AT LONG LAST

伊崎夢玖

文字の大きさ
112 / 114
第二章

side一縷 54

しおりを挟む
翌朝、蒼が目を覚ました。
「おはよう、あお。お疲れ様」
「おはよう、いち。見てきた?」
「あおに似て、すごくかわいかった」
「いちに似て、すごくかっこいいの」
そんなやり取りをしていると、蒼の朝ご飯の時間が来たそうだ。

朝からメニューは豪華だった。
かぼちゃのスープ、鮭のムニエル、鯛のマリネ、黒毛和牛のステーキ、国産小麦100%使用のパン、3種から選べるケーキ。
本当にホテルで提供されていそうな食事内容だった。
しかも、食器は有名ブランドが使用されている。
最近の病院はここまでやるのか…。
病院の本気を垣間見た気がした。

蒼の朝食から少し後に、二人で新生児室を覘きに行った。
今日は起きていて、手足を動かしていた。
並んでいる子たちの中でも、ひと際大きく、活発であった。
「まるでいちみたいだね」
「どちらかというと、小さい頃のあおだろ」
相変わらずお互いの方に似ていると言い合う親二人。
助産師さんも困り顔をしている。
授乳の手順を教わり、哺乳瓶で授乳する。
蒼は手慣れたもので、簡単に授乳していた。
(案外簡単なのか…?)
そう思っていたさっきまでの自分を殴ってやりたい。
うまく哺乳瓶の乳首を吸わせてやれず、子供の口周りをミルクでベタベタにしてしまった。
不甲斐ない父親に怒ってしまったのか、最後は拒絶の態度を見せてきた。
かなりショックだった。
「最初はそんなものだよ」
「でも、最後は嫌だって蹴ってきたぞ?」
「練習あるのみだよ。僕も協力するから」
「がんばる…」
落胆の色を隠せなかった。

それから数日後、蒼と子供は退院することとなった。
自宅に戻り、蒼と大会議が催された。
題して、【子供の名前をどうするか会議】。
一番重要な議題が残されていた。
三日三晩徹夜で考えた。
しかし、蒼に片っ端から却下された。
字画が悪い、音が悪い…。
ケチばかりつけられた。
一生物だから名づけに慎重になるのは分かる。
だけど、片っ端からっていうのはさすがにひどすぎだ。
というわけで、久々に蒼と盛大に喧嘩をした。
最後の方は苛ついて、口も利かず、寝室に戻って三徹して疲労しまくった頭を休めようと、ベッドにダイブした。
落ちるように眠りについた。

その夜、夢を見た。
前世の夢。
あの日以来見ることのなかった前世の記憶。
葵と壱瑠がデートをしている。
『あのね、私子供ができたの』
『本当に!?』
『うん。お医者様に診てもらったから確実よ』
『ありがとう。もちろん産んでくれ』
『あなたとの子よ。産むつもりよ』
『まだ両親は知らないんだろ?』
『えぇ…教えたら堕ろせって言われてしまうわ』
『それは嫌だな…』
『それでね、気が早いかもしれないけど、名前どうしようか?』
『ん~そうだなぁ…』
『男の子なら私が、女の子ならあなたに付けてもらいたいのだけど…』
『いいね。そうしよう。産まれるまでに考えておくよ』
『男の子なら右京と名付けたいの』
『どうして?』
『私たちの親のように古い考えに囚われた偏った物の見方しかできない人間になってほしくないの。人格に優れた社会の中心となる子になりますようにって意味を込めて、右京と名付けたいの』
『いいね、右京かぁ』
そこで目が覚めた。
隣には蒼がすやすやと寝息を立てて寝ていた。
犬も食わないような喧嘩だったと頭が冷えた今なら思う。
(蒼が起きたら、さっきのこと謝ろう)
そう思って、二度寝した。

二度寝から起きた時、蒼は既に隣にいなかった。
急いで探そうと、リビングに行くと朝食の準備をしていた。
「おはよう、いち。朝ご飯もうすぐだから待ってて」
「おはよう、あお。手伝うことあったら言ってくれ」
いつもと変わらない感じ。
(朝食が終わってから話せばいいよな)
二人でいただきますをして、朝食を済ませる。
片付け、ゆったりとした時間が流れる。
「「あのっ!」」
二人でハモった。
「あおからどうぞ…」
何となく蒼に先を譲った。
「子供の名前のことなんだけど…右京ってどうかな?」
俺が言おうと思っていた名前だった。
「昨日夢で前世を見て、あの時付けようとした名前だったんだって」
「俺もその夢昨日見た」
蒼も驚いているようだった。
「あの時、三人で川に飛び込んだことになるんだね」
「そうだな。この子はまた俺たちの元に戻ってきてくれたんだな」
「絶対に幸せにしてあげないといけなくなったね」
「あぁ。右京、いろいろ待たせてごめんな」
ベビーベッドで寝ている右京の元へ行く。
どことなく笑っているように見えなくもない。
「俺、これからもっとがんばるから」
「僕もがんばるね」
右京と三人、やっと幸せになれるスタートラインに立った。
これからが始まりだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

起きたらオメガバースの世界になっていました

さくら優
BL
眞野新はテレビのニュースを見て驚愕する。当たり前のように報道される同性同士の芸能人の結婚。飛び交うα、Ωといった言葉。どうして、なんで急にオメガバースの世界になってしまったのか。 しかもその夜、誘われていた合コンに行くと、そこにいたのは女の子ではなくイケメンαのグループで――。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募するお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

ちゃんちゃら

三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…? 夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。 ビター色の強いオメガバースラブロマンス。

俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した

あと
BL
「また物が置かれてる!」 最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…? ⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。 攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。 ちょっと怖い場面が含まれています。 ミステリー要素があります。 一応ハピエンです。 主人公:七瀬明 幼馴染:月城颯 ストーカー:不明 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

処理中です...