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第二章
side一縷 54
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翌朝、蒼が目を覚ました。
「おはよう、あお。お疲れ様」
「おはよう、いち。見てきた?」
「あおに似て、すごくかわいかった」
「いちに似て、すごくかっこいいの」
そんなやり取りをしていると、蒼の朝ご飯の時間が来たそうだ。
朝からメニューは豪華だった。
かぼちゃのスープ、鮭のムニエル、鯛のマリネ、黒毛和牛のステーキ、国産小麦100%使用のパン、3種から選べるケーキ。
本当にホテルで提供されていそうな食事内容だった。
しかも、食器は有名ブランドが使用されている。
最近の病院はここまでやるのか…。
病院の本気を垣間見た気がした。
蒼の朝食から少し後に、二人で新生児室を覘きに行った。
今日は起きていて、手足を動かしていた。
並んでいる子たちの中でも、ひと際大きく、活発であった。
「まるでいちみたいだね」
「どちらかというと、小さい頃のあおだろ」
相変わらずお互いの方に似ていると言い合う親二人。
助産師さんも困り顔をしている。
授乳の手順を教わり、哺乳瓶で授乳する。
蒼は手慣れたもので、簡単に授乳していた。
(案外簡単なのか…?)
そう思っていたさっきまでの自分を殴ってやりたい。
うまく哺乳瓶の乳首を吸わせてやれず、子供の口周りをミルクでベタベタにしてしまった。
不甲斐ない父親に怒ってしまったのか、最後は拒絶の態度を見せてきた。
かなりショックだった。
「最初はそんなものだよ」
「でも、最後は嫌だって蹴ってきたぞ?」
「練習あるのみだよ。僕も協力するから」
「がんばる…」
落胆の色を隠せなかった。
それから数日後、蒼と子供は退院することとなった。
自宅に戻り、蒼と大会議が催された。
題して、【子供の名前をどうするか会議】。
一番重要な議題が残されていた。
三日三晩徹夜で考えた。
しかし、蒼に片っ端から却下された。
字画が悪い、音が悪い…。
ケチばかりつけられた。
一生物だから名づけに慎重になるのは分かる。
だけど、片っ端からっていうのはさすがにひどすぎだ。
というわけで、久々に蒼と盛大に喧嘩をした。
最後の方は苛ついて、口も利かず、寝室に戻って三徹して疲労しまくった頭を休めようと、ベッドにダイブした。
落ちるように眠りについた。
その夜、夢を見た。
前世の夢。
あの日以来見ることのなかった前世の記憶。
葵と壱瑠がデートをしている。
『あのね、私子供ができたの』
『本当に!?』
『うん。お医者様に診てもらったから確実よ』
『ありがとう。もちろん産んでくれ』
『あなたとの子よ。産むつもりよ』
『まだ両親は知らないんだろ?』
『えぇ…教えたら堕ろせって言われてしまうわ』
『それは嫌だな…』
『それでね、気が早いかもしれないけど、名前どうしようか?』
『ん~そうだなぁ…』
『男の子なら私が、女の子ならあなたに付けてもらいたいのだけど…』
『いいね。そうしよう。産まれるまでに考えておくよ』
『男の子なら右京と名付けたいの』
『どうして?』
『私たちの親のように古い考えに囚われた偏った物の見方しかできない人間になってほしくないの。人格に優れた社会の中心となる子になりますようにって意味を込めて、右京と名付けたいの』
『いいね、右京かぁ』
そこで目が覚めた。
隣には蒼がすやすやと寝息を立てて寝ていた。
犬も食わないような喧嘩だったと頭が冷えた今なら思う。
(蒼が起きたら、さっきのこと謝ろう)
そう思って、二度寝した。
二度寝から起きた時、蒼は既に隣にいなかった。
急いで探そうと、リビングに行くと朝食の準備をしていた。
「おはよう、いち。朝ご飯もうすぐだから待ってて」
「おはよう、あお。手伝うことあったら言ってくれ」
いつもと変わらない感じ。
(朝食が終わってから話せばいいよな)
二人でいただきますをして、朝食を済ませる。
片付け、ゆったりとした時間が流れる。
「「あのっ!」」
二人でハモった。
「あおからどうぞ…」
何となく蒼に先を譲った。
「子供の名前のことなんだけど…右京ってどうかな?」
俺が言おうと思っていた名前だった。
「昨日夢で前世を見て、あの時付けようとした名前だったんだって」
「俺もその夢昨日見た」
蒼も驚いているようだった。
「あの時、三人で川に飛び込んだことになるんだね」
「そうだな。この子はまた俺たちの元に戻ってきてくれたんだな」
「絶対に幸せにしてあげないといけなくなったね」
「あぁ。右京、いろいろ待たせてごめんな」
ベビーベッドで寝ている右京の元へ行く。
どことなく笑っているように見えなくもない。
「俺、これからもっとがんばるから」
「僕もがんばるね」
右京と三人、やっと幸せになれるスタートラインに立った。
これからが始まりだ。
「おはよう、あお。お疲れ様」
「おはよう、いち。見てきた?」
「あおに似て、すごくかわいかった」
「いちに似て、すごくかっこいいの」
そんなやり取りをしていると、蒼の朝ご飯の時間が来たそうだ。
朝からメニューは豪華だった。
かぼちゃのスープ、鮭のムニエル、鯛のマリネ、黒毛和牛のステーキ、国産小麦100%使用のパン、3種から選べるケーキ。
本当にホテルで提供されていそうな食事内容だった。
しかも、食器は有名ブランドが使用されている。
最近の病院はここまでやるのか…。
病院の本気を垣間見た気がした。
蒼の朝食から少し後に、二人で新生児室を覘きに行った。
今日は起きていて、手足を動かしていた。
並んでいる子たちの中でも、ひと際大きく、活発であった。
「まるでいちみたいだね」
「どちらかというと、小さい頃のあおだろ」
相変わらずお互いの方に似ていると言い合う親二人。
助産師さんも困り顔をしている。
授乳の手順を教わり、哺乳瓶で授乳する。
蒼は手慣れたもので、簡単に授乳していた。
(案外簡単なのか…?)
そう思っていたさっきまでの自分を殴ってやりたい。
うまく哺乳瓶の乳首を吸わせてやれず、子供の口周りをミルクでベタベタにしてしまった。
不甲斐ない父親に怒ってしまったのか、最後は拒絶の態度を見せてきた。
かなりショックだった。
「最初はそんなものだよ」
「でも、最後は嫌だって蹴ってきたぞ?」
「練習あるのみだよ。僕も協力するから」
「がんばる…」
落胆の色を隠せなかった。
それから数日後、蒼と子供は退院することとなった。
自宅に戻り、蒼と大会議が催された。
題して、【子供の名前をどうするか会議】。
一番重要な議題が残されていた。
三日三晩徹夜で考えた。
しかし、蒼に片っ端から却下された。
字画が悪い、音が悪い…。
ケチばかりつけられた。
一生物だから名づけに慎重になるのは分かる。
だけど、片っ端からっていうのはさすがにひどすぎだ。
というわけで、久々に蒼と盛大に喧嘩をした。
最後の方は苛ついて、口も利かず、寝室に戻って三徹して疲労しまくった頭を休めようと、ベッドにダイブした。
落ちるように眠りについた。
その夜、夢を見た。
前世の夢。
あの日以来見ることのなかった前世の記憶。
葵と壱瑠がデートをしている。
『あのね、私子供ができたの』
『本当に!?』
『うん。お医者様に診てもらったから確実よ』
『ありがとう。もちろん産んでくれ』
『あなたとの子よ。産むつもりよ』
『まだ両親は知らないんだろ?』
『えぇ…教えたら堕ろせって言われてしまうわ』
『それは嫌だな…』
『それでね、気が早いかもしれないけど、名前どうしようか?』
『ん~そうだなぁ…』
『男の子なら私が、女の子ならあなたに付けてもらいたいのだけど…』
『いいね。そうしよう。産まれるまでに考えておくよ』
『男の子なら右京と名付けたいの』
『どうして?』
『私たちの親のように古い考えに囚われた偏った物の見方しかできない人間になってほしくないの。人格に優れた社会の中心となる子になりますようにって意味を込めて、右京と名付けたいの』
『いいね、右京かぁ』
そこで目が覚めた。
隣には蒼がすやすやと寝息を立てて寝ていた。
犬も食わないような喧嘩だったと頭が冷えた今なら思う。
(蒼が起きたら、さっきのこと謝ろう)
そう思って、二度寝した。
二度寝から起きた時、蒼は既に隣にいなかった。
急いで探そうと、リビングに行くと朝食の準備をしていた。
「おはよう、いち。朝ご飯もうすぐだから待ってて」
「おはよう、あお。手伝うことあったら言ってくれ」
いつもと変わらない感じ。
(朝食が終わってから話せばいいよな)
二人でいただきますをして、朝食を済ませる。
片付け、ゆったりとした時間が流れる。
「「あのっ!」」
二人でハモった。
「あおからどうぞ…」
何となく蒼に先を譲った。
「子供の名前のことなんだけど…右京ってどうかな?」
俺が言おうと思っていた名前だった。
「昨日夢で前世を見て、あの時付けようとした名前だったんだって」
「俺もその夢昨日見た」
蒼も驚いているようだった。
「あの時、三人で川に飛び込んだことになるんだね」
「そうだな。この子はまた俺たちの元に戻ってきてくれたんだな」
「絶対に幸せにしてあげないといけなくなったね」
「あぁ。右京、いろいろ待たせてごめんな」
ベビーベッドで寝ている右京の元へ行く。
どことなく笑っているように見えなくもない。
「俺、これからもっとがんばるから」
「僕もがんばるね」
右京と三人、やっと幸せになれるスタートラインに立った。
これからが始まりだ。
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