墜ちた英雄が隠居したが...

キリ

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地下迷宮へ

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 王城に戻ってすぐにマーリンのところに許可を取りに行くと、ビックリするぐらいあっさりと許可がおりた。
 当人曰く、不足している貴重な資源を取りに行くのであれば特に問題はないのだという。個人的な理由では、普段ならば危険な迷宮に生徒を行かせる許可は出せないが、俺ならばどこでも問題ないそうだ。相変わらずの俺に対しての過剰な期待と信頼だが、今回のようなケースではとてもありがたい。

 許可が出て、今俺は自室にいる。現在の時刻は午前10時23分、迷宮探索申請を出したため門限は消失した。焦る必要はない、ゆっくりと確実に準備を進めるだけだ。
 別途で持ってきたトランクから丸められた大きめの布を取り出す。
 それをベッドの端に置くと、転がして広げた。すると、その表面から様々な道具が浮き上がる。

 7種類ほどある短剣の中から太く大ぶりなものと、細く小ぶりなものを2本づつ選び、大ぶりな方を腰にクロスさせるように付け、小ぶりな方を両太ももの鞘に一本づつしまった。
 布の端に置いてある長さ10cmほどの藁を編み込んだ紐を螺旋状に巻いてある筒状の閃光弾と焼夷弾、破砕弾を3つづつベルトのポーチにしまう。
 そして、腰の鞘とポーチをつなぐベルトを固定するための革紐を腰の後ろから肩にかけて、そのままベルトの前部に金具で固定した。
 最後に畳まれて置かれている龍の髭が編み込まれた丈夫なコートを羽織った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 オリハンコンが取れる地下迷宮は街から特に遠いわけではない。町外れにある森の中の中心の、アリの巣の入り口のような穴の中にある。
 穴は垂直に下降していくと、100mほどで、底に着くとただただ真っ暗な空間が続いている。本来ならばそれを真っ直ぐに進んでいくだけで鉱脈にたどり着くのだが、落盤のせいでそうはいかなくなってしまっている。
 故に捜索隊が血眼になって別ルートを探し出したが、そこが運悪く例の、境界削りの群生地帯だったというわけだ。
 そして、地下迷宮はとにかく広い。かつ鉱脈の他にも中級者が出向く迷宮として知りられてもいる。
 現に今は入り口に向かっている途中だがパーテイーと思われる人達、大勢が各々並走して道を進んでいる。
 
 しばらくして、特に森に阻まれることもなく迷宮の入り口に到着した。
 
 たかだか100mほどの穴なのに、まるで底なしの闇に引きずり込もうとしているように見える、これが迷宮の恐ろしいところだろう。こいつらは中に入るものに恐怖と、希望という名の麻薬を与える。故に、ここに来る人たちは死ぬ可能性があるとしても、ここに夢を求めてやって来る。
 ここは中級迷宮、ある程度の腕に覚えがある奴しかこない。そして、中級者は初心者からの上がりたてというだけあって、総じて警戒心が強い。大量に人が死ぬという事態は起こらないだろう。
 
 俺がそのまま穴に飛び降りようとすると横から、ロープをかけて穴に降りようとしていたパーティーの一人が声をかけてきた。

「おいあんた!、ロープも用意しないでどうするつもりだ!」

 赤の他人なんてほっておけばいいものを、お人好しな奴だ。
 俺はそれを無視して穴に飛び込んだ。

「あ、おい!……………」

 飛び降りる寸前後ろから怒声が聞こえたが、どんどん遠くなっていき、案外すぐに底に着いた。
 目の前にも真っ暗な空間が広がっており、先が見えない。俺はある棒を取り出した。これは先端に燃焼石を貼り付けただけの簡単なものだが、固いものに擦り付ければ、最大で12時間燃え続ける優れものだ。
 俺はそれを見て壁に擦り付け、明かりをつけると奥に歩いて行った。
 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ジメジメとした迷宮の中をもう3時間ほど歩いてやっと例の落盤が起きた地点までたどり着いた。
 やはり話通り、隙間なく岩が積まれていて、誰も通ることができないだろう。

「そして、そのための横穴なわけだ」

 俺はそう口ずさんで、右にある3人くらいが並んで入れる程度の大きさの穴を見た。
 あそこが発見された別ルートで、その反対側にあるのが迷宮の本部だ。
 普通ならば、左側にある本部に向かうのだが、俺の今回の目的はオリハルコンなので右の穴に向かった。
 
 中に入って気づいたことだが、別に中に入ってすぐに、境界削りがいるわけではないようだ。
 5分ほど進んでいるが、それらしきものは見当たらない。
 俺はひたいの汗を手で拭い、壁に手をついて一息つく。すると、何か冷たい感触がして手を引くと、ヌチャー、とした感覚とともに白濁した液体が糸を引いた。これは境界削りの繭の主成分だ。
 
 悪寒を感じた俺は恐る恐る、発火灯を向けて天井を見た。
 明るく照らし出された天井には、白い卵状の繭が無数に貼り付けられていたのだ。しかも、それらは小刻みに震え、今にも孵化しそうだった。

「………よう、芋虫ども………」

 俺はそれだけ呟くと、発火灯を放り投げ全速力で奥に走り出した。
 後ろからは何かが床に落ちる、ボトッ、という音が合間なく断続的に響いている。
 しかも、地を這う音が大量に追ってきている。どれだけ走ってもその音が途切れる気配がない。

「ああ、しつこい!」

 あまりのしつこさに痺れを切らした俺は、ポーチから焼夷弾を2つ取り出し、キャップを外して、床に投げる。
 きっかり5秒後に背後から放たれた強い炎の光が辺り一面の暗闇を覆い尽くし、同時に芋虫どもの断末魔が聞こえてくる。
 
「ヤバ!」

 後ろが始末できたと思ったら、今度は前方の天井から芋虫が落ちてきた。
 それをなんとか躱しながらも、奥へ奥へと進んでいく。
 こいつらは性質上、鉱物の近くに繭を作ることはできないから、オリハルコンの鉱脈にはいないはず。そこまで走れば俺の勝ちだ。
 
 芋虫たちも粗方振り切れ、鉱脈が迫っていることから、俺の心に少し余裕ができた頃、さらに俺の余裕をなくす出来事が起きた。
 今から行く先に人影が見えるのだ。それも3人。

「おい、どうした!」

 俺が暗くてよく見えないが、女性であろう人に話しかけた。

「エレンが…エレンが…目を覚まさないんです!」

 俺は壁に寄りかかっている少女を見ると、微かな呼吸音が聞こえるだけで、意識を失っていることがわかった。
 おそらく、境界削りに魔力を吸われすぎたのだろう、衰弱仕切っている。これは早急に対処しなければ危ない。

「よし、あんた達、こいつは俺が運ぶ。ついてこい!」

 俺はその少女を担ぎ上げ、走り出した。残りの2人も俺についてきている。

「やベぇ!、あいつらが来たぞ!」

 パーティーのうちの男が恐怖にかけれたようにそれだけいうと、走る速度を上げた。
 どうやら、先程俺が巻いた奴らがまた追いかけてきたらしい。

 俺は懸命に走った。もうすぐ鉱脈なのだ。あいつらは鉱脈には入れない。何より見ず知らずの奴らだが、死なせるわけにはいかないからだ。

「光だ!、助かるぞ!」

 男がそう叫んだとおり、光が見えてきた。淡い光だが、この暗闇では立派な光源に見える。
 それを心の支えにし、俺たちは必死に走り、なんとか洞窟を抜けた。

 後ろから、蠢く音が遠ざかっていっている。もう、追っては来ないだろう。
 先程は暗闇から見ていたので明るく見えたが、いざその中に入って見ると、やはり薄暗かった。
 俺は発火灯をつけると、辺りを照らした。すると、先程助けた女性が話しかけてきた。

「先程はありがとうござ………あれ?、グレイさん?」

 驚いたことに助けた女性は、宿屋の娘である犬(正確には狼らしいが)の獣人のルナ・フェニックスだった。

 


 
 
 
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