アイテムマイスター物語〜ゴミスキルで能無し認定された主人公はパーティーから追放され好き勝手に生きる事に決めました

すもも太郎

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 その晩、ラセルは公爵の使いを名乗る一行の馬車に乗せられて延々と移動した。

 グリドリッジ公爵はこの地方一帯を治めている大貴族で、ラセルの祖国のイシュタルよりも国の規模は大きい。

「いいかい?君の作ったものは違法な物だ」

 ダシュルと名乗る公爵の使用人は馬車で移動しながら説明をしてくれた。

「違法ですか……」

 帝国は自由な商取引で有名であったので彼の意外な言葉にラセルは驚いた。

「……ふむ、君は外国人なのかな?」

「ええ、最近イシュタルから移ってきました」

「それならば知らなくても仕方がないかな……であれば今回は寛大な処置を頂けるように私からも公爵に口添えしましょう」

「ありがとうございます……それで僕の作った物のどのあたりが違法にあたるのですか?」

「そうだね……高く跳び上がれるという時点でスパイに利用されかねないし、飛べるというのは論外だ」

「それは……確かにそうかも知れません」

「今日たまたま我々の巡回で見つけることができて……しかもまだ市中に出回る前に回収出来たことは不幸中の幸いであった」

 冒険者でも跳躍能力の高い者はいるが、流石にフライの魔法を扱える者は稀なので、そこが不味かったのだろう。

「ですが……飛べるといっても耐久に問題があるのでスパイに使えるようには思えませんけれど」

 ラセルは言い訳らしき事をしてみよう試みる。

 ……もしかして、理解して貰えればこのまま返してくれるのではないか?という希望があった。

「それはどの程度飛べるものなのかな?」

「素材が布ですから、人体のような重いものを飛ばすのにはユックリで、短距離でなければ保ちません」

「服が裂けたりするのか?」

「ええ、無理をすれば服が破れて落下します」

「ふむ……ではそのように報告させて頂く」

 そう言うとダシュルは襟章に模した通信機を握って話し始めた。

「……などと申しております……はい……確かに布の服であります……はい承知いたしました」

「……」

「一つ確認したいのだが、例えば丈夫な素材であれば空を自由に飛べる物は作れるのかな?」

「それは理論的には可能ですが、とても重くなり膨大な魔力を使いますから普通の人では無理かと思います」

「……なるほど、つまり?」

「上位の魔道士などでないと無理ですし、飛べたとしても短距離になるでしょう」

「……と、申しております」

 彼は通信機でラセルの説明をそのまま相手に伝えていた。

「……はい、承知しました」

 相手からの短い返事を聞いてダシュルは通信を切った。

「それで僕はどうなるのですか?」

「済まないが今日は泊まっていただく事になる」

「……はぁ……」

 ……芳しくない返事だったが仕方がない。

 ラセルは下手に逆らっても今後の商売に差し支えると感じていた。

 ……折角工房まで手に入れたのだ、従うしかない。

 

 馬車はどんどん急峻な坂を登っていき、そして辿り着いたのは小城に思われた。

「ここで待機していてくれ」

 城の応接間のような小部屋に通されると、外から鍵が掛けられた。

 外には警備兵が複数立哨している。


 ふと窓から外が見えたので覗くとこそは断崖で、下の方に小さく街の建物が見えた。

 逃亡不可能な小城に幽閉されたのだ。

 その時、パカっと扉についた小窓が開きそこから手紙が差し入れられた。

「えーと……」

 それを読と、公爵に隷従して魔法アイテムの開発に協力しろ……従わなければここに永続的に監禁されると端的に書かれている。

「……やれやれ」

 折角工房まで手に入れたのに全てが振り出しに戻ったと感じる。

「これで僕を閉じ込められると思ったんだな」

 ラセルは部屋の灯りを消し、窓を開けて身を乗り出す。

「僕が飛翔スーツを着ていないと考えたのかな」

 そのまま窓から滑り降りて音もなく空中に静止した。

 ふと横を見ると隣の監禁塔に灯りがついていて女性の姿が見えた。

 ラセルの超知覚で彼女がミレーネであることが判ってしまう。

「なんだ……彼女もアッサリ捕まってしまったのか」

 ユックリと慎重に空中を滑り移動して窓を軽く叩いた。

 コンコン……

 中に居たミレーネが驚いた顔でこちらを見返す。

「シー!」

 口に手を当て声を出さぬようにジェスチャーで伝えると、彼女は驚きつつもそれを理解して部屋の明かりを消した。

 カチャ……

 彼女が内側から静かに窓を開けると、ラセルはそのまま滑るようにして部屋に入る。


「ラセル様……どうやって……」

 ……ここに?という彼女の問を無視して訊く。

「君も公爵に捕まったのか?」

 ラセルは判りきったことを訊く、どうしてもそれだけは確認しなければならないのだ。

「はい……」

「一緒に逃げるか?」

「はい……騎士様、でもどうやって」

 飛翔スーツで二人で飛ぶのは無理であったが降りるくらいはなんとかなると計算出来た。

「こうやって」

 ラセルは彼女を両手で抱えると、窓から飛びだした。

「キャア」

 ミレーネが小さく叫び目を瞑りラセルにしがみつく。

 ミレーネの良い香りがしてラセルはすこしクラクラした。

 二人はスーッと滑らかに下方に飛んでいた。

「目を開けても大丈夫だよ」

 穏やかな風がミレーネの頬を撫で、彼女はそれでこれがラセルの魔法かなにかなのだと悟った。

「ラセル様……私達飛んでるの?」

「飛ぶというよりは落ちているのに近いけどね」

 それでもユックリとした穏やかな下降はミレーネに安心感を与えるのに十分である。

 だが、暫くすると突然異音がして急に加速しだす。

 ブチ……ブチブチ……
 
 ヒューヒュー

 風切り音が唸りだした。


「うわ……少し我慢して」

 ラセルは焦りながら、周りの断崖の壁を蹴り斜めに跳びながら超人的な動きで地面に着地した。

 タン!ダン!ターン!

 ダン!

「うっ」

 衝撃でミレーネが小さく唸る。

「大丈夫!?」

「はい!」

 ユックリとミレーネを地面に下ろすと、それでも彼女はラセルから離れようとしない。

「ごめん、もう大丈夫だよ」

「……私信じておりましたの、ラセル様はきっと助けに来てくださると」

 彼女は涙声になっていた。

「怖かったよね、ごめんね」

「いいえ、違うの、私嬉しかったのですよ」

 彼女は最後には嗚咽しながらラセルの胸で泣いていた。

 ラセルはこういう経験がなく困り、そっと彼女の頭と身体に手を置いて立ち竦んでいた。
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