アイテムマイスター物語〜ゴミスキルで能無し認定された主人公はパーティーから追放され好き勝手に生きる事に決めました

すもも太郎

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逃走

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「室長!報告がございます!」

 リーナが去ってから数日後、レガーの元に諜報専門のモーリーがやってきて慌てた様子で報告を述べる。

「どうした?」

「はい、ニコルら白の牙の四名に逃げられました」

「……ふむ、手引した者が居るのだな?」

「恐らくは……ですが、担当の施設署員が数名行方不明になっており足取りが掴めません」

「それはまた大きな力が動いたな……この件からは一旦手を引く」

「は!?」

「下がってよい」

「……はい、承知いたしました」



「……困ったものだな、我々も無敵ではない」

 モーリーが去るとレガーは事務所の壁の模様の小さな出っ張りを指で押す。

 すると壁が模様のところでバカッと開いて隠し部屋が内部に覗いた。

「権力中枢に関与している相手では、迂闊に……雑な対応をすると危うい」

 内部には雑多な機器類が並んでおり、多少ホコリが積もっている。

 暫く誰も掃除をしていないからだ。

「これだ……」

 雑多な機器類の中でも大きな水晶玉が嵌め込まれた物を取り出して事務所のテーブルに置いた。

「さてと……」

 レガーが手袋を嵌め、その水晶球をニコルから接収した彼のシャツでフキフキしていると段々それは内部から光り始めた。

「うむ……もう少し……頃合いか」

 ボゥ……

 水晶球は異音を発して振動すると、なにか複雑な軌道を描く線を表示しだした。

 水晶球の裏側に王宮の見取り図を逆さまにして置いて線と通路を合わせる。

「……なるほど……」

 それはニコルが残した魔力線であり、魔力が強ければ数ヶ月は追跡可能な魔道具である。

「ここから抜けるには、やはりそうか……」

 王宮の敷地の裏口に、特殊な魔法で塞がれている緊急時の避難通路がある。

 通常時は神聖魔法結界が張られて居るので知ることすら出来ないものだ。

 そこから彼等は脱出したようだ。

 その結界を開くには通常ならば教皇の権限が必要である。

「まさか教皇が自ら手引したとは考えにくいが……」

 側近を抱き込めば可能性はあった。

「やりにくくなったな」

 レガーは顎髭をモミながら考えあぐねていた。

 正面からではパワーゲームになり、下手をすると特務室にも被害が出る。

 かと言って絡み手を使えるような相手でもない。

 つまらない工作活動をすればすぐに見破られてこちらの責任を追求されかねない。

「こういう場合は無関係な第三者かまたは……」

 レガーは彼の過去の手帳を読み返して教皇の側近の名簿からリストを書き出した。

「さて、手駒は……一つ、二つ……」

 レガーは少し厳しい顔になり考え始めた。

………………………………………………………………………


 街道を疾走するラセルは最高に気分が良かった。

 追跡される目もなく、風になったかのように自由に疾走る。

 以前よりも風の抵抗を感じずに走れるのは、風の剣を装備しているからだ。

 今のラセルには火と氷と風の加護が加わっていた。

 ヒューヒューと耳元で風を切る音が心地よく響き、このままずっと走っていたい気分だ。

 途中、さほど魔物も出現せずに皇国と帝国への主要分岐に差し掛かった。

 ラセルは迷わず帝国方面へ曲がり疾走る。

 以前から聞いていた話で、自由に商売をしたければ帝国が一番であるらしい。

 帝国はその自由な経済活動により拡大した大国である。

 周囲の衛星国家との関係も概ね安定していて、争いは少ないとも聞く。

 商人、職人としては断然帝国が有利であるはずだ。

 一つだけ懸念があるとすれば階級差別があるとの事だったが、それは祖国のイシュタル王国でも有ることなのであまり気にはならなかった。

 初日から丸二日疾走ると、帝国の領土へ入った。

 特に国境のゲートらしきものは存在せず、木の簡素な案内看板が立っているだけだ。

 ただ、そこを通過する時に何かトラップの類を感知し、試しに大きな木の枝をぶん投げるとカチリと音がしていた。

「なるほど、これはカウンターだな」

 ラセルのアイテムマイスターのパッシブスキルでそれと判明した。

 それはそこを通過した者の数を数えるだけの魔道具であるようだ。

「へぇ、面白いじゃないか」

 世界は広いのだなと、帝国の入口で実感した。

 そこから暫く疾走ると荒涼とした砂地に出て、途端に飢えた魔物がゾロゾロと現れた。

 ザバ!

 突然前方の土中から巨大なサンドワームが跳び現れてラセルを飲み込もうとしたが、立ち止まって風の剣で叩き切る。

 パパパパーーン!

 音響がし、巨大なサンドワームは輪切りになって四散して消えた。

 傍目には少しだけラセルのショートマントが揺れただけに見えるその動きでサンドワームを四度切り刻む。

 早すぎて常人には剣を抜き差しする動きすら見えない速技だ。

 この後も何度か同じ事を機械的に繰り返し魔石が溜まったころに前方に三人、冒険者パーティーの後ろ姿を見つけた。

 かなり疲弊している様子で剣や槍を杖代わりにしている。

 弱りきった仲間を二人で肩で担いでいた。

 丁度その時、彼等の後方からまたサンドワームが跳び出して踊り掛かる。

 ラセルは一飛びで彼等を追い越しザマに切り裂いた。

 パパパーーン!

 トン。

「やぁ、大丈夫かい?」

「あ、あ、何だいまのは!?」

「いま、サンドワームが見えた気がしたのだけど……」

 ラセルが声をかけるとまだ多少元気が残っている二人が、上から跳んできたラセルをみて驚いていた。

「なんだ……なにかわからないが助かった……のか」

「今のは君がやったのかい?」

「さあ、何の話だ?」

 ラセルはとぼけていた。

 目立つのは今後なるべく控えたほうが良いだろうと思っていたのだ。

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