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第三十五話 地質調査
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ザクッ、ザクッ、ザクッ……
スコップで地面を何度も掘り返し、確認してはまた掘り返す。ちょっとした畑ができそうなくらい耕しつつも、それらしいものは出てこなかった。
「あーもう! 聖女がスコップで地質調査とか信じられないっ!」
文句を言いつつもスコップの手を緩めない。
というのも本来なら魔法でちゃちゃっと掘り返したいところなのだが、市長命令で魔法禁止令が出てしまったのだ。
「水質汚染か何かで畑に異常があって作物が育たないから原因調べろってくせに、魔法は使わないでくださいとか信じられる!? 無魔法野菜が売りだから、ってそんなん知るか!!」
「随分と荒れとるのう」
「そりゃそうでしょ! 魔法も使わずにこの広大な畑の土をちまちま掘り返してたら文句の一つも言いたくなるわよ」
市長はスコップを渡し、「ここの土地は魔法を一切使わないことで有名でして。そのため魔法は一切使わずに原因を突き止めて欲しいのです」と言うなり、手伝うことなくさっさとどこかへ行ってしまった。
そのため残された私はスコップ片手に延々と一人で土を掘り返さねばならなくなってしまったのである。
「そうじゃなくて、あの小僧が取られてしまったせいもあるじゃろう? 人間の女の嫉妬は恐ろしいと聞いているぞ」
「はい? だから私とヴィルはそんなんじゃないし。ヴィルがいたところで、あの女がいたら土掘り返すなんてさせないでしょ。そもそも、体力やら技術やら王子なヴィルに土掘り返すことなんかできるわけないだろうし、どっちにしろ戦力外よ」
へっぴり腰でスコップの扱いさえ満足にできないヴィルを想像する。
うん、やはり戦力外だ。
もし腰などいわせたら旅どころの話ではなくなってしまう。
「それにしても手慣れているのう」
「まぁね。元カレが無魔法野菜が食べたいだとか、新鮮な野菜が食べたいだとかで自宅に畑耕してたし。結局みんな言うだけで手入れしてたの私だけだったし、それでどんどんこういうスキルも手に入れるハメに……」
「なんて言うか、お主は本当に男を見る目がないのう」
「煩いわよ。そういう憐れみの目で見ないで」
生暖かい眼差しで見つめられて、ふんっと鼻を鳴らす。たまたま好きになる人が一緒に過ごすうちになぜかだんだんと気の緩みなのか甘えなのかどんどん自堕落になってしまっていくのだ。
決して私のせいだけではない……はず。
「尽くしたくなっちゃうのってダメなのかなぁ」
「やりすぎなのはよくないんじゃないか? ほら、畑だって過度に栄養や水をやってたらいいというわけじゃないじゃろう?」
「なるほど確かに。案外まともなこと言うのね、グルーって」
「ワシはこう見えても長寿じゃからな。人間よりも物事を考える時間は多いのじゃ」
「そのわりには浅はかに人間を食べようとしてたけどね」
「好奇心はいくつになっても必要じゃから……ぐえっ」
首輪が不穏な言葉を検知したからか、グルーの首がキュッと絞まる。さすが拘束の魔道具の中でもとびきりいいやつを買っただけあって精度がいい。
「ほら、そういうこと言うと痛い目見るわよ」
「ちょっとした軽口だと言うのに」
「はいはい。とにかく、原因突き止めて解決しないことには次いけないからさっさと原因突き止めるわよ。グルーもちょっとは手伝って」
「ワシにこの身体で土を掘れと!?」
「うーん、じゃあちょっとだけ大きさ戻してもいいから。中型犬くらいのサイズで」
「はぁ、気が遠くなりそうじゃ」
文句を言いつつも渋々と言った様子でサイズを変えて掘り起こすのを手伝ってくれるグルー。なんだかんだいいやつだ。
「ありがとう、グルー」
「もっと感謝してもいいんじゃぞ」
「すぐに調子乗らない。さっさと調べて終わらせて美味しいもの食べたら、さっさとこの都市とおさらばするわよっ!」
うぉぉおおおお!! とスコップで土を掘り起こす。日が暮れる頃には筋肉痛で腕がパンパンになるのだった。
スコップで地面を何度も掘り返し、確認してはまた掘り返す。ちょっとした畑ができそうなくらい耕しつつも、それらしいものは出てこなかった。
「あーもう! 聖女がスコップで地質調査とか信じられないっ!」
文句を言いつつもスコップの手を緩めない。
というのも本来なら魔法でちゃちゃっと掘り返したいところなのだが、市長命令で魔法禁止令が出てしまったのだ。
「水質汚染か何かで畑に異常があって作物が育たないから原因調べろってくせに、魔法は使わないでくださいとか信じられる!? 無魔法野菜が売りだから、ってそんなん知るか!!」
「随分と荒れとるのう」
「そりゃそうでしょ! 魔法も使わずにこの広大な畑の土をちまちま掘り返してたら文句の一つも言いたくなるわよ」
市長はスコップを渡し、「ここの土地は魔法を一切使わないことで有名でして。そのため魔法は一切使わずに原因を突き止めて欲しいのです」と言うなり、手伝うことなくさっさとどこかへ行ってしまった。
そのため残された私はスコップ片手に延々と一人で土を掘り返さねばならなくなってしまったのである。
「そうじゃなくて、あの小僧が取られてしまったせいもあるじゃろう? 人間の女の嫉妬は恐ろしいと聞いているぞ」
「はい? だから私とヴィルはそんなんじゃないし。ヴィルがいたところで、あの女がいたら土掘り返すなんてさせないでしょ。そもそも、体力やら技術やら王子なヴィルに土掘り返すことなんかできるわけないだろうし、どっちにしろ戦力外よ」
へっぴり腰でスコップの扱いさえ満足にできないヴィルを想像する。
うん、やはり戦力外だ。
もし腰などいわせたら旅どころの話ではなくなってしまう。
「それにしても手慣れているのう」
「まぁね。元カレが無魔法野菜が食べたいだとか、新鮮な野菜が食べたいだとかで自宅に畑耕してたし。結局みんな言うだけで手入れしてたの私だけだったし、それでどんどんこういうスキルも手に入れるハメに……」
「なんて言うか、お主は本当に男を見る目がないのう」
「煩いわよ。そういう憐れみの目で見ないで」
生暖かい眼差しで見つめられて、ふんっと鼻を鳴らす。たまたま好きになる人が一緒に過ごすうちになぜかだんだんと気の緩みなのか甘えなのかどんどん自堕落になってしまっていくのだ。
決して私のせいだけではない……はず。
「尽くしたくなっちゃうのってダメなのかなぁ」
「やりすぎなのはよくないんじゃないか? ほら、畑だって過度に栄養や水をやってたらいいというわけじゃないじゃろう?」
「なるほど確かに。案外まともなこと言うのね、グルーって」
「ワシはこう見えても長寿じゃからな。人間よりも物事を考える時間は多いのじゃ」
「そのわりには浅はかに人間を食べようとしてたけどね」
「好奇心はいくつになっても必要じゃから……ぐえっ」
首輪が不穏な言葉を検知したからか、グルーの首がキュッと絞まる。さすが拘束の魔道具の中でもとびきりいいやつを買っただけあって精度がいい。
「ほら、そういうこと言うと痛い目見るわよ」
「ちょっとした軽口だと言うのに」
「はいはい。とにかく、原因突き止めて解決しないことには次いけないからさっさと原因突き止めるわよ。グルーもちょっとは手伝って」
「ワシにこの身体で土を掘れと!?」
「うーん、じゃあちょっとだけ大きさ戻してもいいから。中型犬くらいのサイズで」
「はぁ、気が遠くなりそうじゃ」
文句を言いつつも渋々と言った様子でサイズを変えて掘り起こすのを手伝ってくれるグルー。なんだかんだいいやつだ。
「ありがとう、グルー」
「もっと感謝してもいいんじゃぞ」
「すぐに調子乗らない。さっさと調べて終わらせて美味しいもの食べたら、さっさとこの都市とおさらばするわよっ!」
うぉぉおおおお!! とスコップで土を掘り起こす。日が暮れる頃には筋肉痛で腕がパンパンになるのだった。
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