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魔女モーリー
しおりを挟む酒場併設のギルド出張所は、実際に運用がはじまると閑古鳥がないていた。
それと言うのも、救助されたギルドメンバーやアリー達も殆どみんな帝都に帰ってしまったからだ。でも、一人だけこの町に残った女の冒険者がいた。僕が酒場のカウンターに座って古文書を読んでいたら彼女の方から声をかけてくる。
「隣に座ってもいいかしら?」
「ええ、どうぞ」
「初めまして、私はモーリーよ」
モーリーが独特の癖のあるイントネーションでセクシーに自己紹介をする。
「どうも、僕は‥‥」
「知ってるわ、この町の救世主で私達冒険者のヒーローのイジンさんよね」
「それは褒め過ぎですね」
「あら、そんな事ないわよ」
モーリーの黒っぽい装備からして黒魔法使いなのだろう、大きくて切れ長の目と大きな胸がどことなく魔女らしさを演出している。もちろん、ただの冒険者に決まっているが妖艶な、という意味で魔女らしいのだ。
「マスター、こちらのモーリーに何かドリンクを出してあげて」
「ありがとう、あなたお優しいのね」
「何もなしにご挨拶もアレかと思いまして」
「とっても美味しいわ」
彼女はマスターが出したカクテルに口をつけながら言う。そのしぐさがとてもエロく、僕は胸騒ぎを覚えた。
「冒険者の皆さんは帝都に戻ってしまったと思っていたのだけど」
「あたしは良いのよ、どうせ行く当てもないのだし」
「え‥‥」
そのセリフが僕の苦い記憶を呼び起こして驚いてしまった。行く当てのない冒険者ほど悲しいものは無いのだ。
「そう‥‥なんですね」
「そうよ、だからこうしてここに残ったの」
「そうですか、ゆっくりして行ってください」
「それとね、知りたいことがあって‥‥」
彼女はそういうと僕の太ももに手を置いた。
「え‥‥」
「そんなに驚かないで」
彼女は凄く男の扱いに馴れているのだとその時にやっと気が付いた。僕はもしかして篭絡されようとしているのだろうか?
「‥‥」
「知りたい事は、あの洞窟の中での出来事よ」
モーリーが僕の太ももから手をどかして言う、ほっと安心すると同時に残念にすら思えて変な気分だ。
「秘魔の洞窟か‥‥」
「ええそう、あそこで貴方が見たものを知りたいの」
「そういう事なら良いですよ」
それで僕は粗筋を話した、アモンと2人で洞窟を切り進んで、最後には骸骨と対決したことを。
「凄いのね!でもあの骸骨ってエルダーリッチでしょう?良くあの化け物の攻撃に耐えられたわね」
「そうなんですよね‥‥それが今でも不思議なんですけど、そもそも僕は冒険者ではないので‥‥」
「でもあの化け物を倒したという事はお強いのでしょう?」
「さぁ、どうだろう‥‥強いのは僕ではなくて僕の装備だったのかも知れませんね」
「というと?」
「この魔法の剣です」
「あら、素敵ね、お金持ちなのかしら?」
「ええ、まぁ少しはあります」
僕はぼやかして答えた。初対面の相手に金の話をするほど下品ではないのだ。
「でも‥‥あいつって即死攻撃が得意だったと思うのだけど、どうやって避けたの?」
「うーん‥‥それは実は今でも良くわからないのですが、僕にはレベルというものがないのかも、ですね」
モーリーがなおも同じ事を訊いてくる。僕は正直に話したつもりだったけど、納得はしてくれてないようだ。
「そう、不思議な話ね」
「お役に立てずごめんなさい」
「いえ良いのよ、これ美味しかったわごちそう様」
「良かったです」
「ええ、私も貴方とお話できてとても良かったわ、それじゃまたね」
モーリーはとてもエレガントに立上がり店を出ていった。
「怖いくらいの美女でしたね」
マスターが言う。
「はぁ‥‥確かに」
僕はまだ太ももに残っている感触を確かめながらぞくっとした。
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