アイテムマイスター物語〜ゴミスキルで能無し認定された主人公はパーティーから追放され好き勝手に生きる事に決めました

すもも太郎

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死闘

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「違うな、それではない」

 超一流アサシンのシードは専用の通信魔法石で歩きながら呟いて報告をする。

「確かにその二人のはずだが」

「盾を持ってなく剣を二本差しだ、例の重戦士ではない」

「では再度遠隔スキャンをするから待て」

「……どうだ?」

「マーカーはそいつに合っている」

「……そうか、ならば確かめよう」

 シードは短く連絡して通信を切った。

 踵を返しラセルを追跡し始める。

「そこか」



 シードはアツシリム皇国に所属する暗殺者で、各国を転々としながら皇国の障害となり得る対象の排除を請け負っていた。

 今回の指令は限界突破をした重戦士の排除であった。

 アツシリム皇国は嘗て魔王を倒した勇者が建てた国である。

 皇国の教義は厳格に規定されていて、表面上は今も……世界に友愛を広めて争いを止めさせる事……を目指すものである。

 だが勇者亡き後の後世にその教義は湾曲され、害をなす存在を許容しないものへ変貌していった。

 今日では害なす前に排除する……という過激な裏の規定が盛り込まれている。

 それは、権力者の自己保存の本能からくるものであったが、勇者の子孫の12血族が合意した奥義で絶対であった。

 今回はラセルの排除である。

「この世界に超越者は不要、よいな?」

「はい、教主様必ず対象を排除してまいります」

「宜しい、では行け」

………………………………………………………………………


 
「なぁんか……気持ち悪いなぁ……」

 店を出てからずっと視られている気がしてラセルはイライラしていた。

 一旦は、魔人城からその目は消えたと感じていたのだがそれがまた復活してしまい不快である。

「それにあの声」

 それらが重なりいまラセルを焦られていた。

「どこかに隠れるか?」

 それは単なる思いつきではあったが、試してみる価値はありそうな気もする。

「隠れる……か」

 それで妙案を思いついた。

「確か、魔法鍛冶では魔法陣を常設していたはずだな」

 魔法鍛冶とは、魔力を付加させる鍛冶屋で腰の二本の魔法剣もそこで作られたものだ。

「……鑑定を依頼するか」

 それを言い訳にして魔法陣を使わせてもらおうというのだ。

 そうと決まるとラセルは走り出す。

 ダッ、ドシューボォォォ!

 ラセルが走るあとには風を切る爆音が轟いた。

「うん?……なにか早いような?」

 ラセルは普通に走っていたつもりであったが、スカウト職が固有スキルの「疾走」を使うのと同等以上に早く走っていた。

 そのため、ラセルの疾走の爆音に近くを行き交いしていた商人の馬車は驚いてい嘶き、年寄は風圧で尻もちをつく。

 常人には黒っぽい霞んだ影が瞬間に通り過ぎたように見えていた。

「ん!疾走!」

 ドォン! 

 ラセルが逃げ出したと感じたシードもスキルを使い追跡を始めた。

 途轍もなく目立つスキルなので出来れば使いたくは無いのだが、今逃げられては再度探すのが手間になる。

「くっ!離されているだと!」

 直ぐに追いつける……シードはそう考えていたがラセルとの距離が徐々に開いていく。

 その事実は最強暗殺者の彼のプライドを傷つけた。

「コイツに間違いない……!必ずや斃す!」

 皇国の仕事としてここまで来ていたシードだが、今は自らのプライドを脅かす敵として上書きされていた。

 そんなシードを尻目に辻を左右に何度も曲がりラセルは走り去った。
 

 ドォン!

 ラセルが魔法鍛冶屋の工房の前で止まると追いついた風圧による爆音がなる。

「おおお!なんじゃ!?」

 それに驚いた老職人が飛び出してきた。

「やぁ、騒がしくて申し訳ない」

「なんじゃ……お」

 老職人はラセルが腰に下げている二本の魔法剣を見て察した。

「この剣を鑑定して頂きたくて参りました」

 そう言って腰から革ベルトごと外して老職人へ手渡す。

「うむ、うむ、これは確かにワシが造ったものだがどこか気にいらんかったかな?」

 老職人は剣を引いて眺め確認しながら言う。

「いえ、この剣の鑑定書を作って欲しいのです」

「そう言うことならば宜しい、無料で進呈しようぞ、中へ入りなさい」

 老職人に促されてラセルは工房へ入ると、奥に魔法陣が光っているのを見つけた。

「あれ、か」

「それは魔法陣じゃ、触ってはいかんぞ」

 ラセルの言葉に老職人が鋭く反応して注意する。

「……」

 ラセルは先に釘を刺されて返事に困ってしまった。

 ドドーン!

 その時、工房の前でまた爆音が鳴る。

 振り返るとそこには少し前に見た目つきの鋭い男がラセルを睨んで立っていた。

「……だれだ?」

 ラセルは男に不穏なものを感じて誰何する。

「貴様……逃げられると思ったか」

 ラセルは男の言葉に殺意を感じて瞬間にスキルを使った。

「ガントレットハンド」

 ブゥン……ドン!

 鋼鉄化した腕をわざとらしく振り上げて工房を飛び出しシードに迫った。

「ぬぅ!」

 シードは唸りながら身体を捻じり、ギリギリでラセルの超速パンチを躱す。

 ラセルの右ストレートは男の顔面を掠りながら黒装備を切り裂いた。

 ラセルはこの時、パンチを当てるつもりはなく彼の殺意を確認するために放ったものだった。

 ズザ!

 シードは驚いて跳び退く。

 ラセルが重戦士の鈍重なスキルを使った筈なのに、プロの暗殺者並に早く動いた事に寒気を覚えていた。


「……なぜ僕を監視する?」

 それでもラセルにはまだ確信が無かったので、敢えてフックを掛けてみた。

「貴様は許されない存在なのだ」

「なに!?」

 その苛烈な言葉にラセルは確信した。

 こいつが監視する目の正体……若しくは関係者であると。

「深く知る必要はない、お前はここで死ぬのだから……殺陣剣、空殺!」

 パァン!

 シードは必殺のスキルを唱えるとラセルが見たことがない速度で腰から剣を居合抜きした。

 動きが早く、音が後からついてくる超音速の剣技である。

 剣はラセルの首を正確に狙って来て……それをラセルは鋼鉄化した手で受け止め掴んだ。

 ガィン!

「な!?」

 グイグイと剣を引くにもビクともしない。

 シードは直ぐに剣を諦めて腰のナイフを両手で掴み至近距離から4本同時に投げた。

 ビュ!

 だがラセルの反応は早くナイフを空中で叩き落としシードに迫る。

 今度はパンチを当てに行った。

 バァン!

 超速パンチがあたる寸前で驚愕の顔をしながら躱そうとするシードの顔面に、今度は追従して拳を叩き込む。

 グルグル……ズシャ!

 シードは自ら後ろに回転しながら跳び、ラセルのパンチを減衰させた。

 地面に叩き付けられる寸前で辛うじて膝を付きながら体制を取る。

 だが、ダメージは深刻で麻痺と視覚異常、知力の低下を起こしていた。

「ぐ、が……」

「……もう僕を監視するのはやめろ」

「ぬぅ……ぐ、ぐ……」

 シードはラセルの言葉が頭に入ってこず、ぐるぐる回る視界に何とか状況を判断しようと必死になる。

 ついで懐から震える手で回復薬の瓶を取り出して飲んだ。

「がはぁ……貴様……」

「なんだ?」

 シードは薬で回復するとラセルが追撃してこない理由を察しあぐねていた。

 殺し合いにおいて手を抜くという事がどういう事か知っているだけに、ラセルの態度が気持ち悪かった。

「なぜ手を抜いた!?」

「……それ以上やったら死ぬかもしれないだろ」

「なんだと……」

 ラセルがシードへの思いやりから手を抜いて相手をしていたという事実に彼は震えた。

 ラセルの言葉がシードの傷ついたプライドをズタズタにする。

「それに、僕を追う理由を知りたい」

 それはラセルの本心であった。
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