有能なメイドは安らかに死にたい

鳥柄ささみ

文字の大きさ
39 / 443
1章【出会い編】

38 クォーツ家

しおりを挟む
馬車がクォーツ家に無事到着した。ダリュードのおかげで退屈することなく、普段聞けないようなたくさんの話ができて、楽しい馬車道中であった。

(また萎びてる)

一方、彼らはまるでマルグリッダに生気を吸い取られてしまったかのように、ぐったりしていた。これから舞踏会だというのに、彼らの馬車道中はさぞや大変だったのだろう、と察しつつも特に何か言うこともできず、心中で彼らをねぎらった。

「帰りはメンバーチェンジを要求する」
「じゃあ、男女別にしましょうよ」
「いえ、そういうことではなくて……!」
「ようこそいらっしゃいました、グリーデル様。皆様がお待ちです」
「本日はお招きいただき、誠にありがとうございます」

言い合いをしていると、クォーツ家の執事長らしき人に挨拶される。さすが貴族、慌てるそぶりも見せずに、すぐさま何事もなかったかのように澄ました顔をして挨拶を返す、という切り替えの早さはさすがである。

執事長から案内され後に続くと、隣にいたダリュードから手を差し出される。

「本日はエスコートさせていただきます」

ちらっと領主の顔を見ると、何だか読めない表情をしている。この配置とメンバー的に、ニールにエスコートされるよりかはダリュードにしてもらうのが無難だろう。

そもそもこの舞踏会はクエリーシェルとロゼットのために開かれたとのこと、遠縁という設定とはいえ、隣に別の女がいたら心象は悪いに決まっている。

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

ダリュードの腕に自らの腕を通す。あまりこうして男性と密着することなどなかったが、あまりダリュードと身長が変わらないことと中性的な顔立ちのせいか、そこまで緊張することなく済んだ。

「ようこそ、グリーデル大公夫人、ヴァンデッダ卿!」
「本日はお招きいただきありがとうございます。ごめんなさいね、主人は忙しくて来れなくて」
「いえいえ、ダンクス様がお忙しいことは重々承知しておりますわ」

そういえば、グリーデル大公は多忙で欠席だとマルグリッダは事前に言っていたが、領主の雰囲気を察するに、何となく違う理由の気がする。あくまでただの勘だが。

それにしても、クォーツ家はさすが侯爵家というだけはある。クエリーシェルが元々頓着がないせいというのもあるが、クォーツ家はどこもかしこも、領主の家とは比べものにならないほど豪華であった。

シャンデリアに家具、花に料理まで一体総額いくらかかっているか、聞くだけでも恐ろしいほど高価そうなものばかりが溢れている。

あまりキョロキョロと見回すのは不躾だと思うので、努めて澄ました顔をしてはいるものの、正直全部見て回りたいくらいには興味深いものばかりだった。

(この一画だけでも総額にしたら、城もう1つくらい建てられるんじゃないかしら)

随分とこのクォーツ家は羽振りがいいんだな、と少し下世話な興味がわく。昨今、この戦乱の世ということで資産のない名ばかり貴族が多いという中、この侯爵という地位と、これほどの資産を保つというのはすごいと言わざるを得ない。

(シュタッズ家も1、2を争う大富豪と聞いていたけれど、これよりもシュタッズ家は上ということかしら)

それならば、シュタッズ家も見てみたいような気もする。勝手に色々と妄想しながらも一向にはぐれることなく、歩いていく。

ダリュードがエスコートしてくれているおかげで、思考を巡らせていても勝手に歩みが進むのは、失礼だがとても便利であった。

「これはこれは、グリーデル大公夫人。ヴァンデッダ卿も、先日は同じ会場にいたというのに挨拶もできず」

恐らく、この男がこのクォーツ家の当主であろう。整えられた髭にぎょろりと鋭い目、少しふっくらとした体つきで少々アンバランスさを感じ、にこやかな顔つきとは裏腹に、どこか不遜さを感じた。

「いえ、シュタッズ家のパーティーですもの。会えるものも会えませんわ」
「……確かに、そう言われれば、そうですな」

ぎょろりと目が動く。その動きの鋭さに胸がざわつく。恐らく感情が表に出やすいのだろう、マルグリッダの言葉に対し、不快な感情が出ているのがよくわかる。

あまりシュタッズ家と仲がよくないのだろうか、だがシュタッズ家のパーティーで顔を合わせなかったと言っていたということは、パーティーに呼ばれていたということだろう。

(あとで領主にでも聞いてみるか)

聞き出すために酒でも用意しようか、と頭の片隅で考えていると、当主から視線を集めていることに気づいた。その、不躾にまじまじと見られていることに、思わず鳥肌が立つ。

「失礼ですが、そちらのお嬢さんは?」
「あぁ、グリーデル家の遠縁の娘なんです。普段は地方に住んでいて。あまり舞踏会に出たことがなくて、ぜひこちらでデビューさせていただこうかと」
「なるほど」
「リーシェと申します」

ドレスの裾を持ち、軽く挨拶をする。視線は未だ外れず、不快感は拭えなかった。

「……あの、何か無作法を致しましたでしょうか?」
「あぁ、特に他意はない。少々、知った人物に似てるような気がしていてね」
「似ている人物は、世の中に3人はいるのだと聞いたことがありますわ!私もぜひ、自分に似た方とお会いしてみたいわ!」

マルグリッダが上手く話を逸らしてくれる。そして領主も彼の視線に気づいたようで、遮るように私を隠してくれた。ここで下手に勘ぐられても困る。メイドだとバレるだけでなく、本来の私に気づかれてしまうと非常に面倒なことになる。

(私を勘ぐっていたようだけど、面識はないはず)

胸がざわつく。こんな小娘に一体何を勘ぐっているのだろうか。

(嫌な予感がする)

警戒するに越したことはなさそうだ。

「あそこでロゼット、ずっと首を長くして待っていたのよ」
「あら、ふふふ、可愛らしいこと。ほら、クエリーシェル、お姫様がお待ちよ。今日はせっかくクォーツ家の邸宅にお呼ばれしているのだし、ダンスだけでなくてご自慢の庭園をぜひ見せていただいたら?」
「あぁ、ごめんなさい。今日は事情があって庭園を出入り禁止にしているの」
「あら、……そうなの。それは残念ね。ぜひともまた今度見せてちょうだい」

自慢の庭園、出入り禁止、この2つの相対するワードにちょっと興味がわく。

(あとでこっそり見に行こう)

リーシェはそう心の中で思うと、彼らと共にホールへと入っていったのだった。
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

【完結】婚約者なんて眼中にありません

らんか
恋愛
 あー、気が抜ける。  婚約者とのお茶会なのにときめかない……  私は若いお子様には興味ないんだってば。  やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?    大人の哀愁が滲み出ているわぁ。  それに強くて守ってもらえそう。  男はやっぱり包容力よね!  私も守ってもらいたいわぁ!    これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語…… 短めのお話です。 サクッと、読み終えてしまえます。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

「結婚しよう」

まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。 一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。

第一王女アンナは恋人に捨てられて

岡暁舟
恋愛
第一王女アンナは自分を救ってくれたロビンソンに恋をしたが、ロビンソンの幼馴染であるメリーにロビンソンを奪われてしまった。アンナのその後を描いてみます。「愛しているのは王女でなくて幼馴染」のサイドストーリーです。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

処理中です...