間を確認しながら桜が舞う通学路を走る。このままでは間に合わないと悟り、心結の数秒後の行動がわかった上で優月は仕方ないと声を荒らげる。


「もう!本当はコレ、駄目なんだからね!?」

「今回だけだよっ!ほら、早く掴まって!」


口元のパン屑をぬぐい寝癖を直し、優月に罵声を浴びせられながら手を伸ばす。出した手が握られたのを確認してから、心結はすぅっと息吸った。そして、唱えるように言葉を紡ぐ。


「『旋風つむじかぜ』」


祈るように意味を乗せた言葉を放った瞬間、美しい翠色の風が心結の足元に集まり纏われていく。その風の勢いが最高まで達した事を確認して、心結は勢い良く地を蹴った。

すると、心結と優月の身体はふわりと宙に浮く。常人ではありえない、まるで風に乗せられた羽のような飛躍力を見せ、家を、屋根を、電柱を飛び越え、これから彼らが通う浄化師じょうかし育成専門機関『如月高等学校きさらぎこうとうがっこう』へと駆け抜けて行った。

心結が先程呟いたのは魂技こんぎという技術だ。
言葉に乗せる事で自分の魂のエネルギー…霊力を操り扱うことが出来る。
魂にはそれぞれ魂の属性たましいのぞくせいと呼ばれる魂の性質が存在し、霊力を火・水・風・自然・雷・氷・光・闇の形質へと変化させる事が出来る。
心結の魂の属性は風系統の『疾風』はやてと呼ばれる属性であり、霊力を風に変える事を得意としている。

自身の霊力を風として出力し、本来ならば20分程掛かるであろう距離を5分足らずで駆け抜けた。門の前に降り立ち足元の風を消すと、心結はふぅと息をつく。門の前に降り立ったと言っても、遅刻寸前の為正門ではなく裏門の前なのだが。


「っと、着いた着いたー」

「早く着いたはいいけどギリギリなのは変わりないんだから走らないと!」


一安心と言わんばかりの心結の手を取って、2人は入学式が行われようとしている講堂の方へ走り出した。そんな2人を見送るかのように、4つの人影が校舎の屋根の上から見ていた。


煌太こうたの言う通り、裏門も見といて正解だったね」

「だろ?なんせ俺とメーも入学式の時裏門から入ったからなぁ。絶対何人かはこっちから来るやつもいるだろうなと思ったんだ」


桔梗色の蝶々がモチーフとなったカチューシャを身につけた少女は、校舎の屋根に座りながらその隣に立っている体格の良い少年に笑いかける。そんな問いかけに対し、少年は去年の事を思い出すかのようにそう話した。
彼の足元で座っている小中学生にでも間違えられてしまいそうな幼い見た目の少女は、眠たそうなムスッとした目を少年に向ける。


「……コータが…寝坊したせい……」

「いやいやいや、俺は悪くないだろ!?寝坊したのはメーだったろ!」


2人のやり取りはいつもの事らしく、ショートカットの少女は情報を打ち込んでいた電子モニター型のPCを閉じ、眼鏡を外して制服の胸ポケットにしまいながらため息をつく。


「はぁ…貴方達、言い合いなんかしてないでさっさと戻るわよ。うちのリーダー様は生徒会長業務で忙しいんだから。あと2分で入学式、始まるわよ」


彼女の言葉を聞くと、2人も言い争いをやめ、カチューシャの少女の方を向く。カチューシャの少女も、腰を上げて心結と優月が走っていった方向を向き、笑顔を向けた。


「そうだね、それじゃあ行こうか。新メンバーを探しにさ」




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