42 / 62
決闘
しおりを挟む太鼓の合図のあと、大興奮する観衆の声援を受けて僕はやや緊張して前ににじり出る。
すると、巨漢の魔族はダッシュで飛び込んで来て右の猛打を放ってきた。
ブオン! ペチ‥‥
そいつが放つ僕の顔面への撃ち下しを、僕が簡単に左手の掌で受けると可愛らしい音が鳴る。
巨漢が不思議そうな顔をしながらも左右の連打を放ってくるが、全て同様にペチペチと受けた。
ブオン!ボボボボボ!
ペチ ペチペチペチペチペチ‥‥
その音が全てを証明するように、僕にとっては子供のパンチを掌で受けているような感触がしていて面白く、全く緊張も恐怖もない。
「あはは‥‥」
つい面白くなって僕は笑ってしまった。決闘中に申し訳なかったのだが、急に笑いの発作が出て自分でも止められなかった。
「いやごめんね、くくく」
「‥‥ならば!武技鉄斬足」
今度は足技の武技を使ってかかと落としをしてきたのでそれも簡単に手で払う。
「ほい」
パン、ドドーン!
僕の手で払われた足技は地面を抉り、その威力を見せつけた。同時に観衆から拍手喝采が湧く。
「そろそろこちらから行くぞ」
武技を使った巨漢が硬化時間にあり回復まで動けない間に回し蹴りを叩き込む。
ヒュドゴッ‥‥ドォン!
巨漢は腕でそれを受けガードしたがそのまま壁まで10m程吹き飛ぶ。
そこで観衆からどよめきが起こった。
「おい、なんだよあれ‥‥」
「もしかして伝説の格闘家なんじゃ?」
「とんでもない奴が来たな」
巨漢は壁にぶちあたり身体がしびれているようだったので突進してダメ押しの喧嘩キックをぶち込もうとすると、間一髪で避けられた。
ドゴーン!
爆音を発して闘技場の防護壁が吹き飛んだ。
「ひぃい」
周辺の観衆があわてて悲鳴を上げ逃げ出す。
「はぁはぁ‥‥」
見ると、素早く逃げ出した巨漢が肩で息をしている。硬化時間に無理に動いた反動だった。
「お、お前‥‥なにものだ、はぁはぁ」
「僕はイジンだよ」
息を苦しそうにしている巨漢に突進し、とどめの喧嘩キックを手加減してそっと放つ。
ダン!
「ぐふぅ‥‥」
ズン‥‥
ガードの上からみぞおちに入って完全に息がとまった巨漢は、膝から崩れ落ちて顔面を地面にめり込ませて気絶した。
ドーン!
そこで決闘終了の太鼓がなりあっさりと僕の勝利が確定した。
それからの闘技場は大騒ぎになってしまった。闘技場に殺到した観客で僕はもみくちゃにされ身動きができないのだ。
「ぎゃぁああ、素敵~!!」
「イジン様ぁああああ!」
「王子様ぁあ!」
主に黄色い声が怒号のように渦巻いて僕を囲む。若い女性の魔族、獣人族が押し寄せ僕に抱き着き、手を取られ、顔を撫でられキスをされて滅茶苦茶になった。
「ちょ、ちょっとまって、あああああ」
どさくさで体中を揉まれ最後は衣服をはぎ取られて行く。
ドーン!ドーン!ドーン!ドーン!‥‥
騒動を納めようと太鼓が何度も打ち鳴らされたがほとんど効き目はなく、僕は全身にキスの嵐をお見舞いされて悶絶してしまった。
「おおおおお、隠密!」
溜まらずスキルを使って透明になって逃げだすが、気が付いたらパンツ一枚になっていてそのまま逃走した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「とんでもない事になってしまった」
「当然じゃな」
パンツ一枚の僕を見たリアはにやにやしながら当たり前だと言った。
「いくらなんでもあれは酷いのでは」
「伝説級の強さを見せたのじゃぞ、女子が黙って見ているわけがないじゃろう、くっくっく」
面白そうに笑う。
「もしかして僕は外を歩けないようになるのでは?」
「そうじゃろうなぁ」
「ああ‥‥助けてリア様」
「実はワラワもそなたに抱き着きたいのじゃ、良いか?」
「えええ‥‥」
僕は諦めて服を着てリア様に抱き着かれた。
13
あなたにおすすめの小説
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~
蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。
情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。
アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。
物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。
それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。
その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。
そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。
それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。
これが、悪役転生ってことか。
特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。
あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。
これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは?
そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。
偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。
一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。
そう思っていたんだけど、俺、弱くない?
希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。
剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。
おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!?
俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。
※カクヨム、なろうでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる