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トルーア
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辺境の街トルーアの酒場は賑わっていた。
祖国の王都の酒場程ではないが、雑多な人でごった返している。
だが、ラセルの超知覚で観察するとそこら中に犯罪者が溢れているのが解った。
スリが複数大活躍し、詐欺師がいかがわしい話しをしている。
違法薬物が堂々と取引きされているし、人身売買の密談も聞こえて来るしまつだ。
一言でいうと「ごみ溜め」であった。
ざっと見て、ミリーネの一団は見当たらず少しホッとしていた。
なぜ、彼らの心配をしているのか自分でも意外であったが、やはりごみ溜めに薔薇は似つかわしくない。
ラセルは酒を飲んでも殆ど効かないので意味は無かったのだが、酒場の猥雑な雰囲気の中に身をおいていると寂しさが紛れる気がして何か落ち着いた。
皆が必死に生きている、そんなエネルギッシュな空気のなかに居ると詰まらないことを考えなくて済む。
ここでは、どんな失敗でも許されてしまうような緩い空気が流れていた。
自分のような追われる者もここには多数いて、そんな空気を共有しているのだ。
「失敗したって良いよ」何処からともなくそんな旋律が流れているようだ。
ふと、怒鳴り声が聞こえると喧嘩が始まっていた。
詐欺師に騙された男が酒場に怒鳴りこんできて、なにやら喚き散らしている。
手当たりしだいにテーブルの上の瓶を投げ始めて、その一つがラセルの頭に飛んでくる。
それを見もせずにキャッチして中の酒を飲む。
「あはは……荒れてるなぁ」
次第に騒動は大きくなり、無関係な酔っぱらい同士で殴り合いが始まった。
こうなると酒場はカオスになり、収集がつかない。
酒場のマスターは早々にカウンターの下に避難して身を隠し、配膳の女の子達は店から逃げ出していく。
最後に残っているのは喧嘩好きの酔っぱらいや気合の入ったスリばかりという有り様だ。
アチコチで気絶している酔客の懐をまさぐるスリが、まだ起きていた客に捕まってボコボコにされていた。
30分ほどで殆どの客が逃げたり倒れて気絶すると自然に喧嘩は収まり静かになった。
滅茶苦茶になっている店内で、ラセルは独り酒を飲んでいた。
「これで良いんだ……これで」
結局どんなでもオールオッケー。
全部初めから許されているし、責めるものはいない。
それが酒場の唯一のルールだった。
上機嫌で酒場を出て宿屋に向かう途中で男達が剣で争っているのが見えた。
暗がりであったが、それはミレーネの護衛二人と山賊姿の八人だ。
多勢に無勢で囲まれて圧倒されていた。
「姫様を返せ!ならず者!」
バルデスが絶叫しているのが聞こえる。
それで、ラセルは無視するわけにも行かなくなってつい手出しをしてしまった。
「ガントレットハンド」
シュ!
ババババ!ズドン!ドバンバン!
夜闇の中を陽炎のように素早く移動して族を片っ端から殴り気絶させる。
「は!?」
「うおおお!」
「大丈夫かい?僕だよラセル」
護衛の二人が嵐のような惨劇に驚いていた。
「なんと!」
「ラセル殿!姫が攫われてしまいました」
「どっちなんだ?」
訊くまでもなく超知覚で遠くに走り去る男どもの粗い息が聞こえてきた。
「向こうだな」
ドヒュ……
ラセルが本気を出して走ると通りの建物は振動してガタガタとゆれた。
ドン!
あっという間に族に追いつくと前に回り込んで爆音とともに止まる。
「うわぁ!」
「なんだてめえ!」
ミレーネを担いでいた大男が驚いて叫ぶ。
「大人しく返しくれ」
「やっちまえ!」
バコボコ、ガンガン!ゴン!
族はミレーネを投げ捨てて戦斧で一斉に襲いかかってきたが、ラセルはガントレットハンドで片端からぶん殴った。
半死半生で転がる族の間で起き上がったミレーネが呆然とラセルを見る。
「ああ……なんて神々しい」
ミレーネは夜闇、マントの間から薄っすら明るく光るラセルを見て両手を合わせていた。
「やっと見つけましたわ……私の守護天使様」
「……いや僕はラセルだよミレーネさん、守護天使様とかではなくて」
「いいえ、貴方こそ世界の守護天使様です」
「……まさか」
自分のような薄汚れて血まみれの天使様なんているわけもない、と思わず反論しそうになって気がついた。
ミレーネは攫われる時に薬を盛られたのだと。
陶酔系の麻薬を吸わされたに違いなかった。
「ああ、お側に置かれくださいませ」
尚も酔っているミレーネの元にあとから駆けつけた護衛の二人がやってきた。
「姫!しっかりしてください!」
「多分薬を盛られているから、朝起きたら直っていると思うよ」
「なるほど!確かに!」
ミレーネの目を覗きこみ瞳孔が開いているのを見て言った。
「また、お助けいただきかたじけない……」
「本当に有難うございました」
「もう大丈夫だろうね……」
そうは言っても、やはり心配になってしまう。
魔物も厄介ではあるが、人間もなかなか……なのである。
とくにこの街のように治安が崩壊している所は、街中の方が却って危ないという……。
「気をつけて……ね」
祖国の王都の酒場程ではないが、雑多な人でごった返している。
だが、ラセルの超知覚で観察するとそこら中に犯罪者が溢れているのが解った。
スリが複数大活躍し、詐欺師がいかがわしい話しをしている。
違法薬物が堂々と取引きされているし、人身売買の密談も聞こえて来るしまつだ。
一言でいうと「ごみ溜め」であった。
ざっと見て、ミリーネの一団は見当たらず少しホッとしていた。
なぜ、彼らの心配をしているのか自分でも意外であったが、やはりごみ溜めに薔薇は似つかわしくない。
ラセルは酒を飲んでも殆ど効かないので意味は無かったのだが、酒場の猥雑な雰囲気の中に身をおいていると寂しさが紛れる気がして何か落ち着いた。
皆が必死に生きている、そんなエネルギッシュな空気のなかに居ると詰まらないことを考えなくて済む。
ここでは、どんな失敗でも許されてしまうような緩い空気が流れていた。
自分のような追われる者もここには多数いて、そんな空気を共有しているのだ。
「失敗したって良いよ」何処からともなくそんな旋律が流れているようだ。
ふと、怒鳴り声が聞こえると喧嘩が始まっていた。
詐欺師に騙された男が酒場に怒鳴りこんできて、なにやら喚き散らしている。
手当たりしだいにテーブルの上の瓶を投げ始めて、その一つがラセルの頭に飛んでくる。
それを見もせずにキャッチして中の酒を飲む。
「あはは……荒れてるなぁ」
次第に騒動は大きくなり、無関係な酔っぱらい同士で殴り合いが始まった。
こうなると酒場はカオスになり、収集がつかない。
酒場のマスターは早々にカウンターの下に避難して身を隠し、配膳の女の子達は店から逃げ出していく。
最後に残っているのは喧嘩好きの酔っぱらいや気合の入ったスリばかりという有り様だ。
アチコチで気絶している酔客の懐をまさぐるスリが、まだ起きていた客に捕まってボコボコにされていた。
30分ほどで殆どの客が逃げたり倒れて気絶すると自然に喧嘩は収まり静かになった。
滅茶苦茶になっている店内で、ラセルは独り酒を飲んでいた。
「これで良いんだ……これで」
結局どんなでもオールオッケー。
全部初めから許されているし、責めるものはいない。
それが酒場の唯一のルールだった。
上機嫌で酒場を出て宿屋に向かう途中で男達が剣で争っているのが見えた。
暗がりであったが、それはミレーネの護衛二人と山賊姿の八人だ。
多勢に無勢で囲まれて圧倒されていた。
「姫様を返せ!ならず者!」
バルデスが絶叫しているのが聞こえる。
それで、ラセルは無視するわけにも行かなくなってつい手出しをしてしまった。
「ガントレットハンド」
シュ!
ババババ!ズドン!ドバンバン!
夜闇の中を陽炎のように素早く移動して族を片っ端から殴り気絶させる。
「は!?」
「うおおお!」
「大丈夫かい?僕だよラセル」
護衛の二人が嵐のような惨劇に驚いていた。
「なんと!」
「ラセル殿!姫が攫われてしまいました」
「どっちなんだ?」
訊くまでもなく超知覚で遠くに走り去る男どもの粗い息が聞こえてきた。
「向こうだな」
ドヒュ……
ラセルが本気を出して走ると通りの建物は振動してガタガタとゆれた。
ドン!
あっという間に族に追いつくと前に回り込んで爆音とともに止まる。
「うわぁ!」
「なんだてめえ!」
ミレーネを担いでいた大男が驚いて叫ぶ。
「大人しく返しくれ」
「やっちまえ!」
バコボコ、ガンガン!ゴン!
族はミレーネを投げ捨てて戦斧で一斉に襲いかかってきたが、ラセルはガントレットハンドで片端からぶん殴った。
半死半生で転がる族の間で起き上がったミレーネが呆然とラセルを見る。
「ああ……なんて神々しい」
ミレーネは夜闇、マントの間から薄っすら明るく光るラセルを見て両手を合わせていた。
「やっと見つけましたわ……私の守護天使様」
「……いや僕はラセルだよミレーネさん、守護天使様とかではなくて」
「いいえ、貴方こそ世界の守護天使様です」
「……まさか」
自分のような薄汚れて血まみれの天使様なんているわけもない、と思わず反論しそうになって気がついた。
ミレーネは攫われる時に薬を盛られたのだと。
陶酔系の麻薬を吸わされたに違いなかった。
「ああ、お側に置かれくださいませ」
尚も酔っているミレーネの元にあとから駆けつけた護衛の二人がやってきた。
「姫!しっかりしてください!」
「多分薬を盛られているから、朝起きたら直っていると思うよ」
「なるほど!確かに!」
ミレーネの目を覗きこみ瞳孔が開いているのを見て言った。
「また、お助けいただきかたじけない……」
「本当に有難うございました」
「もう大丈夫だろうね……」
そうは言っても、やはり心配になってしまう。
魔物も厄介ではあるが、人間もなかなか……なのである。
とくにこの街のように治安が崩壊している所は、街中の方が却って危ないという……。
「気をつけて……ね」
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