アイテムマイスター物語〜ゴミスキルで能無し認定された主人公はパーティーから追放され好き勝手に生きる事に決めました

すもも太郎

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魔王子

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 ラセルは黒い死の陽炎となり、巨大な暴魔の群れの中に飛び込んで切り刻む。

 バシュン!

 ドシュ!

 ザシュザシュ!

 圧倒的な巨体で突進してきていた暴魔の群れは超速のラセルに翻弄されて崩れ落ちていった。

 ズルズル……ドズン、ドズン……

 切り刻まれた暴魔だったモノは細切れになり意味のないブロックのように折り重なる。

 ラセルに斬られた10体の暴魔が残骸となって消滅していった。

 ドドド……

 それまで突進してきていた後続の暴魔の群れがその異変に気がついて急停止した。

「なんだお前は!」

 先頭の巨大な真っ黒な牛頭の暴魔の頭上に立っていた少年が驚いて怒鳴っている。

「僕はラセルだ、帝都を守るものだ」

 少年はラセルの思わぬ応答に戸惑っていた。

 ラセルの名前を訊いたつもりも無く、単に当初の計画と全く異なる展開につい叫んでしまっただけなのだが。

「……お、俺はゾーグ」

 調子が狂ったゾーグは素直に自己紹介をしてしまう。

「いや、違う!そうじゃない!お、お前はなんなのだ!」

 ゾーグはラセルの異常な強さに驚いて叫んでいたが、自らの恐れを隠すために途中から怒鳴り散らしていた。

「……だから、もし君が敵対するというのなら斬る」

 ラセルは次元刀をヒラリと見せていう。

「……それは!それで俺を斬るというのか?」

 ゾーグはラセルの持っている刀に気がついてニヤニヤと笑った。

「そうだ」

「やってみろ(魔人よ俺に従え!)」

 ゾーグは挑発すると同時にラセルの刀に命令を発した。

 ドヒュ、トン!

 ラセルが地上から瞬時に跳んでゾーグの首に刃を払ったが、ゾーグの首の皮で刀は止まってしまう。

 ワシッ

「どうした?この程度の力で俺を倒せるとでも?」

 ゾーグが次元刀の刃を掴んで言うと、ラセルは刀の柄から手が弾かれてしまう。

 バン!


「なに!?」

「ククククク」

「そんな……」

「弱い、弱過ぎる」

 余りのショックにラセルは後ろに浮き下がりながら自分の手を見る。

「今日は俺の成人の祝いだったのに……弱いくせにこれ程やってくれるとは……」

 ゾーグは負けず嫌いを発揮して屁理屈を並べるが、ラセルにはそうは聞こえなかった。

「……」
 
「だが、まぁ良いだろう、お前が弱すぎるから今日の所はこれで許してやる」

 ヒュー!

 ゾーグはそう言うと、口で魔笛を吹いて撤収を合図した。

 すると暴魔の後続は回れ右をして一斉に撤退していった。

 ドドド……

「……なんて強さだ」

 ゾーグの言葉を真に受けたラセルは着地すると同時によろけてしまう。

 ラセルは久しぶりに打ちのめされていた。

「あんな奴が……いや、成人したての子供があんなにも」

 ラセルはゾーグの強さを勘違いして目眩を起こしていた。

 敵からの状態異常攻撃は防御出来ても、ラセル自身のうちからのものは防げない。

「おおおお、やった!」

「あの戦士が一人でやりおった!」

「凄い!凄過ぎる!どこの所属だ?!」

 ラセルの背後で傍観していた冒険者達が、引き上げていく暴魔の群れを見て勝利の雄叫びあげていた。

「おい、ラセルやったな……どうした?」

 直にダリューが駆けつけてきてラセルの肩を叩いて声をかけるが、それらはラセルの耳には入っていなかった。

「ラセル……?」

「ねえ、どうしたのよ!」

 リーナとミレーネも肩を落として背中を向けているラセルを心配そうに見ていた。

「僕は……弱いんだ」

「は?」

 ラセルの言葉に三人は意味が判らずに訊き返す。

「僕は少し調子に乗りすぎてたみたいだ……」

 尚も自信喪失しているラセルは力なく呟いた。

「刀さえ簡単に取られてしまったよ」

「ラセル……気にすんな」

 ラセルにはダリューの言葉は届いていない。

 極度の自己不審に陥ったラセルは俯いて振り返り、大騒ぎする冒険者達の中に歩いていった。

「僕、弱いんだ……」

 ラセルのつぶやきは歓喜に湧き上がっている冒険者達の声で掻き消されて、ラセルは肩を担がれギルドに連行されていった。
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