白の末裔

天咲 空

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1章 始まりと出会いと戦いと

浄化師への第一歩

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ー如月高校ー講堂ーー


何とかギリギリで講堂に着いた2人は、入口で自身の席を聞き、それぞれ指定された席へと座った。まだ講堂内はざわついており、新入生全員がこれからの学校生活に期待や不安を抱え、それを発散するかのように新しい仲間との交流を楽しんでいた。それからしばらくして、壇上へと上がる1つの影が見えた。その瞬間、先程まで溢れかえってきた音は一瞬で静まり、講堂内にはコツコツと革靴の音だけが響いた。壇上に上がってきたのは白い長髪を束ね、顔の半分が前髪で隠れている長身細身の男性だった。白髪ではあるが若く、威圧感を覚えるような男性で、新入生達全員がその男性を校長であると認識する程だった。

男性は壇上に立つと、用意されているマイクのスイッチを入れ話し始めた。


「浄化師育成機関、如月高等学校への入学おめでとう。君達の入学を、新たな力達を私は歓迎する。私は如月高校の校長であり、ここ黄見市一帯の責任者である如月 陽翔(きさらぎ ひかる)だ」


そう自己紹介をすると、全生徒が固唾を飲み込んで壇上の陽翔を見る。浄化師育成校の役割は2つ。新時代の浄化師の育成に準ずる事、そしてもう1つは地域の守護だ。あるものからその地域を守護する為、多くの権力を与えられている。そして、育成校の教師と生徒の関係も通常の学校と異なっており、教師と生徒、というよりは上官と部下の関係に近いものになっている。

その為、新入生全員が陽翔の事を大きな権力を持つ自身らの絶対的上官であると考え、その威圧感に押しつぶされそうになっていた。そんな新入生の事など知らぬというように、陽翔は話を続ける。


「君達はここがどの様な高校かわかっているだろうが、今一度説明させてもらう。ここ、如月高校は、『Felled Soul』。通称FSを浄化する者、『浄化師』を専門的に育成する高校だ」

『Felled Soul』。堕ちた霊という意味のその者…いや、そのモノは、そのままの意味の存在。死んだ者の魂が、本来逝く筈の場所へ行かず、何らかの事象によってさ迷う事となった霊の事だ。1度FSに堕ちてしまった霊は、2度と元には戻れない。FSは人間に危害を与える為、『浄化』させるしか方法は無い。その浄化を行う者達の事を、浄化師と呼ぶ。

何百年も前からFSは存在し、FSが現れた頃から名前を変え続けながらも如月高校は存在し、次々とFSを浄化する者を輩出してきた。そんな高校に、心結達はこの春入学した。


「近年は目立つ動きは無いが、諸君には充分に注意してほしい。そして願わくば、この世全ての魂に安らぎを与えてくれることを祈っている。以上だ。諸君の魂に、加護があらんことを」


そう端的に告げ、陽翔は壇上を降りた。陽翔の言葉を聞き、心結は遂に如月高校に入学したことへの実感と、これから待ち受ける試練に胸を躍らせながら残りの式に参加した。






入学式は無事に終わり、心結達はクラス教室へと移動した。渡されたプリントには名前とクラスが書かれており、心結と優月は、両方とも1年B組だった。



ー1年棟ーB組ーー


「(この学校本当に広いな…)」


鈴ノ音町の一番大きな山の中枢に建てられたこの高校は、国内でもトップクラスの面積を誇っている。年次毎にクラス棟が分かれていて、心結達1年生の1年棟は、正門から一番遠い所に立てられている。講堂から移動するのにも一苦労だった。

黒板に貼られている座席表の通りに席に座り一息つくと、心結の右隣の生徒が話し掛けてきた。


「よっ、お隣さん!俺は紅秦 春樹(こうはた はるき)。春樹って呼んでくれ。これからよろしくな!」


少し赤みがかった髪の毛を揺らし、犬歯を見せて笑う少年、春樹は心結に手を伸ばす。それに対して心結も笑顔を向けて手を取った。


「うん、よろしく。俺は白澤 心結。俺も心結で構わないよ」


お互いに自己紹介をして、2人は会話を弾ませていた。たった数分ではあるが、会話の中で春樹がカラっとした好青年である事は心結は理解した。途中チラリと優月の席の方を見たが、あちらも友達が出来たようで、複数人の女子に囲まれて談笑しているのが見えた。

皆が新しい仲間との会話を弾ませる中、がらりと教室の扉か開かれた。皆はピタリと談笑を止め、教室の扉の方へ視線をやる。そこには、陽翔とは打って変わって、いかにも好青年といわんばかりの男性が入ってきた。


「おはようございます。みんな揃ってるかな?HRを始めるよ」


そう言って入ってきたのは、まだ20代前半であろう若い男性だった。社会人らしく切りそろえられた黒髪と鮮やかな翡翠色の瞳が、彼に爽やかな印象を与えている。彼はB組の担任のようで、圧迫感のあった校長の陽翔とは違い如何にも好青年という感じだった。彼は教室を見渡して1つ咳払いをしてから笑顔を見せ、言葉を発する。


「改めて、おはようございます。全員揃ってるね?では、ホームルームを始めます。まずは自己紹介から」


彼はそう言って、黒板に慣れた手つきで自分の名前を書き始めた。名前を書き終え、生徒達の方に振り返る。


「僕の名前は工藤 武彦(くどう たけひこ)。2年前までは最前線でFS浄化をしていて、如月高校のOBです。まだ教師としては未熟者だけれど、皆を立派な浄化師として育てられるよう精一杯頑張りたいと思う。3年間よろしくね」


武彦はそう微笑むと、クラスの皆から拍手が湧く。だが、それと同時にその半数以上が驚いたような表情をしていた。拍手が鳴り止むと、堪えきれないと言わんばかりに生徒の1人が立ち上がって声を上げた。


「あ、あの!先生はもしかして、『送り火』の工藤 武彦さんですか!?」


それを聞いて、驚いた表情をしていた生徒もそう出ない生徒も、ハッとなって武彦の方を見る。生徒からの熱烈な視線に、武彦は苦笑いをしながら頭を掻いた。


「あー…そうだね、その工藤武彦だよ。教鞭を取る前は送り火に所属して浄化を行ってた」

「やっぱり…!?私大ファンなんですっ!!お会いできて光栄です!!」


立ち上がった女子生徒がそう言うと、周りの生徒達も自分もと声を上げた。そんなクラスメイトを見て、有名人に疎い心結も武彦の事を思い出した。

浄化活動の最前線を駆け抜ける浄化師チーム 送り火の工藤武彦。高校案内のパンフレットにも載っていたし、テレビにもゲストとして何度も出演していた筈だ。目の前で見るスーツ姿とテレビ越しで見ていた浄化師姿が重ならず気付くのが遅れてしまった。 浄化師としてトップレベルの実力を持つような浄化師に教えを乞える環境だという実感が、今更湧いてきた。


「ま、まぁ。僕の話はこれくらいにしておいて、みんなにも自己紹介してもらうから!じゃあまずは、赤城君からね」


あまり担がれるのは得意では無いのか、武彦は自分の事で興奮する生徒達を宥めるように指示を出す。
武彦の指示で、B組の生徒達は出席番号順で自己紹介をしていった。生徒の自己紹介はとりあえず割愛して、今まで名前が出てきた者だけ紹介しよう。


「はじめまして!黄神 優月(おうがみ ゆづき)です!好きな食べ物はお饅頭で、趣味はお散歩です。魂器は神裁(しんさい)っていう名前の短刀です!3年間よろしくね!」

「ども!俺は紅秦 春樹!春樹って呼んでくれ!魂器は双刀の茜刃(あかねやいば)。3年間よろしくな!」

「初めまして、白澤 心結です。趣味はお菓子作りと料理。魂器は…白鳳(はくほう)っていう日本刀です。3年間、よろしくお願いします!」



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