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帝城の秘密
しおりを挟む翌日から王国に流入する帝国難民が急増していった。
辺境地域だけでは受け入れきれないと判断したマールは、王都周辺を新たに開拓し難民を主とした町の開発に乗り出した。
「いよいよ王国も大発展をするようだね」
「うん、君が来てから4カ月……随分と変わったものだ」
その日、アイテムの納品に来ていた僕が言うとマールはしみじみと答える。
それまでは時が止まったような王国であったのだけれど、今大きく動き出す時代のうねりを感じているのだ。
「マール王自身は変わらないで良いのかい?」
「ふ……妃か」
僕が何を言わんとしているのか彼も察して軽く吐息のように笑う。
「候補はいるのだろう?」
「さぁ……実は私にはピンとこないのだ」
「へぇ、どんなタイプが好みなのだい?」
「そうだな、私とは正反対の者が良いだろうな」
「根暗?ではないね、つまり、少々気が強いような?」
「そうだね、時々はぶつかるくらいで丁度いいと感じるが、そういうのは中々居ないようだな」
それで僕は一つ閃いて言う。
「それでは今度その気の強いタイプを探して来ようか?」
「当てにしているよ……」
マールは気の無い返事をする。実際王に口答えするような気の強い女など滅多にいるはずもない。
◆
ニアは荒廃した帝都に入ると、その肌感覚でピリピリくる不気味さに寒気がしていた。
帝都は、バーサーカー軍団が飛び込んだ時のような異様な暗黒の瘴気も存在せず、魔法陣のようなおかしな印も消滅している。
そこでは元からの住人と獣人兵が協力して倒れている人々を運び、燃えている家を消火して都市の復興に努めている様子が見えるのだが、オーバーSランクのスカウトの彼の勘がここはヤバい所だと教えていた。
王の命令だから来たのだがそうでなければ二度とここへは来ないだろう……。
それでニア達は正式に王国からの使者として皇帝に謁見を求めたのだが、それは叶わなかった。
「なぜなのでしょう?」
帝宮の入り口で門番をしているバーサーカー兵に訊くが厳しい顔で門前払いされてしまう。
「今は誰も中へ入れる事は出来ないから帰ってほしい」
これではなにも収穫を得られない。自身のプロとしてのプライドに掛けても潜入してやろうと、ニアは決意して当日の夜まで待ってから行動に出た。
「お前達はここに残り、万が一の時の逃走経路を確保してくれ」
帝城の監視の緩い城郭の外でニアが他の隊員に指示をだす。
「隊長、お独りで良いのですか?」
「独りの方が良いこともある」
ニアには計算があった。
元々バーサーカー軍団は戦闘には秀でているが対諜報となれば弱かった。
自分のスキルをフルに活用すれば簡単に潜入できると考えていたのだ。
だが、その目論見は外れる。
ニアが超人的なスカウトのスキルを使い外郭を登り、城内に侵入すると強烈な魔法防壁に阻まれた。
「なんだこれは」
ニアは神威の服に微量の魔力を流し、魔法防壁を無効化して突破した。
彼はそれで自身が油断していたことを感じ唇を噛む。
「一体何があると言うのだ……」
ニアは急に興味が湧いて来た。たかがバーサーカー如きと馬鹿にしていたのだけど、そんな自分に本気を出させた城の秘密を探ってやろうと思う。
彼は自身の経験から皇帝の私室の場所を特定して窓からの侵入を試み、内部を確認する。
当たりだった。
内装からしてそこが皇帝の私室であることは間違いが直ぐに異常に気がついた。
薄暗い室内に皇帝は存在せず、代わりにバーサーカーの将官が居る様子が見える。
ニアがそのまま少し様子を見ていると皇帝の私室の扉が外から開き、室内に部下の兵士が入って来た。
兵士は部屋に入ってきて何をすることもなく、長い間お互いに顔を合わせてジッと立ち何度も頷いてから兵士は部屋を出ていく。
念話だった。
バーサーカーが念話をしている!
それを直感したニアは異常なものの正体に薄々気が付いた。
ふと、将官が窓を振り向いた瞬間、奴の目が赤く光ってみえてニアは戦慄する。
見られたか?
一時撤退を決意して屋上に上る。そこで茫然と監視をしている番兵の目を楽々と盗み帝城の内部に潜入した。
帝城内部の警戒は緩く、始めに食らった魔法防壁との落差に違和感を覚える。
そもそも、バーサーカーが魔法防壁を使いこなす事がありえないと思っていたので、内部の緩い警備がニアにはしっくりきていた。
「どこかで何かが起こっているはずなのだ」
異変の正体を突き止めようと、城内を小一時間ウロウロして特になにも発見できず隣の建物に忍び込む。
そこは魔術的な研究をしているような場所に見えた。
細心の注意を払いながら調査をしていくと、小部屋の中に様々な機材が並んでいて、中に2人の男が立っていた。
帝城の中でやっと人を見つけ観察していると、一人の研究者のような人物がもう一人の戦士タイプの大男に黒い瓶のようなものを手渡して何かを言っていた。
「あまり連続で飲むと……」
「気にするな」
それを手にした大男はニヤリと不気味な笑顔を浮かべて中身を一気に飲みにした。
フシュー……
途端に全身から邪悪な瘴気を発して男の全身が黒くなっていく。
チラリと横顔が見えるとその目が全て真っ黒く、白目がない。
何が起こっているのかは判らないが一旦身を隠し、彼等が部屋から出るの待つことにした。
ニアは久しぶりにドキドキしていた。王国の情報部員に成ってからは初めての事だった。
少しすると、大男は扉を開けて出て来てそのまま地下研究所を出て行った。
すかさず内部に忍び込み研究員の男を後ろから羽交い絞めにして目隠しをして拘束する。
「ふぐ!はぐ!」
声にならない彼にそっと後ろから脅した。
「ここで邪悪な研究をしているのだろう?キチンと答えてくれたら殺さないでやる」
「……」
その沈黙で大体の見当がついた。
「あの男に何を飲ませたのか教えてくれ」
「ふぐ……」
男が抵抗をしない様子だったのでそっと猿轡を解いてやる。
「ゆ、許してくれ、まだ死にたくない……死にたくないんだ」
「判っている、だから答えろ」
「あ、あれはゴーストと言うものだ」
「それで?」
「あれは魔使から抽出した暗黒瘴気で、それで肉体を強化するものだ」
「……」
気持ちの悪い研究の自白を聞いてニアは唖然となる。
「あの男は化け物のように見えたが?」
「あれは魔人なのだ」
「なに!?」
それは以前ニースから報告を聞いていた魔人と同じものだった。
そこに転がっている瓶を見て全ての事がつながった。
「魔人の名前は何と言う?」
「し、知らない!」
そうか、と言ってその研究者を締め落として瓶を手に研究所を出た。
「隊長!心配しましたよ」
「大丈夫だ、帰るぞ」
「待てよ」
他の4人と合流したニアが帰還しようとすると不意に後ろから声がした。
振り向くまでもなく、研究所で見た魔人であった。
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