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第二章
side一縷 ㊼
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一週間後、飯田と飯田側の弁護士、俺と蒼と多田で、有名ホテルのカフェにある半個室のテーブル席で見《まみ》えた。
『このような場を設けていただき、感謝致します』
飯田側の弁護士が即座に謝礼を述べてきた。
「とりあえず、お二方ともお座りください」
蒼は冷静に対応していたが、体が小刻みに震えていた。
俺はあくまで蒼の付き添いという形なので、出しゃばりたいのは山々だが、大人しく隣で蒼を支えることに集中する。
「示談に応じるとはまだ決めていません。今回はあくまで話し合いのみの席です」
『承知しております』
「飯田さんにお伺い致します。どうして今回このようなことをされたのでしょう?」
蒼はかなり恐怖を感じていたと思う。
それでも、毅然とした態度で対応していた。
「今の法律をご存知ないとは思いません。極刑も免れないような事案ですよ?」
『分かっています』
「それならどうして…」
『単純にあなたが好きだからです』
「はい?」
『東条さんはΩにもかかわらず、すごい功績を残された。しかも、周りの人の第二の性が何であろうが関係なく、分け隔てなく接している。そんな姿を見て単純に惹かれました』
「誰に対しても分け隔てなく接したりしてないですよ。苦手な人だっていますから」
『そんなことありません。私の家は代々α家系で、家族も私以外皆αです。一族では私のみβです。それ故、周りからは疎まれました。もちろん家での発言権もなければ、立場もありません。それを見返すために、大手製薬会社の営業トップになりました。それでも、彼らを見返すには全然足りなかったのです。ただβだからというだけで、ここまで蔑まれなければならないと思うだけで辛かった。そんな時に、東条さんを見かけました。東条さんは誰に対しても優しく接してくれて、最初僕にも優しく微笑んでくださいました。それだけですごく嬉しかった。くだらないことかもしれないですが、私にとってはすごく嬉しい出来事だったのです。その一瞬で惹かれてしまって、少しでもあなたの意識を引きたくてあのような愚行を犯しました。申し開きもございません。甘んじて刑を受けます。申し訳ございませんでした』
「私に番である主人がいることはご存知なかったのですか?」
『知りませんでした。あの日、あなたを抱いた時に首元の噛み痕を見て初めて知りました』
「そうでしたか…。分かりました」
蒼は目を閉じ、何かを考えているようだった。
「今回は示談に応じましょう」
『……………っ!!』
「条件を提示させていただきます。それを承諾していただけるのでしたら、示談に応じます」
『条件とは…』
「今後一切私の前に現れないことを条件とさせていただきます」
『それだけですか?』
「それだけです」
『ありがとうございます」
「ねぇ、飯田くん」
『はい?』
「君は営業としては、すごい才能の持ち主だと思うよ。実際、君が営業してくれたおかげで、売れ行きはどんどん増加した。これは事実だ。君の巧みな話術と営業スマイルは天性の賜物だから、それを活かして磨きをかけていくと、君は今以上に素敵な人になれると思う。だから、これからも頑張ってください」
『…ありがとう…ございましたっ!』
示談は成立し、解散となった。
「なぁ、あお?」
「なぁに?いち」
「どうして示談に応じた?」
「彼の半生を聞いてて僕と重ねちゃったからかな」
「あおはあんな半生を送ってないだろ?」
「彼の気持ちが分かったんだよ。辛い気持ちが…」
「辛い気持ち…」
「βにはβの、ΩにはΩの、αにはαのそれぞれの辛い気持ちがあるんだよ。それを理解しちゃったから…」
「あおは優しすぎる」
「そうかもしれないね」
「そうかも、じゃなくて、そうなんだ」
「彼、会社も辞めたって言ってたし、これからの方が大変だと思うんだよ」
「そうだな」
「これからの彼に期待して、僕は示談に応じたってのもあるんだ」
「あおがそれでいいなら、俺はそれでいいよ」
「ありがと、いち」
そっと繋いだ蒼の手は緊張していたからか、まだ冷たいままだった。
これで、少しは蒼の生活から辛い思いが取り除いてくれればいいのだが…。
『このような場を設けていただき、感謝致します』
飯田側の弁護士が即座に謝礼を述べてきた。
「とりあえず、お二方ともお座りください」
蒼は冷静に対応していたが、体が小刻みに震えていた。
俺はあくまで蒼の付き添いという形なので、出しゃばりたいのは山々だが、大人しく隣で蒼を支えることに集中する。
「示談に応じるとはまだ決めていません。今回はあくまで話し合いのみの席です」
『承知しております』
「飯田さんにお伺い致します。どうして今回このようなことをされたのでしょう?」
蒼はかなり恐怖を感じていたと思う。
それでも、毅然とした態度で対応していた。
「今の法律をご存知ないとは思いません。極刑も免れないような事案ですよ?」
『分かっています』
「それならどうして…」
『単純にあなたが好きだからです』
「はい?」
『東条さんはΩにもかかわらず、すごい功績を残された。しかも、周りの人の第二の性が何であろうが関係なく、分け隔てなく接している。そんな姿を見て単純に惹かれました』
「誰に対しても分け隔てなく接したりしてないですよ。苦手な人だっていますから」
『そんなことありません。私の家は代々α家系で、家族も私以外皆αです。一族では私のみβです。それ故、周りからは疎まれました。もちろん家での発言権もなければ、立場もありません。それを見返すために、大手製薬会社の営業トップになりました。それでも、彼らを見返すには全然足りなかったのです。ただβだからというだけで、ここまで蔑まれなければならないと思うだけで辛かった。そんな時に、東条さんを見かけました。東条さんは誰に対しても優しく接してくれて、最初僕にも優しく微笑んでくださいました。それだけですごく嬉しかった。くだらないことかもしれないですが、私にとってはすごく嬉しい出来事だったのです。その一瞬で惹かれてしまって、少しでもあなたの意識を引きたくてあのような愚行を犯しました。申し開きもございません。甘んじて刑を受けます。申し訳ございませんでした』
「私に番である主人がいることはご存知なかったのですか?」
『知りませんでした。あの日、あなたを抱いた時に首元の噛み痕を見て初めて知りました』
「そうでしたか…。分かりました」
蒼は目を閉じ、何かを考えているようだった。
「今回は示談に応じましょう」
『……………っ!!』
「条件を提示させていただきます。それを承諾していただけるのでしたら、示談に応じます」
『条件とは…』
「今後一切私の前に現れないことを条件とさせていただきます」
『それだけですか?』
「それだけです」
『ありがとうございます」
「ねぇ、飯田くん」
『はい?』
「君は営業としては、すごい才能の持ち主だと思うよ。実際、君が営業してくれたおかげで、売れ行きはどんどん増加した。これは事実だ。君の巧みな話術と営業スマイルは天性の賜物だから、それを活かして磨きをかけていくと、君は今以上に素敵な人になれると思う。だから、これからも頑張ってください」
『…ありがとう…ございましたっ!』
示談は成立し、解散となった。
「なぁ、あお?」
「なぁに?いち」
「どうして示談に応じた?」
「彼の半生を聞いてて僕と重ねちゃったからかな」
「あおはあんな半生を送ってないだろ?」
「彼の気持ちが分かったんだよ。辛い気持ちが…」
「辛い気持ち…」
「βにはβの、ΩにはΩの、αにはαのそれぞれの辛い気持ちがあるんだよ。それを理解しちゃったから…」
「あおは優しすぎる」
「そうかもしれないね」
「そうかも、じゃなくて、そうなんだ」
「彼、会社も辞めたって言ってたし、これからの方が大変だと思うんだよ」
「そうだな」
「これからの彼に期待して、僕は示談に応じたってのもあるんだ」
「あおがそれでいいなら、俺はそれでいいよ」
「ありがと、いち」
そっと繋いだ蒼の手は緊張していたからか、まだ冷たいままだった。
これで、少しは蒼の生活から辛い思いが取り除いてくれればいいのだが…。
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