アイテムマイスター物語〜ゴミスキルで能無し認定された主人公はパーティーから追放され好き勝手に生きる事に決めました

すもも太郎

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新たな道

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 大抵のアイテムには寿命がある。

 それは剣も同様でいつかは寿命が来て朽ちるのだ。

 アイテムマイスターのラセルにはそのアイテムの大体の寿命まで把握することが出来る。

 酷使された物は朽ちるのが早くなるのは当然であるが、それは魔法剣でも同様だ。

「この風の剣はそろそろ打ち直しが必要では有りませんか?」

 ラセルはその剣を両手で持ち老職人へ訊ねた。

「さよう……先程の戦闘にてかなりのダメージが入っておるな」

 老職人は刃こぼれした剣を悲しそうに見ていた。

「それに、風の魔力もヘタって来ていると思います」

「ほほぅ、そこまで判るのか?」

 老職人は半信半疑でラセルを見た。

「ええ、何となく」

 アイテムマイスターのパッシブスキルで、ラセルには持っただけでそれがよく分かる。

 それを証明しようとして、試しに虚空に向けて何度か素振りをしてみる。

「見ていてください」

パーーン!パーーン!パーン!パーン!パン!パン!ンパ!パ!

 ラセルが剣を振ると武技を使わずとも音速を超えて剣が鳴るが、それが段々弱々しく成っていくのを感じ取れる。

 休憩を挟んで魔力が少し回復するとまた勢いが良くなるのだが、それでも初めの3、4回が限度のようだ。

「お主、技も使わずその音はどうやって出しておるんじゃ?」

「これは……特技です」

 指輪の事は説明がややこしいので特技という事にしておいた。

 その剣を何度も振ったので風の魔力は大分減衰してしまっていて憐れに思う。

「これを鍛え直して頂けませんか?」

「ふむ……それは構わないが、風の魔法石が10個程要るぞ」

「それなら後日納品いたします」

「であるならば……」

「取り敢えず前金でこれを……少ないですがお預けいたします」

 ドサ!

「それでは多すぎるぞ!」

 ラセルが持っていた金袋を丸ごと置いて開けると老職人は目を丸くした。

「そうなのですか?……500金程ですが」

「うむ、100も有れば十分じゃ」

 ラセルは言われた通り袋から100出して数えた。

 つまり……武器屋は相当にボッタクっているのだ……とその時ラセルは知ってしまう。

「では、宜しくお願いします」

「うむうむ」

「では」……といってラセルは魔法鍛冶屋を後にした。


………………………………………………………………………


 一方、敗走して戻ってきたシードは教主ラファド・シュメルグから叱責を受けていた。

「それでおめおめと戻ってきたのか?」

「はい、恥ずかしながら……」

「馬鹿者め……お前の絶死無敗の称号は取り消しと致す!」

「はい」

「後日、改めて沙汰を出すゆえ下れ」

「はい」

 通常、称号は生来のものでつけ外しは不可能なのだが、皇国では魔改造を行って強化人間を造っていた。



 シードが項垂れて教主の間を出てくと、その姿を見た幹部達は皆驚きを隠せずヒソヒソと話す。

「あのシードが敗北したと言うのは本当であるようだな……」

「信じがたい事であるが」

「これで絶死無敗の称号は降ろさざるを得まい」

「我が国の未来が不安である」


 それらを全て聞き取れてしまう己のパッシブスキルをシードは呪った。

 ……今回、シードはどんな言い訳もしようがない程に完璧に打ち負かされた……

 そのラセルとの戦闘の詳細は皇室の中央魔法執政所で監視され記録済みである。


 ……中央魔法執政所……

 そこでは皇国から選抜された最高レベルの魔法使いが集まり、常時全世界の監視が行われている。

 巨大な魔水晶を用いて監視をし、遠隔魔法で通信して工作活動に寄与していた。

 強化人間の制作及び調整、新しい魔術の開発まで行う一大拠点である。



 ……称号……

 称号の付与や剥奪は生き死に直結している。

 何故なら通常は生来のものとして存在するものであるからだ。

 それを付け外しするというのは生まれ変わりに近い大改造になる。

 もし改造に失敗すれば死ぬ。

 そして任務に失敗し、称号を剥奪されるということは「用済み」になった事を意味していた。

 用済みとなったシードは捨てられる運命にあった。

 ……死ぬかもしれない、いや寧ろ処理されるであろう。

 シードは前任者の事を良く知らない。

 彼は失敗し処理され、記録を抹消されたからであろう……そこに己の運命を重ねて絶望せざるを得なかった。

 先日まで世界最高の暗殺者として無敗を誇っていた自分が今は役立たずとして処分待ちとなっていた。

「シード!」

「……」

 皇宮を出ると、出口で待ち構えていたシードの旧友のサラテが声をかけてきた。

「なぁ、今日ちょっと付き合えよ」

 サラテとは皇宮に宮仕えになってからの友人である。

 もう5年の付き合いだ。

「今日は……」

「話は聞いたぞ、だからこそ……付き合えよ」

「少しだけなら」

 シードは言葉少なに目も見ずに答えた。

 サラテは、落ち込んでいるシードの肩に手を置いて連行するかのように皇宮側の酒場に入る。

 昼間の酒場は閑散としていて静かだった。

 弾き語りがスローバラードをギターでしっとりと流している。

「なあマスター、こいつと私にキツイやつを瓶ごと頼む」

 サラテはパチンと指を鳴らしてマスターにキツい酒をオーダーした。

 サラテがグラスにタップリ注いだ酒をシードが一気に呷る。

「俺は……」

「判っている」

「……お前ともお別れだ」

「そんな事をいうなよ」

 リアリストのシードが静かに別れを伝えると、サラテは慰めるでもなく答える。

「敗北したアサシンに未来はない……」

「……そうは言うけど、それは本当かな?」

「強化人間に他に道はない」

「こう言ってはなんだが……いっそ逃げ出すと言うのはどうだろう?」
 
「それは……無理なのだ、俺には自爆用の魔法石が埋め込まれている、逃げ出したと判れば……」

「そんなもの私が外してやる」

「出来っこないさ」

「……落ち着いて聞いて欲しいのだが……」

「……」

「この国にもスパイは居る」

「……俺には関係ない」

「そうでもないさ、実は私は……」

 サラテはそう言うとわざと酒を溢して、それを指につけて文字をテーブルに書いた。

「……なんだと」

「落ち着いて欲しい」

「お前が帝国の……!」

 シードは驚いてサラテの顔を見つめる。

 サラテの真偽を測りかねていたが、大真面目な顔で見返すサラテはジョークを言っている風ではなかった。
 
「まぁ待て……世界はバランスで成り立っている、そこはいいな?」

「……うむ……だが」

「バランサーは必要とされているし、そしてどこにでも居る」

 それ自体にシードも異論はなかった。

「いいか?ここで重要なのはあくまでも全体的な視点だ」

「……何を言いたい?」

「お前に生き延びてほしいのだ、シード」

「……だが……」

「私の為にも生き延びて欲しい」

「……」

「私もお前も必要とされて居るバランサーなのだよ、ただ時々その国が変わるだけだ」

 サラテの言うことはシードにも理解できていたが、いきなり国を裏切れと迫られても直ぐには飲み込めない。

「長い歴史を俯瞰すれば……人も国もすべてのものは変わりゆくのだ、不変のものは無い」

「……うむ」

「そして個人でも変化をするタイミングがあるが、シードは今がまさにその時なのだよ、私と共に来い」

「……信じても良いのだな?」

「ああ、この時のために私はここに居るのだから」

 その晩、シードとサラテは皇国の都に極秘に設置された転送装置を使い帝国へ逃げ延びた。

 莫大な開発費と魔法石を用い付けられた絶死無敗の称号と共に皇国から去った。
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