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第三章 カーテンコールまで駆け抜けろ
65、神「隣国の王が全裸になるらしいよ」聖女「何だって???」
しおりを挟む「単刀直入にお伺いします。呪いを解く方法をお探しでしょう?」
応接室に場所を移し、ユーレイアがそんな爆弾を投げ込んだ。
ゆったりとソファに座る彼女は優雅で、その慈愛に溢れた微笑みは天から舞い降りた女神のように神々しい。
そこだけが、まるで宗教画のようだ。
しかし、何故だろう。
汚れなど何も知らぬでも言うかのように澄み切った瞳が、一瞬だけ獲物を狙う猛禽類のような鋭さを孕んだように思えた。
口を開こうとしたラームニードを、ユーレイアは制す。
「ああ、反論はなさらなくて結構です。全て知っています。……つい先日、我らが主から神託を受けました。それを受けて、ご助力が必要だろうと急ぎ参ったのです」
聖国の聖女の代表的な力の一つが、神託だ。
神の声を聞き、国の発展や難事に役立てるのだという。
神託は受動的なもので、必ずしも欲しい情報が得られる訳ではないようだ。
だが、下されれば百発百中、その内容に間違いはない。
「ちなみにどんな神託が下されたのですか?」
「神託は聖教会の秘匿情報となっておりますので全てを明かす事は出来ないのですが、断片的で宜しければ……」
宰相の問いに、ユーレイアはにっこりと笑みを浮かべる。
「──『愛無き王が全裸』だと」
……あ、これ想像していた以上にガッツリとバレてるな!?
リューイリーゼを始めとした王国一同は、そう納得せざるを得なかった。
端的だが、呪いの内容をよく言い表している言葉だ。
断片的でこれなのだから、全容はもっと細かい部分まで伝わっているに違いない。
何だか面白い一文になってそうなので、是非とも全文を教えて欲しい、とリューイリーゼは心の中で思った。
(それにしても、突然他国の王の全裸が云々っていう神託を受けて、さぞかし戸惑ったでしょうね……)
どういった言い回しの神託だったのかは知らないが、どういう風に転んでも解釈に悩んだ事だろう。
『全裸って何!?』『何かの比喩か?』と混乱に陥る聖女達を想像しながら、リューイリーゼは事態を見守った。
「聖女の力の一つに、『異常から正常へと戻す力』というものがあります。それを使って、聖女は人々の病や怪我を癒やし、その場を正常な状態に維持する結界としている。……であれば、それを用いれば、今まさにあなたの身に起こっている『異常』を元へと戻す事が出来るとは思いませんか?」
「……それで?」
ラームニードが、挑戦的な笑みを浮かべる。
「それが事実であるのなら、何をお望みか?」
「認めるのですね?」
「認めないと言ったとして、其方側にとっては既に確定している事なのだろう。であれば、回りくどい話をする意味は無い。貴重な時間を無駄にするだけだ」
聖国側が、ただの善意で助力しようと考えるとは到底思えない。
何かしらの見返りや利益があるからこそ、こうしてわざわざ王国に聖女を差し向けたのだ。
さっさと全部言えと迫る視線に、聖女は「話が早くて助かりますわ」と頷いてみせた。
「わたくしの力を以ってしても、完全な解呪を行うのは難しいでしょう。ですが、一日に一度、あなたに聖力を込める事が出来さえすれば、あなたは何の憂いもない一日を過ごす事が出来るのです。……ですが、こちらとしても非常に心苦しいのですが、その為だけに神の代弁者たる聖女を王国へと派遣する事は難しくもあります。……ですので」
聖女の要求を察したラームニードの視線が、一気に鋭さを増した。
そんな視線を受けて尚、ユーレイアは穏やかな笑みを崩さない。
「──わたくしを娶る気はございませんこと?」
予想していた言葉に、宰相が面白そうに片眉を上げる。
「……聖女を国外に出すつもりがあるとは意外ですね」
「幸い、わたくしの後任は既に決まっておりますの。それにこの婚姻によって両国の血は混じり合い、恒久的な平和が約束されます。悪い話ではないのではなくて?」
「聖国に従属せよ、と?」
ラームニードの明け透けな言葉に、その場に緊張が走った。
「とんでもない。わたくし達はただ同胞を助けたいだけなのです。もしこの事が他国へと知られたら……困るのはわたくし達ではありませんから」
つまりは脅迫だ。
この事を他国にバラされたくなければ我が国の意に従えと、聖女は虫をも殺さないような顔で言葉の刃物を突き付けている。
「返事は急ぎません。わたくし達が国へと帰るその日までに、良い返事をお聞かせ頂ければ幸いですわ」
そう微笑んだユーレイアは、実際にその目で見た方が良いでしょうから、とラームニードに祈りを捧げた。
一瞬光に包まれたラームニードは、別に聖女や聖国に思う所がある訳ではない。呪いの効果を見せるのに必要なのだ、と前置きをして言った。
「おととい来やがれ、この女狐が」
──服は、ハジけなかった。
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